※この作品はR-18です。

再生の日   作:伊駒辰葉

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エロシーンではないのですが、説明がちょいちょい入ります。
機械なので苦手な方は避けて下さい。


不思議な生き物になりたい 2

 目的の手術室に辿り着いた澄を、白草実鈴という女性がまじまじと見る。それから実鈴はぽんと手を打って澄の兄、久弥のことはよく知っていると頷いた。そこで澄は不思議なものを感じたのだ。

 

 実鈴が医療特殊技術部三課の課長を務めていると聞いた時、澄は心の底から驚いた。実鈴は十代後半くらいの年齢に見えた。なのにそんな実鈴が医療特殊技術部三課の課長を務めているのだという。実鈴は二つに分けて結わえたお下げも可愛らしく、幼い顔立ちに明るい笑みのよく似合う人だった。

 

 実鈴には言いようのない違和感がある。たぶん、自分はこういうものになりたかったのだと思った。そして同時に愛華のような、人に支配され続けて生きるものに興味を惹かれた。彼女たちはきっと自分とは違い、主人に恵まれ、これから愛されて生きるのだろう。

 

 愛華の脳改造手術も澄は自分から執刀したいと申し出た。機械の身体に設える女性器を作ったりもした。そのうちに澄は愛華の改造作業をする研究員たちの中心的存在となった。

 

 ふう、と息を吐いて澄は端末画面の時計を見た。どうやら時間前に作業を終えることが出来たようだ。澄は端末の電源を落として立ち上がり、優一郎の席に近付いた。

 

「あの……吉良博士。終わりました」

 

 少し俯き、澄は小声で業務終了の報告をした。優一郎が手を止めて画面から目を上げる。

 

「お疲れさま。納品物の梱包のほうは終わっているかい?」

「はっ、はい、もちろん終わっています」

 

 最初、優一郎のことを見たとき、澄はとても眩しく感じた。ハイブリッドである優一郎は穏やかな風貌には似合わず、とても強い存在に思えた。プロジェクトの提唱者である優一郎のことを澄は尊敬もしているし、信頼もしている。が、理想の形とは思えなかった。

 

 澄は実験台に寄り、梱包された箱を示してみせた。一つずつ抱え上げて箱をキャスター付きの荷台に乗せる。

 

「トランスポータに載せて韮山さんの宿舎に向かうつもりだ」

「はい。では、一階まで運びます」

 

 優一郎に会釈をしてから澄は荷台を押して研究室を出た。段差に注意しながらエレベーターに乗り込む。トランスポータの乗り場は情報局から少し離れている。澄は優一郎がエレベーターに乗るのを待って、階層のボタンを押した。

 

 エレベーターが降りる中、澄はじっと黙っていた。分厚い資料の束を両手に抱えた優一郎も黙している。やがてエレベーターが一階に着いたところで、澄はゆっくりと荷台を押した。

 

 ゲートを通過して乗り場に向かう。通常業務時間内の構内は静かだ。澄は横を歩く優一郎を時折、ちらりと伺った。

 

「多村さんは今回のようなタイプの機械化人をどう思う?」

「はっ、はいっ」

 

 話しかけられると思わなかった澄は慌てて返事をした。隣を歩く優一郎が慌てて返事した澄を不思議そうに見る。

 

「あの……その……」

 

 澄は俯いて言葉を濁した。そんな澄の返事を優一郎は急かすでもなく待っているようだ。澄は困惑しつつ、小声で答えた。

 

「いいと……思います……」

「祥子さんは、自分も欲しいって言ってたからね」

 

 ってこれは内緒ね。そう続けて優一郎が少し笑う。澄はちらちらと優一郎を伺いながら頷いた。

 

 乗り場で手続きをし、澄は停まっていたトランスポータに荷物を積み込んだ。このトランスポータと呼ばれる乗り物は、二人から四人が定員で、後ろに荷物の積めるスペースがある。楕円形の形をしたこれは行き先を入力すると自動走行するのだ。箱を積み込み、荷台を折り畳んで載せてから、澄は慌ただしくトランスポータのドアを開いた。

 

「ど、どうぞ」

「そこまでしなくても、君は僕の使用人じゃないんだから」

 

 苦笑しつつ優一郎が乗り込む。澄は慌てて頭を下げた。

 

「も、申し訳ありません! あの、ええと」

 

 澄は青い顔をしてうろたえた。ドアを閉めようとしていた優一郎が不思議そうに澄を見る。何でもありません、と口早に言ってから、澄は反対側のドアからトランスポータに乗り込んだ。

 

「多村さんは、これからも、機械化人の……ネクスジェンMタイプのプロジェクトに関わっていくことを志望してると考えていいかい?」

 

 行き先を端末に入力しながら優一郎が言う。澄は慌てて頷いた。

 

「は、はい、お願いします……」

「Mタイプに対しては各方面の反応が予想以上に良くてね。驚いてる」

 

 入力を終えたトランスポータがゆっくりと動き始める。シートにもたれた優一郎を伺いながら澄は膝の上で手を握りしめた。

 

「あの……そ、そうですね……」

 

 俯きながら澄は答えた。きっとこれから作り出される彼女たちは、主人に愛されるに違いない。

 

 自分はどうなのだろう。出来るだけ考えないようにしていたことを、ふと思い出してしまい澄は陰鬱な面持ちになった。

 

「僕は元の世界に居た頃に、もう何百体も製作してるからね。飽きたって言ったらこれまでに製作した彼女達に悪いか……」

 

 優一郎がそう言うのを聞いて、澄は慌てて顔を上げた。

 

「あの! そのお話、聞かせてください! 私、前に吉良博士の論文、拝見しました! あの、その……」

 

 急に言った澄に驚いたのか、優一郎が目を丸くする。すみません、と澄は小声で詫びて、乗り出していた身を元の場所に戻した。

 

「もしかしたら不快になるかもしれないけど、それでも聞く?」

 

 俯いた澄を気遣うように見つめて優一郎が言う。澄はぱっと顔を上げて力強く頷いた。

 

「はっ、はい! お願いします!」

「僕はね、前に居た世界では少しでも気に入った女性が居たら、片っ端からスカウトして、場合によっては半ば無理矢理にでも、改造して自分の物にしていってたんだ」

 

 少し遠い目をして優一郎が話を始める。澄は熱心に頷きながら話に耳を傾けた。

 

 優一郎の製作していた機械仕掛けの身体を持つ女性はヒューマノイドという名が付けられていたのだそうだ。彼女たちは一様に、マスターと呼ばれる存在を登録し、マスターの命令がなければ動けなかったらしい。彼女たちにとってはマスターはなくてはならない存在で、何事においても最優先にされなければならない存在だった。

 

「快楽のシステム、については解るよね? って研究者である君に言うのは失礼か」

 

 そう言って優一郎が少し笑う。澄は無言で首を振った。優一郎はそんな澄をちらりと見てから言葉を継いだ。

 

 もしかしたら性感のインプットが無いと存在を続けられないことに、あがき苦しむ彼女たちを見て悦びを感じていたのかも知れない。優一郎は当時の自分の心境をそんな風に語った。

 

 おなじ……。澄は優一郎の話を聞きながら胸が高鳴るのを感じた。あの頃の自分と優一郎の言う、彼女たちは存在のあり方が似ていたのではないだろうか。飽きることなく性的行為を繰り返し、主人である久弥に踏みつけにされることに快感を覚え、そして澄はそんな自分にジレンマを感じてもいた。

 

「生身でもそういう性癖を持つ女性も居るけど、彼女達は機械的にそれを強要されてたからね。誰かしら廊下で自慰が止まらなくなって壊れるまで放置されてたり、今から考えれば無茶だよね」

 

 笑い混じりに優一郎が言う。澄は不思議に思って首を傾げた。

 

「そうでしょうか……」

 

 ついつい話に夢中になった澄は、いつもなら絶対に口を挟むことなどないのに、思わず感想を口走ってしまった。

 

「食事のように、性的快感を必要としますとか、説明してたからね。だんだんエスカレートして、常時オナニーしてなければまともに思考できないような機体も造ったりしたし」

 

 不思議そうに澄を見てから優一郎は正面に目を戻した。はっと我に返った澄は慌てて口を手で押さえ、俯いてこくんと頷いた。

 

 それから優一郎はヒューマノイドの説明を続けた。澄はその話に熱心に聴き入った。きっと彼女たちは幸せに違いない。ヒューマノイドになった時点で彼女たちは老いなくなる。機械のために故障することはあるが、部品などがあれば身体は直せるのだ。

 

 永遠がそこにあるような気がする。澄はぼんやりと外の景色を見つめて顔を曇らせた。

 

「まあ、昔の話だね。今は憑き物が落ちたみたいにそういう欲望は無くなってしまったから」

「可哀想……」

 

 澄はぽつりと呟いた。話をくくろうとしていたのだろう。口を噤んでいた優一郎が驚いたように澄を見る。

 

「そうだね。彼女たちを切り捨てて、僕は理子と……」

 

 そこで優一郎が言葉を切る。澄はのろのろと優一郎を見やった。

 

「この世界に来ることを選んだ」

「いえ、可哀想ですけど……その……気持ちいい……と、思います……」

 

 澄は小声で切れ切れにそう言った。自然と俯いてスカートを握りしめる。

 

「多村さん?」

 

 怪訝そうな顔をして優一郎が言う。だが澄は俯いて考えを巡らせた。優一郎に捨てられた彼女たちはきっと、長い間、いやもしかしたら永遠に苦しむだろう。マスターがいなくなってしまったことを、そして捨てられたということに辛い思いをするのだろう。が、それは永遠に苛められているのと同じだ。

 

 トランスポータが静かに停まる。澄は顔を上げて弱々しい笑みを浮かべてトランスポータを降りた。




澄が天然というよりアレなんですよね……。
この時の優一郎にはイミフだと思いますw
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