BL警報です! あ、SMも警報?
「噂では聞いたことが。あの噂って本当だったんですか? 困ったものですね」
優一郎はさりげなく水輝を観察してしみじみとため息を吐いてみせた。するとそうですなあ、と都賀が首を何度も振る。
「ですが天人にはなかなか有用でしてな。私も実はお世話になっておるのですよ」
そう言ってから都賀は笑ってみせた。恐らく見えないところで身体を弄り回されているのだろう。水輝はずっと俯いて手を震わせ、時折、苦しそうな息を吐いている。
「そうなんですか。まあ、禁止されている事ではありませんし、両者合意の上なら問題無いですよね」
優一郎は穏やかな表情を浮かべたままで頷いてみせた。鷹揚に頷き返した都賀がするりと手を動かした途端、水輝が掠れた声を上げて仰け反る。
「も、駄目……我満、できね」
微かに呟いた水輝が虚ろな眼差しをして都賀にすがりつく。困った奴だとでも言いたそうに都賀が顔をしかめ、水輝を押し戻す。
「失礼ですが、吉良博士は彼と同じハイブリッドでしたかな? 同じ種として彼をどう思われますかね?」
渋い顔をして都賀が訊ねる。
「ハイブリッドと一口に言われていますが、実はその属性や力は個体によって凄まじく開きがあるんですよ」
ちらりと水輝を見てから優一郎はゆっくりとした口調で言った。都賀に退けられて力なくソファに座っていた水輝の指が、ほんの微かにぴくりと震える。
「ほほう……。それではこれは彼特有の性癖なんですかな?」
感心したような顔をして都賀が頷く。
「いえ。近い属性を持つ者は居ると思いますよ。その反面、星一つ叩き壊すような破壊の化身みたいな存在も居るわけで……」
そう言って優一郎は怯えた顔をした。すると都賀が難しい顔をしてため息を吐く。
「作戦部の例の女性でしたかな。……そう言えば彼女は吉良博士とは元が同じとか?」
伺うような顔をして都賀が言う。どうやら分裂したという話を都賀も信じているらしい。
「そうみたいですね。僕も詳しいことは知らないんですけど、別のハイブリッドが何かの目的のために僕から力を切り分けて作り出したみたいです」
「うーん。私たちからすると考えられん話ですなあ……」
優一郎の説明を聞いた都賀が眉間に皺を寄せ、力なく首を振る。それから都賀はちらりと水輝を見やり、優一郎に目を戻した。
「おお、そう言えばですな」
ふと思い出したような顔をして、都賀が白衣のポケットから小さな機械を取り出す。優一郎は促されて横の壁を見た。そこには薄型の画面が設えてある。
「こういうものが出回っているとご存じですかな」
そう言って都賀が手の中の機械を操作する。すると画面にはあの動画が表示された。優一郎は感慨のない目で画面を見つめた。画面の中では水輝と優一郎が交わっている。
「これ、お持ちだったんですか、実はこの映像の件で昨日、医療局に行ってきたんです」
そう言って優一郎は苦笑した。すると都賀が怪訝そうな顔をする。
「と、言いますと?」
「この方、最近、検診受けてらっしゃるでしょう? 検診の時に潜在意識を探って出てきた映像だそうです。それが流出したらしいですね」
優一郎は苦笑を浮かべたまま言って、水輝に目をやった。水輝はうなだれて時折、身体を震わせている。
「なるほど……。しかしこのようなものがですな。『塔』の外に出回っているとなると、少々問題だと思いませんかな?」
難しい顔をして都賀がやれやれと首を振る。
「誰が流出させたか、探ってみる必要がありますね。医療局のほうで調査はしていると思いますけど、重大なプライバシーの侵害ですからね」
うんうん、と頷きながら優一郎は画面をちらりと見やった。画面の中で優一郎に抱かれている水輝は恍惚の表情を浮かべている。
「それも勿論ですが、吉良博士も要らぬ醜聞を立てられ、お困りでしょう」
同情する、という顔をして都賀が言う。
「まあ、流れてしまった以上、変に騒ぎ立てるほうが逆効果ですからね。この手のアングラなものは放置するのが一番の対処です」
苦笑をして優一郎は都賀に目を戻した。一瞬、都賀の顔に悔しそうな色が乗る。だがすぐに都賀は平然とした表情に戻り、そうですか、と言った。どうやら都賀は優一郎が騒ぎ出すものと考えていたらしい。
「いや、余計なお時間を取らせてしまいましたな」
そう言ってから都賀が手に握っていた機械を操作する。すると画面に映されていた動画が消えた。
「いえ。都賀さんのほうこそ、自分の恋人が他の男と交際しているかのような映像が出回って、驚かれたでしょう。僕ももし妻の映像が出回ったりしたら心穏やかでは居られませんからね。まあ彼女に限って浮気する事は無いと確信していますが、うちの理子は……」
優一郎はそれから延々とのろけ話を展開した。最初は相槌を打っていた都賀が段々と無言になる。優一郎は話を続けながら時折、水輝の様子を伺った。やがて水輝の身体がぐらりと傾ぐ。
ソファに倒れた水輝は真っ青な顔をしていた。都賀が微かに舌打ちをする。そこで優一郎はぴたりと話を止めた。
「その方、大丈夫ですか? 救急センターに連絡しますか? いや、それはまずいか」
そう言ってから優一郎は思案顔をした。すると都賀が慌てたように手を振る。
「いやいやいや、人の手を煩わせることはないでしょう」
都賀は早口でまくし立てて脱いだ白衣を水輝の身体に被せた。白衣に隠れ、水輝の顔が見えなくなる。
「あ、そ、そうですね。それでは僕は失礼します。都賀さん……」
そこで言葉を切り、優一郎は立ち上がった。
「その、他人の趣味は尊重しますけど、僕にはその手の趣味はありませんので、ご安心ください」
優一郎は都賀に頭を下げ、そそくさと応接室を後にした。閉めたドア越しに都賀の舌打ちが聞こえてくる。その後、なにかを叩く音が響く。どうやら事が思った通りに運ばなかったことに腹を立てた都賀が、水輝に八つ当たりしているらしい。何度か叩く音がした後、水輝の掠れた悲鳴が聞こえてくる。
水輝さん、信頼してますからね。心の中で応援しつつ、優一郎は部屋を後にした。
優一郎が上手く誘導できなかったので都賀がキレましたw