機械なので苦手な方は避けてください。
箱に詰まった部品を取り出して、澄はいそいそとそれを組み立て始めた。泊まるようにと言われて泊まったはいいが、次の日の朝から澄は愛華ではなく、機体維持のための設備を設置する羽目になった。
よいしょ、と声を掛けて澄はベッドの下に潜り込んで部品をはめ込んでいった。このメンテナンス用のベッドは、誰の手も患わせることなく機械化人の機体を維持できるように造られている。工具を使って一つずつ部品をはめ込んでから、澄はベッドの下から這い出した。
先に送ったはずの設備機材は、何故か全て送った時のまま箱に詰まっていた。澄はふう、と息を吐いて今度はベッドの表側の部品を一つずつ付けていった。
「すまないねえ。ランちゃんが、まだ、現状を把握できてないみたいで」
のんびりと扇子で自分をあおぎながら韮山が言う。いえ、と小声で返事をして澄は淡々と設備を組み立てていった。蘭というあの女性は今はキッチンで格闘しているらしい。さっきからキッチンのある方からけたたましい音が響いている。
「むこうの梱包解いて、頭くらいは見せてみるかなあ」
そう言いながら韮山がぽりぽりと頭をかく。はあ、と曖昧な返事をしてから澄はベッドに設えられた窓を開き、内部に専用のディルドをはめ込んだ。きちんとさし込んだところで、根元の部分にあるねじを締める。
「面白いね。これ」
「あの……半起動状態で……自動的に……自慰を維持するように……」
ふむふむ、と頷いた韮山に澄は消え入りそうな声で説明をした。このベッドに機械化人が横たわり、スイッチを入れると自動的に性的快楽が与えられる仕組みになっている。例え人工の女性器が破損しても、それらの部品交換もベッドが自動的に行ってくれる。主人の手を煩わせずに玩具をメンテナンスできるという、画期的なベッドなのだ。澄は俯いて途切れ途切れの声でそう説明した。
「まあ、愛華にはあまり使わせることはないかな。これって人は使えないのかなあ」
「工具なども……組み込まれていますから……生身の方は……危険かと思います」
ベッドを覗き込んだ韮山から少し離れ、澄は小声で答えた。すると韮山が頷いてから屈めていた身を起こす。
「ランちゃんのお仕置きに使えないかと思ったんだけど駄目か」
笑いながら言った韮山から目を逸らし、澄は作業を再開した。自動洗浄を行う機械をはめ込み、きちんとねじを締める。メンテナンス用の台を組み立て終えてから、澄は今度は別の箱を開けた。
小さく分解された作業台を組み立てていく。こちらはさっきのメンテナンス用の台とは異なり、見た目はただの椅子だ。スイッチを操作すると背もたれの部分が角度を変える仕組みになっている。
「開脚用のアームがえぐいね」
笑いながら韮山が言う。澄は真っ赤になって作業の手を止めた。
「元々は……あの……産婦人科の……」
小声で説明してから、澄は開いた足を固定するための台を金属製のアームの先にはめ込んだ。
「なるほどねえ。愛華の組み立てはこれの上でするの?」
「ベッドなどの、平らな場所である程度のパーツは組み立てて、最終的に、大きなパーツを結合する時に……」
無意識に作業の手を止めて澄はぼんやりと作業台を眺めた。左右の足を大きく開いた格好で目を覚ました方が、きっと恥ずかしいに違いない。その方が気持ちいいと思う。澄は韮山がそこに居るのも忘れ、小声でぼそぼそとそう言った。
「それはそうだね。ばらして持ってきてもらったのは、実はランちゃん対策だったりするし」
「あ」
笑い混じりに韮山が言ったのを聞いて澄は我に返った。申し訳ありません、と慌てて詫びる。ついつい思っていたことを口に出してしまったようだ。
「いや、参考になるよ」
そう言って頷いてから韮山が声を張る。
「ランちゃん! 応接室にある荷物を持ってきてくれないか?」
そう、韮山が言った直後、かしこまりました、という蘭の怒声がどこかから聞こえてきた。ほどなく、蘭が幾つかの箱を載せた荷台を運んでくる。
「お待たせしました!」
どうしてこの人はこんなに怒っているのだろう。澄はぎらりと凄まじい目で韮山を見る蘭を見つめ、ぼんやりと考えた。
「それは、あんまり乱暴に扱わない方がいいと思うけどなあ」
ぼそりと韮山が言う。すると蘭はぎりぎりと歯軋りをして荷台を離し、そっぽを向いた。
「他にご用は!?」
「四角くて一番小さな箱の梱包を解いて、中身をそこのベッドの上に置いてくれないかい?」
にこにこと笑いながら韮山が言う。蘭がぎらりと韮山を睨んでから荷台の上の箱の蓋を開け、緩衝材を引っ張り出す。中に入っているものを見た蘭が目を見張って硬直する。
蘭が蓋を開けた箱には愛華の頭部が入っていた。
「壊れてなかったらいいけどねえ」
眉を寄せて困ったような顔をして韮山が首を振る。次の瞬間、蘭の姿がその場から唐突にかき消えた。澄は何度か瞬きをして、首を傾げた。どうやら蘭はハイブリッドらしい。のろのろと考えた澄はそれで、と納得した。
「うーん。ちょっと薬が効きすぎたかな?」
「あの方……お強いですね」
笑い混じりに言う韮山から目を逸らし、澄は静かに箱に寄った。あの蘭という女性も優一郎も、とても強い気がする。どうしてハイブリッドはあんな風に居られるのだろう。ぼんやりと考えながら澄は箱の中を覗き込んだ。愛華の頭部は顔の部分を上に向けて詰め込まれている。
「それじゃあ組み立てよう」
韮山に促され、澄は箱を次々に開けた。二つに分かれた胴体部を繋ぎ、腕を組み立てて肩の部分にはめ込む。頭部を首にはめ込んだところで澄は愛華を作業台に運んだ。足を左右それぞれ組み立てて作業台の足置きにセットしてから、胴にはめ込む。
「分解するときは、関節のポイントを押さえればいいんだよね?」
「はい、無理に引いたり捻ったりすると、つなぎ目の部分が破損します」
説明しながら澄はぞくりとしたものを感じた。生身では死んでしまうから無理だろうが、機械化人なら手足を壊され、胴を潰されようが、頭部さえあれば身体は修復出来る。
「壊れちゃったら、優一郎くんに連絡すればいいのかな?」
「あ、その場合は……研究室の矢野までご連絡……いただければ」
そう言ってから澄は屈めていた身を起こした。組み立てられた愛華は眠るように目を閉じている。これからきっと愛華は主人に愛でられるに違いない。
「それでは……私は……そろそろ失礼します……」
取り扱いの説明については優一郎の持ってきた書類を見れば判るだろう。メンテナンス台などの取り扱い方もそこに記されている。澄は韮山にぺこりとお辞儀をした。
「せっかくだから、目覚めるところ見てやっていってよ」
そう言ってから韮山が声を張る。
「ランちゃんっ!」
「なんですか」
韮山が呼んだ次の瞬間、蘭がいきなり韮山の真後ろに現れる。
「組み立てが終わったよ。きみの親友の新たな人生の出発だ。見届けてあげてよ」
真面目な顔をして韮山が言う。しばし蘭は韮山を鋭い目で睨んでいたが、やがて諦めたようなため息を吐いて判りましたと頷いた。
「んー。起動スイッチはどこかな?」
「クリトリスです」
澄は小声で言った。その瞬間、蘭が引きつって手をわなわなと震わせる。
「ほんとだ、スイッチになってる。けっこうストロークあるね。奥まで押し込めばいいのかな?」
愛華のクリトリスを指で弄りながら韮山が言う。澄ははい、と頷いた。
「音がするまで押し込んでください。それでシステムが起動します」
ごくごく小さな声で澄は説明した。蘭がわなわなと震えながら何かを言いたそうに何度も口を開閉する。
「こうかな?」
韮山がクリトリスを押し込み、かちりという小さな音がする。その後、愛華の下腹部でモーターの回る音がし始める。
『システムを起動時中です。製品番号M02A。個体愛称愛華』
合成されたその声を聞いた蘭が真っ赤になる。澄はそう言えば、と首を傾げた。確かシステム音声にも細かい指定があったのだ。澄の股間から流れたシステム音声は蘭とそっくり同じ声をしていた。
『身体各部の接続を確認しました。人工性器の動作チェックを実行します』
システムが抑揚のない声で報告する。すると愛華の乳首が少し伸び、勃起する。人工の小陰唇が左右に開閉し、合成愛液が丸い膣口から垂れる。
『標準動作テストを開始します』
愛華が左手で左の乳房を弄り、右手で股間を弄り始める。腰をくねらせて自慰を始めた愛華を見つめ、澄は熱いため息を吐いた。頬に手をあてがって目を潤ませ、澄は何気なく蘭に目をやった。蘭は真っ赤になってこぶしを握りかためている。
『標準動作に支障はありません。感情回路を起動します』
システムが告げた後、愛華が目を開く。だが目を開いても愛華は自慰をし続けていた。
「あっ、あれ、わたくし……あっ」
周囲を見回しながら愛華が自慰を続ける。
「晃一さ……いえ、課長。それに蘭も? ああっ」
「愛華、おはよう。今日からきみはぼくの玩具だよ」
「課長、そんな、恥ずかしいっ! あっ、だめ、止まらないっ、ああんっ!」
やり取りをする二人を見つめて澄はうんうん、と頷いた。ふと気になって蘭に目をやる。蘭はじっと俯いている。不思議に思って澄は蘭にそっと近付き、顔の前で手をひらひらと振ってみた。
「あの……この方……気絶されてますけど」
澄がそう言うと、韮山が苦笑して頭をかく。
「うーん。刺激が強すぎたかなあ」
「えっ、蘭、大丈夫っ? やだ、本当に止まらないっ! いいっ! いいのっ!」
愛華が甘えた声を上げて股間をかきむしる。そんな三人を余所に、蘭の身体がぐらりと傾ぎ、床に倒れた。
蘭は耐性がないので……。
そして愛華の機械化に反対していたので……(汗)