裸ですけども。
あ、BLぽいのが苦手な方は逃げてください。
ま、あれでもう近付いてこねえだろ。そんなことを思いながら水輝は『塔』を出た。ハイブリッドの連中は意外とあっさり気絶してしまい、思ったより早く家についてしまいそうだ。咥え煙草で歩きながら水輝はぼんやりと周囲を見回した。
街に出て男でも引っかけるかなー。いつものように公共機関を乗り継いで賑やかな場所に出た水輝は、さっさとその考えを捨てた。どうも目立つ。飲食店に入っても、その手の界隈に行っても人の目を惹いて仕方がない。全く目立たないのも考え物だが、ここまで注目を浴びてしまうと逆に遊びにくい。水輝は諦めのため息を吐いて家に向かった。
家に近付くにつれて周囲が静かになる。水輝は鍵を開けて無人の家に入った。玄関を入ったところで明かりを点ける。キッチンに入ったところで水輝ははたと夕食をとっていないことに気が付いた。飲食店では飲み物しか注文しなかったのだ。
「うあー……なんもねえな」
冷蔵庫を覗き込んだ水輝は小声で呟いた。留守の間に水輝が食材を駄目にすることを見越していたのだろう。佑は冷蔵庫をきっちりと掃除していったらしい。水輝は仕方なくボトルに入った水だけを出して冷蔵庫を閉めた。
男たちを相手にして交わっても大して気持ち良くなかった。かと言って、女を引っかける気にもならない。仏頂面をして水輝はさっさとベッドに向かった。習慣でジーンズのポケットに手をやってから、携帯端末がないことに気が付く。水輝は舌打ちをしてベッドにごろんと横になった。
「くそー。腹減ったー」
しかめ面でぼやいて水輝はごろごろとベッドの上を転がった。寝返りを打った拍子にベッドの片方が空っぽのままの様子が見え、急に寂しくなる。
意地張らずに誘っときゃ良かったかなー……。そんなことを考えてから水輝は頭を振ってその考えを追い出した。うつ伏せになってボトルの水を飲みながらぼんやりと考えを巡らせる。
微かに残っていた影が消えてしまったのがはっきりと見えた。もう、ものを言うこともなく、静かにそこに座っているだけの陽炎のような存在が、あの一太刀であっさりと消えてしまった。ぼんやりとそのことを思い出して水輝はため息を吐いた。
ずっと昔にあそこに一人の男が座っていた。男は水輝を生み出した存在だった。形のなかった水輝に話しかけ、世話を焼いていたのもその男だった。今ではもう、あの医療特殊技術部三課の奥の部屋全体が骨董品と化しているほど、古い話だ。あの部屋にある端末はもうどれも動かない。水輝の生まれたあの箱と、光る道が残されているだけだ。
そして玉座には男の影が微かに残っていた。水輝はじっと正面を見つめて考えを巡らせた。あの時、優一郎が壊してくれて良かったのかも知れない。心のどこかではそう思うのだが、やりきれなさもある。
「くそ」
水輝は呟いて身体を起こした。さっきみた優一郎の寂しそうな目がどうしても脳裏から離れない。水輝はベッドを降りてシャワーを浴びにバスルームに向かった。手早くシャワーで身体を流し、水滴を拭き取ってから寝室に戻る。裸のままでベッドに腰掛けたところで水輝はよし、と頷いて膝を叩いた。
バスルームに戻り、脱ぎ散らかしていたジーンズのポケットを探る。通信機を引っ張り出した水輝はそれを耳に引っかけて咳払いした。相手が出るのを待ってから、水輝は低い声で言った。
「ごめん。やっぱ寂しいから来て」
寝室に戻りながら水輝は腕組みをしてしかめ面をした。通信機の向こうで優一郎が息を飲む気配がする。
『いきますっ! すぐに』
「あ、食い物持ってきて……。飢えて死ぬ」
笑いを浮かべて水輝はそう言った。よほど驚いたのか、通信機の向こうでがたがたと何やら物音がする。
『はいっ。途中で買っていきますっ』
どうやら優一郎は走っているらしい。喋る声が弾んでいる。水輝はくすくすと笑いながらベッドに腰掛けた。
「そいえばさっきの理子のあれな。嘘じゃないけど、間違ってるんだ」
そう言い置いてから水輝は理子の言ったことを思い出して続けた。
「理子は寛大だから! パパによろしく言っておいてね! 女と浮気したらコロス! ……だってさ」
水輝が言うと優一郎が通信機の向こうで笑う。水輝はつられて笑いながら窓の外から暗い空を見上げた。
どうやらもの凄い勢いで来たらしい。しばしの後に、全身で息をしながら優一郎が訪ねてきた。水輝は喉の奥で笑いながら優一郎を迎え入れた。
「やっぱ、生きてる奴のがつええだろ」
息を切らしている優一郎を見つめ、水輝は笑った。
「はい。お待たせしました。一緒に食べましょう」
頷いて優一郎がキッチンに向かう。水輝はその後を追いながら何となく自分の身体を見下ろした。
「なー。よく考えたら、おれ裸なんだけど。見たらむらむらするか?」
そう言って水輝は差し出された買い物袋を受け取った。袋の中にはレトルトの弁当と何故かパック入りの納豆が入っている。不思議に思いながら水輝はそれらをテーブルに並べた。
「うーん。見てむらむらするってことはありませんね」
優一郎がまじまじと水輝を見てから言う。そっか、と笑って水輝はテーブルに置いた納豆を指差した。
「で、何で納豆? わざわざ取り寄せたのか?」
「納豆は身体にいいんです」
やけに力強く言って優一郎が頷く。また理子の入れ知恵だろ、と苦笑して水輝はテーブルについた。向かい合わせに優一郎が座ったところで、二人で手を合わせていただきますと挨拶する。よく考えたらこの習慣もこの世界にはなかったはずだ。
「それでは、まず腹ごしらえといきましょう」
すっかり呼吸も落ち着いたらしい。優一郎がにっこりと笑って言う。水輝は苦笑して弁当の蓋を取った。中から苦手なしいたけを取り上げて優一郎の弁当の中にこっそりと置く。優一郎が困ったように笑うのを見て、水輝は箸でさっきのしいたけを示した。
「苦手なんだよ、しいたけ。もしかして優一郎も駄目か?」
「いただきましょう」
苦笑を浮かべて優一郎が頷く。よし、と頷き返して水輝は弁当を食べ始めた。納豆のパックを開けて付属のだしをいれてかき混ぜる。
「なんか懐かしいなあ、納豆。そういえばこっちに来てから食ってねえかも」
「最近販売が始まったようですよ」
「この調子で三群の飯が入ってくれるといいんだがなー……どうも店とかで食えるものがなくて」
そんな会話をしつつ、二人は食事を終えた。ご馳走様、と手を合わせて挨拶してから弁当がらをごみばこに放り込む。
ハラヘリに勝てない水輝w
ていうか、やっとすれ違いがおさまったというか?