・一之瀬 アスナ
リクエスト作品です。
カジノに単独潜入していたアスナが女性富豪にめをつけられ、大変な事になる話です。
ブラックマーケット。
キヴォトスにおいて、連邦生徒会の管理が及ばぬ治外法権がまかり通る領域。
此処では多くの商品が取引され、内容は一般的な物から法に触れる物まで、実に多種多様である。
此処で手に入らない物はない。そう思わせるほどに、ありとあらゆる物で満ちている。
故に、多くの学生達が危険を承知で、このブラックマーケットに足を踏み入れる。
欲しい物を手に入れる為に。今まで体験した事のない娯楽を得る為に。そして、表沙汰に出来ない目的で取引を行う者達を調査し、捕縛する為に。
かつて、廃ビルが立ち並ぶ区画があった。寂れた看板が立ち並び、かつての栄光が嘘であるかのように、建物達は朽ち果てていた。
しかし現在、廃墟立ち並ぶビルの面影は一変していた。妖しく輝くネオンが夜空を煌びやかに照らし出し、そして建物のそこかしこに蛍光色のライトが設置されている。
寂れた雰囲気は払拭され、まるで欲望を駆り立てる様な煌びやかさがそこにあった。
その中でも、一際目立つ建物があった。煌びやかとは程遠く、外観もボロボロの廃墟同然のビルでありながら、多くの人々が吸い込まれるようにその建物へと入っていく。
入り口では簡易的な荷物検査が行われ、銃や爆発物といった類の物は持ち込む事すら許されない。
そして中に入れば、其処は別世界だった。煌びやかで妖しくも美しい光を放つ照明が、フロアを余す事無く照らしている。
古めかしくも耳心地の良いジャズが流れ、其処に集う者達は一攫千金を夢見て娯楽に興じている。
此処は不認可のカジノ。
表の法には決して触れる事のない、非合法な娯楽が提供される場所だ。
とはいえ、内容はカジノと銘打っているだけあって、普通のゲームも用意されている。ブラックジャックやポーカー等のトランプを使ったカードゲームもあれば、ルーレットで勝負が出来るテーブルもある。
ある意味では、海や島々を拠点とし、複数の船から成り立つオデュッセイア海洋高等学校が設立したランク制のカジノを用するクルーズ船『ゴールデンフリース号』と近しく、件の学園が海の上の船での娯楽ならば、此方は陸の上での娯楽といえよう。
このカジノが設立されて以降、廃ビルが立ち並ぶ区画に人が流れ、そこを中心に街が形成された。店を構えれば、カジノで多額の資金を得た人々が集まり、その人々を相手に商売を行えば、更に多くの金が街に流れ込むという好循環が生まれていた。
たが、それはあくまでも成功者の例といえよう。
勝者がいれば当然敗者も存在する。そしてこのカジノには、幸運を掴み損ねた敗者が大勢いた。
自業自得と言われればそれまでだが、それでも彼女らはその現実を受け入れられず、借金を重ね、身を破滅させる者もいた。
つまり、此処では勝者も敗者も利益を齎す好循環であり悪循環を生む場となっていたのだ。
無論、そうした実態がある以上、学園都市から成り立つ連邦生徒会としては放置出来ない。
故に、各学園自治区から優秀な人材を選抜し、カジノの実態を探るべくブラックマーケットへと送り込まれていた。
その一人が、ミレニアムサイエンススクールの凄腕のエージェント集団。Cleaning&Clearing……通常『C&C』に所属する一ノ瀬 アスナである。
彼女の任務は主にカジノの実態調査。接客の傍で、客から情報を引き出したり、時には潜入してその目で確かめる。
以前、オデュッセイア海洋高等学校が設立したクルーズ船でも別件の任務で潜入した経緯もあり、適任と判断されたのだ。
バニー姿に身を包み、カジノのフロアを歩けば客の視線が集まる。その美貌は勿論だが、豊満な胸と臀部が歩く度に揺れる様は、否が応にも男達の目を惹いた。
その美貌に釣られやって来た客を持ち前の直感と話術で惹き付け、多くの情報を引き出す。カジノで遊ぶ者達は、その大半が負けに負けた者だ。そんな彼らに楽しげに声をかけ、そして時には勝負を挑み勝利すれば相手から情報を引き出す。
その様はまるで手練れの手品師かの様に鮮やかで、カジノの客はアスナに惹き込まれていた。
カジノの従業員も、彼女の明るくて能天気な、それでいてやや馴れ馴れしくも感じる人懐っこい笑顔とフランクな口調に、少なからず好意を抱いていた。
カジノの従業員をも魅了し情報を引き出すアスナの存在はカジノにとって異質だったとはいえ、それは悪ではなかった。というよりむしろ良いことだった。
しかし、ある日を境にして状況が一変する。そのきっかけはとある客の存在だった。
「あーくそっ! またハズレやがった!」
カジノの片隅、ルーレットをプレイするテーブルで一人の客が声を上げる。手元にあったチップは殆どなくなり、手持ちは残り僅かである。
「中々当たりが来ねぇなぁ。ここ最近は全然勝てやしねえ」
そんな愚痴を呟きながら、手元にあるチップを確認し、何処に賭ければ良いかと思案する。
賭け方は素人そのもの。カジノでの遊び方を知らず、運に身を任せて賭け続けている。
店側からすれば良いカモではあるが、あまりにも負けが込み過ぎて場の雰囲気が悪くなる。故にカジノ側も、傍迷惑な客をどうにかしなければと考えていた。
「ねぇ、お客様」
そんな時だ。一人の従業員がその客に声をかけるのは。
バニースーツを身に纏い、豊満な胸や臀部を揺らしながら歩く美女。その美貌はカジノの従業員ですら目を奪われる程で、客の男は呆けたように彼女の事を見つめる。
「よかったら私と勝負しない? そっちの方がきっと楽しいよ」
天真爛漫な笑みを浮かべ、アスナが客をゲームに誘う。それは、接待というわけではなく、只々純粋に自分がゲームを楽しみたいという想いからの行動だった。
「へぇ、お嬢ちゃんが相手してくれるのかい?」
そんなアスナの屈託ない笑顔に釣られ、負け越しの客が鼻の下を伸ばしながら笑みを浮かべる。
「うん! 折角遊ぶんだったら、それこそ楽しまなきゃ損だからね!」
楽しまなければ損。遊びではなくお金を稼ぐ為に来た客に言うセリフではないのだが、アスナはお構いなしにテーブルの椅子に座る。
手持ちのチップは客と変わらない枚数。お互いに対等の条件で勝負というなの遊びに興じるつもりなのだろう。
アスナの登場で負け越しの不満が和らぐ。その事に従業員は安堵し、客の男はアスナが相手ならと気を緩める。
客の男は席に着き直すと、アスナと同様に残りのチップをテーブルに置き、何処に賭けるか思案する。
「それじゃあ、私はこっちにしよっと!」
「それなら、俺は此処だな」
そうして、互いにチップをそれぞれの番号に賭ける。狙うのは赤黒どちらでもない数字の単独勝負。38個の数字から一つに的を絞ったハイリスクハイリターンの賭け方だ。
ディーラーがボールを盤の上に投げ込む。
盤はゆっくりと回転しており、徐々にその勢いが収まっていく。
そして遂にボールが落下する。
落ちた先は……14の数字。
その瞬間、喜色を露わにするアスナと肩を落として項垂れる男。勝敗は明白だった。
「やった~♪ 当たり!」
無邪気に喜びを表現し、その大きな尻と胸を大きく揺らす。そんなアスナの姿に男は苛立ちを覚えるよりも先に、思わず見惚れてしまう。
「ちぇっ……やっぱり運は向かねぇのか……」
肩を落とす男にアスナが笑いかける。
「もう一回やろうよ! 今度は別の番号に賭けてみよう!」
そう言ってアスナは再び残りのチップをテーブルに出す。負けが込んだ男はそれを断りたくとも、既にアスナのペースに乗せられており止められない。
それに、一目見たときから頭の中から離れられないバニースーツを着込んだ美女との勝負。それがまだ続くと思うと、男の脳裏には喜びしかなかった。
「良いぜ……何度だって付き合ってやるよ」
そう言いながら男は手持ちのチップを全て使い切るまで勝負し続ける。結局男は最後まで勝つことが出来ず、逆にアスナは全勝する結果となった。
しかし、男の表情は晴れやかなものであった。
勝負には負けたが、美女との戯れを味わえた。普段は碌に女性との交流もなく、彼女を作る事すらままならない自分にとって、これはまさに最高のご褒美と言えるだろう。
無一文となった男はそのままアスナにお礼を言うと、名残惜しそうに立ち去った。
彼だけではない。賭けに敗れた者たちは皆アスナに感謝の言葉を述べて去っていく。皆一様に嬉しそうな表情を浮かべており、満足した様子で帰っていくのだ。
対するアスナはというと、客たちを見送ると両手を広げて伸びをする。
「ふぅー! 楽しかったぁー!」
何気ない仕草でさえも魅力的に映るのは、やはり天性の才能というものだろうか。少なくともカジノの従業員や客にとってはそう映っていたようだ。
彼らの視線はアスナへと向けられており、その視線に気付かない彼女ではない。
しかしアスナはそれを気にせず、次の行動へと移る。次は何をして遊ぼうかなどと呑気に考えつつも、その足取りは軽やかだった。
客を楽しませるバニー姿のディーラーがいる。
そんな噂は瞬く間に広まった。噂は客から外部へと日を追うごとに伝染していく。そうなってしまえば後は早い。噂を聞きつけた者が集まり始めると同時に、アスナの知名度は急激に上昇した。
ともなれば、一般客の接客からVIP待遇の富豪層をメインとした客への接待が増え始める。
VIPルームでは一般客とは異なり、特別なサービスが用意されていた。
お気に入りの従業員やディーラーを指名し、二人っきりの時間を過ごせる空間だ。料金は高額であるものの、お金持ちの顧客からは大人気。加えてカジノ側としても良い金づるになる為、積極的に勧められるメニューとなっている。アスナが勤務するカジノでもそれは例外ではない。寧ろ他の店舗と比べても多く設置されており、常に満室状態であるくらいだ。
アスナを指名した女性富豪も、そういった特別な待遇を受けている客の一人である。
「いらっしゃいませ」
VIPルームの扉を開き入ってくる客の女性富豪に向かい、アスナは明るく挨拶をしながら中へ招き入れる。
艶やかな長い黒髪が特徴的で、整った容貌に微笑みを浮かべながら、彼女はアスナへと歩み寄る。
動作の1つ1つが洗練されている。歩くだけでその気品は窺え、まるで舞踊のような動きは見る者の目を奪うものだ。
「初めまして。噂の可愛いウサギさん。今日は貴女と遊んでみたくて指名させてもらったわ」
差し出された右手を見て、アスナは反射的に握り返す。
細く繊細な手だ。それでいて柔らかく温もりがあり、どこか安心感を与えてくれる感触。
「ありがとう! 私も嬉しいな! よろしくね!」
握手を交わすと、女性富豪は席へと腰掛ける。続いてアスナも向かい合う形で対面に座る。
「さて、早速だけど勝負しましょうか? 貴女はどういうのが好みかしら?」
「ん~そうだなぁ。私はなんでもいいけど、貴女が楽しめそうなのが良いかなぁ」
そう答えると、女性富豪はくすりと笑う。
「面白い子ね。でもありがとう。私の事を気遣ってくれて。それじゃあ今回はこれにしようかしら」
女性富豪が取り出したのはトランプだ。しかし普通のものではない。一枚一枚が金色に輝いている。
「へぇ、綺麗だね! こんなの初めて見たよ!」
「でしょう? 私のお気に入りなの。お店側が用意した普通のトランプだと物足りなくて」
机の上に置いてあるトランプに目を向け、女性富豪は少し申し訳なさそうに苦笑する。
「そうなんだ。私もそのトランプを使ってみたいな!」
「勿論。その為に用意したんだもの」
女性富豪がデッキを取り出しシャッフルする。その手つきは非常に慣れており、カードの扱い方に長けている事が分かる。
丁寧かつ迅速に行われている様は見ているだけでも気持ちが良くなる。
やがて全ての工程を終えると、彼女はトランプを切り分け始めた。
「まずは簡単なものから始めましょう。ポーカーなんてどうかしら?」
「オッケー! ポーカーなら得意だよ!」
即答で返すアスナに女性は頷く。
慣れた手つきでカードを配り、五枚ずつテーブルの上に置いていく。
そしてそれぞれ手札を確認するとゲームが始まった。
友人との遊び感覚で始まったポーカーだが、当然、遊んでいるだけで済むはずもない。アスナも分かっていたように、女性富豪も金額を賭けずにポーカーをやりたいわけではない。
手持ちのチップを賭ける。それはアスナも同じであり、掛け金を増減させながら何度も試合を繰り返す。
序盤は運よく勝ちが続いた女性富豪だったが、徐々にアスナの強さを肌で感じ取っていき、最終的に手持ちのチップは全てアスナの手中に収まる結果となった。
「流石は噂通りね。本当に強いわ」
完全敗北を喫した女性富豪だが、特に悔しさを感じている風もなく平然としている。寧ろ清々しい気分のようで表情にも陰りはない。
「いやー私も楽しかったよ! 噂って言われてもピンとこないけど……」
「ふふふ、謙遜して可愛い子」
冗談ぽく言うアスナに女性富豪は微笑みを返す。
「さて、次の勝負の前に、少し喉が渇いたわね。何か飲みたい気分なのだけれど、貴女もいかがかしら?」
「良いの! ありがとう!」
「じゃあ私が注いであげるわ。好きな飲み物はあるかしら?」
「あぁ、待って待って! そういうのは私の仕事だから」
「あら、そうだったわね。それじゃあ、アイスティーをお願いしようかしら。貴女もどう?」
「もちろん! 一緒のが良いよね!」
お互い同意を示すとアスナがアイスティーを持って来るためにバーカウンターへ向かう。VIPルームと言っても、狭い部屋の中でワイングラス片手に世間話を楽しむような場所ではない。大きめのソファやテーブルが配置されたオープンスペースになっているため、飲み物を準備するために離れた位置にあるキッチンに向かう必要があるのだ。
備え付けられた冷蔵庫の中には様々な酒類のほかにソフトドリンクなども保管されているが、市販のものではなく、茶葉から淹れた紅茶など専門職人のこだわりの一品ばかりだ。
カップも一級品のティーカップを使用しており、茶葉も一流ホテルなどで使用されるブランドのものを厳選して用意している。まさしく至れり尽くせりといった趣である。
「お待たせ!」
暫くしてアスナは二つのアイスティーを乗せた銀盆を持って戻ってきた。コースターを敷き、氷を入れたガラス製タンブラーグラスに入れられた紅茶をテーブルの中央に置く。女性富豪の好みに合わせ、ミルクやシロップなどを添えておくことも忘れない。
女性富豪は目を閉じ香りを堪能した後に口をつけた。
「美味しい。素敵な香りと味ね」
「ホント!?」
自身が淹れたアイスティーを褒められた事で目を輝かせたアスナに女性富豪は微かに頬を緩めて頷いた。
「ええ。とても良いセンスだと思うわ。勿論、ストレートも良いのだけれど、ミルクやシロップを入れても美味しいと思うの。貴女も是非試してみてちょうだい」
女性富豪に促されたアスナは、彼女に言われるがままにストレートを味わった後、ミルクやシロップを入れた状態を試す。
確かにどれも美味しかった。
「ほんとだ! 美味しい!」
目を丸くして驚くアスナに対して女性富豪は柔らかく微笑む。
「これからは色々試してみると良いわ」
「うん! 次も美味しいアイスティーを作れるように頑張るね!」
無邪気に笑うアスナに女性富豪も穏やかな微笑みを見せた。
「それでは、貴女のお陰で喉も十分に潤ったところで、続きを始めましょうか」
「うん! それじゃあグラスを片付けて……っ」
アスナがグラスを下げようと立ち上がろうとするも、突然身体に痺れをきたし動けなくなる。内股立ちで太股を震わせ、視界が霞み始めて思考も鈍くなっていく。
「あれ……? なん……で……っ」
疑問符を浮かべるアスナに対し、女性富豪は淡々と告げる。
「あら、やっと効いたみたいね。良かったわ」
「どういう……こと?」
困惑するアスナに彼女は語る。
「うふふ、ちょっと此処の従業員にお願いして、飲み物……ではなく、付属のシロップやミルクにお薬を混ぜてもらっていたの。痺れ薬っていったら分かりやすいかしら? でも安心して、ただ痺れただけであって命に別条はないから」
「どうして……こんな……っ」
掠れる声で問い詰めるアスナに彼女は蠱惑的な笑みを零す。
「可愛らしいウサギさんが欲しくなってしまったの。悪い意味じゃないわ。あなたの事を本当に大切にしたいと思っているの」
甘い蜜を煮詰めたような濃厚な感情が込められている声。ゾッと背筋が寒くなるほどに歪んだ愛執の念を込めて紡ぎあげられた言霊は確固たる意志を持ち、獲物を逃すことなく絡めとっていく。
「大丈夫よ。悪い事なんて何もしないわ。きっと貴女も気に入ってくれる筈」
恍惚とした笑みを浮かべる女性富豪の瞳の中に宿る狂気が垣間見える。目の奥底では常識を超えた獣欲が渦巻き蠢いているようだ。恐怖を感じるべき状況に置かれているにも関わらず、身体が全く反応しないことに焦燥が募る一方だ。
やがて、立つ事すらままならなくなり、アスナは床へ崩れ落ちてしまう。罠にかかったウサギのように、もぞもぞと這いずることしかできない。全身の麻痺が解消されず、脱力した四肢はいうことをきく気配すらない。
(これはちょっと……ヤバいかも)
意識が朦朧とする中でアスナは思った。相手の目的は不明瞭だが敵意を持っていることは明らかだ。
助けを求めたいところだが今の状態では不可能だし大声を出すことも難しいだろう。誰からの救援もないとなれば、いずれ最悪の展開を迎える可能性が高い。一刻も早くなんとかしなければならないと理解してはいても、打開策を考えることが出来ない状況では八方塞がりもいいところだ。
「か弱い小動物のようになった貴女も素敵ね。本当の意味でのウサギ。それでいて、熟した果実のように瑞々しい肉体を有していて……嗚呼……今すぐにでも食べてしまいたいくらいよ」
うっとりとした表情で女性富豪はアスナを見つめている。その眼差しには愛情と肉欲のみで溢れていて、さながら獲物を狙う捕食者のようだ。
「けれど、まだダメ。床の上でだなんてはしたない真似はしたくないの。だから、場所を変えましょうか」
女性富豪に抱きかかえられながらアスナが連れて来られた場所はベッドルームだ。
キングサイズよりも大きな天蓋付きのダブルベッドで、2人が横になっても十分に余裕がある大きさだった。
その道中、どうにか女性富豪の腕から逃れようと試みたが、その努力も空しく徒労に終わってしまう。
『さぁ着いたわ』と優しくベッドに下ろされたアスナは、うつ伏せの状態で女性富豪に組み敷かれる。
薬さえ盛られてなければ、女性富豪を押しのける事など造作もないのだが、今はそれすら叶わない。
「貴女みたいな可愛い子、ずっと探していたの」
そんなアスナの気持ちなど知る由もなく女性は言葉を続ける。それはまるで夢見る少女のようにうっとりとした声色だ。
「一目見た時から心を奪われてしまったの。だからこうして手に入れる為に頑張ったのよ」
「う……っ」
そんなの知らない。アスナがそう口にしようとするも、痺れた唇は言葉を発する事を拒絶した。
女性の言葉に嘘はないだろう。だが、そこには愛情という類の感情は殆ど見受けられなかった。まるでお気に入りの人形が手に入った子供のような無邪気さと欲望の暴走だ。
「本当に綺麗な肌……それに、とても良い香りがするわ」
アスナの頬に触れる女性富豪の手つきは優しくも艶めかしいものだった。指先が肌の上を滑りながら首筋へと移動する。
そして首筋から鎖骨へと流れ、胸元に触れると今度は腰の方へと下りていく。
バニースーツの滑らかな生地の上を女性富豪の指が滑っていく度にくすぐったさと快感が入り混じり、アスナの口から艶のある吐息が漏れ出る。
「ん……あっ……や……」
アスナの反応を楽しむかのように、女性富豪の手つきは徐々に大胆なものに変わっていく。指先だけでなく手の平全体で肌を愛撫し、時には円を描くように撫でまわした。
痺れて動けぬ身体に、その愛撫はあまりにも甘美な刺激だった。媚薬のような快楽が浸透していき、アスナの身体は火照りを帯びていく。
アスナの頬は紅潮し、吐く息にも熱が籠り始めていた。その姿はまるで発情したウサギのようだ。そんな彼女を見下ろしながら、女性富豪は嗜虐的な笑みを浮かべる。
もっと声を聞きたい。天真爛漫な笑みを浮かべていたアスナが淫靡な声を出し、よがり狂う様を見てみたい。
無垢な果実を自らの手で汚す背徳感と幸福感が混ざり合い、得も言われぬ高揚感が全身を支配する。
組み伏せるように覆い被さり、アスナの豊満な乳房を揉みしだく。既に乳首は屹立しており、布地に浮き上がらせるように自己主張している。アスナの口から溢れる嬌声はどこまでも甘美で、官能的な音色を奏でているかのようだ。
指先に力を込めれば柔らかく沈み込む感触と共に艶やかな声が上がり、毛並みを撫でるように優しく触れれば切なそうな吐息と共に身をくねらせる。その反応が面白く、女性富豪はアスナの身体を撫でまわし続けた。
そして手の位置を下腹部へと移すと同時にバニースーツのクロッチ部分へ指を入れる。
「っ!……だ、め……!」
アスナの静止の声など耳に届いていないのか女性富豪は構わず指を這わせる。
熱を帯びた秘裂はしとどに濡れていて、割れ目をなぞっただけでくちゅりと湿った音が響いた。
抗い難い快楽と共にアスナの口から漏れるのは、普段の彼女から想像もつかない程に甘く蕩けた声だった。女性富豪の指先が陰核に触れると、アスナは一際甲高い声で鳴いた。
その反応を楽しむかのように何度も執拗に責め立てていく。その度にビクンと跳ね上がる肢体。露出した背中からは大量の汗が吹き出し、艶やかな光沢を放ちながら滴り落ちる。
その様子は酷く扇情的で、見る者全てを虜にしてしまう魔性の如き色気を醸し出している。
薬によって自由の利かない身体。衣服越しから敏感な箇所への刺激を与え続ける女性富豪による蹂躙に晒され続けるうちに段々と理性は溶け始めていき、本能が剥き出しになってしまう。
これ以上は危険だ。
アスナの本能が警鐘を鳴らし続けている。しかし脳内で幾度警告しても、肉体を蝕む薬の影響により、思うように抵抗できない。
女性富豪の指から逃れようと、ベットの上を芋虫のように這いずるも容易く捉えられてしまう。それどころか身体を抑えつけられてしまい、ますます動きが阻害されていく一方だ。
「ひっ……やっ……もう……止め……てぇ……」
涙声で訴えかけるアスナであったが、返答代わりに与えられたのは女性富豪からの容赦無い責め苦だった。
うつ伏せの姿勢から無理矢理お尻を突き出す姿勢へと変えられる。ムチムチとした桃尻を黒のタイツと青のバニースーツで隠しているだけの下半身はまるで発情したウサギそのものだ。
女性富豪は再びバニースーツのクロッチ部分をずらす。そして、最後の砦として機能していたタイツを部分的に破くと、外気に晒された菊紋を観察し始めた。
本来の目的以外に使われた事のないであろう蕾のような皺は小さく窄まり、恥じらいながら花弁を守っているかのようだ。女性富豪は人差し指で軽く『トントン』と指の腹の部分で何度か叩き、硬くなった蕾を弄ぶ。
アナルへの未知の刺激は、アスナにとって衝撃的な体験だ。今まで味わった事がない種類の感覚に戸惑い、困惑し混乱してしまう。そして、突っ伏した姿勢のままでは、自身が何をされているかまでは把握する事は出来ない。
アスナにとって、唯一分かる事と言えば、女性富豪にお尻の穴を指先で弄られている程度の情報しかないのだ。
「あ……なに……して……?」
不安に満ちた表情で尋ねてくるアスナ。薬の影響により思考能力が低下しているとはいえ、自分の肛門を玩具のように扱われているという非常識な行為に気づかないわけがない。
そしてそれが性的な行為なのだと悟れば当然嫌悪感を抱くのも当然のことだろう。
だがそんな反応を期待していたかのように女性富豪は満足げな笑みを浮かべる。
「安心して。痛い事は一切しないから。これは必要な前準備。それに貴女のココも悦んでいるわよ?」
「わ……分からない……」
怯えたような声音で否定するアスナに対して女性富豪は嘲笑と共に、ゆっくりと顔をアスナのアナルへと近付けた。熱を持ち、柔らかくなっている膨らんだ腸壁の表面に舌先を接触させ、上下左右に動かし舐め回す。その卑猥極まりない行為は正真正銘の変態的性癖を持つ者のみができることだ。
粘膜同士が擦れ合うヌチャネチョという水っぽい摩擦音が寝室に木霊する。ジュルっと啜るような吸引音を伴いながら行われる口腔奉仕は余りにも汚らわしく、背徳的であるといえる。
肛門の周りに唾液を塗りつけるように丹念に丁寧に時間をかけて施されていく洗礼。
未知の感触と恥辱感に打ち拉がれるアスナであったが、それを表に出す事は許されない。下手に反抗しようとすれば更なる凌辱の時間が訪れることは必至であるからだ。
「もう十分かしら。それじゃあそろそろ」
言葉に合わせ、直腸内に異物が侵入してきたのを感じる。ぬぷっとイヤらしい挿入音と共に体内へ埋没していく物体の圧迫感。それと共に、今度は冷たい液体が腸内に注入されていく。
液体と共に直腸の奥へ奥へと異物が進入してくる感覚。排泄器官である肛門へ入ってきたものが一体何なのかわからない状況で突如襲い来る奇妙な感触にアスナの精神は乱れに乱れる。
「ひっ……なにか……来て……るっ……?」
未体験領域に対する生理的な拒否反応は決して小さなものではない。肛門括約筋が自然と収縮を行い挿入物を排出しようとするも無駄である。液体を潤滑油に奥へ奥へと入り込んだ異物は、力んだだけでは排泄する事は出来ない。それが如何に小さな物体であったとしても簡単に排除できるわけではない。
「わた…し……に……何を……した…の?」
呻くように問いかけるアスナに女性富豪は涼しげな表情を崩さない。それどころか愉悦さえ滲ませている表情をしている。
「ふふ、今は気にしなくていいわ。それよりももっと愉しみましょう? 大丈夫よ。怖がらなくても平気だから。全部私に任せてくれたらそれでいいのだから」
ぺろりと舌なめずりし、バニースーツの内側へと手を潜り込ませる。黒のタイツ越しに秘所へと指を這わせ、湿り気のある亀裂の周囲をなぞり、そして感銘にも似た溜息をつく。
「凄いわ……てっきり下の方は処理しているものだと思っていたけど、貴女のそれは天然モノなのね」
処理されたそれとは異なる指触り。衣装が衣装なだけに場に衣装に身を包んだ従業員の大半が下の毛を処理している事が多い。しかし、アスナの場合、処理するという以前の問題だったのだ。
つるつるの感触。それがタイツというフィルター越しにも感じる事は可能だ。下生えの存在が皆無なのである。無論、技術が発展している以上、『剃る』『抜く』といった処理以外の方法もあるにはあるが、直感的に、女性富豪はアスナが天然モノの無毛……『パイパン』である事に勘づく。
「このアンバランス具合が素晴らしいわ。子供っぽい表情や性格なのに身体は成熟しきっていて、なのにそこに矛盾なく調和しているものがある。醜さとかじゃなく新鮮な衝撃……そう形容するのが一番しっくりくる。何より下の毛が生えていないっていうギャップはまさに奇跡そのもの ……正直最初会った時は羨望だけで精一杯だったんだけど、貴女の魅力に心からほれぼれしちゃいそう」
女性富豪の呟きにアスナは何も言えない。あまりの羞恥に身体を捩らせ悶え苦しむ事しか出来なかった。だが、その様子すらも女性富豪の興奮材料となるに過ぎない。
タイツを破き、丹念に撫でまわす。
秘部を中心に、外陰唇を愛撫し、大陰唇を指の腹で押したり摘まんだり、割れ目に沿って擦ったり捏ねたりすると、膣口から分泌された透明な汁がどんどん出てくる。それを掬い上げてクリトリスに塗りつけるようにして磨けばビクンッと痙攣を起こす。
そうやって、延々とアスナを焦らし続けた。
クリトリスは充血して勃起している状態になり、ヒクつく度に新たな愛液を分泌させる。ヒクヒクと脈動しながら次第に肥大化していくソレ。そしてついに限界を迎えた時に訪れるのは絶頂という名の、恥辱の頂きに到達する瞬間だった。
「~~~っ!!」
声にならない叫びとともに全身を震わせるアスナ。弛緩した筋肉組織から迸る飛沫が飛び散り畳に染みを作る。尿道から噴出した水分もまた盛大に撒き散らし辺り一面水浸しになった。
荒い呼吸を繰り返しながら茫然と虚空を眺めるアスナ。
(やだ……頭の中、真っ白になっちゃってる……)
絶頂を迎えてしまったショックで呆然としているのか放心状態になっているのか判断が付かない。ただハァハァと息遣いだけが聞こえてきて妙に艶めかしい雰囲気を醸し出しているだけだ。
そんな彼女を見て女性富豪はうっとりと目を細めた。
「嗚呼……イッちゃったんだ……かわいいわ」
陶酔した様子の女性富豪はアスナの膣内へと細い指を侵入させる。まだ誰も受け入れた事のない未開の地。穢れを知らぬ無垢な領域はとても窮屈で締め付けが強くあった。それでもなお女性富豪は臆することなく進攻を開始し膣壁を探検する旅に出るのであった。
内部はドロリとした液体が蔓延しており体温によって暖められていたのでかなり熱かった。グチュグチュという粘着質な音が結合部から生まれ聴覚までも犯してくれるサービスぶりだ。
そして遂に目的地へ辿り着く。膣内の奥深くに眠っていた乙女の聖域が露呈されてしまった時だった。
「あ゛っ……あがぁぁあ゛っぅぅ!」
身体中に電流が奔ったような痛みに襲われるアスナは悲鳴を上げることしかできなかった。歯茎までむき出しにするくらい噛み締めた口元からは涎が垂れ流しになっている。
ゴボリという不吉な音が鼓膜を揺らし子宮口が抉られる感触に耐え切れず大きく仰け反る身体は弓なりに曲がった姿勢から一転して蹲り胎児のように丸まる格好へと変わる。
それでも、女性富豪の指からは逃れる事は出来ない。逆に挿入深度を深めてしまった状態となり更なる地獄を味わう羽目になったのだ。膣口から子宮口までの間を往復運動を繰り返される度に新しい感覚が芽生えていく。最初こそ違和感しかなかった箇所が次第に疼き始め最後には性感帯へと成長してしまい、無意識下で身体が反応してしまう。まるで作り替えられてしまっているかの様である。
だがしかし一向に満たされることのない飢餓感ばかり蓄積されていくばかりである現実は変わらない。いつまでも続く終わりなき拷問に翻弄されるアスナの魂が削られてゆく。
女性富豪の指が引き抜かれた時、喪失感を感じると同時に、本当の自分が喪失してしまう事へと恐怖心。そして残骸となった己の存在が虚しく思えてくる複雑怪奇な心境へと至る。
すぐにでも逃げ出したい。薬の効果はいったい何時まで続くというのだ?
もう、薬の効果が切れてもいいのではないか?
そう思い自分自身に言い聞かせてみたところで解決出来るわけでもないのだ。結局は何一つ変わりはしないわけで……いや、それ以上に身体の感覚が不明瞭となり、それに反するように身体の芯が燃え盛る炎の如く滾っていた。
「あ……ぁ……うぁぁ……ぁ……っ!」
唐突に湧き出してきた激甚な欲求を抑える術を知らない彼女は惨めったらしく喘ぐことしかできない。まるで自分自身を慰めるかのように身体を抱き締める姿はとても哀愁漂う印象があった。
その有様を目撃した途端にゾクゾクと興奮してしまう人物が存在していた。他でもない女性富豪である。眼前で繰り広げられている痴態は最高の娯楽物であり極上の料理と比肩する価値観を持っていた為に理性という防波堤は粉々に壊されてしまっていたのだ。
獲物を屠る猟犬の牙と同じ鋭い眼光。それでいて慈母の包容力とも相反する雰囲気。全てが女性富豪に服従するべき雌豚であること認めさせられてしまう。
「フフッ……素敵。気に入ってくれたようで何よりだわ。さっきの座薬、最初に貴女が口にしたお薬よりも強力なものなの。貴女の乱れる姿をもっと堪能したいわ。だから……ね?」
妖艶且つ淫靡な声音で囁くと同時に、ベットの上で悶えるアスナの足首を掴み、自身へと引き寄せる。抵抗できるはずもなく、アスナは為すがままに女性富豪の膝上に乗せられてしまう。
正常位のような体制。二人の顔は接近し互いの吐息がかかる距離まで近づいている。
薬の効果は依然健在である故に、女性富豪から解放される兆候すら見えない現状においてこの状況は絶望以外の何物でもない。しかし本人たちの意思に関係なしに身体が反応を示しているため回避する術はなく追い込まれていく状況に拍車がかかってしまっているのだ。
薄暗い照明に映し出される影は女性同士のそれではなく牝と牡という雄雄しさに満ち満ちており禁忌さえ超えた禁断の関係を彷彿させる。
「まだまだ時間はたっぷりあるわ。その為に特別料金を払って夜明け近くまで予定を確保させてもらったのだから。たくさん愛しましょうね? ウサギちゃん」
まるで恋人へ愛を囁く様な口振りで耳元で語りかけ続ける。これから行われる行為は全て独占的で暴力的な支配欲に基づいて行動するものになるだろう。
「私はね……欲しいものは必ず手に入れる主義なの。どんな手段を使おうと、手に入るまで諦めはしない。例えあなたが泣き叫ぼうと抵抗しようとも構わないわ。だって最終的には私が全て手に入れるんですもの」
嬉々とした口調の裏側に潜む狂気が垣間見える。闇雲に威嚇しているのではなく獰猛な獣性をさらけ出してるかのような凶暴な振る舞いによって圧倒し、強引に己の所有物へとする交渉は極めて非道で邪悪である。
「泣いても叫んでも構わないわ。私は貴女の全てを愛しましょう。喜怒哀楽全てを受け止めてくれる。だけど逃げ出すことは許さないわ」
宣告と共に接吻を交わす。濃厚且つ耽美的で神話的な儀式めいた情景に、しかし、その実情は人の底知れぬ欲望と根深く絡み合う闇を凝縮した在り方を孕んでいた。
「っ……うぅ……んむぅ…………」
唇を奪われ。酸素の供給を失い、苦しさを感じつつも抜け出すことが出来ない状態のアスナ。女性富豪はアスナの鼻腔を封殺し強制的にキスをするという行為を行っている最中の状態でも尚、身体を拘束することは決して怠っていない。
(どうして……こんな事に……っ)
潜入捜査という事もあり、気を抜いていたわけではない。寧ろ、警戒を怠ったつもりもないのである。それでも油断があったのかもしれないと思い悩んでしまってもおかしくない状況であった。
単独での潜入捜査故に救援要請も叶わない。通信機器の持ち込みを禁止されていた為に仲間に助けてもらう事もできない状況である。
定期的な連絡が途絶えた事で救援が来る可能性もあるが、それも暫く先の事になるだろう。
少なくとも、日が出る頃合いまで掛かるのは確実だ。
(あと数時間……? そんなに我慢できる訳……ない……っ)
体内に摂取された薬剤は徐々に作用していくタイプであり身体を蝕む快楽は時間を重ねる毎に増幅されてゆく。アスナの身体は快楽の濁流に攫われ続けていた。思考能力が低下した結果、思考停止寸前の崖っぷちまで追いつめられていた。
いや、そもそも思考が停止するギリギリの所で踏みとどまされているというのが正しい表現かもしれない。
受け入れる事も拒絶する事もいとわない。寧ろそれすら楽しむつもりなのだろう。その上で、快楽に屈し、堕落したアスナを欲しがっている。完全に手中に納める事が可能な状態まで追い込んでおきながら、敢えて放置している。
まるで、残酷な狩人に追い掛けられる獲物のように。
抗い難い快楽の本流に飲まれ、幾度の絶頂を迎え、アスナの思考は徐々に曖昧となっていく。
ただ感じるのは猛烈な快感の嵐が止まず轟き続いており五感すべてに働きかける快楽信号の奔流。
多幸感すら錯覚させるような中毒症状が脳髄を侵食し蝕んでいく恐ろしさ。
口は閉じられない。舌は宙を泳ぐ魚のように空中で踊り狂う。唾液腺から分泌される大量の汁が口角から顎に伝い落ち枕を濡らしていく。瞳孔は開きっぱなしで焦点が合わずボヤけてよく見えない。視野の中心から同心円状にモザイク模様のように拡がっていく。
思考さえも溶けてしまいそうで、記憶と認識がズレ始める中で過去の出来事がフラッシュバックしてくるものの、やはり記憶が混濁するせいで全貌を思い返す事はできない。
過去の記憶が蘇りかけるものの、脳裏に描き出される描写は輪郭線がぼやけているため詳細には思い出せず、パズルのピースを拾い集める作業を行うのに似た苦労をする羽目になる。
しかも、それが繋がる前に別の事柄について考えなければならない煩雑さがあるので、進行速度は遅々として進まない状態が続いている。
(わたし……いま何をしてたんだっけ……?)
意識レベルが低いせいもあるだろうか?
現状認識能力の著しい減退。つまり現在自分がどのような立場にありどういう境遇にあるかなどを正確かつ冷静に理解することが困難になっている。つまり平常時の状態を基準に比較してみれば著しく劣化しているといってよいだろう。
朦朧とする意識の中で判別できたのは自分が寝台に横になっているということだった。
認識の外では、自身の身体が女性富豪の愛により、何度も四肢を痙攣させながら潮と小水を噴き出してはそれをシーツの一部へと還元している。
悲鳴にも嬌声にも似た声が部屋中に木霊し、淫猥な歌劇のような合唱が奏でられる。
何度も快楽の坂を昇り降りし、登り詰める事を許可されずに弄ばれる。まるで永遠とループ再生されるエンドレスループの如く同じ場面が繰り返されているという不可思議な現象が起きているかのように。
これが地獄というものなのだろうか?
この世の終わりなのだろうか?
(わたしのカラダ……もう……メチャクチャにされちゃって……気持ち良すぎて何も考えられない……っ)
理性も感情も自我も自尊心も羞恥心も全て捨て去り裸の一匹の牝と成り果てる事でしか生きる意味を見出せなくなっている。ただ快楽の奴隷として生き永らえるという選択肢しか残されていない現状に愕然としている暇もなく次の衝撃が訪れる。
肉体的な負担は計り知れないものとなっている。心臓は破裂しそうなほど高速で鼓動を刻んでいるし、肺活量を遥かに上回る要求に対応できていないために酸欠状態が続き、血管を通る血液循環システムが混乱を来たしているのが明白であった。
全身の節々が痛みを訴え始めていて特に股関節あたりの鈍い痛みに苛立ちを感じていたのだが、辛さの中に僅かな愉悦がある事実を受け入れ難くも少しだけ安堵してしまう自分がいることには驚きだ。
(辛い……のに……なんか……ヘンなカンジ……)
(でも……なんだろう?)
疑問が浮かんだところで答えを得る術はなく考える事を放棄するのは必然だった。
朦朧とした意識の中、再び唇を塞がれる。
口付けかと思われた次の瞬間、アスナの口内に水が流れ込み、無理矢理嚥下させられる。
その中に感じた異物感。それが何を意味するかは明白だった。
そう、まだ終わっていないのだ。
快楽という名の苦痛。苦痛という名の快楽。相反する二つの概念が共存し続ける矛盾。
アスナはもう飽和状態に達している筈だというのに薬液を投与されてしまえば際限なく昂ぶらされてしまい続ける未来が待っている。終わりのない永久運動のような地獄へ堕ちてしまった自分はもはや戻れないと悟ってしまった。
「まだまだ序盤ですよ。ここからもっともっと楽しいことになるのですからね? 楽しみにしていてね♡」
意気軒昂の様子を見せながら女性富豪は微笑んだ。対して、全身から汗を拭き出し、下半身も大量の愛液と小水でぐしゃぐしゃになりながらも尚衰えぬ美貌の持ち主であるアスナは最早抵抗の意志さえ失ったかのように大人しくしている。
ウサギは狩られ、肉食の猛獣の餌となる。
それだけの事。自然界では当たり前の日常風景なのかもしれない。
喰われる者がいれば食べる者がいる。食物連鎖の中でそれぞれ役割を持って循環していくのが生物世界の真理なのだと言い換えることも可能だ。
そして今回の場合における被害者は間違いなくアスナであり加害者は勿論目の前の人物であることに相違はないだろう。
(わたしが悪いんだ……迂闊すぎた……もっと気をつけなくちゃいけなかったのに……)
後悔しても後の祭り。取り返しの付かないミスを犯した時点で敗北したことを意味する。
それだけの事なのである。
VIPルームは夜通しウサギの嬌声が鳴り響く。朝焼けが窓ガラスを彩るまでその音色は止まる事はなかった。
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