ごろごろごろ。何かを転がす音と、どすどすという遠慮のない足音が聞こえる。水輝は顔をしかめて毛布に潜り込み、毛布の中から手を伸ばして枕元の時計を取った。毛布の中で時間を確かめて歯軋りをする。だがそんな水輝にはおかまいなしで、その女は喋りまくる。
「そうなのー! 今日はお弁当を持って公園に行くのだー! その後でねー! 動物さんと遊んでねー!」
うるせえ。水輝は毛布にくるまってしかめ面をしながら身体を丸めた。
「じゃあねー! パパー!」
そこまで言ってから女がまたごろごろごろ、と不快な音を立てる。水輝は我満の限界を超え、毛布の中から喚いた。
「朝っぱらからうるせえぞ! 理子!」
「えー? 掃除しないと駄目だよ、たまには。先生居ないんでしょ?」
軽い口調で答えてから、理子がまたごろごろと音を立てる。この世界には掃除機はない。床を掃除するために理子は大きなボールのついたものを無遠慮に転がしているのだ。ちなみに理子が先生と呼んだのは、佑のことだ。
「あー! 信じられない! この髪、先生のでしょっ!?」
やけくそ気味に寝ようとしていた水輝に理子が叫ぶ。水輝は毛布の中で身じろぎをし、知るかと喚き返した。
「パパが萎えたら困るでしょ!? もう、ちゃんと掃除くらいしなさいよ!」
「小姑かおまえは!」
「洗濯物も溜まってるし……。あああーっ。理子が買ってあげたパンツ、ちゃんと穿きなさいよ!」
ああでもないこうでもないと散々に喚き散らして、理子が今度は洗濯を始める。水輝はふて腐れて毛布の中で丸くなり、知らん顔を決め込んだ。昨日は優一郎も忙しかったのか、家には泊まりに来なかった。今日はちょっとゆっくり『塔』に顔を出そうと思っていた矢先にこれだ。
「ほら、乾かして!」
洗濯物を籠に山と積んだ理子がベッドに寄って言う。水輝は毛布の中から手だけを出して、理子の方に向かってぱちんと指を鳴らした。積み重なった服にまとわりついていた水が消え、あっという間に洗濯物が乾く。
洗濯物を畳んでしまい込み、食事の準備をし、水輝を散々罵倒してから理子は出て行った。漸く静かになったところで水輝はのそのそと毛布から顔を出した。
「普通……夫の浮気相手の家を……掃除はしないだろ……」
すっかり綺麗になった部屋の中を見回して水輝は疲れたため息を吐いた。もしかしたら留守の間を頼む、と佑が理子に言ったのだろうか。ぼんやりと考えながら水輝は身を起こした。
まあ、ありがたいかな。シャワーを浴びてキッチンに入ったところで水輝はそう呟いた。テーブルにはきっちり食事が用意されている。水輝はありがたくそれを腹に入れ、身支度を整えてから『塔』に向かった。
これを書いた時は何か面白い掃除機を出せないかと思ってました。
今なら普通に掃除機って書いてしまいますねw