百合警報! 機械です!
「受け身くらい取れないのっ!」
そう言って佑は落ちてきた女性を慌てて受け止めた。だが一人受け止めたところで佑は妙なことに気が付いた。確かに腕で受け止めたはずなのに、女性はぴくりとも動かないのだ。
「ガワだけのロボット?」
「そう。遠隔操作で動かしてる、機械の人形だな」
少し離れたところから声が聞こえる。佑は声のした方を向いた。まばらな拍手をしてから、一人の青年が佑に近付いてくる。ドームから出てきたらしい青年を見た佑は少しだけ目を細めた。
青年の姿形は水輝によく似ていた。
「あなたは?」
「呑気に訊いてる暇はないんじゃないかな?」
そう言った青年が手の中に宝珠を引き寄せ、一瞬で刀に変える。佑は腕に抱えていた女性を地面に横たえ、右手に刀を握りしめた。鋭い息を吐いた青年がゆらりと動いたかと思うと、一瞬で間合いを詰めてくる。
「やるわね」
切りかかってきた青年の刀を刀で弾き返し、佑は青年と間をとった。飛び離れた青年が続けて地面を蹴って佑に寄る。青年の動きは相当速いが、捌けないほど速いというわけでもない。佑に刀を弾かれた青年が身を捻って肘を飛ばしてくる。佑はしっかりとその動きを見据えて青年の肘を受け止めた。
剣の腕だけなら私のほうが上。なら、隠し技か、不意打ちか、騙し討ちか……。佑が考えている間に青年が身を捻って飛び離れ、唐突に姿を消す。短い距離を転移した青年が佑の真後ろに現れ、刀を突き出す。気配を読んでいた佑はその瞬間に身を屈めて後ろに蹴りを放った。佑のかかとに顎を打たれた青年が呻きを漏らしてよろける。
「桂。連携パターン2」
そう命じてから佑は青年に切りかかった。素早く刀を握り替え、青年の腹を刀の峰で打つ。その間に桂が素早く青年との間を詰めて背に蹴りを叩き込む。二人の攻撃を受けた青年が苦しげに呻いてその場に崩れ落ちる。
「まだよっ! 演技!」
「解っています」
佑の鋭い声ににっこりと笑って桂が答えた瞬間、青年が素早く身を起こして刀を揮う。刀に乗った力が刃になって青年を中心に周囲の空気を切り裂く。佑と桂は同時に身を屈めて刃を避け、気合いを発して青年の足を払った。よろけた青年がその場からふっ、と姿を消す。
「いたいなあ」
二人から少し離れた場所に現れた青年が低い声で呟いて顔をしかめる。
「その弱さで似てるのは罪よ! 紅蓮剣!」
びしりと青年に刀の先端を向けて佑は声を張った。柄の先に苺のついた刀の先端から炎が迸る。すると青年は仏頂面をして持っていた刀を突き出した。青年に向かって空を駆けた炎が、突き出された刀に真っ二つに裂かれて青年の身体を避けて宙で消える。
「弱くていいんだよ。どうせ囮だし」
そう呟いて青年がドームを指差す。すると地面に現れていた黒いドームは地響きを立ててゆっくりと沈み始めた。
「弱い方が楽でいいわ。目標はあなただし」
そう言ってから佑は刀をしまい、白い棍を引き寄せた。青年が怪訝そうな顔をして自分を指差す。
「おれ? 何でだ? お前たちはあの人を襲いに来たんだろう?」
青年が喋っている間にドームは徐々に沈んでいく。
「とりあえず、話をするのはわたしの管轄じゃないみたいなの」
素っ気なく言ってから、佑は棍を揮って青年に飛びかかった。慌てたように青年が身を捻ろうとする。先に回り込んだ桂が青年の脇腹に肘を叩き込む。その隙に佑は青年の鳩尾を棍で打った。低いうめき声を漏らした青年の手から刀が滑り落ち、やがてそれが宝珠に戻って青年の器に吸い込まれる。地面に倒れた青年を見下ろし、佑は息を吐いた。
「目標確保」
佑が報告すると、すぐに通信機から声が聞こえてきた。
『回収班向かいます。目標を捕獲の後、各員は撤収作業に入ってください。帰還ゲートの解放は明後日となっています』
「本当にこれだけでいいの? イレギュラーの始末は?」
訝りを覚えて佑はそう訊ねた。既に黒いドームは見えなくなっている。揺れる地面の上に落ちて壊れているロボットを、技術者らしい者たちが慌ただしく回収していく。
『問題ありません。撤収作業に移行してください』
愛想の欠片もない指示が聞こえた後、通信が切れる。
「つまんない」
「佑、任務ですから、面白いとかつまらないとかで判断するものでは無いと思います」
肩すかしに近い気分を味わって唇を尖らせていた佑に、桂が控え目な声で言う。佑は眉を寄せて地面に倒れた青年を見下ろした。青年は間近で見ても、やっぱり水輝によく似た顔立ちをしている。
「むかつく顔」
しゃがみ込んで青年の顔を見ながら佑は渋い顔をした。慌ただしく駆けてきた白衣を着た男たちが、倒れていた青年を担ぎ上げてどこかに運んでいく。
「ま、いっか。明後日ってことは……。今日中、に帰れるってことだし」
そう言って佑はにやりと笑った。
「あっ……」
か細い声を漏らした桂の身体がぐらりと傾く。
「桂!」
佑は慌てて桂の身体を抱きとめた。
「どこか壊れたの!?」
「マシントラブルでは無いです。佑。ちょっと、緊張しすぎて……」
慌てて問い掛けた佑を上目遣いに見つめ、桂が少し頬を染める。佑は桂を抱えたまま地面にへたり込んだ。
「もう……びっくりさせないでよ」
「ごめんなさい。佑」
しおらしく詫びた桂の腹の中から低いエンジン音が鳴っている。佑は桂の腹に耳を近づけた。
「エンジンがぎゅいんぎゅいん鳴ってる」
指摘を受けた桂がほんのりと頬を染めて恥ずかしそうな顔をする。佑は唇を舐めて桂の尻にさりげなく手を当てた。
「佑、やだ……。えっ! だめっ! そこはっ!」
「うふふふふふ。凄い勢い」
エンジンから出る排気ガスがマフラーの役目をする桂の肛門から漏れているのだ。桂が真っ赤になって身を捩り、恥ずかしそうに顔を手で覆う。
「明後日ってことは、今夜から明日はゆっくりできるってことよね?」
そう言って佑はにっこりと笑ってみせた。
「たっぷり、メンテしてあげるから」
佑は身を屈めて桂の耳許にそう囁いた。桂は真っ赤になって恥ずかしそうな顔をして頷いた。
バトルはあっという間に終わりましたw
仕方ないですね。佑が相手だし……。