前のエピソードと繋がってるのですが、分けました。
「そこで都賀の出番となるわけだが、こいつは意外と簡単で寝るたびにずらずらと機密暴露してくれたおかげで、それをネタに何とか掛け合うことが出来た」
そこまで言ってから水輝は大きく息を吐いてちらりと優一郎を見た。優一郎はにこにこと笑っている。
「なかなか水輝さんは交渉が上手いみたいですね」
「うまかねえよ。単に脅しただけだ。……ええと? どこまで話したかな。次はそうか、総管理局か」
指折って数えてから水輝は話を続けた。
「総務部は規定外の残業手当を求める奴らをどうにかしたかったらしい。で、そいつらはちょうど情報局特殊警備部の依頼と被ってたんでな。ついでに調べた。チップ調べれば色んなデータがざらっと出てくるしな。金以外のもん突っ込んでるやつも意外と多いし」
段々と疲れながら水輝は話を続けた。よく考えたら優一郎は思考が読めるのだから、面倒な説明などせずに記憶を読ませた方が早かったのではないだろうか。そんなことを思いつつも水輝は半ばやけくそで言葉を継いだ。
「作戦部はまあおれが元々居たところだしな。ペナルティ食らってる間は大人しくしてろってのが主な言い分かな。でもついでなんだから色んなネタつかんどけってのが部長の腹だろうな」
そこまで言ってから水輝は大きくため息を吐き、まだあったっけ? と優一郎に訊ねた。
「水輝さん。物事のプライオリティをきちんと考えられるようになりましょう」
うんうんと頷きながら優一郎が言う。それを聞いた水輝はうわあ、と力なく呟いた。
「いや、だってなあ? 頼まれるとなあ、報酬がほら、なんだ、あれだよ」
言いにくそうに言葉を継いでから水輝は頭をかいた。
「あれとは?」
不思議そうな顔をして優一郎が言う。水輝は眉間にしわを寄せて何となく優一郎から目を逸らした。
「……吉良博士の豪華生写真……」
「……」
優一郎が水輝の肩をぽんぽんと叩く。水輝は勢いよく顔の向きを戻し、優一郎の白衣の胸ぐらをつかんだ。
「笑うな! おれは真剣だったんだ!」
「それで、最初の話に戻りましょう」
穏やかに言って優一郎が水輝の手を解く。そうだった、と呟いてから水輝は頭を切り換えた。
「天人のある種の奴らにはおれの体液は毒になる。……が、ディザブラには薬になることが判明した。これは実験段階だからはっきりとした結論はまだ出てないが」
大きく息を吐いて水輝は畳んであったシャツを引っ張り寄せた。煙草を出して咥えてからここが禁煙だったことに気付く。そういえばこの部屋も、優一郎の研究室も全て禁煙だった。水輝は顔をしかめて煙草をポケットに戻した。
そう、上手く行くといいんですが……。優一郎が難しい顔で呟く。そうだな、と頷いて水輝は言葉を継いだ。
「これはあくまでも仮説だが、天人は進化してるんじゃないか? ハイブリッドと交配するために」
そう言ってから水輝は壁により掛かった。
「わかりませんね。しかし、危うく星ひとつ叩き割るところでしたよ」
笑いながら優一郎がさらりと言う。水輝は呆れて優一郎を見やった。
「割るな。おまえは佑か」
今は天人はハイブリッドに限らず、他種との婚姻は認められていない。だがもしも天人が他種への排他的な考えを捨て、より広く交配を望むなら生き残る道はないでもない。水輝は壁に身をもたせかけてのんびりと言葉を継いだ。
「だから、既に実践している者達は居ますってば」
「ひっそり隠れてこそこそしてるより、大っぴらに付きあいたいだろ?」
水輝は眉を寄せて腕組みをして言った。首に掛けたシンプルなネックレスに何となく目をやる。しばし指先で鎖を玩んでから水輝は目を上げた。
「水輝さん。水輝さんは依頼の表しか見ていないように見えますけど」
「んー? そうか? ……おまえがそう言うならそうかもな」
水輝は身体を傾けて、そのまま優一郎の膝に頭を乗せた。触っているだけで何だかほっとする。水輝は何となく優一郎の腿に顔を擦りつけた。
「水輝さんの行動によって、引き起こされた状況を、どう考えますか?」
「うー……」
そう言えば以前、あの女にも同じことを指摘された。殴られた時のことを思い出して水輝は無言になった。
「水輝さんが半ば公然に売春を行ったことによって、天人内のハイブリッド排斥派は力を得ています。そしてハイブリッドの間では反発派と擁護派に別れて争っています」
「そうらしいな」
そう言って水輝はのろのろと身を起こした。頭をかきながら何となく優一郎から目を逸らす。
「だから、根本的におれとハイブリッドが違うって思わせればいいんだろ?」
水輝は少し俯いてそう告げた。
「どうやって?」
「検査結果は既に出てるし……奴らも玩具は一つあれば十分だろ?」
ハイブリッドの定期検診の結果は既に出され、本部メインコンピュータのデータは書き換えられている。水輝は俯いたままでそう説明した。
「データはただのデータです。読み取る者は自分に都合の良いようにしか見ようとしません」
「データに基づいてハイブリッド種の内訳が近いうちに発表される。それで駄目なら……どーすっかなー……」
独り言のように呟いてから水輝はため息を吐いて服を取り上げた。
「そのデータはどんなデータなんですか?」
優一郎の質問を受けて水輝は着替えの手をぴたりと止めた。のろのろと顔を上げて優一郎を見る。しばし優一郎を見つめてから水輝は手元に目を落とし、手早く下着とジーンズを身に着けた。
「ないしょ」
「あの解析したデータでしたら、たいした意味はありませんよ。ハイブリッドの体液や放射する力の影響が、天人の体質の違いによって多岐に渡るということが解るだけですから」
「ああ、そっか。優一郎に任せたんだっけか」
そう言ってから水輝はシャツを拾い上げた。袖を通してからボタンをのろのろと掛ける。
「まあ、最悪の場合は袋だたきじゃ済まないだろうなあ……」
「あと、メインコンピュータへのアクセスですが……」
言いにくそうに優一郎が言う。何だよ、と水輝は顔をしかめて促した。
「水輝さんの依頼者の方々ですか? その方々がアクセスしたコンピュータは、メインコンピュータに挙動を似せて、適当に本当っぽいデータを放り込んだ偽物です」
それを聞いた水輝はボタンに掛けた手を止めてあんぐりと口を開けた。それからはたと気付く。そういえばあれはあの後も特に変わりなかったような気がする。
「うあー……」
「本物にアクセスされたら困りますからね。この世界が、いくらでも換えが利く、歯車のひとつに過ぎないと知られたら、大変なことになるでしょう?」
すらすらと優一郎が説明してみせる。水輝はがっくりと肩を落としてため息を吐いた。
「じゃあなにか? おれは犯られ損、殴られ損ってか」
ぶつぶつと口の中で言って水輝は剣呑な目で優一郎を見た。
「だったらいいんですけど。水輝さんの依頼者の方々の今後の動きには、注意する必要がありますね……」
「あー! 暴力で解決したい! 刀振り回して解決したい! 魔法ぶっぱなして解決してえええ!」
我満ならなくなった水輝は頭を抱えて喚き散らした。
水輝は基本的に暴力で全てを解決したいのです。
そういう性質というかー……。