「わ、私は全然平気で……」
桂が困惑した面持ちで言う。優一郎が答えるより早く、水輝が憮然とした顔で言い放った。
「当たり前だ。おまえにゃ、極々薄いが妖精族の血が入ってる。それに身体は機械だろ?」
桂が頷いて俯いた後、桂の股間から一号の声が響いた。
『責任が重いのはそこに転がっている警備担当の者でしょう。ちょっと文献をあたれば簡単に予測が付くことさえ知りもせずに、威力の大きい武器を放ったりするなど言語道断ですね』
「うお。あ、そうか。一号もいたのか。あー、びっくりした」
唐突に桂の股間から響いた声に驚いたのか、水輝が小声で言う。
「わ、わたしのせいだわ。わたしが、無思慮に戻ろうなんて思ったから」
震える声で言った佑がぽろぽろと泣き始める。桂が慌てたように佑の肩に手を乗せ、ぎらりと優一郎を睨む。
「佑は悪くありません!」
「いや待て。別にこいつらが死んだからって、替えは幾らでもいるし。なあ?」
のんびりと言った水輝が優一郎に意味ありげな視線を寄越す。
「はい。問題はありません。さらに言ってしまえば、ここが全滅しても……」
そこまで言ってから優一郎は口許に嗤いを浮かべた。
「星ひとつ割った事があるのにこの程度で感傷的になってどうするんですか?」
穏やかな口調で告げると佑が勢いよく顔を上げて優一郎を睨む。水輝がそんな二人の間にはいはい、と言ってさりげなく割り込む。
「それ以前にだな。おまえを引っ張った時に既にここは一度、滅びかけてるんだよ」
向き直った水輝がその場に屈み、佑の頭を撫でる。
「水輝さん……」
そう言って佑が水輝の胸にぎゅっと抱きつく。それを見た優一郎は険しい目で佑を見た。水輝に抱きつきながら、佑がこっそりと優一郎に舌を出す。水輝はだが、そんな佑の仕草に気付かなかったのか、よしよしと宥めながら佑の頭を軽く撫でる。
「とりあえず、外部ゲートで事故が発生したことにするしかありませんね。責任は、彼に被ってもらいしょう」
そう言って優一郎はバズーカを肩に担いで事切れている保安部員に顎をしゃくってみせた。そうだな、と言った水輝が佑をさりげなく解いて立ち上がる。
「少なくとも外には漏れなかったらしいから、実験継続かな、これは」
水輝がシャツのポケットから出した煙草を唇に挟んで呟く。
「水輝、実験って何なのです?」
桂が不思議そうな顔をして問う。呼ばれた水輝が桂を振り返りながら煙草に火を点け、肩を竦めて笑う。
「秘密。おまえも今回の件は口を噤めよ。でねえと強引に口がきけないようにすんぞ」
「水輝。納得いきません。秘密は守ります。教えてください」
憮然とした顔をして桂が言う。優一郎はそんな桂をまじまじと見た。さっきからどうも妙な思惟が桂から流れてきている。優一郎の身体が横に伸び、二倍の幅になったところで切れ、切れ端が佑の姿に変わるという光景が何度も繰り返されているのだ。どうやら水輝もそれを読み取ったらしい。呆れた顔をして桂を見る。
「おっまえ、そりゃあねえだろ。プラナリアじゃねんだぞ」
確かに分裂した訳じゃなかったんだけども。水輝が渋い顔をしてぼそぼそと付け足す。
「私には佑と、それはまったく違って見えます。でも、それは自分と佑は同じだから佑の持ってるものを全て寄越せと主張する。信じられません」
そう言いながら桂がびしりと優一郎を指差す。それまで呆れた顔をしていた水輝が剣呑な目をして桂を睨む。
「それってのは優一郎のことか?」
「佑と同一と言ってるから。区別するためにそう呼んでます」
桂がぴしゃりと言い捨てた直後、水輝がゆらりと桂の前に進み出る。
「よほどリサイクルゴミに出されたいらしいな」
低い声で言ってから水輝は右手に握っていた刀を両手に握り替えた。
「水輝。同一なのですか? 同一でないのですか? 教えてください」
桂が真っ直ぐに水輝を見つめて言う。そんな桂を庇おうとしていた佑が、困惑した面持ちで水輝と桂を見比べる。
「ちょっと……。桂……」
小声で佑が言った途端、水輝が唐突に笑い出す。刀を納めた水輝がにやにやと意味ありげに笑って振り返る。優一郎は両手を軽く広げて肩を竦めてみせた。
「同じじゃねえよ」
「水輝さん……」
優一郎は思わずそう呼びかけた。水輝が握っていた宝珠を器にしまい込み、やれやれとため息を吐く。
「優一郎は替えがきかねえんだよ。まあ、おれもついさっき気が付いたんだけどな」
優一郎本人も同じだと思ってたろうよ、と続けて水輝が苦笑をしてみせる。
「僕はっ……! ぐはっ!」
唐突に衝撃が襲ってくる。凄まじい勢いで走った佑が優一郎の腹に刀を突き立てたのだ。
「返してもらうわよ」
にっこりと佑が微笑む。優一郎は苦しい息を吐きながら床に膝をついた。
「おまえらなー……。何でそういう乱暴な方法しかとれねえんだよ」
呆れたように言ってから水輝が軽く佑の肩を押し退け、優一郎の腹から刀を抜く。床にうずくまった優一郎の身体を水輝が軽々と抱え上げる。
「わたしは消そうとしたわけじゃないわ。優一郎よりよっぽど平和的よ! 返してもらっただけだも……まあ、ちょっと多いけど、迷惑量ってことで」
床に転がった刀を拾い上げて佑が言う。へえへえ、と間延びした声で答えてから水輝が身を屈めて優一郎の唇を塞ぐ。唇を介して治療の力が流れ込んでくる。優一郎は目を閉じて流れてくる力に身を任せた。
「今度、おれの前で切った張ったをやらかしたら、ただじゃ済まさねえぞ」
顔を上げた水輝が剣呑な目で佑と桂を睨みつける。優一郎はぼんやりとした目で水輝を見上げた。
「優一郎も?」
佑がそう問い掛ける。
「おまえらが、だ! 優一郎も佑に斬り掛かるな、鬱陶しい!」
そう言って水輝が腕に抱えた優一郎を睨みつける。
「それで、いいんですね? 水輝さん」
優一郎は真面目な顔をして水輝に問い掛けた。水輝が忌々しそうに舌打ちをする。
「ああ! 別に一番じゃなくてもいいっつってんだ! ……あ。そうだ。今度、おまえらが揉めたら、おれは問答無用で一人旅に出ることにしよう。そうしよう」
早口で言って水輝がうんうんと頷く。
「もうしません。ごめんなさい」
佑がしおらしい顔をして答える。
「わかり、ました……」
そう答えてから優一郎は繋ぎ止めていた意識を闇に落とした。
優一郎と佑は会ったらとりあえず殺し合うというね!
まあ、水輝の取り合いみたいなものです……。