BL警報です!
今日はね! 体操をしてるんだよっ! まよまよ体操なのだー! まよまよー!
いつもの時間に通信を入れると理子はとても楽しそうに報告してくれた。そのことを思い出して優一郎はうんうん、と頷いた。元気な理子の声を聞くと元気が出てくる気がする。
愛華の脳の摘出手術は終了した。優一郎は研究室の端にある実験台に乗ったケースを見て頷いた。
「それじゃあ、吉良博士。お先に失礼します」
祥子が帰り支度を整えてから頭を下げる。今日はこれからデートなのかも知れない。祥子はいつもよりおしゃれをしていた。唇には薄く紅も塗られている。
「お疲れさま」
にっこりと笑って優一郎は祥子を送り出した。仕事を終えた他の研究員たちも次々に研究室を後にする。彼らにも挨拶をしてから優一郎はコーヒーをいれるために席を立った。
部品が揃うのを待って後は機体を組み立てるだけだ。必要なものは全て発注も終わっている。優一郎はのんびりとコーヒーをいれながら考えを巡らせた。脳改造も早めに済ませてしまおう。仕様書を思い出しながら優一郎はいれたてのコーヒーをカップに注ぎ分け、実験台に寄った。
脳のうち、必要な部分は大脳の半分程度だ。大雑把に言えば、感情と記憶を司る部分があれば機械化人は造ることが出来る。他の部分は全てコンピュータに置き換えられるのだ。また、使用する脳も実はマイクロマシンで無機化処理するため、厳密に言えば生身の脳は一切残らない。
今回のマテリアルの場合は、要求仕様に合わせてさらに改造を施すことになる。愛華はこの改造により、マスターに無条件で想いを捧げ、マスターの命令に忠実だが、マスターからの命令や制御が無ければ何もできないロボット的な存在と化すのだ。
まあ、もともと被虐的で主体性が無いから、そこまでの改造も受け入れ可能なんだけど……。そう思いながら優一郎はケースに入った愛華の脳を見つめた。必要部分を切り分けることは簡単だし、改造も楽には出来る。かつて行ってきた実験や改造作業を思い出して優一郎は目を細めた。
三群にいたあの頃、優一郎はヒューマノイドと呼ばれる機械仕掛けの人形を何体も造り上げた。彼女たちはそれぞれが性格は違っていたが、どの個体も被虐趣味を持っていた。
だが桂のように自分できちんと主体的に考えることが可能な自律した機械化人が完成した今、こういうタイプの機械化人を造るのは正直、気が進まない。考えを巡らせた優一郎は少し陰鬱な気分になった。
やれやれとため息を吐き、優一郎はコーヒーを啜った。改造に必要な機材は揃えてある。作業自体は一人でも簡単に行えるが、研究員たちに見学させた方がいいだろう。そう考えて優一郎は自分の席に向かった。
ふと、白衣のポケットの中から小さな電子音が聞こえる。誰かから通信が入ったらしい。優一郎は通信機を出して表面にある小さな画面を覗き込んだ。覚えのないナンバーが表示されている。怪訝に思いながら優一郎は耳に通信機を引っかけた。
「はい。第二十三研究室長の吉良です」
『ああ、吉良博士。技術開発部の都賀です。お忙しいところすみません』
ぴくりと眉を上げて優一郎は立ち止まった。水輝が今日、相手をした客のうちの一人だ。
「いえ、ちょうど今日の仕事は完了したところですし」
そう答えながら優一郎は静かに席に着いた。端末画面に水輝から貰ったリストを表示させる。都賀旭彦。技術開発部長。優一郎は手早く画面をスクロールさせ、都賀のプロフィールを表示させた。
『申し訳ないんですが、少々お時間を頂けませんかね。話したいことがあるんですが』
通信機の向こうで恐らく都賀は笑っているだろう。そんなことを思いながら優一郎はじっと画面を見つめた。
「今からですか? 場所はどこでしょうか?」
都賀だけではない。リストには『塔』に所属し、それなりの役職に就いている者の名前が並んでいる。中には局長クラスの名も見える。
『私の部屋で宜しいですかな? 場所がお判りにならないようでしたら迎えをやりますが』
笑う気配を混ぜて都賀が言う。どうやら技術開発部まで来いということらしい。
「承りました。お伺いします」
そう返事してから優一郎は通信を切った。リストを閉じて端末の電源を落とす。残っていたコーヒーを慌ただしく飲み干してから優一郎は研究室を出た。
技術総括局の棟に辿り着いたところで優一郎は身分証明した。その後、都賀のいる階層に向かう。通常勤務を終えた者たちがぞろぞろと帰りつつある。その人の流れを優一郎は遡った。問題の部屋に辿り着き、優一郎は静かにドアをノックした。返事を待ってからドアを開ける。
「ああ、申し訳ありませんな」
広々としたフロアには机と実験台が整然と並んでいる。その一番奥の席に着いていた都賀が立ち上がる。
「いえ、こちらこそ異動になった時にご挨拶にお伺いしたきりで、忙しさにかまけて申し訳ありませんでした」
「いやいや、私も不義理をしておりましたからな。さあ、どうぞこちらへ」
儀礼的な挨拶を交わしてから優一郎は勧められるままに部屋の奥に向かった。この部屋の奥には幾つかの部屋がある。そのうちの応接用の部屋に通されたところで優一郎はぴくりと眉を上げた。ソファに水輝が俯いて座っている。
「実はですな。話というのは彼のことでして」
そう言いながら都賀が優一郎にソファを勧め、自分は水輝の横に腰掛ける。水輝は膝をつかんで俯いたままだ。
「この方が何か?」
素知らぬ顔で言って優一郎は大人しくソファに腰掛けた。よく見ると膝をつかむ水輝の手が小刻みに震えているのが判る。優一郎はだが不自然にならない程度で水輝から目を離し、都賀を見た。
「吉良博士にこういうことをお訊きするのは心苦しいんですが、彼がその……妙なアルバイトをしているのはご存じですかな?」
口許に人の悪い笑みを貼り付けて都賀が言う。都賀はそれから片手を水輝の背に回した。その瞬間、水輝がびくんと身を竦めて手を震わせる。
前のエピソードと同じエピタイをつけたくなる!!!
まったくもう、と作者はため息を吐いています。
それにしても今見ても都賀ってアレだなあ……。