「あの、いったい彼女達は?」
「ホモに熱中する、腐れた女共だ」
優一郎の質問に水輝がきっぱりと答える。すると近くにいた女性局員たちが一斉にブーイングの声を上げる。
「ちがいますー! ホモじゃなくてボーイズラブなんですー!」
「そう! 血湧き肉躍る、美しい男の子と男の子が絡み合う世界なんです!」
「うるせえ!」
女性局員たちに怒鳴りつけ、水輝が部屋の奥にあったドアのうちの一枚を開ける。優一郎は困惑しつつも水輝に連れられて歩いた。水輝が細い廊下を行きながらぶつぶつと文句を言う。
「あの、特殊手術の予約確認はどこへ行けばいいかご存知ですか?」
「その前にだ」
そう言って水輝がぴたりと足を止め、廊下に並んだドアのうちの一枚を開ける。有無を言わせず引っ張り込まれた優一郎は戸惑いながらその部屋の中を見回した。大きな執務机が一つ部屋の奥に置いてある。水輝がため息を吐きながら机につき、優一郎に手招きする。
「見たな? ここでおれの姿を見たからにはただで返すわけにはいかないなあ」
肘杖をついて組み合わせた手の上に顎を乗せ、水輝がにやにやと笑う。
「検診で来ていたんじゃないんですか?」
優一郎は真面目な顔をして問い掛けた。すると水輝がちっちっち、と舌打ちをしながら指を振る。
「検診は別口。大体、検診は別フロアだろ」
そう言って水輝がにやにやと笑いながら優一郎を見る。
「そうなんですか……」
医療局にはあまり詳しくない優一郎は少し俯いて頷いた。くくく、と喉の奥で笑った水輝が身を起こし、組み合わせた足を行儀悪く机に乗せる。
「ま、ハイブリッドに限らず、定期検診って奴はこの課の連中がやるんだけどなー」
そこでだ、と言ってから水輝がシャツのポケットを探って煙草を咥える。
「特殊手術とやらって要するに、ヒューマノイドの時みたいに脳みそ外す手術だろ? そっちはここで引き受けてやるから一つ頼まれろ」
美味そうに煙草を吸いながら水輝が口許に笑いを浮かべる。一体、水輝は何を言い出すのだろう。そう思いつつ優一郎は神妙な顔をした。
「なんでしょうか?」
水輝が頷いて机から足を下ろす。それから水輝は唐突に顔の前で手を合わせ、優一郎を拝む格好をした。
「頼む! 解析手伝って! 人数多すぎて時間がかかんだよ!」
「わかりました」
にっこりと笑って優一郎は頷いた。すると水輝がぱっと顔を上げて嬉しそうに頷く。
「あとな。言わなくても判るだろうが、話は外に漏らすなよ」
「当然でしょう。手術の日程はいつになりますか? 摘出後の脳改造が結構必要そうなので早めにお願いしたいのですが」
頷きながら優一郎が言うと、水輝はそうだな、と呟いて立ち上がった。ちょっと待ってろと言ってから水輝が部屋を出て行く。ほどなく戻ってきた水輝はさっきのあの女性局員を連れていた。
「これが一応、ここの課長な。名前は白草実鈴っていう」
水輝が言うと、実鈴と呼ばれた女性がぺこりと優一郎にお辞儀をする。
「白草ですー。よろしくおねがいしまーす」
「吉良優一郎です、よろしくお願いいたします」
挨拶した二人を交互に見てから水輝がうんうん、と頷く。
「実鈴。こいつがな。脳みそ摘出手術して欲しいんだと。いつくらいなら出来る?」
水輝が親指で優一郎を示しながら実鈴に話を振る。えっとですねぇ、と言いながら実鈴が携帯端末を操作する。
「脳全体を取り出す手術ですかー?」
「以前、こちらでお願いしたと思うのですが……」
「あー、二課で受け付けてますねー。これならすぐにでも出来ますよー。……手術室は……空いてますしー」
独特の間延びした口調で言ってから実鈴がにこりと優一郎に笑みかける。
「ちょっとお待ちくださいね」
そう声を掛けてから優一郎は通信機を取り出した。通信を入れるとすぐに相手の愛華が応答する。
「医療局医療特殊技術部の三課に来ていただけますか? 今直ぐなら手術室が空いているそうです」
そう伝えてから優一郎は通信を切った。水輝がそこで実鈴に話しかける。
「二課とは話つけとけよ」
「だーいじょうぶですよー。どうせなに言ったって関係ないですもーん。三課のおまけで回ってるような課じゃないですかー」
にこにこと笑いながら実鈴が答える。水輝が腕組みをして頷く。
「それでだ。こいつに解析手伝って貰うことにしたから」
そう言って水輝が優一郎を見る。すると途端に実鈴が嬉しそうな声を上げた。
「きゃあ! ほんとですかあ!?」
「だよな? 優一郎」
水輝と実鈴の二人に見つめられ、優一郎は戸惑いつつも頷いた。
「はい」
居心地の悪さを覚えつつ優一郎は二人を交互に見やった。実鈴は手放しで喜んでいるらしく、きゃあきゃあと一人で騒いでいる。かと思うと水輝はにやにやと意味ありげな笑いを浮かべている。
「あの、こちらでよろしいのでしょうか?」
唐突に第三者の声が聞こえる。ドアを開けて部屋に現れたのは愛華だった。愛華が姿を現した途端、水輝が僅かに眉を寄せる。
「はーい。手術のかたですかー?」
にこにこと笑いながら実鈴が愛華に言う。
「あ、はい。急なお願い、申し訳ありませんですの。よろしくおねがいいたします」
そう言って愛華がぺこりと頭を下げる。やり取りをする二人を余所に水輝が机に戻って灰皿に煙草の灰を落とす。
「じゃあ、いきましょー。水輝さーん。いってきまーす」
明るい声で言ってから実鈴が愛華の手を引いて部屋を出て行く。それを見送ってから優一郎は水輝に目をやった。
「これで手術の方はおっけー、と。でもって解析して欲しいのはだな」
のんびりと言って水輝が端末を立ち上げる。優一郎は呼ばれるままに水輝に近付いた。指差された画面にはずらりと人の名前と所属部署が並んでいる。
「これはっ」
「そ。おれの客」
にやにやと笑いながら水輝が椅子に寄りかかる。
「こいつらの精液をな。解析して欲しいんだよ。ある程度までは機械がやってくれるんだが、過去のデータと照らし合わせるだのなんだのやってると、これがけっこう時間食うんだ」
「こういう事なら、僕に任せてください」
優一郎はにやりと笑って水輝を見やった。水輝が口許に薄い嗤いを浮かべる。
「ディザブラには薬になるが、子孫に固執する天人世界のぼんくらどもには毒になる、てな。けっこう面白いことになるんじゃないかと思うんだ」
価値観、ひっくり返るぞ。そう言って水輝が肩を揺すって笑う。それから水輝は壁に立てかけてあった椅子を開き、優一郎に勧めた。
このエピソードで二章は終わりです。
ちなみに作者はBLを否定してないです。否定してたら書けんてw
章の区切りをタイトルのとこに強引に入れることにしました。
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○吉良優一郎(きら ゆういうろう)
塔で働きながら水輝と仲良く(?)なれたのでウキウキ。
多分、今は毎日バラ色と思われ。
○池田水輝(いけだ みずき)
ここまでくると常にBL的なことになっている。
優一郎だけじゃないのでエピごとにBLと言ってもいいかも知れない。
BL大好きか。
(この話は大体、そーです)
○池田佑(いけだ ゆう)
桂が気に入りすぎてアレコレし始める。
百合要員になったかも。
それでもやはり破壊神。
今は水輝は自分のだと信じて疑ってない。
○吉良理子(きら りこ)
優一郎と呑気に電話している。
まあ、要するにここまでは実体は出てきてない。
○瑞原桂(みずはら けい)
機械化人と呼ばれる機械仕掛けの身体の人物。
佑に気に入られただけでなく、桂も佑を気に入ってると思われ。