TS警報です!
一応、お洋服は送ったからね! あとね、今日はお弁当も送ったから! ちゃんとパパの大好きなおかずも入れたからね!
今日の理子は頑張って優一郎を元気づけようとしてくれていたらしい。通信を切った優一郎はうん、と頷いてから研究室に入った。
「おは……ようござ……います?」
先に出勤していたらしい祥子が驚いた顔をして優一郎を見る。優一郎は女性物のスーツを着込み、その上に白衣を着て研究室に入っていった。
「おはようございます」
にっこりと笑って優一郎は席に着いた。まばらに出勤していた研究員たちが揃ってあんぐりと口を開けて優一郎を見つめる。いち早く正気に返ったらしい祥子が、慌てたように頭を下げる。
「ええと、今日のスケジュールですが」
いつものように前置きをして、祥子が一日のスケジュールを読み上げる。優一郎は祥子の言うことにいちいち頷いた。
あれから何度男性に戻ろうとしても出来なかった。そのため、優一郎は休み明けの今日、仕方なく女性の姿で出勤した。やがて次々に研究員が出勤してくる。最初は驚いていた彼女たちも、ハイブリッドの特性から優一郎が性別を変えていることを納得したらしい。
「うん。順調だね」
「はい。それと、こちらが多村さんが提出された仕様書です」
そう言ってから祥子が紙の束を優一郎に差し出す。ざっと紙面に目を通しながら、優一郎はちらりと澄を見やった。澄はほんのりと頬を染めて上の空といった表情をしている。そう言えば休み明けに医療特殊技術部三課で時間の打ち合わせをすることになっていた。
「そうだね。みんなに、言っておこうか」
そう言ってから優一郎は静かに立ち上がった。机についていた研究員たちが優一郎に注目する。
「無事、納品も完了し、うちの研究室も財政的にかなり余裕ができてきました。ですので、研究機材として皆で利用可能な機械化人を製作しようと思います」
研究員たちが黙って優一郎の言うことに頷く。彼女たちの顔を見回してから優一郎も頷いてみせた。
「素材としては、多村澄さんを用います。仕様書を電信で回覧します。機体作成のプロジェクトリーダーに立候補したい人はいますか?」
優一郎が訊ねると研究員の数人が挙手する。優一郎は手を上げた研究員を見回してから、一人に目を留めて頷いた。
「そうですね……。佐々木さんにお願いしましょう」
にっこりと優一郎が笑うと、指名を受けた研究員がぱっと明るい顔になる。幾つかの指示をしてから優一郎は打ち合わせのために研究室を出た。
医療局の棟に移動し、医療特殊技術部三課に向かう。対応した実鈴は酷く機嫌が悪い顔をしていた。
「はー? 水輝さんっすか? 今日は来てませんけどねー」
用件のついでに訊ねると、実鈴が仏頂面で言う。
「はい。では午後二時、手術室を空けときますからー」
「よろしくお願いします」
にっこりと笑った優一郎の鼻先で実鈴が勢いよくドアを閉める。優一郎は踵を返して研究室に戻り始めた。
水輝さん……。寂しさに切ない目をして優一郎は心の中で呟いた。週末、水輝の家から出て以降、水輝からは連絡も何も入ってこなかった。試しに優一郎の方から通信を入れてはみたが、水輝は電源を切っていたらしく、話すことが出来なかった。ぼんやりと考えを巡らせながら優一郎はのろのろと研究室に戻った。
席につき、澄から提出された仕様書をチェックする。澄は自分から機械化人になりたいと言い出しただけあり、仕様書は細かいところまできちんと書かれていた。仕様書からは澄の嗜好がとてもよく伺われたが、優一郎はあえてそのことは考えないことにした。澄に今日の手術のスケジュールを電信で送る。
やがてチャイムが鳴って研究員たちが昼食をとるために食堂に向かう。優一郎は何となく一人で研究室に居づらくて、理子が送ってくれた弁当を抱えて食堂に向かった。昼時間で賑わう食堂の中を見回す。いつもの医療特殊技術部三課の彼女たちはすぐに見つけることが出来た。その中に水輝の姿も混ざっている。何となく彼らに近付こうとした優一郎は、気付いたらしい彼女たちが自分を見る目が違うことに気付いた。
「こんにちは」
優一郎が声を掛けると医療特殊技術部三課の女性たちがこんにちはー、と頭を下げる。どことなくよそよそしいものを感じながら、優一郎はちらりと水輝に目をやった。実鈴の隣で食事をしていた水輝が優一郎を見てから首を傾げる。
「まあ、座れば?」
戸惑っていた優一郎にそう言ってから水輝が食事を再開する。
「水輝さん、一昨日は失礼しました。実鈴さんも」
席についてから優一郎はにっこりと笑って声を掛けた。すると水輝が食べる手を止めて横目に優一郎を見る。
「別に」
「そーでーす。別にいいでーす」
実鈴がつんと横を向いて素っ気なく言う。テーブルに着いていた面々は気まずそうに顔を合わせてから、中の一人が優一郎に声を掛けた。
「あの、吉良博士、何で女性になっちゃったんですか?」
「ちょっと、実鈴さんとトラブってね」
にっこりと優一郎が笑うと実鈴がけっ、と喉の奥で言う。
「人のせいにしないでくださーい。私は知りませんー」
仏頂面で言った実鈴を女性たちが険しい顔で見る。
「そりゃあ、白草課長はほら」
「ねえ?」
「ナカマだと思ったのになー、残念ですね、ほんと」
女性たちが口々に言ってため息を吐く。そんな中、水輝は一人で淡々と食事を済ませ、ご馳走様、と手を合わせた。
「じゃ、おれ行くから。実鈴、後頼むな」
「はーい。お任せくださーい」
フォークを咥えた実鈴がびしりと敬礼してみせる。そんな実鈴に微かに笑ってから水輝は席を立った。
「水輝さん、待って、待ってください」
優一郎は慌てて水輝を呼び止めた。テーブルを離れようとしていた水輝が怪訝そうな顔をして優一郎を見る。
このエピソードの優一郎は女性……あ!
TS警報が必要でしょうか!