水輝の居なくなった仮眠室で優一郎はぽつりと呟いた。
「さてと。始末書書かないと……」
泣きそうに顔を歪めて優一郎は力なく首を振った。水輝のことだから伝えた通りに処理はしてくれるだろう。優一郎は疲れた身体を引きずるようにして研究室に戻った。
だが水輝を問いつめて良かった。自分の席に着きながら優一郎は考えを巡らせた。このまま放置していたらまず間違いなくこの世界を処理しなければならなかっただろう。
あそうか、特殊監査通達の発行依頼もしないと。ふと気付いて優一郎は疲れたため息を吐いた。結局、どこにいてもどんな状態でも、水輝はトラブルを巻き起こしてくれる。これまでに何度も経験したことを思い起こして優一郎は疲れた顔をして端末に向かった。
でもまあ、仕方ないか。そう呟いて優一郎は口許を緩めた。にやにやと笑いながら優一郎は水輝の言っていた報酬の内容を思い出した。水輝が自分の写真を手に入れるためにしたことと思うと、少しは気が晴れる。
しかし、翠さんはなんで、水輝さんに教えてなかったんだ!
それが原因なら、ちょっと星一個くらい割ってもいいかな。とか考えてしまった優一郎は慌てて首を振って内心で叫んだ。翠というのは時空を支配する龍神の名だ。
とりあえず、数人は冤罪だろうけど仕方ない。こうなったら迅速に処理する以外、方法はない。時間がかかればかかるほど事は厄介になるし、下手なところに飛び火されても処理はし難くなる。今の段階でけりを付けておかないと面倒になるばかりだ。
しかし何故、水輝はそこまでこの世界に拘るのだろうか。水輝を見ていると余りにも無防備に思える。生まれ故郷だからという考えは判らなくもないが、それにしても随分と気前よく彼らの言いなりになっているような気がする。確かにこの世界にはこの世界なりのルールが存在はする。が、たかがこの世界に限られた話なのだ。
ここが特別だと思いたいのはわかるけど……。そう呟いて優一郎は作業の手を止めた。それとも他に何か拘る理由でもあるのだろうか。考えてはみるが答えが出てこない。優一郎は難しい顔で考えながら淡々と作業を続けていった。
あれからきっちり一時間が過ぎたところで水輝が研究室に姿を現す。肩に担いでいた刀をしまい込み、水輝は仏頂面で顎をしゃくった。
「すませたぞ」
「お疲れさま。都賀のほうはどう? 白状した?」
画面から目を上げて優一郎は訊ねた。ああ、と頷いた水輝が話し出す。どうやら都賀はハイブリッド種を天人の性的な玩具にするべきだという主張をするべく動いていたのだそうだ。そして水輝を罠に嵌め、完全に手に入れようとしていたらしい。
「これを」
優一郎は机の中からカードを出して水輝に差し出した。怪訝そうな顔をした水輝がカードを受け取り、まじまじと見る。渡したのは特殊監査室の監査員の身分証だ。
「なんだ? これ」
「もうすぐ、メインコンピュータから特殊監査が行われた旨、通知されて、公知される。今回の件は水輝さんの判断で行ったということで」
「ふうん」
感慨のない声で言って水輝がカードをひっくり返す。それから水輝はカードをポケットにしまいこんだ。
「医療局医療特殊技術部三課の奴らにも手配は頼んだ」
仏頂面で言って水輝はそれじゃあと踵を返した。
「水輝さん。その辞令は正式なものだから。この世界を維持していくために、どうすればいいか、それを考えて行動する仕事だ」
優一郎が言うと、水輝が足を止めて振り返る。それから水輝は優一郎に向き直った。
「とりあえず、勝手に動かなけりゃいいんだろ?」
「臨機応変に、動かなければならない時もあると思う」
「まあ、おれは命令待ちしとくさ。それじゃあな。世話かけて悪かった」
口早に言ってから水輝が研究室の入り口に向かっていく。優一郎は目を細めて水輝を見つめた。
「水輝さん。今日は始末書を書かなければならないから、駄目だけど、明日、泊めてもらっていいかな?」
「明日はデートだから却下。じゃあな」
すげなく言ってから水輝がドアを開けて部屋を出て行ってしまう。優一郎は閉まるドアをしばし見つめてから息を吐いた。
水輝は割といちいち拗ねるw
優一郎も水輝のイジケは面倒くさいと思ってるかも知れません。
(作者なのに判らんという)