※この作品はR-18です。

再生の日   作:伊駒辰葉

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エロシーンはありません。
……あ、男の裸は出ます。


医療局医療特殊技術部の三課 2

 食堂で歓声を上げていたのが嘘のように、女性局員たちは緊張した顔でずるずると優一郎を引きずっていく。それに少し遅れて実鈴がついて歩く。

 

「あのーう。いちおー、誰にも言わないでくださいねー」

 

 優一郎を取り囲んだ女性局員たちの後からエレベーターに乗り込み、実鈴が小声で言う。

 

「はい。もちろん」

 

 今ひとつ状況が理解出来なかったが、優一郎は真面目な顔をして頷いた。よかったー、と言った実鈴がほっとしたような顔になる。

 

「……課長。そっちは良くても……」

 

 優一郎を捕まえていた女性局員の一人がぼそりと言う。すると実鈴は泣きそうな顔をして白衣のポケットをごそごそと探った。

 

「せっかくあげたのにー」

 

 拗ねた顔をして実鈴が取り出したのは優一郎にも見覚えのある端末だった。ほどなくエレベーターが到着して扉が開く。乗り込んだ時とは反対に、今度は実鈴が真っ先にエレベーターを降りた。

 

「返すってー、ちょっとショックだなー。厳選中の厳選なのにー」

 

 ぶつぶつと言いながら実鈴が集団の先頭に立って歩いていく。その後を優一郎は女性局員たちに引きずられて進んだ。

 

「それ、もしかして水輝さんのですか?」

「そうなんですよー。写真、返すって言われちゃいましたー」

 

 渋い顔をして振り返ってから、実鈴がまた正面を向いて歩いていく。やがて優一郎は引きずられるままに医療特殊技術部三課の部屋に辿り着いた。そこで漸く女性局員たちから解放される。

 

「写真?」

 

 素知らぬ顔で訊きつつも、優一郎はショックを受けた。きっと実鈴が言っているのは、水輝が手に入れようとしていた優一郎の写真のことだろう。

 

「ええー。この間の件でー、上手くいったら吉良博士の写真をあげますよーって約束したんですよー」

 

 のんびりと喋ってから、実鈴がこっちですと部屋の奥に向かう。優一郎は慌ただしく働いている女性局員たちをちらりと見てから実鈴に従って部屋の奥に進んだ。

 

「どうして僕の写真なんか? っていうか何時撮ったんですか?」

 

 優一郎は笑い混じりに訊ねた。すると実鈴がうーん、と言ってから肩越しに振り返る。

 

「お昼ご飯を食べてるところとかー、こっそり居眠りしてるところとかー」

 

 そう説明しながら実鈴が部屋の奥の扉を指し示す。その傍には一人の女性局員がいた。壁に両手を付いてぜいぜいと息を切らしながら女性が実鈴を見る。

 

「か、課長! もう、無理! 抑えきれません!」

「が、がんば! 伊知花ちゃん! もうちょっと待ってねー!」

 

 こぶしを握って女性を応援してから実鈴がくるりと振り返る。

 

「ところでー、IDカードはお持ちですかー?」

「これで大丈夫だと思うんですけど……」

 

 そう言いながら優一郎は扉の横のスロットにカードを差し込んだ。すると軽い電子音がしてドアが開く。優一郎は迷わずドアの奥に伸びた廊下に進んだ。

 

「ふわあ……。すごいですねー。通れるんだー」

 

 感心したように言ってから実鈴が自分のカードをスロットに差し込んで優一郎の後に続く。

 

「さっきの女性はかなり力を消耗していましたね。いったい何を?」

「抑えないと計器とか、いっぱい暴走しちゃうんですー」

 

 そう言いながら実鈴が廊下の先のドアを指し示す。ドアに辿り着いた優一郎はもう一度、ドアの横にあるスロットにカードを入れた。電子音が聞こえてドアが解錠される。優一郎はドアを開いて広々とした部屋に足を踏み入れた。

 

「それが天の岩戸ですー」

 

 後から入ってきた実鈴が小声で言いながらフロアの中央にある、透明な箱形のものを指し示す。広い部屋の周囲にはたくさんの機械が埋め込まれ、箱の前には光る道があり、その先に大きな階段がある。階段の上には大きな椅子が一つ据えてある。

 

「水輝さん。何をしてらっしゃるんですか?」

 

 真っ直ぐに四角い箱形のものに近付き、優一郎は声を掛けた。フロアの隅で足を止めた実鈴が小声で言う。

 

「あの、聞こえないと思いますー」

 

 優一郎は実鈴を振り返ってから足許に目をやった。籠には水輝の服が乱雑に突っ込まれている。透明な箱の中には何もなく見えるが、水輝は間違いなくこの中にいるのだろう。

 

「仕方ないなあ。ちょっと下がっていてください」

 

 そう言って優一郎は手の中に翠色の宝珠を引き寄せた。はわわ、と慌てた声を上げた実鈴がフロアの隅で身を縮める。優一郎は宝珠を翠の剣に変えた。

 

「はああああああああああっ!」

 

 気合いをこめてから無心に徹し、優一郎は剣を両手に握りしめて玉座に向かって奔った。大きな階段を駆け上った優一郎の剣が空を切る。鋭く空を切った優一郎は頷いて剣を宝珠に戻して器にしまいこんだ。

 

「水輝さん」

 

 くるりと踵を返し、階段を下りながら優一郎は静かに呼びかけた。フロアの隅で身を縮めていた実鈴がこっとうひんがー、と小声でぼやく。優一郎は階段を下りて透明の箱の前で足を止めた。

 

「もう、何も無いでしょう?」

 

 優一郎がそう語ると箱の中に青い光が浮かんだ。光が瞬いて箱の中に水輝の姿が現れる。水輝は閉じていた目を開けて優一郎を見つめ、ため息を吐いてから視線を動かした。

 

「僕には何だったかわかりませんが、過去の亡霊は斬りました」

 

 優一郎が話しかけると水輝が黙って踵を返し、箱から出てくる。箱は水輝を吐き出してから音もなく元の形に戻った。水輝が黙って籠から服を取り上げて身に着け始める。

 

「水輝さん。するべき事を果たしてください」

「仕事の話なら簡潔に、判りやすくまとめて言え」

 

 服を着ながら水輝が淡々と言う。

 

「そうですね。まず仕事の話。彼女たちが困っている現象は何ですか?」

「おれがここに入るとそうなる」

 

 優一郎の問い掛けに水輝が低い声で答え、籠に残っていたジャケットを取り上げる。ジャケットを着込んでから水輝は優一郎に向き直った。

 

「用はそれだけか?」

「先ほどの彼については、また、時が来たら話していただければ」

「話すことは何もない。用がそれだけならおれは行くぞ」

 

 ぶっきらぼうに言ってから水輝が歩き出す。優一郎は水輝の背中に声を掛けた。

 

「それでは、また」

 

 水輝が返事もせずにフロアの隅で固まっていた実鈴を睨み、その場から姿を消す。そこではっと我に返ったのか、実鈴が悲鳴を上げた。

 

「きゃあー! 水輝さんのばかー! 転移なんてしないでくださいよー!」

 

 わあわあと喚きながら実鈴が慌ただしくフロアを駆け出す。取り残された優一郎は段上の玉座を振り返った。

 

「さようなら」

 

 静かに言ってから優一郎は広々としたその部屋を後にした。




予約投稿が7月になる時、6月って30日までだったよな!?
と思ってカレンダーを見返しました。
ハーメルンだと予約は31日まで出来ますw
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