※この作品はR-18です。

再生の日   作:伊駒辰葉

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エロシーンはありません。


澄の願いと優一郎 1

 『塔』を離れていても、優一郎は習性からいつもの時間に理子に通信を入れた。今日の理子はどうやら風呂に入っていたらしい。

 

 明日はね! 近所をお散歩しながら奥さん連中をからかうのだ! くひひひひひ。

 

 意地悪そうに笑う理子の声は、バスルームの中でエコーがかかり、いつもより余計に意地悪そうに聞こえた。優一郎はふう、と息を吐いて目の前に立ちはだかる韮山の宿舎を見た。

 

 住宅地を遠く離れ、ひっそりとした山の中に韮山の宿舎はある。大きな一軒家の入り口まで荷台を押した澄が物言いたげに振り返る。優一郎は通信機をポケットにしまいこんで宿舎の入り口に向かった。

 

 入り口のチャイムを鳴らすと扉はすぐに開いた。仏頂面とも思える不機嫌極まりない顔をした一人の青年が出迎えに現れる。優一郎は開いたドアの向こうに立っていたその青年を見て一瞬、凍り付いた。

 

 何でメイドの服を着ているのだろう。青年は頭に白いヘッドドレスを着け、首にチョーカーを巻き、黒いワンピースに白いエプロンを着けていた。背丈は優一郎と変わらないくらいある。細身のためか、服が窮屈そうには見えないが、まるで似合っていない。

 

「いらっしゃいませ」

 

 入り口に立ち尽くした二人に向かって青年が頭を下げる。

 

「あ、あの。あなたは?」

 

 はっと我に返って優一郎は慌てて訊ねた。この青年は韮山ではない。青年は優一郎の質問を受けてから、おもむろに頭を上げてじろりと優一郎を睨むように見た。

 

「里中蘭と申します。そちらは吉良優一郎博士と多村澄さんですね。ご案内いたしますのでどうぞ」

 

 仏頂面で説明をしてから、蘭は踵を返して歩き出した。だが数歩行ったところで立ち止まり、肩越しに優一郎を振り返る。

 

「……これでも一応、女なので」

 

 ぼそりとそれだけ言って蘭が大股で歩き出す。優一郎は澄を促して蘭の後に続いた。

 

「あ、すみません」

「詫びられると腹が立つ」

 

 優一郎をぎらりと睨んでから蘭が言う。どうやら男性に勘違いしていたことには気付かれていたらしい。優一郎は困惑した顔をしつつ蘭の後を歩いた。広々とした廊下を抜け、幾つかのドアの前を過ぎたところで蘭が立ち止まる。こちらです、とやっぱり仏頂面をしたまま言った蘭が大きなドアを開ける。

 

「やあっ、優一郎くん。顔あわせるのはほんっと、久しぶりだねえ」

 

 扇子でぱたぱたと自分に風を送りながら、部屋の奥にいた男性がにこにこと笑う。年齢が判りにくい童顔のこの男が韮山だ。どうぞ、と蘭に促されて優一郎は部屋の奥に進んだ。少し遅れて澄が荷台を押しながら部屋に入る。

 

「韮山課長、お久しぶりです」

 

 そう言って優一郎は韮山に頭を下げた。うんうん、と頷いて韮山が蘭に視線をやる。ぎり、と歯軋りをしてから蘭は黙って部屋を出て行ってしまった。

 

「ちょおっと、ランちゃん。お客さんの飲み物! オーダーとってってよ」

 

 韮山が手招きをしながら蘭に声を掛ける。ドアを出たところで蘭がゆらりと振り返り、もの凄い形相で部屋にいた三人を見回す。

 

「コーヒー三つですね。かしこまりました。砂糖とミルクはおつけしませんね。ホットでいいですね。では」

 

 ずらずらと早口で言ってから蘭がばたんとドアを閉める。

 

「なんっか、機嫌悪くてねえ。ごめんね。せっかく愛華が帰ってくるのにねえ。会いたくないのかなあ」

 

 困ったような顔をして韮山がやれやれとでも言いたそうに首を振る。優一郎は蘭が出て行ったドアを見つめて少しだけ同情した。蘭はどうやら意に染まない格好をさせられてよっぽど腹を立てているようだ。

 

「一応機密指定品だからねえ。宿舎を貰ったのはいいけど、一般人をメイドに雇うわけにもいかなくてねえ。ランちゃんなら、家事なんでもこなすし、愛華に会いたそうにしてたから頼んだんだけど。なんか機嫌損ねちゃって」

 

 ふう、と大仰にため息を吐いて韮山が首を振る。優一郎は目を戻してから何となく頷いた。たぶん、蘭はあの服が気に入らないのではないかと思ったが、優一郎はそれは黙っておくことにした。

 

「えっとそっちの子が、多村澄さんかな? かなり頑張ってくれたそうじゃない?」

 

 閉じた扇子の先で澄を示し、韮山が言う。それまで黙っていた澄が慌てたように頭を下げる。

 

「す、すみません、あの、はい、多村と申します、ごめんなさい」

 

 澄が頭を下げたまま、小声で何度も詫びる。もしかして緊張しているのだろうか。

 

「なかなか、いい子じゃないの。これからも愛華がいろいろお世話になると思うけど、よろしく頼むね」

 

 にこにこと笑いながら韮山が言うと、澄はやっぱり何度も詫びながら頭を下げる。微妙に距離を置いたところに立っている澄を振り返ってから優一郎は韮山に目を戻した。

 

「で、愛華はその箱の中? もしかしてバラバラマネキン状態とか?」

 

 そう言いながら韮山が澄の前にある荷台を扇子の先で示す。荷台には幾つかの箱が載ったままだ。優一郎が頷こうとした矢先、部屋のドアが壊れそうな勢いでばん! と開く。

 

「お待たせしました」

 

 これ以上はない、というくらい機嫌の悪い顔をした蘭が、三人分のコーヒーを載せたトレイを手に部屋に入ってくる。蘭は大股で部屋を横切り、韮山の前のテーブルにコーヒーを置き、ぎらりと優一郎と澄を見た。

 

「お客様。お席にどうぞ」

 

 それだけ言ってから蘭がテーブルから離れ、部屋の隅に移動する。優一郎は困惑して蘭の姿を目で追った。ドアのところまで下がった蘭が壁に背中をもたせかけて立つ。青年にしか見えない面立ちといい、男物のスーツでも着させた方が百万倍は似合うのではないだろうか。

 

「ランちゃーん。そんな乱暴にしてたら、せっかく似合ってる可愛い衣装が台無しだよ」

 

 韮山がにこにこと笑いながら蘭に声を掛ける。すると蘭は腕組みをしてぎらりと韮山を睨みつけた。その目が何となく、ぶっ殺す、とでも言いたそうな気がして優一郎は蘭からさりげなく目を逸らした。

 

「そ、それでは」

 

 優一郎は勧められた通りに韮山の前のソファに腰を下ろした。澄が慌てたように荷台をテーブルの傍まで押してくる。だが澄は席に着かず、そこでぴたりと足を止めてしまった。

 

「澄さんも座って座って。ランちゃん。ケーキ焼いたんでしょ? あれも持ってきてよ」

「かしこまりました!」

 

 韮山の指示を受けた蘭が棘だらけの声で答え、部屋から出て行く。そんな蘭を目で見送ってから澄は消え入りそうな声で言った。




エピタイがストレート過ぎる……。
が! エピタイは作者のためのもの!w

韮山の下の名前はなかったのかなー、と今さら思ってます。
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