「ゆ、ゆ、ゆ、優一郎っ! それに水輝さんもっ!」
リビングの入り口のところに現れた佑が震える手でソファの二人を指差し、素っ頓狂な声を上げる。水輝は相当驚いたのか、優一郎の身体の下で固まっている。
「佑、どうしたのです?」
佑の影に隠れるようにして立っていた桂がひょっこりと顔を出してソファの二人を見て目を見張る。優一郎は二人をのんびりと眺め、服の上から水輝のペニスを軽く握った。あっ、と小さな声を漏らして水輝が仰け反る。
「ちょ、ちょっと待て、おまえ、明日帰ってくるって」
何度か瞬きしてから水輝が佑を見て慌てたように言う。
「敵を騙すにはまず味方からって言うでしょうっ!」
「佑……。成り行きで早く片が付いただけだと思いますけど」
腰に手を当てて憤然と言った佑の後に、桂がおずおずと言葉を付け足す。優一郎は水輝の胸に頭を預け、二人をのんびりと眺めて口許に笑みを浮かべた。
「聞いていたのでしょう? 水輝さんの一番は、僕だって話」
目を細めて佑を見つめ、優一郎は微笑みを浮かべた。すると水輝が呆れた顔をして小声で言う。
「おまえ……わざと言わせやがったな?」
優一郎は答えの代わりに水輝のペニスを服越しに撫で回した。びくんと身を竦めた水輝が唇を噛んで息を殺す。
「このほうが、話が早いでしょう? 水輝さん」
にっこりと笑った優一郎を呆れた顔で見つめてから水輝が降参、と呟く。ソファの上で身体を重ねた二人を見ていた佑が、握ったこぶしをぶるぶると震わせる。
「水輝さん、少し待っていてくださいね。さっさとケリを付けてきます」
そう言って優一郎は身を起こして立ち上がった。リビングの入り口で固まったように立つ二人に少し近付く。
「ケリって何よ! やる気!? 上等!!」
怒りに目を吊り上げた佑が身構える。そんな佑の腕を桂が慌てたようにつかんで泣きそうな顔をする。優一郎は腕組みをして二人の前に立ちはだかった。
「もう、あなたは不要なの」
優一郎は自分の胸に手を突っ込み、女性に変化しながらそう言った。優一郎を睨んでいた佑が驚いたような顔になる。その横に立っていた桂が息を飲んで優一郎を凝視する。
「優一郎、本気でいくわよ! いいわねっ!」
「覚悟が遅いわよ!」
佑が叫ぶのと同時に優一郎は手の中に刀を寄せ、一瞬で抜刀した。
「桂っ! ……くふっ!!」
すんでのところで身をかわした佑の腹に浅い切り傷が出来る。佑がよろけた隙に優一郎は桂の頭部に向かって刀を繰り出した。はっと息を飲んだ佑が桂を庇って床に倒れ込む。
「卑怯者っ! きゃああああああああっ!」
「待て。おまえの言うケリは殺しなのか?」
佑を目掛けて優一郎が刀を振り下ろそうとした時、唐突に背後から水輝の声が聞こえてきた。優一郎は迷わず佑の背に刀を突き立てた。
「いいえ。見ていて。水輝さん」
佑の背中に突き立てた刀を通して、優一郎にゆっくりと力が流れ込んでくる。それと共に佑の身体は少しずつ薄くなっていった。
「優一郎……」
諦めたように呟いた佑が、儚げな笑みを浮かべる。優一郎はじっとそんな佑を見下ろした。
「待てっつってんだろうが!」
唐突に怒声をあげた水輝がソファから立ち上がり、大股で優一郎に近付いた。もの凄い勢いで頬をはり倒された優一郎はあっけにとられて水輝を見上げた。佑の身体から刀を無造作に抜き、水輝が身を屈めて佑の額にぴたりと手を乗せる。
「これじゃ、殺しと同じだろが! あんたもあんただ! 見てねえで止めろよ!」
床に倒れた桂を叱責して、水輝がぎらりと優一郎を睨む。
「博士! 辞めてくだ……」
「人形は黙ってなさい」
桂の震える声にぴしゃりと言い返し、優一郎は身を起こした。水輝が力を送り込んでいるのだろう。消えかけていた佑の身体が少しずつはっきりと見え始める。
「いいの……水輝さん。もう、無駄だから……」
「ちょっと待ってろ」
弱々しい声で言った佑に憮然として言ってから水輝がふらりとリビングを出て行く。戻ってきた水輝は腕にあの赤ん坊を抱えていた。眠る赤ん坊を水輝が片手に乗せて佑の傍に膝をつく。
「許せ、実鈴」
小声で呟いた水輝がふっ、と鋭い息を吐いて赤ん坊を乗せた手を唐突に佑の腹にねじ込む。
「んぐっ! ああああああっ!」
びくんと身体を反らした佑が絶叫する。優一郎は目を細めてその様をじっと見つめた。赤ん坊が佑の身体の中で溶けていくのが見える。やがて佑の身体ははっきりとその場に現れ、それと共に赤ん坊を形成していたものが完全に佑と混ざり合って消えてしまう。
黙って佑の腹から手を抜いた水輝が深々と息を吐く。
「水輝さん、ナイスアシスト」
にっこりと笑って優一郎はゆっくりと二人に近付いた。桂は状況に混乱しているのが困惑した顔をしている。
「青藍!」
優一郎は佑だったものにそう呼びかけた。
「いやっ! 何、これっ! わたし、消えて……」
「少しずつ成長させてあんなこととかこんなこととかしようと思ってたのに……」
ぶつぶつと言いながら水輝がゆらりと立ち上がる。
「大丈夫ですよ」
優一郎はにっこりと水輝に笑みかけた。少しずつ虹色の輝きが青い輝きに浸食されていく。
「優一郎……水輝さんを、お願い……」
弱々しく呟いた佑を水輝が渋い顔で見下ろす。
短いですが次が警報ありなので切りました。