※この作品はR-18です。

再生の日   作:伊駒辰葉

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エロシーンはありません。


呪文を唱えてみた【4章終わり】

「いやだから、そうじゃなくて三群のゲート開けっつってんだよ」

 

 何度目になったか判らない問答を繰り広げつつ、水輝は苛々とつま先で床を叩いた。ゲートキーパーたちが顔を見合わせてぼそぼそと話をし始める。何故、ゲートキーパーという奴らは、こうも陰気なのだろうか。しかも頑固で分からず屋ばかりだ。自分のわがままは棚に上げ、水輝はずらずらとゲートキーパーの悪口を心の中で並べ立てた。

 

 あの時の優一郎の笑いの意味はすぐに判った。作戦に使う予定だったゲートがタイムオーバーで使えなくなってしまったのだ。次にゲートを開けるのは三日後となっている。

 

「だから、三群は本部預かりになっており、我らが勝手に開ける訳には」

「……ぶち破るぞ?」

 

 我満の限界に達して水輝は凄みのある目でゲートキーパーたちを睨みつけた。死に神を思わせる巨大な漆黒の鎌を手にしたゲートキーパーたちが、またひそひそと話をし始める。

 

 赤ん坊を片腕に抱き、荷物をぶら下げたまま水輝は怒りの目で彼らを睨み、ずかずかと大股でフロアを横切り始めた。幾つかのゲートの前を通過し、とあるゲートの前でぴたりと足を止める。

 

「おれは振られたから旅に出る!」

 

 きっぱりと宣言して水輝はゲートに足を踏み込もうとした。その直前に慌てたゲートキーパーたちに取り押さえられる。

 

「そんな理由なのか!?」

 

 一斉に騒ぎ立てるゲートキーパーを蹴散らし、水輝は強引にゲートに足をかけた。扉の形をしたゲートを足の裏で蹴りつける。

 

「うら! 開け! さあ! 開け!」

 

 喚き散らしながら水輝はがんがんと扉を蹴りまくった。真っ青な顔をしたゲートキーパーたちが必死で水輝を後ろから押さえつける。だが何度蹴りつけても扉は開かない。水輝は大きなため息を吐いてから、扉から足を離した。

 

「あ、諦めてくれたか?」

 

 ゲートキーパーの一人が小声で言う。水輝は勢いよく振り返り、ゲートキーパーに抱いていた赤ん坊と荷物を差し出した。戸惑った顔をした二人のゲートキーパーが、赤ん坊と荷物をそれぞれ受け取る。

 

「開かないならぶち破るまで!」

「やめてくれー!」

 

 ゲートキーパーが声を揃えて悲鳴を上げ、水輝をまた押さえにかかる。確かこう! と記憶を辿って水輝は指で印を切った。怪訝そうな顔をしていたゲートキーパーたちが、水輝が結界を張った瞬間に真っ青になる。

 

 結界と呼ばれるものには色んな種類がある。だがどんな種類の結界も作る素になるのは力だ。水輝は自分の周囲に力で編んだ結界を張り巡らせ、扉を睨みつけて呪文を唱え始めた。

 

 黄昏よりも昏きもの

 

 血の流れより紅きもの

 

 ビデオディスクがすり切れるまで見た、とあるアニメーションの主人公が詠唱する文句を真似ながら、水輝はぎりぎりと歯軋りをした。

 

「嫌な予感が! 保安部に連絡を! 監査官に大至急報せろ!」

「時の流れに埋もれし! 偉大なる汝の名において!」

 

 確かこう! と呟いて水輝は手の中に紅い力を導いた。それまで水輝を押さえていたゲートキーパーたちが散り散りになって逃げる。そうしているうちに、水輝に引きずられた周囲の空気が揺れ、建物全体が大きくぐらつき始める。だが、頭に血が上った水輝はそのことに全く気付かなかった。

 

 大体、何なんだ! 優一郎のあの拗ね方は! おれは週末からこっち、ずっとお預け食らいっぱなしで、オナニーしてもいけないわ、ナンパしても気持ちよくないわで大変だったんだぞ! 男でも駄目、女でも駄目、じゃあおれにどうしろってんだよ!

 

 水輝は心の中で喚きながら目の前の大きな扉を睨みつけた。多少の攻撃を加えたところで、このゲートがびくともしないことは知っている。それなら多少ではない攻撃をすればいいだけだ。

 

「我ここに闇に誓わん!」

 

 ちなみにこの、とあるアニメーションの主人公が頻発していた魔法の真似をしたものは、試射は一度もしたことがない。この間、機会があってしようと思ったら、佑が先に星を割ってしまったのだ。

 

「あ。ブースト呪文、忘れてた」

 

 ふと思い出して、水輝は紅い力を回収した。ええと、と呟いた水輝をフロアの端に寄って恐る恐る見ていたゲートキーパーたちが、一斉に飛びかかってくる。唇に指を当ててぶつぶつと口の中で呪文を何度か試しに言いながら、水輝はかかってきた連中を片手で殴り倒した。

 

「またおまえかー!」

 

 賑やかな声を上げながら保安部の連中が一塊になってエレベーターから走ってくる。そうそう、確かこうだった。問題の増幅呪文を思い出してから、水輝は指を鳴らした。

 

「四界の闇を統べる王! 汝の欠片の縁に従い!」

「なにやってるんだ、池田!」

 

 保安部の連中に続いて、今度は作戦部の部長が水輝に駆け寄ってくる。だが保安部の放った銃弾はことごとく水輝の結界に弾かれて落ち、駆け寄ってきた作戦部部長の身体も弾かれて吹っ飛んでしまう。

 

「うるせえぞ、外野! ええと、なんだっけな。そうそう、ブーストだ……汝ら全ての力もて! 我に更なる力を与えよ!」

「物理攻撃は効かないぞ! ハイブリッドは何してるんだ!」

 

 誰かがそんなことを喚く。次の瞬間、水輝に向かって目に見えない力がすっ飛んできた。だが水輝の結界に当たるとそれらも綺麗さっぱり弾かれ、逆に部屋中を跳ね返って押しかけていた連中をなぎ倒した。

 

「そうか。武器にのせた方が見目的にもいいのか? いや待て、紅いのは相性がなあ……」

 

 ぶつぶつと言いながら水輝は手の中に青い色をした宝珠を寄せた。手の中で宝珠が一瞬で刀に変わる。鞘から刀を抜き、水輝は扉を睨みつけた。

 

「よし! ええと……黄昏よりも昏きもの! 血の流れより紅きもの! 時の流れに埋もれし! 偉大なる汝の名において!」

『何の用、っていうか、水輝さん、あなた、いったい、何やってんのよ!』

 

 不意によく知る声が聞こえてくる。水輝は怪訝に思いながら声のする方を見た。作戦部長がふるふると身体を震わせながら、大きな鏡を支えて床に倒れている。

 

「あ?」

 

 呪文詠唱を中断し、水輝は頭をかいた。

 

『ゲート潰したら、帰ってくるのが面倒でしょう! っていうか、その子供はどうしたのよ!!』

 

 鏡の中で喚いた佑が水輝の後ろでゲートキーパーが抱えている赤ん坊を指差す。水輝はそっちを振り返ってから首を傾げた。

 

「えー……とー……浮気したら出来た」

 

 中途の説明を全て飛ばし、水輝はきっぱりと言い切った。すると佑が鏡の中で肩を怒らせて震え始める。

 

『我ここに闇に誓わん。我らが前に立ちふさがりし、全ての愚かなるものに、我と汝が力もて、等しく滅びを与えん事を』

「って、おまえが唱えてどうする……って、おい!」

 

 鏡の中から強烈な力が吹っ飛んでくる。慌てて受け身をとった水輝は、腹を凄まじい勢いで力に殴られ、壁まで吹っ飛んだ。咄嗟に相殺したから良かったものの、直撃したら鏡どころかこのフロアがぶち壊れていたに違いない。

 

 水輝は壁を蹴って鏡の前に駆け戻った。

 

「なにしやがる!」

『さすがにこれだけ距離あると、ちゅどごばきゅーんとはいかないわねえ……』

 

 腕組みをして佑がうんうんと頷く。水輝はため息を吐いて鏡を指差した。佑の後ろに居る見覚えのある女性を指し示す。

 

「ところで、そいつは何で裸で、しかもどうしておまえがバイブらしきものを握っているのか、説明を聞きたいんだがな?」

 

 そう水輝が質問すると、佑が腰に手を当てて胸を張る。

 

『メンテよ』

「そうか、メンテか。なるほど」

 

 水輝は腕組みをして頷いてから、何となく周辺を見回した。いつの間にか大勢の人々が床に倒れている。ゲートキーパーたちはフロアの隅でがくがくと震えながらこちらを伺っている。鏡を支えたままで作戦部長は気を失ってしまったらしい。

 

「あー……三群を旅先に選んだのが間違いなのか」

 

 そう呟いてから水輝はさっさと踵を返し、ゲートキーパーの腕から赤ん坊と荷物を取り上げた。赤ん坊はいつの間にかすやすやと眠っている。

 

『とりあえず! そちらの時間で明日くらいまでにはケリつきそうだから、それまでは待って……。お願い! 水輝さん!』

 

 上目遣いで佑が言う。水輝は渋い顔をして鏡の前に戻った。

 

「明日だあ? おまえ、二ヶ月くらいはそっちにかかりきりになる予定だろうが」

『一月くらいはたったけど?』

「あ、そか。時流が違うのか……まあでも、気楽一人旅の予定だったから、おまえが帰るなら別にいい」

 

 そう言って水輝は何となく腕の中の赤ん坊に目を落とした。

 

『赤ちゃんの世話は、どうするつもりだったの?』

「ああ、間違いだ。気楽二人旅」

 

 そう言い直してから水輝は鏡に目をやった。まじまじと佑とその後ろに立つ桂とを見比べる。ふうん、と呟いてから水輝は頭をかいた。

 

「まあ、愛人と仲良くするのは止めないが、無茶して壊すなよ?」

 

 そう忠告すると、何故かぎくりと佑が身を竦める。

 

『大丈夫! 一号が居るから!』

「一号?」

 

 訝りを覚えて水輝は眉を寄せた。

 

『そのあたりの話は帰ってきたらするから、とにかく、短気を起こさないで待ってて』

 

 拝むように手を合わせて佑が言う。水輝はしかめ面をして横を向いた。

 

「いや、まあ、帰ってくるなら……別に……浮気はしないだろうし」

 

 そこまで言って水輝は振られたことを思い出し、暗い顔をして深々とため息を吐いた。




このエピソードで四章は終わりです。

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ここまでの登場人物紹介

○吉良優一郎(きら ゆういちろう)

やっぱりすれ違いが発生中。
優一郎はヒューマノイドと開発も再開した。
大体、韮山のせい。

○池田水輝(いけだ みずき)

ややこしいすれ違いが発生しまくってブチキレること多々。
四章終わりに某呪文を使ってみた。
だが佑の方が早かったので食らった。

○池田佑(いけだ ゆう)

水輝とやっと再会した。
だが状況が読めていない。
赤子がいるのを知って急いで帰還したい。

○吉良理子(きら りこ)

今のところは優一郎とは通信だけしてる。
優一郎のターンの頭で発言することが多い。

実はたまに水輝の家を掃除している。
優一郎の浮気は理子公認である。

○瑞原桂(みずはら けい)

今回はあまり出てこない。

○韮山

優一郎をヒューマノイド開発を再開させた張本人。
煽りまくって自分の要求を通した。
愛華を改造して今のところは満足。
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