百合警報です!
「ちょっと桂!」
「あっ、はいっ!」
間近で呼ばれて桂は反射的に返事をした。そこで佑が起きていたことに気付き、桂は慌てた。
「寝込みを襲うなんて最低よ!」
「あの、佑! 違うんです! 私!」
うろたえながら桂は佑をベッドに寝かせようとしていたことを説明した。佑は何故か怒っているようだ。もしかして股間を覗き込んだことがまずかったのだろうか。佑を弄り回していた自覚のない桂は、佑が怒っている理由が判らず目に涙を浮かべた。
「一号! 二号から身体のコントロール権を奪いなさい!」
『了解しました』
佑の声に応じて一号が言った途端、桂は身動きが出来なくなった。
「首から上だけは戻してあげて。しゃべれないと尋問できないから」
ふふふふ、と不敵に笑う佑を桂は困惑の目で見つめた。
「ベッドに寝かせて、あそこや乳首を弄って何をするつもりだったの?」
腕組みをした佑が怒った顔をして言う。桂はそれを聞いて真っ青になった。そんなことをした覚えがない。だが、佑の怒り方を見ると嘘ではないのだろう。桂は考えを巡らせてから小声で詫びた。
「ごめんなさい」
「謝ってほしいんじゃないの! 何をするつもりだったかって聞いてるの!」
即座に佑が怒鳴る。桂は答えに困って顔を歪めた。すると何故か股間から一号の声が聞こえる。
『興奮して愛撫を加えようとしていたようです』
それを聞いた桂は恥ずかしさに真っ赤になった。一号までが言うということは、きっと自分は無意識に佑を弄っていたのだろう。恥ずかしいやら申し訳ないやら、情けないやらもったいないやら、複雑に感情が入り乱れて桂は混乱した。
「二号はまた混乱しているようね。一号、混乱を鎮めて、記憶をきちんと修正できる?」
『可能です』
桂は涙を浮かべた目で佑と自分の股間とを見比べた。
「佑、私は……」
「二号はちょっとの間黙ってなさい!」
鋭い声で言われて桂は消沈した顔で黙った。しばしの後、唐突に様々な感覚が蘇る。恥ずかしがりながら佑を弄り回していたことに気付き、桂は蒼白になった。無意識とはいえ、眠っていた佑を無断で触っていたのだ。佑が怒るのは当たり前だ。
「一号、胸、はだけてパンツ脱いで、昨日みたいに股関節を回転させてロックしたポーズとれる?」
佑が言うと桂の身体は、桂の意志とは無関係に動き出した。ベッドに昇り、足をV字型に開いた格好で制止する。
「これで良しと。桂、聞きたいことがあるの」
佑が腕組みをして怖い顔をして桂を睨む。桂は青い顔をしながら黙って頷いた。
「桂、あなた、わたしの事、どう思ってるの?」
質問されて桂は困惑した。
「どうって、あの……」
きっと佑が言っているのはパートナーとかいう意味ではないだろう。桂は懸命に考えを巡らせた。もしかして自分の行動に腹を立てた佑はパートナーを解消しようとしているのだろうか。それとも自分ではなく一号と組んだ方が仕事の能率が上がると思ったのだろうか。確かに一号は桂のように無意識で佑を弄り回したりはしないし、質問にもすぐに答えることができる。混乱した桂は考えようとして余計に混乱した。
「一号、また二号は混乱してる?」
『はい』
佑の質問に一号が即答する。桂は情けない気分で自分の股間を見つめた。
「桂。とりあえず、深呼吸して落ち着きなさい」
桂は言われるままに深呼吸をした。とにかく佑の質問に答えなければならない。
「桂、さっきしたことを、簡潔に説明しなさい。できなければ一号にさせるわよ」
怒った顔をして佑が言う。桂は消え入りそうな声で充電し始めてからさっきまでのことを説明した。充電中に佑の寝言が聞こえたこと。苦しそうな寝方をしていたからベッドに移そうとしたこと。パワーの設定を最小にしていたことを忘れていて、うっかり佑を落としてしまったこと。その時に佑のショーツが丸見えになり、思わず目を釘付けにされたこと。それらのことを桂は恥ずかしさを堪えて説明した。
「パンツみたところまでは事故だから許すとして、どうしてそこで寝込みを襲おうってことになるわけ?」
眉を寄せて怖い顔をして佑が言う。桂は涙目になって佑を上目遣いに見た。佑のショーツが濡れているのを見ているうちに、何だか堪らなくなったのは覚えている。桂は小声でそのことを説明した。
「状況は解ったわ」
重々しく頷いた佑の頬が少し赤くなっている。だが怯えた桂にはそのことが判らなかった。もしかしたら不貞を働いた自分はスクラップにでもされてしまうのだろうか。そんな考えが浮かんでくる。
「最初の質問に戻るわ。桂、あなた、わたしのこと、どう思っているの?」
腕組みをしたまま、佑がじっと桂を見つめて訊ねる。桂は困惑しつつ、考えを巡らせた。自慰をした時の心地よさや、佑の濡れたショーツを見て昂奮したところなどを考えると、どうやら自分は佑に特別な感情を抱いているようだ。そのことは判るのだが、桂は正直に言えなかった。もしもそんなことを言って佑に嫌われてしまったらどうすればいいのだろう。いや、それ以前にもう佑は自分のことを嫌っているに違いない。
「桂、わたしのこと、信頼できない? だから話せないの?」
不安そうな顔をした佑が唇を噛む。桂は慌てて首を振った。
「でも、結婚して、奥さんも子供さんもいらっしゃるのに!」
何で自分はいつも妻帯者を好きになってしまうのだろう。真面目にそう考えながら桂は悲痛な面持ちで叫んだ。すると何故か佑がむくれた顔をする。
「ちょっと、待ちなさい! 誰に奥さんがいるのよ!」
「えっ? 結婚してらっしゃるって、あっ! すみません!」
はっと気付いて桂は慌てて頭を下げた。そうだった。佑は女性だった。うっかり忘れていた桂は恥ずかしさに真っ赤になって何度も詫びた。
「はい。桂、もういちど深呼吸して落ち着きなさい」
今度は少し穏やかな表情で佑が言う。桂は言われるままに深呼吸をした。それから桂は真面目な顔をして佑を見つめた。
「私、佑のことが好きかもしれません」
「かもしれませんって何よ?」
そう言って佑が苦笑する。桂は恥ずかしさに顔を赤くして眉を寄せた。佑は何故、気持ち悪がっていないのだろう。自分の気持ちに嘘はないが、女同士なのだ。好きだと言われていい気持ちはしないのではないだろうか。
「あの、佑。私も佑も女です。好きって姉のように慕ってるとか、そういう意味じゃないんです」
消え入りそうな声で桂はたどたどしく説明をした。だが佑は何故かやっぱり気持ち悪がらない。その理由が判らず、桂は首を傾げた。
「私の言いつけ、きちんと守れる? いろいろうるさいわよ?」
「あ、あの……?」
戸惑いながら桂は佑を見つめた。いつの間にか佑の顔からは怒りが消え、代わりに微かな笑みが浮かんでいた。
「だから、桂が望むなら、愛人にしてあげてもいいわよって言ってるの」
「駄目です! 奥さんと子供がっ!」
佑に不倫をさせてはいけない。真剣にそう考えながら桂は反射的にそう答えた。すると佑がぴしりと微笑んでいた頬を強ばらせる。
「あなた、もしかして、わたしを女だと思ってないんじゃ……?」
じっとりとした目で見られて桂ははっと我に返った。
「違いますっ! 佑はスタイルもいいし、綺麗で! すごい美人だし!」
それにとても賢いし、気っぷはいいし、頼りがいのある兄貴のような。そこまで考えてから桂は違う違う、と自分の考えに首を振った。
「それに私、こんな身体ですしっ」
機械化人である桂は生身とは違って維持に色々と手間が掛かる。それに身体は当然機械で、だから生身とはまるで作りが違う。考えを巡らせるうちに桂の顔はどんどん暗くなっていった。
「わたしは桂の身体って面白可愛くていいと思うけど」
可愛い。面白い、という形容は無視してその部分だけを聞き取った桂はぽっと頬を染めた。
「それじゃあ、あなたはたった今からわたしの愛人よ、いいわね!」
びしりと桂を指差して佑が宣言する。桂は恥ずかしさと嬉しさに赤くなりながら、笑みを浮かべて頷いた。
佑が愛人をゲットしましたw