・羽沼 マコト
・空崎 ヒナ
・棗 イロハ
トリニティとの会合を控えた羽沼マコト。
仮眠中の彼女に恐ろしい事件が降りかかるのであった。
マコトは無事に会合を終える事はできるのか?
ー万魔殿本部ー
出張から戻って早々、あのタヌキがやらかした。風紀委員会の予算を120%カット。
全く意味が分からない。
いつもの嫌がらせと分かってはいるが、長期の出張を終えた後にこの様な面倒事に巻き込まれるのは正直、勘弁して欲しい。
荷物を執務室に置いてMGを片手に、ヒナは万魔殿のタヌキことマコトのいる万魔殿本部まで来ていた。
執務室のドアをノックするも返事は無い。
再びノックするも返事は無い。
額に青筋を立てながらドアノブに手をかけ、扉を開けると、鍵はかかっておらず、すんなりと扉が開いた。
「入るわよ」
扉が開いているなら話しは早い。予算の件を問い詰め、必要なら武力を持って抗議をしなければならない。
自然とMGを握る手に力が入り、いつでも撃てるよう安全装置を解除する。
そして、扉を開け、マコトに抗議の言葉をかけようとしたヒナだが、そのまま動けなくなった。
理由は2つ。1つ目は目の前の光景に、思考が追いつかなかったから。2つ目はその元凶である人物が、冷や汗を流しながらその手に握られた物を必死にマコトの頭部に押し当てていたからだ。
「……イロハ。何をしているの?」
「……いや、これは」
そう、万魔殿に所属する戦車長である棗イロハが、椅子の背もたれに身を預け、爆睡しているマコトの頭部……正確には根本から折れた角を必死にくっつけようとしていたのだ。
「これには……ですね。深い事情がありまして」
「折ったの?」
「違います。決して時間になっても起きないマコト先輩に苛立って角を掴んで揺さぶっていたら根本から折れたわけでは……あっ」
「そう、折ったのね」
「はい。折ってしまいました。それで慌てて付け直そうとしていたら風紀委員長が来てびっくりしただけです」
「そう……別に、角は生え変わりするんだから付け直す必要はないと思うんだけど」
「それはわかっているのですが、今日はこの後、トリニティとの会合があるんです。その時、角が片方折れた状態ですと、トリニティのトップから何を言われるか……」
イロハ自身は特に気にしないのだろうが、マコトは別だ。片方の角が折れた状態で会合に挑み、その件を指摘されれば面倒な事になるのは間違いない。その為、急いで接着剤でつけようとしたのだが、一度取れた角は中々くっつかない。
そうこうしている内に、扉をノックする音が聞こえ、扉を開く音と共にヒナが室内に入ってきたというわけだ。
「トリニティだったら、ティーパーティーのナギサとは何度か話し合いの場を儲けた事があるけど、そんな事をいう性格じゃないと思うんだけど」
「そうですね。トリニティの代表が彼女であれば問題ありませんが、もしも他の2人……特に聖園 ミカだった場合、話が拗れる事は間違いありません」
「それは……まぁ、そうね」
「それに、もしもこの件で話が拗れたらその皺寄せは風紀委員会にも影響を及ぼすかもしれませんよ」
「出来れば私達を巻き込まないで欲しいんだけど」
「無理ですよ。マコト先輩は何かあればそれを風紀委員会のせいにしてまた無理難題をふっかけるに決まっています。ですので一蓮托生という事でどうでしょうか?」
「どうって、取り敢えずは角が元に戻すか代用品で賄えば良いって事でしょ? それなら、角の代わりになる物を探してくるわ」
「ありがとうございます。私も、何か代わりになるような物を探してきます」
そして、2人が折れたマコトの角の代用品を探しに出てから数分後の事。
2人の手には代用品となる物が握られていた。奇しくも2人が用意したのは同じ物。
『完全なる水晶埴輪』であった。
「……因みに風紀委員長はそれを何処から?」
「っ? アコに相談したら持ってきてくれたわ。綺麗にしているから大丈夫って、衛生面では問題ないはずよ。イロハは何処から持ってきたの?」
「私は……私物を置いてる部屋を探していたらあったので……私のも綺麗な状態ですので衛生面は問題ないはずです」
「……そう。ならこれをくっつけて、様子を見るとしましょう」
「ですが、見た目が左右違っては……」
「片方が折れてるなら、もう片方も折って代用品と入れ替えれば良いじゃない」
そう言って、無事な方の角を掴んで根本から折ると、水晶埴輪の底の部分に瞬間接着剤を付け、ビタンッとくっつけた。
同じ色合いの水晶埴輪が角代わりに聳え立っている。マコトの寝息に合わせてプルプル震える姿は、何処か滑稽だが、見栄えは左右ともに問題なく見えなくもない。
(これで本当に大丈夫でしょうか? なんだか、頭に卑猥な物をつけた変質者のようにしか見えないのは私だけでしょうか?)
(強引に押し切ったのは良いけど、よくよく考えたら普通に折れた角を削って付けやすくした方が良かったのかもしれないわ。私も内心、動揺していたのかもしれないわね)
「ん……う〜ん。おぉ、イロハか。もう時間か?」
「お、おはようございますマコト先輩。そうですね。そろそろ会合の時間ですよ」
「……うん。そうか……って、何故貴様が此処にいる? 空崎ヒナ」
「何故って、貴女が風紀委員会の予算をカットしようとしたから抗議に来ただけよ。それよりも良いの? もう直ぐ会合なんでしょ。こんな所で油を売っている暇はないと思うのだけれど」
「ふん、言われなくとも分かっている。行くぞイロハ。風紀委員長の事など気にする必要はない」
ふんっと鼻を鳴らし、椅子から立ち上がると、イロハを引き連れて部屋を退室するマコト。その後ろで、イロハがヒナに『すみませんでした』とジェスチャーしたのを見届けると、ヒナもまたため息を吐いてその場を後にするのであった。
尚、今回の会合に参加したティーパーティーの桐藤ナギサは、マコトの頭部で揺れる水晶埴輪が気になって会合どころではなかったのは言うまでもないだろう。
終始自分のペースで会合を終え、満足していたマコトであったが、周りの視線やヒソヒソと囁かれる声が気になったのか、若干気になりつつも、自室に帰ってから鏡で自分の頭部を確認し、その意味を知るのであった。