普通の学生だった私は、異世界転移した。そんでもっていきなりさらわれて、『ダンジョン奴隷』としてダンジョンに潜ることにされた。
エロモンスターしかいないこの世界で、全滅と苗床を繰り返しながらだんだん順応していく自分を思い返す。
一度目、全滅。二度目、全滅。三度目も、まあ、すでに、ほとんど全滅。
四度目はまだわからないけど、たぶん、やるんだろうな。
チートもない、現代知識無双もない。意味不明ないきなり異世界転移から、転がり落ちるようにこの世界に順応していく。
これが、私の異世界転移。
たぶん救いも、何もない。
※小説家になろう ノクターンノベルズにも投稿しています
「あー……掻き出さなきゃ……」
起きたら膣の中がモンスターの精液でいっぱいだった。
この世界のモンスターは種族に関係なく孕ませる。だから私たち冒険者は、モンスターに犯されたら妊娠をする前に精液を掻き出さないといけない。
数か月前なら受け入れられなかった『この世界の常識』にも、今はもう慣れたもので、なんだか、笑ってしまう。
どうやら私は、異世界転移をしたらしい。
帰る手立てはまだわかっていない。
ダンジョンの最奥にある『願いを叶える宝石』を目指して冒険を繰り返しているけれど、今はもうこの世界にもなじんでしまっているし、この『地下へ向けて伸びる塔』の攻略も遅々として進まないしで、この世界で一生を生きるのかなー、なんて思いつつある。
いつからこんなにこの世界に馴染んでしまったのだろう。
モンスターの精液を出すための魔法陣をお腹に書きながら、ちょっとだけ、思い返してみよう。
あれはまだ私が処女だったころ。
このエロダンジョンまみれの世界に転移して、まだまだ何もわかっていなかった、無垢だったころの話──
◆
異世界転移をした。
「は?」
第一声はそんな感じだったと思う。
わけがわからなかった。確か、校門をくぐったらまったく知らない場所に出た、とかだったかな。
私は普段からあんまりリアクションが激しくないタイプで、この時の『は?』は、これでも人生で一番大きなリアクションだったと思う。
商店街に続くはずの退屈な下校路は、瞬き一回の間に、異国情緒あふれる街に変わっていた。
金髪や茶髪、それに、赤や青、銀色なんかのアニメみたいな髪色の人たちが行き交う場所で、私はぼんやり立ち尽くした。
人いきれが立ち上る道の真ん中で立ち止まっている私の左右を、人が流れていく。
妙なものを見る目が気になって、私はとにかく、人目につかない路地裏に逃げ込んだ。
そうして奴隷商人に捕まった。
今思い返しても、とてつもないスピード感だった。
私の服はこの世界では珍しい素材だったらしくすぐにはぎ取られて、私はオークションにかけられることになった。
全裸のまま手枷と足枷をつけられて、雑に並べられて、競りみたいに落とされる、そういうオークション。
どうにもこの世界では奴隷というのが『労働力』として普通に毎朝、市が立つぐらい売られているらしい。
そうして私にも買い手がついた。
私個人を買ったわけではなくって、数人のまとめ買いの中に、私が含まれてただけだった。
そうして私は冒険者になった。
展開のスピードが早すぎて、ずっと置いてけぼりの気持ちのまま、心の中では『は?』しか言えてなかった気がする。
◆
この世界には『どこまでも地下に伸びるダンジョン』があって、そこを採掘することで成り立っている街がいくつもあるらしい。
ダンジョン都市なんていう呼び名がついている都市が多くあって、私が『出た』この街も、そういう都市らしかった。
「ナコは何も知らないねー」
私にこの世界の常識を優しく教えてくれたのは、ミミルという名前の人だった。
私とセットで売られた奴隷の一人で、故郷の村を焼かれて家族や親戚を失い、彷徨い歩いていたところをさらわれて、商品になったらしい。
彼女は何度か奴隷として売られており、なんだかとても、慣れたものだった。
「だいたい、セットで買われた六人ぐらいが『パーティ』になって、ダンジョンに放り込まれるんだよ。ダンジョンでお宝をとって、それで自分の金額ぐらい稼げたら解放されるの。それか、パーティが半分ぐらいになったら、いったん戻されて、また別なセットで売られるんだ。私はもう六回もダンジョンを経験したから、こうやってナコみたいな新人とセットにされてるんだよ。教官役? っていうのかな」
ミミルは親しみの持てる笑顔で、私に色々なことを教えてくれた。
異世界転移してわけもわからず全裸で売られて、どうにもこれからダンジョンに挑まされるらしい私は、不安の中で優しくしてくれたミミルに、びっくりするぐらいチョロく懐いた。
結果、裏切られる。
私は『六回もダンジョンを経験して生き残っているミミルという女』について、よくわかっていなかった。
それは仲間を犠牲にして自分だけ生き延びたということで、特にミミルは、私みたいな物を知らない新人を朗らかな笑顔でだまくらかして、肉盾にするということを繰り返していたみたい。
なんでそんなことがわかったかっていうと、ダンジョンの中で教えてもらったからだ。
ミミルに売られてモンスターの苗床にされた、ミミルのお仲間に、聞かされた。
◆
というわけで私の処女は失われた。
この世界の冒険者が不自然に女性ばっかりだったことに、私はもっと注意すべきだった。
この世界はどうにもエロモンスターだらけのダンジョンらしい。正しくは、女は苗床として生かすけれど、男は即殺すというダンジョンらしい。
苗床にされる、つまりモンスターを増やすのに、女性ばっか放り込んでいいの? と思ったけれど、どうにも『殺す』モードのモンスターが本当に強くて、男は第一階層の入り口ぐらいでもめちゃくちゃ殺されるらしく、資源採集目的で行かせるには、女の方が都合がいいんだって。
お隣で今日の出産を終えた『元ミミルの仲間』のサーラさんが教えてくれた。
褐色肌が魅力的な人で、年齢はたぶん、私より少し上かな、と思っていた。
ところがこの十代そこそこの見た目で、十年は生まされてるらしい。
「ダンジョンに入ると歳をとらなくなるが……?」
当たり前だろ、みたいに言われても、え、そんなの知らない、怖……って感じ。
ようやくこの世界が『女性だけがダンジョンに放り込まれて、ダンジョンで負けると苗床になり、モンスターを延々生まされる』『ダンジョンに入ると肉体年齢が増えなくなる』というとんでもないダークな世界だと判明した。
でもこの時の私は処女を失ったばっかりだったので、延々とモンスターを産まされるとんでもない快楽と羞恥と、世界が終わったみたいな絶望のせいで、あまり話を理解できていなかった。
あと、世界が終わってくれるのは絶望じゃない。
私たちは苗床として、下手すると永遠を生きることになる。
たまに助け出される人もいるけれど、それはよっぽど運がいい場合。
下手すると正気を失った状態で発見されたりするんだとか。
サーラさんも『そういう状態で発見された人』を何人か見たらしい。
「でも、あきらめなければ、また生きて帰れる。だから、心を強く持て」
私はこの時、汚いあえぎ声をあげていた気がする。
サーラさんも『胎休め』の時間が終わったのか、ウネウネした触手に犯されて、またひどいあえぎ声を挙げ始めた。
私がこのあとどのぐらい犯されて、どのぐらい産まされたのか、詳しくはわからない。
でも、しばらくあと、助け出された。
助けてくれたのは、私を裏切って触手の群れに蹴り出したミミルだった。
◆
どうにもこの世界では、『誰かを肉盾にしてダンジョンの内部に置き去りにすること』があまり重大な悪事とみなされていないらしかった。
何せ老いないで延々生き続けるので、正気さえ失わなければ、いずれ助け出されることもあるから──という理屈らしい。
意味わかんない。
頭、おかしいの?
「ごめんって。ほら、お肉食べて」
ダンジョンのモンスターは様々な『素材』を落とすし、ダンジョンそのものからも、『素材』は発掘される。
ダンジョン都市というのはその『素材』を回したり、輸出したりすることで成り立っているらしく、街の賑わいは、ダンジョンに潜る『ダンジョン奴隷』ありきのようだった。
ダンジョン奴隷は苗床にされたり発狂したりするけれど、まあまあ安定した稼ぎ口のようで、ミミルみたいにダンジョン奴隷を抜けても、自ら奴隷商人に売り込んだりして、またダンジョンに籠もる人もいるみたいだ。
こういう世界なら冒険者ぐらいあるでしょ、みたいなふうにたずねたら、『ぼう……けんしゃ……?』という顔をされてしまった。
ダンジョンに潜るのはダンジョン奴隷の仕事で、それ以外にダンジョンに潜るための窓口はない。
そういえば私がさらわれた時の感じも、「はいはいお嬢ちゃんいい服着てるねー。でもこんな時間にぶらついてるってことは仕事ないんでしょ。はいこっちこっち」みたいな様子だった。
それでついうっかり抵抗も忘れてついていってしまった、というのもある。なんだかすごく当たり前みたいにさらうんだ、人を。たぶん気分的には職業斡旋ぐらいのノリなのかもしれない。
この時の私は結構順応していたと思う。
苗床を経るとなんだか変な度胸みたいなものがつくらしい。それに、私を裏切ったミミルがあまりにも悪びれないのと、同じくミミルに裏切られて肉盾にされたはずのサーラが、『怒りつつも、まあ、そういうこともある』みたいな軽い怒り方なのを見せつけられて、『あ、ここはこういう世界なんだ』とあきらめがついてしまった、というのもあるかもしれない。
どうやら『ダンジョンに置き去りにされて苗床経験を積まされる』というのは、この世界において、『お肉おごるから許して』で許されることらしい。
私はお肉を食べた。
このお肉の中に私が産んだモンスターもいるかもしれなかったけれど、あんまりそういうことは考えずに食べた。
「そういえば私、奴隷商人を始めたんだよ」
ある程度経験を積み、『あ、もうこれ以上先には行けないな』と自分の実力に見切りをつけたダンジョン奴隷は、奴隷商人にジョブチェンジするらしい。
そういえば私をさらった奴隷商人も女性だった。あと、ダンジョン都市は冷静に周囲を見れば、女性比率が非常に多い。やっぱり、実際にダンジョンに潜るダンジョン奴隷が経済の基盤を担っていて、それが女性しかいないから、という理由なんだろうか。
「サーラもナコもまだダンジョン潜り続けるでしょ? うちのとこから売られてみない?」
私たちダンジョン奴隷はパーティという単位でセット売りされるのだけれど、これを買うという行為は、いわゆる『馬券を買う』みたいなものに該当するらしい。
送り込んだダンジョン奴隷が持ち帰った『素材』の七割ほどが『買い主』には進呈される。残りの三割は奴隷が所有してよく、奴隷商人は『賭け金』を儲けにする、みたいな構造だ。
なのでミミルやサーラみたいなベテランには高い値段がつくらしい。
あとは実績も結構管理されている。とはいえ、ベテランには新人もつくのがほぼ絶対のルールみたいな感じなので、『あのベテランは新人売るんだよなー』とか、『あの新人はやりそうだな』とかで奴隷の値段が高くなったり低くなったりするんだとか。
ミミルが奴隷商人にジョブチェンジした背景も、私たちが苗床をやっていた間にもガンガン新人を売った、ようするにダンジョンに置き去りにしたため、悪評が消えなくなってしまい、ミミルがいるというだけでパーティに『買い手』がつかなくなったから、という理由らしかった。
で、その人が『自分のとこで奴隷やらないか?』とお肉を奢りながら持ち掛けて来ている状況。
私は当然『ふざけんな』と思った。
でも、サーラは、
「まあ、いいだろう」
承諾した。
この世界の価値観に馴染み始めてきたと思ったけれど、この時の私にはまだまだわからないことが多いようだった。
私は苗床仲間で仲良くなったサーラと離れるのが心細くて、『ナコはどうする?』と問われて、『あ、はい。私も行きます』と答えてしまった。
こうして私は、私を売ったミミルに買われて、またダンジョンに潜ることになった。
◆
新人と組まされた。
冒険総数一回、苗床経験一回の私が指導役というわけではなくて、サーラが指導役と見込まれて、新人が加わったわけだ。
新人はいかにも世間を知らなさそうなかわいい子で、名前はユイラというらしい。
ダンジョン奴隷市場はいつでも商品不足なので、奴隷商人はそのへんを一人でふらふら歩いてる子はとりあえずさらう(とりあえずでさらうな)らしいのだけれど、彼女もまた、故郷の村の森をふらついていたところ、捕まったそうだ。
なおこの世界、わりと村が焼かれたりする。
戦争があるとかではなくて、地上にもモンスターが出ることがあるらしく、モンスターへの対処は基本的に『モンスターが出た地域ごと爆撃する』というものらしい。
そしてモンスターは基本的に、人を目指して向かっていくので、結果として、地方に出ると、その地方の村にモンスターが集い、モンスターごと村が焼かれる、みたいなことが起こるらしい。
なお、中にいる人の生命はもちろん関知しないものとする。……ふざけているように思えるのだけれど、女の子だと、まあ村がなくなっても最悪ダンジョン奴隷という道があるし、モンスターは男性を殺す時はマジで容赦ないので、最も被害を抑えられるのがそういう方法なのだとか。
「兵器とかあるんですね」
そういう話を聞いて真っ先に出た感想がそれのあたり、私もこの世界に染まってきているな、という感じだった。
「ダンジョン資源でいろんなものが見つかるんだ。今の技術ではどうしても製造できない武器とか道具も見つかるよ。あと……ダンジョンの最奥には『ダンジョンコア』って言う宝石があって、それは『最初に触れた者の願いを叶える』って言われてるんだよー」
ミミルという女はとにかく朗らかで明るく、なんでも優しく教えてくれるお姉さん、みたいな顔をしている。
金髪碧眼の、どこかゴージャスな印象のある美女だ。
でもダンジョン内での裏切り行為が多すぎて、もはやダンジョン奴隷としては値段がつかず、今は奴隷商人をやっている。
人は見かけによらないな、と私は学習する機会を得ていた。
でも、まだまだ私は、甘かった。
私はこの時点でまだ気付いていなかった。
いかにもぽやぽやした『ああ、ちょうちょとか追いかけてる間に売られたんだな』みたいな見た目の新人、ユイラちゃんが、まさかあんなふうになるなんて、全然、私はこの時、気付いていなかった。
◆
ユイラ無双が始まった。
彼女は私より三つぐらい年下という感じの、銀髪をボブカットにした、小柄で細い女の子だ。
私たちダンジョン奴隷は基本的に全裸で売られて、ダンジョン内で見つけたものを装備して身なりを整えていく。
実際に生存する人間を使ったローグライクゲームだ。ゲームの駒にされる身からすると『最低限の服とか武器ぐらい最初によこせ』と思うけれど、この世界はずっとそういう感じでやってきているらしい。
だいたい初戦を乗り越えると人数分の武器をモンスターが落としたりするけれど(落とすというか、中に埋まっているので、肉を引き裂いて取り出す感じになる)、初戦を超えるまでが大変だ。
その初戦で、ユイラちゃんがいきなり頭角を現した。
いかにも竿厄みたいなデカイ緑色の豚顔のモンスターが出た。
いかにも人を叩き潰しそうな棍棒を持っていた──が、私たちが全員女なのを確認すると、棍棒をその場に捨てて、勃起をしながら、両腕を広げて捕獲の構えに入る。
ユイラちゃんは、その豚顔の、三メートルは全長がある化け物が持っていた棍棒を『よいしょ』と拾い上げて、化け物の股間にフルスイングした。
下から上へ打ち上げるフルスイングだった。
化物はその衝撃で天井に頭を打ち付けられ、泡を噴きながら地面に落下した。
落下した化け物の頭部をユイラちゃんは何度も何度も叩いた。
思い出したくもない音が響き続け、あっけにとられていたサーラが「もう死んでる!」とユイラちゃんを止めると、ユイラちゃんは返り血の浴びた顔で振り返って、ゆるく微笑んだ。
「あ、もう大丈夫ですか? すいません、よくわからなくて」
ユイラちゃんは、精神も肉体も、とんでもない化け物だった。
彼女に足りていないのは常識と『争おう』という心意気だけで、だから勢いに流されてミミルとかいう最悪の奴隷商人に捕まってしまったわけなのだけれど、最初から『討伐します』の対象であるモンスターを相手には、果敢を通り越して当然のように殺しに行くという、キラーマシーンでもあった。
とにかくやべぇ新人にパーティ全員が引いてしまった。私も含めて。
しかしこの新人は希望でもある。
苗床慣れしてるメンバーもいたが、基本的に苗床にはなりたくないもので間違いない。
なっちゃったなら心を強く持って助けを待つしかないけれど、ならないなら、ならない方がもちろんいいのだ。
私たちは相談した結果、ユイラちゃんを中心に、行けるところまでダンジョンを進むことに決めた。
奥の階層ほどいいものがあって、別に奴隷をやめても生きていけるぐらいの貯蓄があれば、苗床になる危険を冒してまでダンジョン奴隷をしたくない人が大多数だからだ。
ようするに私たちは、アーリーリタイアを、ユイラちゃんに賭けることにしたのだ。
ただ……
私は、願いを叶える宝石というのが、この時点で、気になっていた。
だって、それがあれば、元の世界に帰れるかもしれないのだから。
この時の私はまだ元の世界に戻りたい気持ちがそれなりに強くあったらしい。
思い返してみると、『若いな』って感じだ。
◆
ユイラちゃんがモンスターをボコボコにするのを後ろから眺めるか、ユイラちゃんが強敵に殴り掛かれるように、雑魚を引き受ける。
そういう戦術で私たち六人は、十階層も降っただろうか。
そういえばお腹も空かないし、トイレも行きたくならないな、なんてことを、この時ようやく私は気付いた。
「ああ、それはダンジョン内では私たちの時間が止まっている? らしい」
サーラは物知りのベテランで、聞けばだいたいのことを教えてくれる。
この褐色の格好いい系美女は生真面目な性格なので、教え方も丁寧だし、リーダーとして非常に頼れる人だった。
しかしこの性格のせいでたびたび裏切られて囮にされ、苗床経験も、実は、私の隣で産まされていたのが初めてというわけではないらしかった。
とにかくダンジョンにいる限り、私たちは生きるために必要なことから解放されるらしい。
それはつまり、苗床になると死ぬこともできず、発見されて救出されるまで、延々と産まされ続けるという意味なのだけれど……
「ユイラは『女神の加護』を授かっているのかもしれない」
ともあれ『なんでダンジョンだとお腹が空かないのか?』の明確な答えを持っている人は、この世界にはいないらしかった。
いろいろな説があるらしいけれど、人知を超えすぎていて、正確なところは全然、理解が及んでいないようだった。
で、そういう『理解できない不思議現象』は神様というのがやってんでしょ、みたいにざっくり理解されていて、ダンジョンで生き抜く、ダンジョンを攻略する、明らかに特異な才能を持っている子を、『女神の加護を授かっている』と表現するんだとか。
なんで女神なのかと言えば、ダンジョンは戦う場所で、この世界でダンジョンで戦うのは女性で、結果、女性の方が男性より勇ましいイメージがあるから、なんだとか。
「サーラさんは、ユイラちゃん以外に『女神の加護』を授かった人を見たことはありますか?」
「ああ、ある。けれどまあ、ただ単に力が強かったり、神がかり的に読みがうまかったりすることを『女神の加護を授かっている』と言うだけだからな……実際に女神の加護というものがあるかどうかは、よくわからない。もしかしたら、まったくそういうのではない、ただ人よりちょっと強いだけの人、だったのかもしれん」
女神の加護。
……これ、異世界転移者の私にもありそうでは???
などとこの時は思っていました。
私は案外、そういうのが欲しかった。だって、なんかいきなりこんな世界に転移させられて、チートの一つもないなんて、ちょっと納得いかないにもほどがあるし。
結果的に、たぶん、そういうのはなかったんだと思う。
このあと私たちは全滅して、ユイラちゃん含めて苗床になりましたとさ。
ちゃんちゃん。
◆
救出された時に精神に異常をきたしていなかったのは、私とサーラだけだった。
ユイラちゃんはおかしくなってしまった。まあ、小柄だし、ずいぶん太いので犯されてたし、産む量も私たちの五倍ぐらいだったし、しょうがないよね。
おかしくなったダンジョン奴隷は、救出時に回収される。
その後どうなるかは知らない。『神殿入り』という表現で誤魔化されていたけれど、まあ、たぶん、ろくなことにはならないんじゃないかな。
ユイラちゃんのかわいい笑顔、ぽやぽやした様子でモンスターどもを薙ぎ払うキリングマシーンぶり。仲間意識……
そういうものもあったけれど、私は結局、ユイラちゃんの『その後』を追わなかった。
たぶん『この世界は、こういうものだ』っていうのがすでに骨身にしみていて、この世界で……元の世界みたいな倫理観? 道徳? で動くことの無力さを思い知ってたからかもしれない。
そもそも私も苗床暮らしでまともに動けない状態で、回復したころにはもうユイラちゃんは『神殿入り』してたので、どうしようもなかった、というのがある。
神殿もどこにあるかわからない。この世界の人は、神様にお祈りすることはあんまりないようで、街にも神殿と呼ばれる建物はなかった。
だから私は正気を失わないようにしようと決意した。
正気を失ったが最後、この世界だとどういう扱いをされるかわからない。下手すると殺されるかもしれない、と思ったから。
「今回の稼ぎ、けっこういったけど、どうする?」
相変わらず悪びれない笑顔のミミルに聞かれて、私はちょっと悩んだ。
私たちが苗床になる前までに集めていた『素材』は、ネコババされることもなく、きちんと私たちの収入として還元されたのだ。
これは『ダンジョン奴隷を保護する』というよりも、『ダンジョン奴隷を買った人たちに公正である』という意図のシステムらしい。
当たり前だけれど、奴隷を買う人は金持ちも多くて、発言力も高い。救出された奴隷たちの集めていた素材を回収した奴隷がネコババするのは、そういうお金持ちへの裏切りになる。だから、されず、結果的に、私たちダンジョン奴隷にも、儲けが公正に渡される。そういう感じ。
だから今回の稼ぎは結構なもので、私たちは歳はとらなくなるけれど、別に不死になるわけじゃないらしくて、だいたいの人の平均寿命ぐらいで死ぬから、それだけ生きられる稼ぎになったけどどうする、と。そういう意味の問いかけらしかった。
サーラは引退するらしい。
引退して奴隷商人をやるそうだ。
私もミミルにその道を示されたけれど、私は……
「またダンジョンに潜るよ」
「じゃ、またうちで取り扱うよ」
ミミルは朗らかで、コミュ力が高くて、頼りになりそうな微笑を浮かべている、裏切り者女だ。
でも、私にとってはもう、馴染みの奴隷商人だった。
この世界ではこういう感じで『自分を裏切った人』を許すんだろうな、というのがなんとなく心で理解できた気がする。
人を恨むほどのエネルギーがわかない。そんなエネルギーがあるなら、他にもっとやるべきことがある。
だから私はまた、裏切り者のミミルのもとで、ダンジョン奴隷として競りに出されることになった。
二度、パーティを裏切らずに生還し、二度、苗床になっても正気を失わなかった私は、この世界においては『ベテラン』に足を踏み入れているらしい。
指導役として新人の入ったパーティにまとめられて、私は三度目の冒険に出ることになった。
そして、私以外、全滅した。
◆
魔法というものがこの世界にあると知ったのは、ユイラちゃんとの冒険の時だった。
この世界には人知の及ばぬものが、特にダンジョン内部に集中的に存在する。
魔法もその一種で、特殊な巻物を見つけることで、そこに書かれた魔法が使えるようになる。
巻物やら武器・防具は『買い手』に渡される『素材』の中に含まれないらしい。なぜなら、ダンジョンの内部でしか役立たないものだからだ。
だから私はユイラちゃんとの冒険で得た魔法を修得している。
そう──『お腹からモンスターの精液を掻き出す魔法』を!
……なんだかなあ。用途が……
でも実際、有用だ。
私の胎に出された精液が、魔法陣を起動するとすごい勢いで噴き出していった。
「あっ♡ 待っ、やば、これ、勢いっ……♡」
ぶびゅびゅびゅびゅ、という人前では出したくない音を立てながら、膣から精液が噴き出していく。
モンスターの精液も白くて、かなり、濃厚で、どろりとしている。ねばりもあって、かなり、糸を引く。
私はイきながら、自分の膣から出て行く精液を見ていた。
もう感慨もないし、羞恥も絶望も、かなり薄れていた。『あ、出てるな』という印象で、『あ、イッてるな』という他人事具合だ。
三度目の冒険。
私が指導する新人を含めた五人は、モンスターに連れて行かれてしまった。
私は最後まで抵抗したけれど、五人全部犯されて意識を奪われた時点で、さすがにあきらめて逃げた。
もしかしたらこれも『見捨てる』の一種かもしれない。……助けに行く意思はあるけれど、がむしゃらに逃げたせいで、みんながさらわれた位置がどこなのかわからない。
ここで逃げ帰れば無事に素材を持って生還できるんだろうけれど、そうすると奴隷として悪評が立ってしまう。
ミミルなんかはそれでも『逃げる』という選択をし続けた。今なら思うけれど、たぶんミミルは苗床になったことがない。
苗床になったことがないと、苗床になることを恐れる。気持ちはたぶん、わかる。私も、この世界について最初から知っていたら、苗床なんか絶対になりたくなくて、仲間を蹴り捨てて自分だけ逃げたかもしれない。
でも、成り行きとはいえ二回も苗床にされてみると、なんだかもう、『まあ、死なないし、いいか』ぐらいの感じになってしまう。
だから私は、進むことにした。
ここがどこかはわからないけれど、まあ、歩いていれば、いつかは、仲間のいる『産み場』にたどり着いたり、あるいは下の階層に行ったりするかもしれない。
全部で何階層あるかもわからないし、最奥に願いを叶える宝石があるかどうかも、ぶっちゃけてしまうとわからない。
でも私はたぶん、最奥を目指すんだろうな。
元の世界に戻りたいっていう意思はもう、そんなでもない。
私は慣れてしまった。あるいはスれてしまった。もしくは諦めてしまった。
目標が途方もなさすぎる上に、ダンジョンを最奥まで行っても、本当に願いを叶えてもらえるかは眉唾だ。熱意をもって目指すには、あまりにも遠すぎる。
それでも奴隷商人になって人をさらって売るのは何か嫌だし、かといって全部を諦めてこの世界で隠居するのもソワソワする。
だから『とりあえず』、私は最奥を目指す。
なんの物語性もないし、チートなんかもない、最悪の異世界転移に順応した結果が、これ。
私はダンジョン奴隷をやっている。
たぶん希望なんか一個もない閉塞した状況で、私が元の世界に帰ることもきっとない暗闇の中を進んでいるんだと思う。
でも、慣れれば案外、ぽけーっと生きていける。
これが私の、異世界転移。
「あ」
そして私はまた苗床になりましたとさ。
天井から丸呑みは、ズルじゃん。