※この作品はR-18です。

再生の日   作:伊駒辰葉

64 / 157
エロシーンがあります。
近親警報です!


不思議な生き物になりたい 1

「えー? そうなんですかー? 多村さんならよーく知ってますよー」

 

 あの時に間延びした独特の口調で言った白草実鈴という名の医療局員のことを思い出す。あれはもしかしたら幼い頃に思い描いていた、理想の形に近かったのかも知れない。そんなことを考えながら澄は午後の業務を淡々と片付けていった。

 

 不思議なものになりたいと思った。

 

 家は貧乏だったし、同い年の子なんか近所には居なくて、幼い頃に同級生と遊んだ記憶はない。父親も母親も朝から晩まで働かないと、家族が暮らしていけないくらい貧しかった。

 

 天人と呼ばれるこの世界の住人は、幼少の頃から当たり前に性的興奮を覚えるようになり、生殖器が機能し始める。なのに皮肉なことに天人の多くは子供を作ることが出来ない体質をしている。一部の選ばれた人々が子供を作ってはそれを金に換える一方で、澄の家のような貧しい家庭もあった。両親は共にディザブラで、そして子供を欲しいと願った彼らに澄も養子として引き取られた。そのために家族とは言っても家に暮らす人はみんな血が繋がっていなかった。だが、そんな家族はこの世界では珍しくない。両親は忙しく働いてはいたが、二人の子供を愛してくれていたし、澄もそんな両親が大好きだった。

 

 両親の他には家族が一人。澄には三つ年の離れた兄がいた。兄の久弥も澄と同じように両親が養子として引き取った子供だった。二人がほんの小さかった頃は世話をしてくれる親戚の人が家を訪ねてきてくれていたが、やがて地元のスクールに通うようになる頃には誰もこなくなった。

 

 両親のいない家で澄は久弥に悪戯されるようになった。最初はキスされた。それがどういう意味を持つのか澄には判らなかったが、唇が触れた瞬間に身体が熱くなった。昂奮して荒い息を吐きながら久弥が乱暴な口づけをしたことを今でもよく覚えている。

 

 一度、口づけをした後は、坂道を転がるように久弥の欲望は膨らんだらしい。二人がディザブラだったことも、恐らく久弥の欲望を増長する原因だったのだろう。養子を引き取るにも莫大な金がかかるこの世界では、ディザブラの子供は安値で取引されているのが現状なのだ。

 

 だいじょうぶ。こどもはできないから。血が繋がっていなくても、兄妹で性的な意味で触れ合うことへの背徳感があったからだろう。欲に狂った目をして、久弥はまるで自分に言い聞かせるようにいつもそう言っていた。

 

 最初は口づけだけで気が済んでいたらしい久弥は、やがてつたない手つきで澄の身体を弄り始めた。回を重ねるごとに久弥は慣れてきて、やがては愛撫で澄を絶頂に追い立てた。

 

 あたまがまっしろになる。初めて絶頂に達した時のことを今でもはっきりと覚えている。その後、澄は口にペニスを突っ込まれた。久弥は澄の頭をつかんで一方的に腰を揺すり、口内に射精した。

 

 のめよ! ぜんぶ、のめよ! いつもの大人しい様子からは想像できない荒々しさで、久弥は澄の髪を引っ張って怒鳴った。お人形のようですね、と近所に人に誉められた長い艶やかな澄の髪をつかみ、久弥が吠える。精液を零してしまって叱られた澄は訳が判らないままに必死で謝った。

 

 それから初めてセックスをした。焦れきっていた女性器にペニスが挿入され、澄は痛みも忘れて快楽に喘いだ。獣のように唸りながら久弥は乱暴に澄を犯したが、澄はそれをとても気持ちいいと思った。

 

 毎日、毎日、両親がいない家で二人は交わった。澄は久弥に言われるままに色んなことをした。足を開いていやらしい格好をするのは当たり前になった。膣だけではなく、肛門にもペニスを咥え込めるようにされた。お風呂場で放尿させられたり、行為の最中にわざとつねられたりすることもあった。

 

 気持ちよかった。久弥に言われる通りにすることが堪らなくて、そうするのが当たり前だと思った。このまま二人とも老いず、不思議な生き物になれたらいいのにとずっと思っていた。

 

 だが時は止まらず、二人は日に日に成長する。やがて十代過ぎた頃、久弥は澄に言った。

 

 俺のことは今度からご主人様って呼べ。

 

 澄はそれを聞いてとても喜んだ。久弥に玩具にされるのがとても心地よかったし、その久弥を主人と呼ぶのは当然のように思えた。久弥に命令されたことは何でも出来るような気がした。どんな恥ずかしい格好も出来たし、人前でいやらしいことをされても気持ちよかった。成長に伴って久弥はどんどん体力を増し、本当の玩具のように澄を振り回してセックスすることも多かった。身体を縛られたり、敏感なところに玩具をつけられたりすることもよくあった。

 

 それでも澄は幸せだった。久弥に苛められると堪らない気分になり、ペットと罵られることすら心地よかった。このまま、永遠に関係が続けられることを本気で願っていた。誰にも邪魔をされずに居られたら。

 

 どうして自分たちには寿命があるのだろう。一人になると澄は寂しさからそんなことをよく考えた。学校ではハイブリッドという種があることを習った。彼らは人よりずっと丈夫で長生きで、そして特殊な殖え方をすると習った。が、強いイメージのある彼らは澄の理想ではなかった。

 

 久弥に苛められる一方で、澄は真面目に勉強に打ち込んだ。もしかしたら、自分の知らないところに理想の形をしたものがあるかも知れないと思ったからだ。それに両親には出来るだけ苦労を掛けたくなかった。勉強が出来れば国から資金援助を受けて進学することが出来る。そのために澄は学生の立場と、久弥のペットという立場を両立させようと毎日努力した。

 

 あの日、両親に気付かれるまでは。

 

 いつものように身体をロープで縛られ、乱暴に犯されている澄の目の前に母親が姿を現した。母親は交わる二人を愕然とした目で見つめ、そして二人も母親を呆然と見た。

 

 その日は久弥の誕生日だった。母親はこれまで何も祝ってやれなかったから、と久弥のためにごちそうを作ろうとして、その日に限って早く帰宅してきたのだ。

 

 十八歳の誕生日を境に久弥は家からいなくなってしまった。両親と久弥が話し合った結果、久弥は遠く離れた学校に転校することになったのだ。両親はこれ以上、澄を傷つけまいと思ったのだろう。そして久弥のことも彼らは気遣い、二人を引き離すことにしたのだ。

 

 澄は愕然とした。挨拶もなにもなく、唐突に久弥が家からいなくなってしまったのだ。澄は必死で両親に久弥の行き先を訊ねた。だが二人は頑として久弥の居所を教えてくれようとはしなかった。

 

 お前のためなんだよ、と二人は口を揃えて何度も言った。そのたびに澄は怒りを覚えた。なんで彼らは一方的にそれが幸せと決めつけるのだろう。自分は久弥にペットとして扱われることに、最上の幸福感を覚えていたというのに。

 

 だが本来大人しく、控え目な性格だった澄は両親に強く言うことが出来なかった。それから二年の月日が流れ、澄は久弥の噂を学校で耳にした。何でも久弥があの『塔』に入ったというのだ。

 

 澄は死にものぐるいで勉強した。久弥がどういった経緯で『塔』に入ったのかは判らないが、あそこに行けば会えると思った。もう一度また、あの頃と同じように苛めて貰えるに違いない。甘い日々を夢見て澄はそれから三年後、『塔』へ就職することが出来た。

 

 所属を調べて訪ねた澄は、久弥に会って愕然とした。そこにあの頃の久弥の姿はなかった。いたのは澄の知らない顔をする、一人の男性研究員だった。他人行儀な挨拶をして、よそ行きの笑みを浮かべる久弥を見たくなかった。

 

 久弥はとある女性と結婚していた。『塔』内で実力を認められた久弥は上司の薦めに従って見合いをしたのだそうだ。その話を澄は久弥と同じ部署に所属する同期の知り合いから聞いた。

 

 あの人は奥さんをあんな風にしているのだろうか。言葉で嬲り、身体を縛り、ご主人様と呼ばせているのだろうか。そう考えると毎日が憂鬱で耐えきれなかった。だが少しでも久弥に近いところにいたくて、澄は『塔』で働き続けた。

 

 元々能力のあった澄はある日、上司に呼ばれてとあるプロジェクトに参加してみないか、と持ちかけられた。プロジェクトの内容を聞いた澄は二つ返事で参加を決めた。

 

 そしてここにいる。ふと、作業の手を止めて澄は何となく部屋の奥に座る研究室長の優一郎を見た。視線に気付いたのか、優一郎が画面から目を上げて澄を見つめ、にこりと微笑む。澄は慌てて会釈をして作業を再開した。

 

 不思議な生き物になりたかった。時間と関係なく、ずっと主人に仕えていられるような、そんなモノになりたかった。だからあの時、佐山愛華という女性の機械化人化の脳摘出手術見学の希望者を募られた時、すぐに名乗りを上げたのだ。




澄は思考自体がふわふわというかあてどないというか……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。