「水輝さん。僕のほうの手の内を明かしましょう」
優一郎が水輝を見つめてそう告げる。水輝は何度か瞬きをして頷いた。
「ハイブリッド、すなわち龍神の関わる世界があれだけありますよね?」
「ああ」
頷きながら水輝は思い出した。三群と言われる龍神の世界は数多く存在する。天人世界の住人は最初、水輝を捨てるために三群を造った。が、そこで彼らはハイブリッドと呼ばれる種を観察することにしたのだ。様々な実験を繰り返し、時折は方向調整しつつ今現在の三群は維持されている。
「なのに天人世界はひとつ。そう水輝さんは思ってらっしゃるんですか?」
「おれの目に見える範囲ではそうなるな。……やなこと考えるなあ、おまえ」
水輝は思わず苦笑を浮かべ、ちらりと優一郎を伺った。
「考えるんじゃなくて、存在するんです。本当の事を言いましょう。ここの代わりはいくらでもあります。放棄するかどうかの判断は僕に任されています」
「うわー……」
掠れた声で呻き、水輝はがっくりとうなだれた。いや、それは困るんだよ、と思わず呟く。
「もうひとつ言いましょう。ここの代わりはいくらでもありますけど、水輝さんの代わりは居ないんです」
「いや、だから困るんだよ、それは。こんなでも一応、おれの生まれたところでな。それなりの義理というか……」
うなだれたままで言いながら、水輝は何となく身体を傾け、優一郎の肩に額を乗せた。
「僕の居た世界で、最初に生命を産み出した雷を落としたのは誰でしょうね」
「いやまあ、ほら、ええと」
答えに苦しんで水輝は意味のない言葉を継いだ。
「水輝さんがこの世界に思い入れがあるのは解りました。だから、水輝さんに任せることにして今日は見守っていたんですけど」
「うっ」
水輝は低い声で呻いてからため息を吐いた。何でいつも優一郎にはかなわないのだろう。そんなことを考えてから水輝は苦笑を浮かべて顔を上げた。
「なんだ。もしかして怒ってんのか?」
「いいえ。喜んでいるんです。素直に助けてって言えるようになったんだなあと、しみじみと」
「何だよ。おれだってたまには弱音くらい吐くぞ」
眉間にしわを寄せ、水輝は苦い顔をして呟いた。えへん、と咳払いをしてから水輝は自分の服に手を伸ばした。ジーンズのポケットを探って中からカードを数枚取り出す。
「とりあえずこれが今のおれの身分でな」
そう言って水輝はカードを手の中でざらりと広げてみせた。怪訝そうな顔をしている優一郎の手にカードを押しつけてから腕組みをし、胸を張る。
「色々、言われるままに引き受けてたらそういうことになった」
「似た者夫婦というかなんというか……」
ぶつぶつと呟きながら優一郎がベッドにカードを一枚ずつ載せる。水輝の持つ身分証明のカードは全部で七枚ほどあった。それぞれに全く違う部署の名が記されている。
「それで、具体的にどう新種を作り出すつもりなんですか?」
並んだカードから目を上げて優一郎が言う。水輝は頷いてからカードを拾い上げた。
「まずはハイブリッドに対する偏見をなくさなくちゃならないんだろうが、その前にちょっと気になることがあってな」
カードを元通りにジーンズのポケットにしまいながら水輝は話しだした。
「天人世界の奴らで子孫を残せるって大手振ってる奴らなー。どうもあるものを極端に拒む性質らしくてなー」
どこから話せばいいのだろうかと考えながら水輝はちらりと優一郎を伺った。優一郎は腕組みをして黙っている。
「どうも奴らはおれの体液が駄目らしいんだな。まあ、まだ結論出せるほどサンプルが集まってないのが現状なんだが」
「拒むというか、ある種の媚薬か麻薬的に作用していると思いますけど」
「ああ、それはついでにそうなるってだけだ。サンプル回収して調べたんだが、一定期間を過ぎると」
そう言って水輝は右手を軽く掲げ、こぶしの形に握ってからぱっと開いてみせた。サンプルを使って実験を行った結果、ある種の天人は水輝と交わった後、一定期間を過ぎるとほぼ確実に死亡するという結論が出た。
「それはまずいんじゃ?」
「だから作用を抑える薬は作った。それを使って奴らのくだらない争いを強引に抑えようってのが、情報局特殊警備部の依頼」
指を一本立てて水輝はそう言った。つまり、依頼主の彼らは水輝を買った客を脅そうという腹なのだ。
「えぐいこと考えますね」
笑い混じりに言う優一郎をちらりと見てから水輝は苦笑した。
「考えたのは奴らだ。……で、そのサンプル回収のついでに生体検査、新薬の開発、でもって本部メインコンピュータに入ってるデータの整理をしたいって言い出したのが、医療局医療特殊技術部三課」
そう言ってから水輝はいったん言葉を切った。
「次行きましょう」
「笑うな。……ええと、こいつらはちょっと特殊な趣味持ちだもんで、ついでに裸を拝ませろとねだられたが、まあこれは余計な話だな」
すらすらと言ってから水輝はため息を吐いた。気を取り直してから話を進める。
「本部のメインコンピュータを弄りたかったのは奴らだけじゃなくて、技術総括局のそれぞれの部署も同じだった。医療局医療特殊技術部三課がいじくる時に、ついでに見せろってのが奴らの言い分だ。が、そう簡単に本部のコンピュータはいじれない」
そこでいったん言葉を切り、水輝は深々と息を吸った。
似たもの夫婦ですw