・梯 スバル
梯スバルが花を売るお話です。
ブラックマーケットのとある一画。
淡いネオンの輝きが夜の街中を照らし、道を行き交う人々も何処か浮ついた様子で、一人、二人と、夜の店へと吸い込まれていく。
そんな街の大通りから一本外れた薄暗い裏路地を進んだ先にある人気のない公園。
普段であれば近道程度に利用する以外に何もない場所ではあるが、現在だけは少し様子が異なっていた。
公園のベンチに座る少女が一人。誰かと待ち合わせしているのか、静かに携帯の画面を見つめながら物思いに耽っている。
彼女の名は梯 スバル。
アリウス分校の生徒であり、多くの同胞がアリウスを去る中で、他の生徒と共に残り続け、彼女達をまとめ上げているリーダー的存在である。
そんな彼女が、この場所にいるのは、ある人物との待ち合わせの為だった。
その人物とは……。
「やぁ、すまないね。待たせてしまって」
不意に後ろから掛けられた声。それに反応して振り向いたスバルの目に入ったのは、上質なスーツに身を包んだ、気の良さそうな雰囲気の男性である。
彼は人の良い笑みをスバルへ向けながら隣へと座ると、親しげに尋ねた。
「突然こんな呼び出してしまって悪いね、スバルくん」
「……いえ、構いませんよ」
社交的な笑みを浮かべつつ、スバルは携帯の画面を切り、ポケットにしまい込む。
男性とスバルは仕事の関係でもある。
男性が依頼し、スバルがそれを引き受け、依頼をこなす。
依頼の内容は様々であり、時に要人の身辺調査や、荒事に手を染める事もある。
そして、それ以外にも、スバルと男性は個人的な付き合いも持っていた。
「それで、今日はどういったご用件で?」
スバルは男性へ視線を向けつつ尋ねる。
「ああ、実はね」
男性は口元に笑みを浮かべたまま、懐から一枚の写真を取り出した。
そこには男性と同じく、身綺麗な格好をした人物が数名。
如何にも金持ちといった風貌の者ばかりで、年齢層もバラバラであった。
「彼等からスバルくんに依頼があってね」
そう言いながら男性は指先で写真を軽く弾くと、改めてスバルの顔を見る。
「彼等に君の事を紹介したらいたく気に入ってね。是非お近づきになりたいと」
「……なるほど。そういう事ですね」
スバルは写真の中の男達を見てから、小さく息を吐く。
(まぁ、こういう輩も一定数いるだろうな)
内心で思わず皮肉めいた事を考えてしまうのも無理はない。
容姿についいては自覚はないが、それでも一定の人物には需要があるという事くらい知っている。
そして、仮に彼等がそこそこに地位にいて、普通の遊びに飽きてきたのであれば尚更だ。
「ええ、そうなんですよ。貴女もご存じでしょうが私はこういう立場ですので、彼等とは今後とも良い関係を築きたいと思っています」
「勿論、承知していますとも。ですが、本当に私で宜しいのですか?」
スバルは微笑みを崩さぬままに問いかける。
それに対して男性は、やはりにこやかな表情で答えた。
「勿論ですよ。彼等のような人間にとって、貴女のような若い女性は非常に魅力的なのですよ」
「……そうですか」
スバルはそれ以上言葉を返す事なく、ただ小さく笑う。
実際のところ、こういった依頼は以前にも何度か経験があった。
大抵の場合、相手は裕福で暇を持て余している者が殆どであり、話のネタとして若く美しい少女を求めている事がほとんどである。
だからこそ、こうした依頼を受けたとしても特に問題はないのだが、同時に面倒臭さを感じていた事も確かだ。
それ故、最近ではあまり受けていない。
しかし、今回に限っては話が別だ。
何故なら、今回の依頼人は、幾度か割の良い仕事を斡旋した人物であり、彼のお陰でアリウスの生徒達に食料や武器弾薬などの物資を提供出来たのだ。
恩義という訳ではないが、無下に断るような真似は避けたかった。
「わかりました。お引き受けします」
スバルはそう言って頷くと、男性は嬉しそうに微笑む。
「ありがとうございます。助かりますよ」
「いえ、こちらこそ。ところで、場所などは決まっているのでしょうか?」
「はい。それについては既に手配しています。後は先方に連絡を取れば向こうから迎えを寄越してくれる手筈になっていますよ」
「分かりました。では、私も準備をしておくようにします」
「ええ、お願いしますね」
そう言いながら男性は立ち上がると、再び笑顔を見せる。
「それでは、またお会いしましょう」
「ええ、失礼します」
互いに挨拶を交わし合った後、スバルは背を向けて歩き出す。
花を売る事に抵抗はない。今更だ。これまで何度もそうしてきた。
それでも、少しばかり憂鬱になってしまうのは、致し方のないことだろう。
(とはいえ、これも仕事だ)
そんな事を自分に言い聞かせながら、スバルは帰路につくのであった。
数日後、とある高級ホテルの一室にて。
予定通り、依頼主である金持ち達が集まるパーティに招待されたスバルは、その部屋の中で彼らの歓談に参加していた。
といっても、基本的には聞き役に徹しているだけであり、時折軽い相槌を打ったりしながら場を盛り上げる程度だ。
周囲の視線を集めながらも、普段と変わらない様子で振舞っていたスバルに対し、依頼主の一人が声をかけてくる。
「やぁ、お嬢さん。楽しんでくれているかい?」
声をかけてきたのは、白髪交じりの初老の男性。
品の良い服を着ており、見るからに金持ちといった感じである。
彼が誰なのか、スバルは記憶を探るまでもなく理解していた。
「お邪魔しております」
丁寧に頭を下げると、老人は満足げに頷き、隣に座るように促す。
「まぁ、そう畏まらずともいいよ。楽にしてもらえばいいからね」
「はい、お心遣い感謝致します」
そう言って、グラス片手にソファへ腰掛ける。
「いやぁ、若いのに随分としっかりしてるねぇ。感心するよ」
「ありがとうございます」
「いやいや、本当にお世辞じゃないんだよ。こういう場では中々珍しいものでね」
老人は楽しげに笑いながら言うと、再びグラスを傾け始める。
その横で、グラスの液体に口を付け、アルコール臭が鼻を刺すのを感じながら、スバルは思う。
(……正直、苦手なタイプだな)
そんな事を考えつつも、表面上は変わらぬ態度を保ち続ける。
その間も老人は未成年であるスバルにお酒を勧め続け、スバルは相槌を打ちながらグラスを傾けては中身を飲み干していく。次第に身体が火照ってくるような感覚がしてくるものの、それを表に出さないように努めた。
「君みたいな子は滅多に見られないからね。是非とも仲良くなりたいと思ってるんだ」
「それは光栄です。私も皆さんとお話できて嬉しい限りです」
愛想良く返答すると、老人は満足気に笑みを深める。
(……そろそろ良いだろうか?)
そう思い、グラスを近くのテーブルに置くと、ゆっくりと身体を老人に預ける。
「……どうしたんだい?」
「……すみません。少し酔ってしまったようです」
そんな彼女に老人はニヤリと笑みを見せたかと思うと、次の瞬間には肩を抱き寄せた。
「まぁ、無理もないだろうなぁ。まだ若いのだし、こういった場に慣れていないんだろう?」
「……はい。申し訳ございません」
「謝ることなんてないさ。逆に言えば、そんな君の弱みを私が見つけたということになるわけだしね」
ニタリとした笑みを浮かべ、スバルの腰に手を回し、自身へと引き寄せる。
より身体は密着し、老人の体温が伝わってくるようだった。
老人からしても、ドレスに身を包んだスバルを抱き寄せた事で、程よい柔らかさを感じられるのか、鼻息荒く、興奮気味になっていた。
「あの……ここだと少し恥ずかしいので……」
顔を赤らめて見上げてくるスバルに、老人はさらに距離を詰めてくる。彼女の耳元まで顔を近付けると、囁くようにして告げる。
「じゃあ、もう少し落ち着ける場所に行こうか。このホテルには私の個室もあるんだ」
そう言って立ち上がる老人の腕に掴まりながら、スバルも立ち上がり、彼についていく。
そんな二人のやり取りを目にしていた他の参加者達は、皆一様に羨望の眼差しを送っているようだった。
(まったく、いい気なものだな)
内心で毒づきながらも、それを表に出すことなく、スバルは老人と共に会場を後にするのであった。
ホテルの廊下を進む途中、フロントを抜け、エレベーターに乗って移動する。
そして目的の階に到着すると、廊下の奥にある部屋へ案内される。
「さぁ、入ってくれ」
扉を開け放った老人に促されるまま、室内へと踏み入れると、そこは豪華な造りの寝室だった。広々としたスペースに置かれたキングサイズのベッドに大きな窓からは月明かりが差し込んでおり、とても清潔感のある空間となっている。
「素晴らしい部屋ですね」
部屋の隅々まで観察するように眺めながら呟くと、老人は得意げに胸を張る。
「ふふん、そうだろう? ここはこのホテルで一番高価な部屋なんだよ」
「これは驚きました。まさか、ここまで手の込んだ準備をされているとは思いませんでしたよ」
「ああ、当然のことさ。君のために最高の環境を整えておかなければ、申し訳ないというものだからね」
老人は自慢げに語りながら、部屋を見渡すスバルの元へと歩み寄ってくる。
「さて、早速始めようじゃないか」
(えぇ……まぁ、そうなりますよね……)
諦めたように、内心小さく溜息をつく。
この手の誘いを断れるはずもなく、既に覚悟は決めているものの、やはりどうしても気が重くなるものだ。
しかしだからといってここで拒否すれば、せっかくの収入源を逃してしまうこととなるだろう。
つまり結局のところ、受け入れるしかないのだ。
(しょうがないか……)
心の中でそう呟きつつ、表情は穏やかなまま、老人の方へ向き直る。
「分かりました。では、失礼します」
一言断りを入れ、靴を脱いでベッドに上がる。
すると、老人も同じようにベッドへ乗り上げてきた。
二人分の体重を受け止めたシーツが僅かに沈み込み、ギシリと音を立てて軋むのが聞こえる。
そのまま仰向けに寝転ぶ形になると、老人が覆い被さってきた。
「やっと君を手に入れることができたよ」
嬉々とした声色で、ドレスを着たままのスバルの肌に触れてくる。
その感触に少しばかり身震いするも、黙って受け入れた。
老人は続けてスバルの両手首を握り締めると、そのまま押さえつけるように拘束する。
「君の事を紹介された時は、どんな娘なのだろうかと思っていたものだが……実際に会ってみて納得したよ。まさか、こんなにも美しいとは想像以上だったからね」
「それはありがとうございます」
感情の籠っていない声音で答えを返すと、老人は満足そうに微笑む。
「でもね、いくら見た目が優れていようと、所詮は子供だ。まだまだ知らないことが沢山あるんじゃないかな?」
挑発するような物言いに、スバルは何も反論せず押し黙ったままだったが、代わりに別のことを口にする。
「私は一体、何をされるのでしょうか?」
不安げな表情を作りつつ問いかけた途端、老人は舌舐めずりをする。
「何も恐れることはない。大人しく私に従えばすぐに終わるさ」
それだけ告げると、老人はスバルの身体に跨り、強引に唇を奪う。
強烈なアルコール臭に加え、口の中に唾液が流れ込んできた。
(……気持ち悪い)
吐き気を催しつつも耐え忍び、必死になって呼吸を繰り返す。
暫くして漸く解放されると、スバルは大きく咳き込んだ。
「おやおや、大丈夫かい? 慌てる必要はないぞ。これからもっと凄い体験ができるんだからな」
ニタァッと歪んだ笑みを浮かべながら、今度はスカートの中へと手を突っ込んでくる。
下着越しに敏感な部分に触れられてしまい、思わずビクッと反応してしまう。
「うん? どうやらここが弱点みたいだね」
面白がるように執拗に責め立てられ、その都度、羞恥心で一杯になる表情を努めて演じた。やがてショーツが濡れてきたことに気づいた老人は、満足げに息を漏らす。
「なかなか悪くない具合じゃないか。もっと可愛がってあげよう」
興奮した様子で、ついにドレスの裾を捲り上げようとする。
「あの……少しお待ちください」
「どうしたんだい?」
唐突にストップをかけられて困惑する老人に向けて、スバルは涙目の演技をしながら訴えかける。
「その、この手の事はあまり経験がないので……どうか、お手柔らかにお願いします……」
「……ああ、もちろんだとも! 私が優しく教えてあげよう」
自信満々に宣言する老人を見て、安堵する素振りを見せる。
これでそこそこ楽しんだ程度で終わってくれるだろう。最悪、痛みを伴うことも有り得たため、それが回避できただけでも儲けものだ。
この老人以外にも、最低でも数人の相手をしなければいけないのだ。
少しでも体力を温存したい。
「ありがとうございます……優しくしてくださいね……?」
媚びるような台詞を吐くと、老人は再び口付けを交わすのであった。
その後、スバルはドレスを着たまま下着を脱がされ、老人のペースで行為が始まった。
十分に濡れ、ほぐされた秘部に老人の一物が挿入されていく。
痛みはないものの、違和感を覚えずにはいられなかった。
しかし、それは最初だけ。
ベットが軋む毎にスバルの身体が揺れ動く。
甘く、蕩ける嬌声が老人の鼓膜を震わせ、瑞々しい肌が汗ばみ、乱れる髪の美しさに、老人は魅了されていた。
「ハッ、ハッ……ハァ!! イイよぉ!! すごく良い!! 君は最高だ!!」
激しく腰を振りながら、絶頂を迎えそうな気配を感じさせる老人。
優しくすると言いながら、結局は自分本位のピストン運動を行うのみ。
スバルは老人の欲望を全て受け止め、彼が果てる寸前で腰に足を絡めて自身へと引き寄せる。同時により強く膣壁を締め付けることで刺激を与え、射精へ導いた。
「オオォォォォォ!!」
大量の精子が流し込まれ、溢れ出る白濁液によって結合部が汚れていく。
一方的に快楽を得て満足した老人は、疲労困憊となりながらも上機嫌だった。
「……満足していただけたでしょうか?」
汗塗れになった身体を起こし、息を整えつつ尋ねると、老人は深く頷いて見せる。
「最高だったよ。こんなことは久しぶりだ。ありがとう」
そう言って、満足気な笑みを浮かべるも、老人の一物は未だ硬度を維持しており、明らかに再戦の意思表示をしている。
仕方がない。しばらく付き合ってやろうか。
スバルはそう考え、一度抜かれてしまった一物を受け入れるべく、指で秘部を広げながら言った。
「もう一度、気持ちよくさせてもらえますか?」
妖艶な笑みを浮かべながらのおねだりに、老人は喉をごくりと鳴らすと二回戦目に突入する。
(……長い夜になりそうだな)
半ば諦めムードで天井を見上げるスバル。
身体は揺れ、下腹部には熱を感じながら、何処か冷めた思考のまま朝を迎えるのだった。
翌日の朝、部屋のドアがノックされた音で目が覚める。
起き上がってみると、昨晩の情事の痕跡があちらこちらに散らばっていて、ベッドの周りは酷い惨状となっていた。
あれから何時間も続いたセックスにより、全身が怠く感じる。
ベッドの脇には着替えた老人がいて、衣服の乱れはあるものの平然としていた。
「やぁ、起きたかね? 昨日は良かったよ、ホントに最高だった」
開口一番に褒め称えると、屈託の無い笑顔を向けてくる。
どうやら相当な満足度らしい。
「此方こそ、可愛がっていただき、ありがとうございます」
適当に答えて欠伸を噛み殺し、眠気覚ましに水を飲む。
(……あと何回、これが続くんだろ)
ぼんやりと考えながらペットボトルの蓋を閉めると、鞄に入れたスマホが鳴り響いた。
相手は今回の依頼を仲介してくれた男性からのメッセージであり、内容は次の集合場所についての連絡である。
(…………はぁ)
吐息を漏らしつつ、身支度を整える。
ドレスが皺だらけで着にくいが、文句は言っていられない。
早く済ませてしまいたい一心で支度を終え、荷物を持って部屋を出て行く際に、老人に声を掛けられる。
「またいつでも来てくれて構わないからね。楽しみにしているよ」
期待に胸を膨らませた様子で言われ、苦笑する他なかった。
スバルは曖昧に微笑んで応じ、老人と別れた。
ホテルを出て、指定された場所へ向かう為に歩いてゆく。
夜通し働かされた身体は疲れ切っていたが、休んでいる暇など無いのだ。
全てはアリウスに残った皆の為。今はそれしか考えてはならないのだから。
(……頑張りますか)
そう独りごちながら、再び今日の勤務先へと急ぐスバルだった。
感想などいただけると幸いです。