BL警報です!
昼時間に着いた水輝は真っ直ぐに食堂に行った。いつもの面々がテーブルに着いているのを確かめてから、水輝はカウンターで食事を頼み、皿をトレイに載せてそのテーブルに向かった。
「あれー? 今日は水輝さん、一人ですかー?」
水輝の姿を真っ先に見止めたのだろう。実鈴が不思議そうな顔をして言う。水輝はなんだそりゃ、と仏頂面で言ってから実鈴の隣の空いていた席に腰掛けた。
「吉良博士はいらっしゃらないんですか?」
テーブルに着いていた女性の一人が言う。水輝はしかめ面をしてスプーンを取り上げた。
「あのな。いつもいつもセットでいるみたいな言い方すんなよ」
水輝がそう答えると女性がちっ、と舌打ちをする。あからさまな反応に呆れつつ、水輝は食事をし始めた。理子が用意してくれた分では足りなかったのだ。
「いえ、でも……あの、あそこにいらっしゃいますけど」
水輝の傍に座っていた女性がそう言いながらカウンターを指差す。そりゃあ、昼なんだから居るだろうよ。ぶっきらぼうに返事をしてから水輝は何となくカウンターの方を見た。
「呼んできましょうねー!」
実鈴が嬉々として言って立ち上がる。
「あっ、ばか!」
慌てて伸ばした水輝の手をすり抜け、実鈴がるんるんとスキップしながら優一郎に近付いていく。実鈴に背中を叩かれて振り返った優一郎が驚いたような顔をしている。水輝はうあー、と呟いて何気なく周辺を見回した。だが医療特殊技術部三課の連中が騒ぐことにはすっかり慣れているらしく、周囲の者は誰もこちらを見てはない。
やがて実鈴がスキップしながら優一郎を連れて戻ってくる。食事を人質に取られているからなのか、優一郎は困惑した顔をしつつも実鈴の後をついて歩いてきた。
「こんにちは」
「おう。昨日振り」
にっこりと笑った優一郎に声を返し、水輝は微かに笑みを浮かべた。すると何故か周囲にいた女性たちが一斉におおおー! と歓声を上げる。
「水輝さんが笑った!」
「初めて見ました! 迫力です!」
「ささ、こちらにずずずいっとお座り下さい」
口々に言いながら、女性たちが立ち上がり、席を移動し始める。実鈴が持っていたトレイを水輝の横の席に置き、優一郎を強引にそこに腰掛けさせる。水輝は実鈴と優一郎に挟まれる格好になり、何となく顔をしかめた。
「今日はー、ベストショットは譲るですー」
「いや。とにかく……おまえら元気だなー」
他に言うことを思いつかず、水輝は呆れた顔をしてテーブルについた面々を眺めた。
「そうだ。お仕事のお願いをしたいんですけど、よろしいでしょうか?」
食事を始めてから優一郎がそう告げる。水輝は何となく隣に座る実鈴を見た。実鈴がほえ? と首を傾げる。
「えっとー、うちの課にですかー?」
「ええ。この前と同様の手術をお願いしたいのですが」
「んーと」
実鈴がスプーンを咥えたまま、白衣のポケットを探る。水輝は渋い顔をして実鈴の口からスプーンを引っこ抜いた。行儀悪い、と呟くと実鈴がごめんなさーい、と明るく詫びる。
「あっ、はーい。いいですよー。休み明けでもだいじょうぶですかー?」
端末を取り出して画面を覗き込んだ実鈴がにこにこと笑いながら言う。
「はい。ちょうどその日にお願いしようと考えていました」
「おっけーでーす。じゃあ、詳しい時間とかはー、その日の朝にー、お知らせしますねー」
独特の間延びした口調で言ってから実鈴が端末を白衣のポケットにしまう。そこで水輝は実鈴にスプーンを返した。えへへ、と笑った実鈴が受け取ったスプーンで食事を再開する。
「何だ。また造るのか?」
優一郎に目を向けて水輝は訊ねた。
「ええ。かなり各方面で評価を頂いているので。ある程度、生産体制を整えないといけないかもしれません」
「ふうん」
そう返事をして水輝は目の前の皿に向き直った。そこで妙な視線に気付いて目を上げる。
「……なんだよ」
「ちっ! もう少し近付くと思ったのに!」
「課長! 水輝さんの椅子を蹴るっていうのはどうでしょう!?」
水輝と優一郎を見ていた女性たちが手を握りしめて力説する。水輝は呆れた顔をしてから実鈴にするなよ、と忠告した。水輝の椅子を早速、蹴ろうとしていた実鈴が慌てて足を引っ込める。
「いつもにぎやかでいいですね」
笑い混じりに優一郎が言う。水輝は仏頂面で口に飯を運びながら眉間に皺を寄せた。
「おまえらなあ。男作れよ。そしたら少しはおちつ……なんだよ?」
テーブルに着いていた女性たちに白い目で見られ、水輝は訝りのままに訊ねた。
「判ってない! 水輝さんは判ってないです!」
「そうです! カレシ? 恋人? はっ!」
馬鹿にしたように誰かが鼻で笑えば、その傍の女性が言う。
「綺麗な男の子同士が絡み合うのがいいんですっ。この情熱は判らない人には判りません!」
「水輝さーん。うちの課の子はみんな、恋人とかいますよー?」
隣に座っていた実鈴が呑気に言うのを聞いて、水輝は思わず目をむいた。くくく、と笑った実鈴が女性たちに、ねー、と同意を求める。すると女性たちは当然です、と頷いて胸を張った。
「趣味と恋愛は別とか?」
優一郎がそう質問すると、彼女たちは口々に答えた。
「当然です! ていうか、趣味の方がメインですけど!」
「別って言うか、一緒に出来るわけありませんっ。それはシチューと味噌汁を混ぜるみたいなもんです!」
「ボーイズは永遠ですけど! 恋愛は縁が切れたら終わりですから!」
水輝はしかめ面でため息を吐き、相手にするなと優一郎にぼそりと言った。すると隣に座っていた実鈴がうーん、と唇に手を当てる。
「微妙に……ちょっと……いやまあ……」
「課長!」
女性たちが唐突に大声で実鈴を呼ぶ。はにゃ? と捉えどころのない声を漏らした実鈴がわたわたと手を振る。
「そうですー! 一緒じゃありませーん! やだなー、吉良博士ってば、変な質問しちゃ、メですよー!」
「実鈴さんって少し毛色が違いますよね?」
にっこりと笑って優一郎が言った瞬間、テーブルに着いていた女性たちがしんと静まり返る。水輝は怪訝に思いながら何となく手を伸ばし、実鈴の頭をぽんぽんと撫でた。
「こいつも同じだろ。ホモ好きの腐れ女」
「はにゃにゃー」
情けない顔をして実鈴がわたわたと手を振る。水輝は何となくその反応が面白くて、何度も実鈴の頭をぽんぽん撫でた。
「……?」
優一郎が怪訝そうな顔をして水輝を見る。だが水輝はそのことに気付かず、実鈴の頭をつかまえ、うらうらと撫で回した。
「しらくさかちょー……」
それまで黙っていた女性のうちの一人がぼそりと言う。わたわたと手を振り回していた実鈴が慌てたように返事する。
「はいー!?」
「ちょっと、顔貸してください」
そう言いながら女性が席を立つ。それに続けてテーブルに着いていた面々が次々に席を立った。
「おい?」
実鈴が女性たちに引きずられていく。水輝はそれを呆れた顔で見送ってから、頭をかいた。
「なんだありゃ」
「水輝さん。実鈴さんですけど……」
小声で優一郎が言う。水輝はスプーンですくった汁気のある飯を口に突っ込み、なんだよ、と低い声で言った。
「……いえ、なんでもありません」
しばしの間を置いてから優一郎がにっこりと笑う。水輝は怪訝に思いながら優一郎をまじまじと見た。
「言いかけてやめるか? 普通」
まあいいけど。そう付け足してから水輝はふと思い出して訊ねた。
「そう言えばまた造るって言ってたが、手が要るようなら手伝うか?」
「いえ。部下を育成しなければならないので、逆に僕もある程度手を控えているのが現状です」
淡々と優一郎が答える間、水輝は手を止めてじっと優一郎を見つめていた。ふうん、と呟いてから水輝は手を伸ばしてぽんぽんと優一郎の頭を撫でた。微笑みを浮かべていた優一郎が戸惑ったような顔になる。
「よく判らんが、あんまり真面目に考え込むなよ。はげるぞ」
「けっこう、アバウトに考えたほうがいいかなあとか、最近思うようになりました」
そう言って優一郎が微笑む。水輝はじっと優一郎を見つめて小声で言った。
「キスしてーなー」
優一郎の頭を撫でながら水輝はテーブルに肘杖をついた。
「週末は伺いますね」
「うん」
にっこりと笑った優一郎に水輝が笑みを返したところで、背後から悲鳴に似た声が聞こえてきた。医療特殊技術部三課の連中が慌てたように戻ってくる。
「あー! 私たちのいない間にー! なんて美味しそうなことしてるんですかー!」
真っ先に叫んだ実鈴がもの凄い勢いで走ってきて、椅子に腰掛ける。そうですよ、と同意しながら女性たちが席に着く。水輝は何となく居心地の悪いものを感じて優一郎の頭から手を離した。
実鈴はまあ……w