ふと思う。このボーイズを愛でる性癖がなかったら、もっと生きやすいのではないだろうか。水輝を好きだと思う一方で、実鈴は水輝と優一郎がくっつくのを見たいと本気で思っているのだ。
あー、馬鹿みたい。自分のことをそう思いながら実鈴は腕組みをした。
「ありがとうございます」
「そもそもさー。ハイブリッドに性別なんてあってなきがごとしでしょー? なんでのーまるだのすとれーとだのって拘るんですかー」
うんざりしながら実鈴は愚痴を吐いた。幼い頃から性的な苛めを受け続けていたためか、ずっと性から切り離された存在になりたかった。女装癖やボーイズラブ好きなのも、もしかしたらそれが原因なのではないかと自分でも判っている。
何故、彼らは性別をわざわざ纏っているのだろう。本当は彼らは性別などを超えた存在であるべきだったのに。ぼんやりと考えてから実鈴ははっと我に返った。
「進化、してるんではないかと仮説を立てています」
そう言いながら優一郎がのろのろと床に座る。実鈴は何となく優一郎に合わせて床にぺたんと座り込んだ。冷たい床の感触が心地いい。
「確かにそうかも知れませんねー。……彼らが天人を助けてくれるのかも、知れないと思います」
目を細めて実鈴は少しだけ笑った。
「人事のようにおっしゃってますけど、あなたは……」
戸惑ったような顔をして優一郎が小声で言う。実鈴はにこりと笑って首を傾げた。
「天人には性別があるじゃないですかー。ハイブリッド種はもしかしたらー、天人に合わせて性を纏ったんじゃないかとー、思うんですよねー」
足を伸ばし、ぶらぶらと足首を揺すりながら実鈴は小さな声で言った。
「その可能性は高いですね」
答えて頷いた優一郎の顔を見て、実鈴はくすりと笑った。
「少し、元気な顔になりましたねー。よかったですー」
「実鈴さんこそ」
「私はこれまで誰にも、そういう話はー、してなかったからー」
にっこりと笑った優一郎に実鈴は苦笑をしながら答えた。それからふと気付いて優一郎を改めてまじまじと見る。
「んー……ぼーいず光線は出てるような気がするんですけどー……ほんとに水輝さんのことー、要らないんですかー?」
「その実鈴さん理論的に、ガツガツと追い求めるようなキャラは美しいんですか?」
「いえー。でもたまにー、弱気になってー、水輝さんにー、目をうるうるさせてる吉良博士はー、なかなかナイスだとおもいますー」
のんびりと言ってから実鈴はくすくすと笑った。ふとした瞬間を納めた画像は端末に幾つも眠っている。我ながらナイス隠し撮り! いつものように心の中で自画自賛してから実鈴は優一郎ににこりと笑みかけた。
「結局、水輝さん次第だと思います」
「んー……水輝さんってー、強引だと思うとー、ときどき変に引いたりとかー、しませんー?」
考えながら天井を仰ぎ、実鈴はそう訊ねた。
「昔よりはずっと素直になりましたけど。その変化を導き出したのは……」
そう言って優一郎が悔しそうに俯く。それを見た実鈴はぽんと手を叩いた。どうやら優一郎は水輝を変えたのが佑であると言いたいらしい。
「誰が変えてもいいんじゃないでしょうかー? ぎょふのりとかー……それともきっかけになりたいんですかー? きっかけなんてー、後からみたらただの過ぎ去った物ですよー?」
それに変化させるだけなら機械的に出来ますし。実鈴はけろりとした顔をして言った。
「水輝さんは好きですけど、僕にとって、一番ではないですからね」
少し俯いて優一郎が言う。どうやら一番だのなんだのと言ったのが、けっこう堪えているらしい。なるほど、と呟いてから実鈴はちらりと小部屋を見た。小部屋の前には光の道がのび、その先には大きな階段がある。段上にあるのは玉座だが、そこには誰もいない。
「このあいだー、吉良博士はー、あそこにいた男を切ったじゃないですかー」
そう言いながら実鈴は玉座を指差した。
「あれもー、長い目で見るとー、水輝さんを変化させるきっかけになったとー、思うんですけどー、それで満足ですかー?」
「ただ切ったわけでは無いことは、あなたが一番ご存知だと思いますけど」
「ええー。おかげさまで色々と思い出しましたのでー。その件についてはありがとうございますー」
素直に礼を言って実鈴はぺこりとお辞儀をした。優一郎が剣であの亡霊を切り裂いた瞬間、色んなことを思い出した。だがそれらは全て過ぎ去った出来事で、今ではない。
「でも変化って、そんなに簡単に出来る物でしょうかー? 少しずつ色んなことを重ねて、始めて変化って現れるんじゃないでしょうかねー?」
そう言いながら実鈴は優一郎の顔を下から覗き込んだ。にこりと笑みかけてから実鈴は囁くように続けた。
「本当はー、吉良博士がー、変わりたいってー、思ってるんじゃありませんかー?」
「ええ。望んだ事はあります。その結果はもう出てますから」
「真実は一つきりじゃない。人の数だけ真実があって、可能性は無限大にある、と……まあー、昔聞いた話ですけどー」
ぼそりと言ってから実鈴は屈めていた身を起こした。はー、と大きく息を吐いて伸びをする。
「そうですね」
腕組みをした優一郎がうんうんと頷く。実鈴は手を伸ばして優一郎の背をばん、と叩いた。
「水輝さんはー、寂しがりの拗ね屋さんなんですー。要らないって言われたらー、それは欲しいって意味なんですよー」
ククク、と口許を手で押さえて実鈴は笑った。
「そうかもしれません、けど。僕には理子のほうが大切ですから」
きっぱりと優一郎が言い切る。ふうん、と呟いて実鈴は唇に指を当てて首を傾けた。
「理子さんってー、吉良博士の奥さんだからー、吉良理子さんですかー?」
「そうですけど……」
えっと、それが何か? 優一郎が不思議そうな顔をして言う。実鈴は唇に指を当てたまま、天井を仰いだ。高い天井は暗い。
「銀髪のー、すっごい美人でー、あの破壊神に微妙に似てるー、おなかに赤ちゃんがいるー、可愛らしい若奥さんですかー?」
すらすらと実鈴が言うと、優一郎が驚いたような顔をする。
「ご存知なんですか?」
「あー……やっぱりー。登録された住所がー、吉良博士のおたくと同じだったのでー、変だなーって思ってたんですけどー」
のんびりと言ってから、実鈴は顔を戻して優一郎を見つめた。
「理子さん、うちのボーイズファンサークルの会員なんですよー」
そう、実鈴が言った瞬間、優一郎があんぐりと口を開けた。
優一郎が衝撃をうけましたw
理子……ww
令和8年熊本地震で被害を受けた方々にお見舞い申し上げます。
どうかご自身の命優先にしてくださいませ。