BL警報です!
いつものように毛布から手を伸ばして通信機を取り上げる。目を閉じたまま耳に装着してから水輝は掠れた声で応答した。
「あー……そう……え? ……うん、じゃあ……昼前……」
聞き慣れた声に応えながら水輝は身体を丸めた。頭まで毛布に潜って身じろぎする。
「えー……判ってるって……あー……いえっさー……」
相変わらず淡々とした相手の声にしかめ面で応えてから水輝は通信を切った。のろのろと耳から通信機を外して枕元に放る。もう少し寝かせろ、と掠れた声で呟いて水輝は何となく傍の温もりに身を寄せた。
満ち足りたものを覚えて水輝は温もりに顔を擦りつけた。すると何故か傍で笑う気配がする。水輝は怪訝に思いながら瞼を擦った。確か佑は仕事に出かけているはずだ。留守の間に片付けなければならないことを思い出しつつ、水輝は寝ぼけて腕を伸ばした。温かいものに本能的に抱きついて身体を丸める。
「おはようございます」
間近から聞こえた声に水輝は寝ぼけたままでおはようと応えた。目を閉じて温かいものに頬をぴったりとつけ、息をつく。何で優一郎の声が聞こえるのだろう。ひょっとして夢でも見てるのかな。寝ぼけた頭でそんなことを考えながら水輝は無意識に抱きついたものに唇を寄せた。
「水輝さんてば、またするんですか?」
笑い混じりの優一郎の声が聞こえる。水輝はのろのろと毛布から頭を出して瞼をこすった。
「あれ? 優一郎?」
薄く目を開き、水輝は隣に横たわっていた優一郎に話しかけた。もしかして自分の欲求が強すぎて夢を見ているのだろうか。そんなことを考えながら水輝はのろのろと優一郎の首に腕を回した。唇を寄せて何度か軽いキスをしてから足を優一郎の身体に絡める。
「するー……」
「申し訳ありません。そろそろ出勤しないと」
困ったように笑って優一郎が言う。えー、と答えてから水輝は瞼を擦った。のろのろと考えを巡らせてからはたと気付く。
「あ」
水輝は漸く目を覚まし、隣に横たわっていた優一郎を見つめてだらだらと冷や汗をかいた。どうやら自分は本当に優一郎を自宅のベッドに連れ込んでしまったらしい。
「水輝さん……?」
「やべ……。そうか、おれ、やっちまったんだっけ」
不安そうな優一郎の呼びかけに目を細め、水輝は掠れた声で呟いた。そうだ。昨日、どうしても我満が出来なくなって優一郎にねだってしまったのだ。これまでの我満が全て無駄になってしまったことを知り、水輝は深々とため息を吐いた。
「水輝さん。何かご不満でも?」
「いや。すげえ満足してる。でも、おれ何か言ったりとかしたか?」
のろのろとベッドを抜け出しながら水輝は恐る恐る訊ねた。裸のままでベッドを降りた水輝は寝室を横切り、部屋の隅に寄った。クロゼットを開いて奥にしまい込んであった楽器ケースを取り上げる。ベッドに横たわった優一郎がそんな水輝を目で追いかける。
「はい。僕が一番だっておっしゃいました」
にっこりと笑って優一郎が言う。水輝は苦笑して楽器ケースを開き、中からバイオリンを取り上げた。
「なるほど。そりゃ、おれの本音だ。他には?」
バイオリンと弓をつかみ、水輝はベッドに戻った。枕元に置いてあった煙草の箱から一本抜いて咥え、身を起こして肩にバイオリンを乗せる。
「とにかく、ねだりまくりでしたね」
にこやかな笑みを浮かべたまま、優一郎が肘杖をつく。水輝は弓を握った手で器用に煙草に火を点け、ライターを枕元に放った。
「あー、溜まってたからなー……。しつこかったろ?」
軽く鳴らして音を見てから、水輝はバイオリンの弦の張りを調整した。
「いえ、可愛かったですよ」
「そうくるか」
思わず笑ってしまってから水輝は優一郎をちらりと見た。どうやら抱かれたどさくさに紛れて仕事の話は口にしていなかったらしい。そのことに内心でほっとしつつ、水輝は静かに曲を弾き始めた。
「まあ、おかげさまですっきりした。ありがとな」
弾き慣れた曲を奏でながら水輝はそう言った。のんびりと身を起こした優一郎が軽く首を傾げる。
「この曲は……」
「シエラザード。嫌いか?」
曲を奏でながら水輝は軽く笑ってそう訊ねた。この曲も、そしてバイオリンもこの世界には存在しない。水輝はそのためにわざわざ三群から楽器を取り寄せたのだ。
「いいえ。久しぶりに聴きました」
「ま、こっちにはないしなあ」
咥え煙草でバイオリンを弾きながら水輝は微かに笑った。この世界にも音楽は存在する。が、楽器の形態が三群とは基本的に異なるのだ。それに音楽の質も違う。水輝はこの世界のものでなく三群で奏でられていた曲が好きだった。だからこうして時折、気の向いた時に弦を弾くことにしているのだ。
曲を奏で終えた水輝はバイオリンを片付け、朝食の支度を始めた。一人だけなら別に構わないのだが、今日は優一郎が居る。優一郎をバスルームに放り込んでから水輝は適当に食事の準備をした。バスルームを出た優一郎と一緒に食事をしながら、携帯端末をチェックする。
「水輝さん、かなり無理してらしたんですね」
痛ましげな表情をして優一郎が言う。水輝は苦笑をして首を傾げた。
「別になんてこたねえだろ。しかし……奴らも凝りねえなあ……。突っ込んで三秒で射精しやがるくせして、よくまあ再々やる気になりやがる」
今日、入っているバイトをチェックしながら水輝はぼやくように言った。
「水輝さんを信頼してますから」
それを聞いて水輝は何となく顔を上げた。真向かいに座る優一郎がにっこりと笑う。水輝は苦笑して端末画面に目を戻した。
「まあ、殺されない程度にしとくさ」
昨日のような、多少刺されたくらいでは死ぬまではいかないだろう。そんなことを思いながら水輝は端末にチップを突っ込んだ。表示させた画面に並ぶ名前をチェックする。
「それでは、お先に失礼します」
食事を終えた優一郎がそう言って先に家を出る。それを見送ってから水輝はのんびりとシャワーを浴び、身支度を整えた。通信機や端末をズボンのポケットにねじ込んでから、煙草をライターと揃えてシャツのポケットに放り込む。
水輝はいつものコースを辿って『塔』に着いた。今日は真っ先に医療局に行かなければならない。入り口でチェックを済ませ、ゲートを越えて医療局の棟に辿り着く。目的の階に辿り着いたところで水輝を一人の女性が出迎える。
「十七分の遅刻でーす」
「はいはい、悪かったよ」
年若い女性局員の差し出した白衣を受け取り、水輝はエレベーターを降りた。水輝の横を歩く女性が専用の端末を見ながらすらすらと説明する。
「いちおー、リストは先に入れときましたー。でも、ない人のは個別チェックですねー」
「げー。まーた待ち時間長くなるじゃねえか」
白衣を着込みながら水輝はぼやいた。すると女性がけろりとした顔をして言う。
「だいじょぶですよぉ。超高速処理しますからー」
間延びした声で喋る女性を呆れた顔で見やってから、水輝は深々とため息を吐いた。
「おまえらの言う高速はなー……」
ぼやきつつ、水輝は目的の部屋のドアを開けた。おはようございます、と部屋に詰めていた局員が一斉に挨拶する。おはよー、と答えてから水輝は部屋の一番奥に向かった。鍵の役割を持つチップをポケットから引っ張り出し、部屋の奥のドアの傍に設えてある個体照合用の小さな機械に放り込む。
「そんで? あっちはどうなんだよ?」
自動的に開いたドアをくぐりながら水輝は訊ねた。女性局員が水輝に続いてドアを越えて廊下を歩きながら頷く。
「あと三日ってところですかねー。でも、大丈夫です! 医療局医療特殊技術部三課の名にかけて!」
「ああ、判った判った」
いつものように叫ぼうとした女性をうんざりした顔で制し、水輝は廊下の奥の扉を開いた。局内でも恐らくここは一番静かなのではないだろうか。女性局員が黙ってドアをくぐったところで足を止める。水輝はゆっくりとそのフロアを歩き出した。無人のフロアはたくさんの機械でひしめいている。そのフロアの中央には透明な壁に囲まれた小さな部屋があった。その傍には何も入っていない籠がある。水輝はさっさと白衣を脱ぎ、続けて服を脱いで籠に放り込んだ。
水輝は裸になって小さな部屋の前に立った。音もなく透明な壁が開く。水輝が黙って部屋の中に入ると壁は元通りの形に戻った。
『お帰りなさいませ』
柔らかな女性の声が聞こえてくる。水輝は目を細めて顔を上げた。水輝の立つ小部屋の前には白い光る道が敷かれている。その先には大きな階段があり、段上には玉座が設えられている。だがそこには誰も座っていない。
「ただいま」
小声で呟いて水輝は静かに目を閉じた。
エロ風味だったのでエロ警報を出しておきました。