※この作品はR-18です。

再生の日   作:伊駒辰葉

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エロシーンはありません。


はじまりは喧嘩から 2

「何だ。飯、まだなのか。ついでに買ってきてやろうか」

 

 あっという間にラーメンを平らげて水輝が席を立つ。どうやら足りなかったらしい。そのことに気付いて優一郎はありがたく水輝の好意に甘えることにした。水輝が空になった食器をテーブルの脇に退けると、自動的にテーブルに窓が開き、使用済みの食器がテーブルの中に沈む。その後、窓は音もなく閉じた。

 

 この『塔』と呼ばれる場所に来て数年が経つ。優一郎はここに来た時のまま、そして水輝は優一郎に出会った時のままの姿をしている。優一郎は水輝が運んでくれた食事にありがたく手をつけた。

 

「な? 珍しいだろ、ラーメン。それをあいつらと来たら、人の食い物に見えないとか言いやがって」

 

 また同じメニューのラーメンを食べながら水輝が愚痴を零す。どうやらさっきのあの三人組は水輝が食べていたラーメンにケチをつけたらしい。『塔』と呼ばれるこの施設には様々な場所から人が集められている。暮らす場所が違えば当然食べるものも異なってくる。恐らく彼らの目には水輝の食べているものが食べ物に見えなかったのだろう。

 

「世界によって人の定義から違いますのにね」

 

 呟くように言って優一郎は嗤いを浮かべた。まったくだな、と渋い顔で頷いて水輝がラーメンを啜る。

 

 『塔』と呼ばれるこの施設がある世界は俗に天人世界と言われている。誰がそう名付けたのかは判らないが、きっと名付けた誰かはこの世界の有様を皮肉っていたのだろう。『塔』に来た始めの頃は天人とはよく言ったものだと感心していた優一郎も、今ではその名が皮肉だと言うことが判る。

 

 この世界では数多くの世界が作り出された。そして『塔』では数多くの世界を管理し、そして日々研究が行われ、実験が繰り返されている。だが一方で天人世界は『塔』のあるこの一部分にしか生き物が住める場所がない。

 

「さっきの連中、アカデミー出身なんだとさ」

 

 苦い顔で呻くように言った水輝を見つめ、優一郎は食事の手を止めた。アカデミーと呼ばれる学校には選ばれた者しか通うことが出来ないという。つまり彼らは生粋の天人世界の人間だということだ。

 

 この『塔』にいる者の多くは他の世界から引っ張られて来ている。優一郎もその中の一人だ。ここに来る前は優一郎は俗に言われる『下』の世界で暮らしていた。水輝とはそこで出会ったのだ。

 

 優一郎が暮らしていた世界は平行世界の第三群にあたる。平行世界にはタイプが様々あり、中でも第三群は別名龍神群と呼ばれる。人の社会に龍神と呼ばれる人智を超えた力を持つ者が介入する世界だ。優一郎と水輝はその龍神と呼ばれる者の一人だった。

 

 様々な出来事があり、色んな人々と出会った。かつて暮らしていた世界のことに思いを馳せ、優一郎は無意識に食事の手を止めた。

 

「ハンターは居なくなった。魔は淘汰されつつある、と」

 

 ふと水輝が小声でそんなことを言う。どうやら考えていたことを読まれたらしい。そのことに苦笑して優一郎は食事を再開した。

 

「とりあえず、見守るしかありませんからね」

「ま、なー。でもばれないように気をつけろよ」

 

 にっこりと笑った優一郎に水輝が小声で言う。第三群は先日、本部直轄のとある組織に管理権が移されたばかりなのだ。

 

「水輝さんまでそう仰いますか」

 

 優一郎はそっとため息を吐いて水輝を見つめた。ラーメンを啜る水輝の目がちらりと食堂の天井を向く。ぱっと見には判らないが、水輝が視線を向けたところには監視用のカメラがある。

 

「とんとん拍子で出世してやがったのに、急に研究員に戻ったのお前だろうが」

 

 難しい顔をして水輝がぼそりと言う。優一郎はにっこりと笑って答えた。

 

「新しい試みの提案が認められただけですよ。従来の仕事とは直接関係ありません」

「ほーん……。ま、いいけどな」

 

 特に興味もなかったのか、水輝はそう言ったきりコメントしなかった。ラーメンを食べ終え、つゆを飲み干した水輝が器を横に退けてご馳走様、と手を合わせる。

 

「しかし久しぶりに会ったってのに、相変わらずだな」

 

 椅子にもたれて天井を仰ぎながら水輝がぼやくように言う。それを聞いて優一郎はそう言えば、と首を傾げた。こんな風に水輝が食堂にいること自体、珍しい。作戦部に所属する水輝は滅多に『塔』に居ないのだ。

 

「そういえば、前回のお仕事は終わったんですか?」

「あー……」

 

 優一郎が訊ねると水輝がこれ以上はないというほど渋い顔をする。椅子から身を起こした水輝はテーブルに少し乗り出し、周囲を伺ってから小声で言った。

 

「今な。佑が上に尋問されてるとこだ。壊し方がちょっとまずかったらしくてな」

 

 佑という名を聞いて優一郎は思わず食事の手を止めた。水輝と同じく作戦部に所属する佑という女性は、その仕事の性質から裏で密かにクラッシャーなどとあだ名がつけられている。

 

「こうなることは、事前に解っていたと思うんですけど」

 

 少し眉を寄せて優一郎はコメントした。何しろ佑はその特殊な性質から、維持不可能と判断された『下』の世界に派遣される。本人は自覚していないようだが、上層部は佑の後始末をつける能力を買っているのだ。

 

「なんかな。データ取る前にぶち壊したらしい。技術開発部の連中がぎゃあぎゃあ言っててなー……」

 

 しかめ面で文句を言って水輝がシャツのポケットを探る。そこでここが禁煙ということに気が付いたらしい。水輝は渋い顔をしてシャツのポケットから手を離した。

 

「本当ならおれも呼び出しを食らってたんだが、おれはほら、この通りだし」

 

 そう言って水輝はテーブルに肘をついて右手を優一郎の前で軽く振ってみせた。水輝の右手の親指から薬指までの四本の指の根元に銀色の指輪がついている。シンプルなこの指輪はペナルティの証だ。さっきので五つ目だな、と水輝がぼやいて手を引っ込める。

 

「コンプリートおめでとうございます」

 

 笑い混じりに言った優一郎を水輝が嫌そうに睨む。

 

「阿呆。めでたい訳ねえだろ。おかげさまで尋問は免れたが」

 

 佑はどうやらこれ以上、水輝にペナルティを課せないつもりで一人で尋問を受けに行っているようだ。水輝がもしも上層部の面々に尋問されたら暴れ出すかもと危惧したのだろう。

 

 ペナルティを課せられた者は一定期間、様々な枷を背負うことになる。例えば水輝の場合は一定期間の能力の封印を食らう。その期間は仕事もままならず、自然とギャランティが下がってしまう、ということだ。

 

「ということは、今、お暇なわけですね」

 

 なるほど、と呟いて優一郎は残っていた食事を片付けにかかった。

 

「いや。定期検診が入ってんだよ」

 

 ぶっきらぼうに言って水輝が肘杖をつく。どうやら水輝は佑の尋問が終わるのを待っているのではなく、定期検診を受けるために『塔』に来ているようだ。

 

「なるほど、そういう事か」

「あれも何とかならねえかなあ……。毎回毎回、バラされるのも気持ち悪いんだが」

 

 うんざりした顔をして水輝がため息混じりに言う。




定期検診とかの単語はエヴァの影響だと思いますw
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