機械なので裸でメンテ的な何かです。
人によっては全然エロくないと思います。
百合警報! 機械警報!
下腹部に頭をもたせかけてすやすやと眠る佑を桂はしばらく見つめていた。時折、もぞもぞと佑が動くたびに腹を髪が擦ってくすぐったい。最初は動揺していた桂も、時間が経つにつれて落ち着いてきた。
桂は足をV字型に開いた格好のままでいた。足は一号がロックしているために動かせないし、下手に動いてまた勝手に佑の身体を触るのも気が引ける。そのために桂は佑が眠ってしまった時のまま、身体を動かしてはいなかった。
「一号……」
何となく屈辱的なものを感じつつも、桂は股間に向かって話しかけた。すると即座に一号が応答する。
『なんですか? 二号?』
抑揚のない声で二号と呼ばれ、桂は内心でむかっとするものを覚えた。だがそれを堪えて桂は小声で訊ねた。
「佑、疲れてたの?」
急に眠ってしまった佑のことを思い出しながら桂は少し眉を寄せた。
『それは、性感さえ得られればすっきり元気になるあなたとは違いますからね』
淡々とした一号の答えを聞いて桂は難しい顔をした。確かに機械化人である桂は一号の言う通り、性的な快感を得るとストレスが解消され、すっきりした気分になる。生身と違うと言われればその通りだが、それでも桂は釈然としないものを感じていた。
『三回も絶頂に達して、ストレスはほとんどゼロです。二号の精神状態は何も問題ありません』
わざわざ回数まで教えてくれなくてもいい。そうは思ったが、桂は大人しく一号の言うことに頷いた。もしかしたら佑は眠っていたのを途中で起こされ、余計に疲れていたのかも知れない。それでなくても壊れた桂を一人で修理していたのだ。疲れも溜まっていただろう。
「あの……バッテリーの残量は大丈夫なの?」
『増加バッテリーはほとんど空ですね。早期にエンジンとエネルギータンクに交換する必要があるでしょう。ただ、佑は一時間以内には起きると予測されますからそれまで待っても問題無いと思われます』
桂の質問に一号がすらすらと答えてみせる。なるほど、と頷いて桂は佑をちらりと見た。佑は時折、顔の向きを変えながらたまに呻きを漏らす。口を半開きにして眠る佑をしばし見つめてから桂は微笑みを浮かべた。
「桂……わたしも、桂が好き……だけど……」
聞き取りにくい声で言って、佑がきりきりきりきりと歯軋りする。桂ははっとして佑を見つめて心の中で、だけどなにー! と叫んだ。やっぱり佑は奥さんと子供がいるから駄目なのだろうか。それとも他に何か理由があるのだろうか。佑の言った、好き、という言葉をすっ飛ばして桂は青い顔をしてつらつらと考えた。
「……愛人でいいよね? 二番目でいいよね?」
聞き取りにくい声でそう言いながら佑がまたきりきりきりきりと歯軋りする。それを聞いた桂はじっと佑を見つめた。
「充分です。佑」
愛人、という響きに桂はうっとりした。愛人。なんていい響きだろう。愛の人なのだ。だがそこまで考えてから桂ははっとした。子供を入れると三番目なのではないだろうか。真面目な桂は子供が先の方がいいような気がする、と考えを巡らせた。
「んっ、あれ? 桂? わたし、寝てた? あれ?」
そう言いながら佑がのそりと身を起こす。奥さんの次はやっぱり子供じゃないと良くない気がする。でないと子供がぐれるかも知れない。三群の余計な知識を持っている桂はつらつらとそう考えてから、ようやく佑が目覚めていることに気が付いた。
「さっきの夢……じゃない? 桂、さっきわたし、あなたに尋ねた?」
涎が垂れそうになっていた口許を手で拭いてから佑が桂の顔を覗き込む。
「あっ、はい! 私、愛人でかまいません。でも、三番目で。二番目はお子さんがいいと思います!」
生真面目な顔をして桂はきっぱりと言った。すると佑が何度か瞬きをしてから首を傾げる。
「それは、どうかなっていうか、理子とエッチなことする気にはどうやってもなれないなあ……」
困ったような顔に少し笑みを浮かべて佑が言う。そこで桂ははっと気が付いた。そう言えば佑の子供はあの理子だった。幼い子供のことを思い浮かべていた桂は慌てて訂正しようとした。が、訂正してしまうのも何だか理子に失礼な気がする。
「というわけで、二番でオッケー?」
悪戯っぽい笑みを浮かべて佑が言う。桂はうっとりしながら頷いた。
「はいっ」
奥さんの次。奥さんの次。奥さんの次。
佑が女であることをまたしてもついついうっかり忘れている桂は、心の中で何度も言ってはうっとりした顔でため息を吐いた。
「それで、桂、一号に聞いたんだけど。エンジンの取り付けだかなんだかやらなきゃ駄目なんだって?」
欠伸をして頭をかきながら佑が言う。桂ははっと我に返って慌てて頷いた。
「ちょっと待ってね。マニュアルに載ってたわよね」
そう言ってから佑はベッドを降り、ショーツがてんこ盛りになったトランクを探って大きめの箱を抱えあげた。
「このロータリーエンジンっていうのと、ガソリン用燃料タンクっていうのでいい?」
箱の表面の文字を読んだ佑が言う。
『はい。佑。以前にお話したとおりこの世界ではガソリンが容易に手に入るとの事でしたのでそれでいいでしょう』
桂の股間から一号の声が流れる。返事をしかけていた桂は頷きながら口を噤んだ。
「じゃあ、お腹の蓋開かないとね」
箱をベッドに運び、佑が桂のへそに指をさし込む。それから佑は左右の指をへその脇に引っかけて腹の蓋を開いた。桂の腹部の蓋はへそのところで左右に分かれて開き、蝶番で脇腹のところで繋がっている。
「こう、桂の身体ってなんかレトロっていうか、アンドロイドよりもカラクリ人形って感じよね……」
開いた蓋の中を覗き込んだ佑がしみじみとした口調で言う。桂は視線を下げて自分の腹の中を見た。今の桂の腹には電力用のバッテリーが入っている。その様をじっと見ているうちに、桂は腹の内部を晒していることが恥ずかしくなってきた。
「左右のこれが追加電源、胸に近いところにあるのが補助電源、これが愛液タンクで、こっちが排泄物タンクね」
そう言いながら佑が桂の腹の中を指差し確認する。桂は恥ずかしさに真っ赤になって視線を彷徨わせた。
「愛液タンク、ほとんど空じゃない? 補充必要?」
そう問われて桂は恥ずかしさに身を竦め、涙の浮かんだ目で佑を見た。
『ついでに補充しておいたほうが良いでしょう。蒸留水を推奨しますが、薄味のドリンク類、お茶なども使用可能です。ゲル化剤と配合されて分泌される仕組みになっています』
桂が恥ずかしがっている間に、股間から一号の声が流れる。それを聞いた桂はますます恥ずかしくなった。ある意味、女性器を覗き込まれるより恥ずかしいかも知れない。
「そういえば、このポリタンク、予備があったわね。紅茶でも淹れようかなあ」
そう言いながら佑が考えるような顔をする。恥ずかしさに叫び出したい気持ちになりながら、桂は涙の浮かんだ目で佑を見つめた。
『水を入れていったん洗浄したほうがいいでしょう。洗面器か何かありませんか?』
恥ずかしがる桂の股間から抑揚のない一号の声が響く。気のせいだろうが、段々と一号が人格を得ている気がする。桂は自分の股間と佑とを慌ただしく見比べた。
「そうね。持ってくる」
頷いた佑がベッドを降りて部屋の入り口に向かう。しばしの後、佑は洗面器に水を張ってベッドに戻ってきた。
「あ、そうか、まずタンクを外して洗わなきゃだめなのね」
そう言って佑が桂の脇に洗面器を置き、腹の中に手を入れてタンクを外す。外されたタンクの表面には桂の手書きで『愛液タンク』と記されている。佑がそのタンクを洗う様を間近に見て、桂は逃げ出したい衝動に駆られた。
「桂ちゃん、自分で外して洗ったりするの面倒だったでしょう? これからはわたしがやってあげるから。これでも主婦なんだから任せて!」
そしてそれを毎回こうして見せるのか! 桂は恥ずかしさの余りに助けてと叫びたい衝動に駆られた。手書きの自分の文字も、マジックの掠れ具合も、とにかく全てが恥ずかしい。
「こんなものかな。まず、こっちのノズルの付いてるほうのキャップを締めて、一度、水捨ててくるわね」
タンクは上下の口が窄まった形をしている。片方のキャップを締めたところで佑がタンクと洗面器を持って洗面室に向かう。戻ってきた佑は水の詰まったタンクと空になった洗面器を持ってきた。
「タンクをセットして……。位置が悪いわね」
桂の腹部にタンクをセットした後、佑が桂の身体をベッドの足許に引っ張る。佑は桂の股間がちょうど、ベッドの端に来るようにしてから頷いた。一体何をする気なのだろう。そう思った桂は股間に洗面器をあてがわれて真っ赤になった。
「一号、あとはこの、愛液タンクの脇にある、洗浄ボタンっていうの押せばいいのね?」
『はい』
一号が返事をした後、佑が桂の腹の中にあるボタンをぽんと指先で押す。ほどなく桂の股間からはちょろちょろと洗浄後の水が流れ始めた。
「よく見たら、細かい穴が幾つも空いてるのね。こまめに洗浄しないと詰まっちゃいそう」
佑が股間を覗き込んで納得したように頷く。いーやー! と叫びたい気持ちになりながら、桂は必死で恥ずかしさを堪えた。
『本来の手順ではこの時に筒掃除を用いて膣も同時に洗浄するようになっています』
遠慮の欠片もない口調で一号が言う。桂は真っ赤になって嫌がるように首を振った。
「筒掃除って、試験管とか掃除するアレね。なんのために持ってきてたのかと思ったらそう言うことだったのね」
洗面器で桂の股間から流れる水を受けながら佑が頷く。からかわれているわけではないし、機体の整備のためには必要なことだし、一号との会話にも何もおかしいところはない。なのに桂はこれ以上はないほどの恥ずかしさを覚えていた。
でも、恥ずかしいのに、こんなに恥ずかしいのに、嫌じゃなくて、なんだかとっても……!
桂は真っ赤になりながら恐る恐る佑を見た。佑が股間を覗き込んでいることを確認すると、余計に恥ずかしくなる。ああ、でも見られたい。いつの間にか桂は口許にうっとりとした笑みを浮かべていた。
「桂、ちょっと、何ぼんやりしてるのよ! とりあえず、次行くわよ!」
「はい」
ああ、しあわせ。うっとりとした顔で佑を見つめて桂は心の中でそう呟いた。
桂は残念。