※この作品はR-18です。

再生の日   作:伊駒辰葉

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エロシーンはありません。


カレーライスと医療特殊技術部三課女子

 昼時間になって優一郎はいつものように食堂に向かった。カウンターでメニューを見ていた優一郎の肩を誰かが後ろからぽん、と叩く。振り返った優一郎はそこに水輝の姿を見止めて思わず顔をほころばせた。

 

「よっ。今日は何が美味そうだ?」

 

 笑顔で優一郎に言ってから水輝がカウンターに身を乗り出す。

 

「カレーですね」

「えっ!? マジでカレーあるのか!? よし、それ!」

 

 嬉しそうに笑って水輝が早速、カレーを注文する。食事が来るのを待っている間に、水輝がちらりと食堂を見回す。

 

「さすがにここで一緒に食うと目立つな……」

「そうですか?」

 

 不思議に思いながら何気なく周辺を見回した優一郎は、近くのテーブルについていた女性局員たちが目を輝かせているのを見つけ、頬をひくりと引きつらせた。な? と言いながら水輝が騒ぐ彼女たちを指差す。

 

「まあ、騒ぎのど真ん中にいた方が気が楽かもな」

 

 出された食事をトレイに載せて、水輝が騒ぐ女性たちの方に向かって歩き出す。食事の載ったトレイを手に、優一郎は水輝の後をついて歩いた。

 

「そういえば、新種の研究は、結局どうなったんですか?」

「んー、いま実験中。けっこう、パターン多いから大変……って、こら! カメラを向けるな! 立て続けにとるな! モデル代要求すんぞ、こら!」

 

 流れるような口調で騒ぐ女性たちを叱りつけ、水輝がテーブルの端に腰を落ち着ける。すると実鈴を始めとする女性たちが立ち上がり、優一郎の背を押して強引に水輝の横に座らせる。

 

「ああ、シアワセ……」

「この日のために生きてきたー! ボーイズ最高!」

「もうちょっとくっついてくださーい!」

 

 テーブルについた医療特殊技術部三課の面々がそれぞれ騒ぐ中、水輝が仏頂面をしてスプーンを取り上げる。

 

「こいつらに構うな。脳が腐れてるんだから」

「彼女達が一番わからない……」

 

 きゃあきゃあと騒ぐ女性たちを見回して、優一郎は難しい顔で呟いた。そうしている間にも女性の一人がテーブルに身を乗り出し、指を立てて言う。

 

「ところでどっちが受けですか!?」

「やかましい!」

 

 一喝した水輝が質問した女性の額をぺしんと指で叩く。いたあい、と悲鳴を上げた女性が渋々と席に戻る。

 

「まだ、うちの子たちのほうがわかりますね」

 

 祥子さんは置いておいて。心の中でそう呟いて優一郎は頷いた。テーブルについた医療特殊技術部三課の女性たちがひそひそと話をし始める。

 

「水輝さんが受け! ぜったい!」

「いやいや、やっぱりここはセオリー通りに吉良博士が……」

「でもー、一見受けに見える方がー、実は攻めっていうー、黄金パターンがー」

 

 実鈴まで一緒になって妙な会話をしている。無視だ、無視。と仏頂面で言って水輝がふと優一郎を見る。

 

「そう言えば例の女、そろそろ出来るのか? こないだこいつらに手術させた……」

「はい。組み立てのほうはもう完了してしまいました。起動試験からは発注者立ち会いの元で行うことになっています」

 

 優一郎は頷きながら返事をした。すると水輝が声を上げる。

 

「あ。あのおっさんにはよろしく言っといてくれ。助けて貰ったんだ」

 

 ぼそぼそと小声で言いながら水輝がカレーをさっさと食べ終える。次は何にしようかな、とカウンターを振り返り、立ち上がろうとした水輝を慌てたように同席していた女性たちが止める。

 

「動かないで! そこに! そこにいてくださいよー! ご飯なら代わりに買ってきますから!」

「そうです! 動いちゃ駄目です!」

 

 口々に女性たちが水輝を制す。水輝は深々とため息を吐いてから傍にいた実鈴にチップを放った。

 

「カレー。買ってこい」

「あいあいさー!」

 

 びしりと敬礼の真似をして実鈴がスキップしながらカウンターに近付いていく。それを見送ってから、水輝が何の話だっけと情けない顔をして優一郎を見る。

 

「休暇を取ってらっしゃったんですが、例の件の後処理で呼び戻されてらっしゃいますからね。納品のスケジュールも連絡待ちの状況です」

「そっかー……。あの人にも悪いことしちまったなあ……」

 

 珍しく気弱な顔をして水輝が言う。そうしている間にスキップで戻ってきた実鈴が水輝の前にカレーをどんと据える。

 

「大盛りでーす!」

「お、さんきゅ。って、チップ返せ!」

 

 そのまま席に着こうとした実鈴に水輝が喚く。すると実鈴がちっ、とあからさまな舌打ちをして水輝にチップを戻す。

 

「本当のところを言うと、美鈴さんって水輝さんの事好きなんじゃないですか?」

 

 優一郎は実鈴を見つめてそう訊ねた。その瞬間、がたがたと音を立てて女性たちが立ち上がり、一斉に優一郎を指差す。

 

「恋人を売る気ですかー!」

 

 申し合わせたように声を揃えて言った彼女たちを優一郎は唖然として見回した。実鈴がちっちっち、と舌打ちをしながら唇の前で指を振る。どことなく幼さの残った実鈴がそんな仕草をすると、何だか奇妙な感じがする。

 

「それはヤキモチですねー!?」

「ぐっ」

 

 それまで知らん顔をして食事をしていた水輝が呻いて慌てたように茶の入ったコップを取る。

 

「いえ。結局のところ、僕を大義名分に使ってるような気がしますね。ある意味」

 

 優一郎は実鈴を見つめてそう告げた。きー! とヒステリックな声を上げた実鈴が頭をかきむしる。慌ただしく茶を飲んだ水輝が苦しげに息を吐いてから横目に優一郎を見る。

 

「優一郎。そいつは筋金入りのレズだ」

「そーです! やめてくださいよ、もうー! 変な菌に冒されたらどうするんですかー!」

 

 水輝がぼそりと言った直後、実鈴が素っ頓狂な声で喚く。食堂にいる大勢の人々は、彼女たちが騒ぐことに慣れきっているのか、逆にこちらを見ようともしない。

 

「水輝さんはノーマルでストレートですからね」

「ぶほ!」

 

 笑いながら優一郎が言うと、水輝がカレーを突っ込んだ口を手で慌てて押さえる。立ち上がっていた女性たちが一斉に悲鳴を上げる。

 

「駄目ですそれはいけません! 水輝さん、さあ、心を入れ替えて!」

「そーです! 駄目ですよ、いまさらきれいごとを言っては!」

「そんなことないですよー、ぼーいず光線がビシバシでてますもんー」

 

 口々に言ってから女性たちは頷き合って席に戻った。苦しそうに咳き込んでから水輝が恨みがましい目で優一郎を睨む。ムキになるところがアヤシイなあ。と優一郎はぼそりと呟いた。すると水輝が何か言いたそうに口を開閉し、だが結局無言を通してそっぽを向いた。

 

「楽しそうだな」

 

 唐突に低い男の声が聞こえる。テーブルについていた彼らは一斉に声のした方を見た。優一郎もつられてそちらを見やる。水輝の傍にいつの間にか数人の男が立っていた。水輝が彼らをちらりと見てから肩を竦める。

 

「ほえ? お知り合いですかー? ……って、光線が出てない……」

 

 実鈴が彼らを見てから不服そうに言う。

 

「人が飯食ってる時に邪魔すんなよ」

 

 憮然とした顔で言いはなった水輝を男たちがしばし見つめ、その次に隣に座る優一郎に目を移す。しばし優一郎を見てから彼らはひそひそと話をし、何故かしょんぼりと肩を落として去っていった。

 

「お知り合いですか?」

「こないだおれを輪姦してた、ハイブリッドの連中」

 

 事もなげに水輝が優一郎の質問に即答する。その途端にテーブルについていた女性たちが何故か不満の声を上げた。

 

「えー!? 駄目ですよ、あんなのー!」

「そうそう。物事には釣り合いとか、バランスとかいうのがあってですね!」

「男なら何でもいいって訳じゃないんですー。そのあたり、水輝さんってー、修行が足りませんよねー」

 

 口々に言って女性たちが納得したようにうんうんと頷く。

 

「なるほどね。釣り合いとかを意識してるのか」

 

 ふむふむ。食事をしつつ、優一郎はそう言って実鈴を見た。すると実鈴が困ったような顔をする。

 

「なんですかー。その一人納得しちゃったぞー、な顔はー」

 

 唇を尖らせて実鈴が拗ねたように言う。そこで水輝が、あ、と声を上げた。

 

「輪姦は違った。合意だから乱交だ」

「余計いけませんー! だめです! 何で合意なんですかー!!」

 

 素っ頓狂な声で実鈴が叫ぶ。するとそれにつられたように周囲の女性たちもわあわあと騒ぎ立てた。優一郎は食事を片付けてから席を立った。

 

「それでは水輝さん、お先に失礼します」

 

 納品の手配だけは進めておかないと。そう言った優一郎に水輝がおう、と頷く。優一郎はそれから実鈴を見やった。

 

「実鈴さんも、また」

「えー? あー、はーい。またー」

 

 にっこりと笑った優一郎に実鈴が首を傾げて返事する。優一郎は賑やかに騒ぐ彼らに背を向け、研究室に戻った。席に着いた優一郎は端末画面を覗いて瞬きをした。届いていた電信を開く。

 

 韮山さんからだ。差出人の名前を見た優一郎は自然と顔を引き締めた。

 

『例の物は今日の夕に宿舎のほうへ納品してほしい。納品には研究員のうち多村澄さんをぜひ同行させてほしい。吉良博士もお忙しくなければご一緒に。』

 

 韮山から送られていた電信にはそう記されていた。そこに記された研究員の名前を見て優一郎は首を傾げた。多村さんは熱心に開発の中心を自ら買って出てくれた人だけど、なんで知ってるんだろう。そう思いながら優一郎はちらりと澄の方を見た。食事を終えた澄は机について本を読んでいる。澄は研究室の中では余り目立たない存在だが、任せた仕事は確実にこなしてくれる女性だ。

 

「多村さん。韮山さんへ、例の品の納品の日時決まったから。納品の立ち会いお願いしていいかな? 僕も同行するけど、向うは素人だから当面フォローが必要だと思うし」

 

 そう声を掛けると澄が机に本を置いて立ち上がった。控え目な笑みを浮かべて澄が判りましたと頷く。

 

「それじゃあ、準備頼んだよ」

 

 笑顔で澄に頼んでから優一郎は端末画面に目を戻した。韮山に電信を返送してから息を吐く。澄は早速、納品準備に入ったようだ。慌ただしく端末を操作してから研究室を出て行く。

 

 さてと、僕も納品までに仕事を終わらせないとね。心の中で呟いて優一郎は午後の業務に取りかかった。




一応、お断りを入れておきます。
この話に出てくる腐女子ぽい方々は、想像上のものです。
不快に思った方がいらしたらすみません。

これを書いてる時、多分カレーが食べたかったんだろうな……w
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