※この作品はR-18です。

ブルアカ短編集   作:モノクロさん

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登場人物
・空崎 ヒナ
・シャーレの先生


冷房が壊れたシャーレのオフィスで…

 太陽の光が燦々と照らす真昼の最中。

 

 シャーレの執務室では、額から汗を滲ませながら書類作業に追われる先生と、その先生を補佐するゲヘナの風紀委員長である空崎 ヒナの姿があった。

 

 本来であれば冷暖房が完備された室内の筈が、機材の不調の為、現在は冷房が停止。窓を開放し、外からの生温い風を取り込む事で何とか作業環境を保とうとはしているが、焼け石に水といった所だろう。

 

 汗でシャツが肌に張り付き、不快感を一層増幅させる。対してヒナは、そこまで苦ではないのか、目の前の書類に淡々と目を通しては印鑑を押し、手際良く処理していく。

 

 いや、時折袖で汗を拭っている様子から、やはり熱さを実感してる事には違いないのだろう。それでも、目の前の作業に集中し、汗を気にする素振りを見せる事もない辺りは流石と言える。

 

 そんな書類確認及び印押しの作業を続ける事数時間。漸く一通りの区切りをつけた二人は、席を立ち、大きく伸びをした。

 

「ふぅ、ありがとうヒナ。今日中に提出しないといけない書類だったから助かったよ」

 

「気にしないで。これも当番として当然の務めだから」

 

「それでも本当に助かったよ。ヒナがいなかったら間に合わなかったかもしれないからね」

 

 そんな他愛ない話をしながら、先生はヒナを労う様に冷蔵庫から取り出したアイスコーヒーを差し出す。それを一口味わうように飲み始めるヒナに続き、先生も一杯。とはいかず、六割ほど残っている状態のペットボトルを片手に流し込んだ。

 

 冷たく甘ったるい感覚が喉元を通り過ぎ、疲れた身体に染み渡る。そんな心地よさに浸りながら、先生とヒナは来客用のソファに腰を落ち着けて少しの間、一息を吐いた。

 

「それにしてもごめんね。折角応援に来て貰ったのに、エアコンが故障していたせいで、暑い思いをさせちゃって」

 

「大丈夫。これくらいの暑さだったら慣れてるから」

 

 そう言いつつも、ヒナの頰には僅かに汗が浮かんでいる。普段羽織っているコートは脱いではいるものの、長髪により熱が上手く逃げないのだろう。

 

 きっと自分が感じている以上に、ヒナは暑さを感じているに違いない。明日になれば業者がきて、エアコンも直るとは思うが、それまでの間、この暑さの中で作業をするのは酷である。

 

 せめて何か、彼女にしてあげられる事はないか。そう考えた先生は、給湯室に行くと、冷水でタオルを濡らしてから軽く絞ると、それを手にヒナに近付く。

 

「ヒナ、ちょっと首元失礼するね」

 

「え? うん、分かっ……たっ!?」

 

 申し出の意図を全く把握しきれないまま頷いたヒナ。その最中、突然首筋に当たる冷たさに驚きの声を発した。しかし、それも一瞬の事であり、先生の意図を察した彼女は、その身を再び預けた。

 

「気持ちいい?」

 

「……うん、凄く」

 

 火照った身体に、冷水で冷えたタオルがとても心地良いのだろう。ヒナは目を細めて、その感覚を堪能する。

 

 そのまま額や頬を伝う汗を拭いつつ、先生は手をゆっくり動かしていく。髪の生え際、耳の裏と丹念に拭くと、幾分かマシになったのか、ヒナの表情から硬さが抜けているのが見て取れた。

 

「……ありがとう。先生」

 

 濡れタオルを堪能する心地よさのおかげか、先ほどよりも表情が柔んだヒナは、何処か嬉しそうに笑みを浮かべて先生を見つめてくる。ヒナにしてあげる事が出来て何よりだ。そう安堵した先生は、タオルの片付けをしようと給湯室へ足を向けた。

 

 しかし、そんな先生をヒナは服の端を摘むと、それを制止した。

 

「ヒナ?」

 

「今度は私が先生にする番。先生だって、暑いのを我慢してるでしょ?」

 

 そう言って、先生からタオルを受け取り、ソファに座っているようにと告げると、今度はヒナが給湯室に向かい、先生と同じようにタオルを濡らして絞る。

 

 そして、ソファに座る先生の正面に立つと、額から滲み出ている汗を拭うように、タオルを滑らせて冷水で拭う。

 

「どう? 気持ちいい?」

 

「うん。凄く気持ち良いよ」

 

「そう、良かった」

 

 そんな和やかな会話をしつつ、二人は身を寄せ合いながら汗を拭う。ソファに向き合って座る先生にはヒナが触れる距離。瞳を閉じ、汗を拭ってくれるタオルと細く柔らかな指先の感触を享受していた先生は、彼女が与えてくれる心地よさに浸っていると、自然とヒナの背中に腕を回し、その身体を抱きしめていた。

 

「せ、先生……どうしたの?」

 

 突然抱き寄せられたヒナは驚き、思わずタオルを落としてしまうが、先生は気にした様子もなく、更に強く抱きしめたまま、顔を彼女の首筋に埋める。

 

 汗の匂いと共に、ヒナの香りが鼻孔をくすぐる。それと同時に、背中に回した手からは、服越しに汗の湿り気を感じ、それが暑さを感じさせると同時に、とても艶かしい物に思えた。

 

「ヒナ、凄く良い匂いがする」

 

「……っ、先生。ちょっと恥ずかしい」

 

「うん、ごめん。でも……もう少しだけ」

 

 ヒナは恥ずかしさから、頰を紅潮させて先生を嗜めるが、拒絶の様子はない。寧ろ、先生の抱擁を心地良く感じているように、その身を委ねている。

 

 自分よりも小さくて華奢な身体。それとは対称的に大人顔負けの余裕を見せるヒナ。彼女が戦場に立てば誰よりも戦果を挙げ、頼り甲斐のある存在だとは理解していたが、こうして自分の腕の中にいるヒナは、とても可愛らしく、愛おしい。

 

 そんな事を考えていると、彼女もまた先生の頭に手を伸ばし、彼の頭を包み込むようにして撫でてみせた。

 

「……先生、ちょっとごめんね」

 

 そう言って、少しだけ身体を離すと、改めて先生を抱きしめ返す。そしてそのまま彼の頭を引き寄せては、自分の胸元に埋める。

 

 控えめながらも柔らかなヒナの胸。そんな胸に包まれる先生は、突然の事に思わず顔を赤らめるが、胸の中は一層安心感へと包まれてゆき、眼を閉じたまま、その身を預けた。

 

 ヒナはそんな先生の頭を優しく撫で続けると、ゆっくりと口を開く。

 

「私の胸、汗で臭くない?」

 

「全然。寧ろ、ヒナの匂いがするから凄く安心する」

 

「……そう、なら良かった。でも……ちょっと恥ずかしい」

 

 先生の言葉に安堵するヒナだが、それでも自分の汗の匂いを嗅がれるのは恥ずかしいのか、その頰を紅潮させる。その胸の内にいつまでも留まっていたい。そう思った先生は、深く深呼吸をして、ヒナの香りを堪能する。ヒナもそんな先生を嫌がる事はなく、寧ろ、より強く抱きしめると、彼の頭を優しく撫でた。

 

「……ねぇ、先生。私ね、今凄く幸せだよ。こうして先生を抱きしめていられるのが」

 

「私も同じ気持ちだ。こうやってヒナに包まれているの凄く落ち着くし、幸せだよ」

 

 お互いの幸せを共有し、二人は笑みを見せ合う。そうして抱擁を続けていると、二人の目は自然と重なり合った。

 

 何をするでもなく、そのままジッと見つめ合う二人。やがて近づく距離に、引き合うように顔をゆっくりと寄せ合う。

 

 額と額が触れ合い、鼻先が擦れ、そして唇が触れ合う。優しく唇を重ねるが、それ以上の事はしない。お互いの心を確認するように、確かめるように軽い口付けだけを続けた。

 

 ジリジリと、室内の温度は相変わらず暑いまま。しかし、二人の間だけは、そんな暑さなど忘れてしまうほど心地良い熱に満たされていた。




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