・空崎 ヒナ
ヒナが敗北して酷い目に遭う話です。
ゲヘナ自治区の工業地区。
そこで不良生徒達が違法取引をしているという情報を得た風紀委員会の委員長、空崎 ヒナは、単身でその現場へと急行した。
情報通り、そこでは不良生徒が違法改造された銃を密売している現場を発見し、彼女達を取り締まろうと試みた。しかし、不良生徒達も黙って捕まる程、甘い者達ではなく。ヒナと不良生徒達との間で銃撃戦になった。
数ではヒナの圧倒的不利な状況。しかし、彼女個人の力は数百人単位が所属する風紀委員会の半分以上の戦力を有しいており、数の不利は物ともしない。
一人、また一人と無力化されていく不良生徒達。不良生徒達も、黙ってやられてばかりではいられないと、最後の切り札にオートマタを起動させた。
カイザーコーポラーションで開発された特殊兵器のオートマタ。その外見は人を模した機械人形。しかし、その性能は人の域を遥かに凌駕する。その戦闘力は軍用無人機に匹敵し、単機で各学園の自治区に君臨する実力者と張り合える程だ。
何故、大企業のカイザーコーポレーションの兵器が一介の不良生徒達が保有しているのか。それは、今回の取引にカイザーコーポレーションが関わっていたからに他ならない。
駆動音と共にオートマタは標的となるヒナを捕捉し、戦闘態勢に入る。ヒナもオートマタに気付き、その標的が自分である事を理解する。
「……そう、私の邪魔をするなら容赦はしないわ」
ヒナの表情に焦りの色は無い。しかし、その目は決してオートマタから目を離さない。彼女の瞳が僅かに鋭くなり、それを合図にオートマタは動き出した。
銃火器といった装備はない。あるのは近接格闘戦用の装備のみだ。
オートマタがヒナに急速接近し、殴りかかる。その速度は機械とは思えない程の俊敏さだ。しかし、ヒナはそれを焦る事無く迎え討つ。
攻撃を躱し、至近距離から銃弾を食らわせる。如何にオートマタの装甲が硬かろうと、その衝撃までは殺せない。オートマタは衝撃に耐えきれず吹き飛ばされる。
だが、吹き飛んだオートマタは空中で態勢を整え地面に着地すると、ゆっくりと立ち上がった。その外見にはダメージが感じられない。
「流石に、この程度じゃ駄目か」
ヒナはそう呟く。その表情は依然として変わらなかったが、その目は僅かに鋭さを増していた。
「いいわ。本気で相手をしてあげる」
ヒナの纏う空気が変わった。冷たく、静かな威圧感。周囲の温度が下がったかの様だ。
オートマタはヒナに向けて突進する。しかし、ヒナはそれを難なく躱し、カウンターの一撃をオートマタに入れる。
「遅い」
ヒナの攻撃はオートマタに有効だった。しかし、それでもオートマタは倒れない。ヒナは一旦、オートマタから距離を取ると、銃口をオートマタに向けて構えた。
ヒナの銃から放たれた弾丸が、オートマタの装甲に着弾する。しかし、その装甲は傷一つ付かない。
高火力を有するMGですら殆ど傷が付かないとは。これは長丁場になると踏んだヒナは、目の前の敵を改めて再認識すると共に……。
「……っ!」
オートマタ以外の、不良生徒達の事を視野の外に外していた事にも気付く。オートマタはヒナを、不良生徒達はヒナの隙を狙っていたのだ。
不良生徒達が放った銃弾……正確には、大型の動物ですら一撃で昏倒させる麻酔弾がヒナの肩に被弾する。
「しまった……!」
一瞬、ヒナの動きが硬直した。その隙を見逃さずオートマタは彼女に接近し、無防備となった腹部に拳を叩き込んだ。
「かはっ!」
ヒナの口から息が漏れる。胃液が逆流し、口内に酸味が広がる。その一撃は重く、彼女の体をくの字にして吹き飛ばす。
地面に叩き付けられ、仰向けに倒れるヒナ。彼女の口からは血と唾液が垂れていた。
「こ、の……!」
ヒナはすぐに起き上がり、腹部を押さえてオートマタを睨んだ。しかし、麻酔の影響でその足取りは覚束ない。
「っ!」
ヒナがふらついた一瞬で、オートマタは既に彼女の眼前まで迫っていた。回避は不可能とヒナが判断し、防御姿勢を取ろうとする。
「げほっ!?」
オートマタの蹴りがヒナの脇腹に直撃した。ミシミシと嫌な音が鳴り響く中、オートマタの攻撃はまだ続く。
「あぐっ!ぐあっ!!」
足取りの覚束無いヒナの身体を、オートマタの拳が、脚が叩き込まれる。その度にヒナは苦悶の声を上げる。
「うあっ!!」
最後に、オートマタの回し蹴りが直撃し、ヒナの身体は吹き飛び、地面を転がった。
「……っ」
痛みで意識を失いそうになるが、ヒナは唇を血が出る程噛み、痛みで意識を繋ぎ止める。
「うぅ……ぐっ……!」
苦痛に耐えながら立ち上がるも、既に満身創痍のヒナ。その姿は余りにも無惨だった。
「ゲホッ!……あ、ぐぅっ……!」
腹部を押さえながらよろめくヒナに、オートマタは追撃を放つ。
ヒナも反撃しようとするが、身体が言う事を聞かない。
オートマタはヒナの首を片手で掴み、そのまま持ち上げた。
「うあ……!かはっ……!」
気道を塞がれ、ヒナの口からヒューヒューと息が漏れる。
「あ、ぐっ……!」
ヒナが苦しげに手足をバタつかせるが、オートマタはビクともしない。それどころか、その苦しみを長引かせるかの如く、徐々に首を絞める力を強めていった。
そのまま窒息させるつもりか?
そう思いかけたヒナだったが、視界に映るオートマタの拳に、それが誤りと気付いた。オートマタは空いている片方の手で、ヒナの顔に向けて拳を放った。
「ぶふっ!?」
拳はヒナの左目に命中し、彼女の視界が赤く染まる。オートマタは続け様に、右目に拳を振り下ろした。
「がっ……!ぐ、あっ……!!」
両目を潰されたヒナが苦悶の声を上げる。それでもオートマタは攻撃を止めず、今度は頭突きをヒナの鼻に叩き込んだ。
「あぐっ!?」
鼻血を出し、口からは折れた歯が飛び出す。一頻り顔面を殴り続けたオートマタは、首から手を離すと同時にヒナの全身を余す事なく滅多打ちにした。
「あぐっ!がっ!うあっ!!」
オートマタの拳や脚、身体のありとあらゆる箇所に衝撃が走る。身体中の骨が折れ、内臓が損傷する。
「あ……うぁ……」
ヒナは白目を剝きかけ、口からは血の混じった泡を吹いていた。
「ぅ……ぁ……」
抵抗はおろか、指一本動かせないヒナ。そんな状態の彼女を、オートマタは無理矢理持ち上げ、ヒナの頭部を両腕で締め上げた。
「あ、がっ……!」
ミシミシとヒナの頭蓋が軋む。オートマタの腕力に、ヒナは足をバタつかせて抵抗するが、オートマタにとってはそれ程痛みを感じるものではない。
「がっ!あ゛ぁ……!」
ヒナの頭部が嫌な音を立て、血と汗が飛び散る。意識が朦朧とする中、ヒナは薄れゆく意識の中、先生の事を思い浮かべ、それと同時に……。
『ボコンッ!!』と頭蓋が砕ける音と共にヒナの身体がビクンと大きく跳ね、力が抜けた。
痙攣する下半身の太腿の内側からは小水が漏れ、地面の土を湿らせていった。
一目見て、勝敗は決したと分かる。しかし、オートマタは頭蓋が砕けてなお、ヒナの頭部を締め上げ続けた。
腕の中で骨が細かく砕ける音が響き、その度にヒナの身体が跳ね上がる。それを暫く繰り返した後に、漸くオートマタはヒナを解放した。
血塗れの頭部。頭部を粉砕されたヒナ。白目を剝き、だらしなく開いた口からは血の混じった泡が垂れている。
それでも『ヒューヒュー』とか細い呼吸をしている辺り、まだ生きているらしい。
遠目にオートマタとヒナのやり取りを見ていた不良生徒達は、オートマタ頼りとはいえ、ゲヘナ最強格の空崎 ヒナを倒した事に驚きを隠せない様子だった。
あのヒナが無様な姿に……。
不良生徒達は生唾を飲み込み、そしてこの惨状を知らしめるべく、皆が皆、ニヤリと笑った。
「おい、折角だ。風紀委員会に知らしめてやろうぜ」
「あぁ、良い考えだな」
「そうだな、そうしよう」
不良生徒達はヒナに近付き……。
空崎 ヒナが行方不明になってから数日が経った。風紀委員会は彼女の不在で機能不全を起こし、混乱する。
そんな中、風紀委員会本部に差出人不明の荷物が届いた。送られた荷物を運ぶ中、箱の中から呻き声が聞こえ、不審に思った風紀委員会の生徒が段ボールの中を確認。
すると、段ボールの中には、全身の骨を砕かれ、折り畳まれた状態で梱包されたヒナの姿があった。
「ヒ、ヒナ委員長!!」
「な、お、おい!! 救急医療部に連絡しろっ!! 早くっ!!」
風紀委員会本部は騒然となる。ヒナの惨状を目の当たりにした生徒の中には嘔吐する者もいた。
アコはヒナの無惨な姿に失神し、共に運ばれる事になった。
迅速な対応だった事が幸いしてか、ヒナは奇跡的に命を取り留める。しかし、意識を取り戻したヒナに待っていたのは絶望だった。
「あ……うぅ……」
天井を見上げたまま呻くヒナ。その瞳には生気が感じられない。
「先生……先生……」
ヒナはうわ言の様に、先生に助けを求める様に呟き続けた。彼女の瞳に光は無く、ただ虚空を見つめるばかりであった。
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