※この作品はR-18です。

見切り発車の艦これモノ(仮)   作:ヌメリ茸

4 / 8
4話目 A面・B面

4,

 

A面

 

 

入院十日目。精密検査の結果を聞かされた日のことである。

 社内で起こった失神事故とやらの扱いであるからして、

 入院費用を含め諸々の負担は会社側が持つことになった。

 持病扱いにして何とか処理したいらしいが、

 社内の噂があまりに香ばしいため、

 吾輩としては徹底的に負担をかけてやろうと密かに企んでいる。

 

そんな折、同僚に頼んでいた私物が届いた。

 会社に置きっぱなしになっていたものである。

 せっかく会社の金でお高い個室を利用しているのだ。

 Wi-Fiも完備されている。

 デスマーチで疲弊した精神と肉体を、

 ここぞとばかりに回復させてもらうとしよう。

 

などと能天気に鼻歌を歌いながら荷物を取り出していると、

 同僚が胡乱な目つきで言った。

 

「ちょっと能天気すぎねー? 治る見込みが無いんだろう?」

 

うむ。少々浮かれてしまったな。

 しかしながら、泣き叫んでいても事態は改善しないのは

 確定的に明らかである。

 精密検査中の先生の表情を見た時、

 吾輩はすでに覚悟を終えていたのだ。

 後はなるようにしかならん。

 

「ならん、って……」

「つかその【吾輩】とか何なんよ。デスマ中から言ってたよな」

 

うむ。いわゆるキャラ作りというものである。

 

「いや、その前の【拙者】とか【フォカヌポウ】はやめたんか。

 つかアレはぶっちゃけキモかった」

 

それな。いや、我ながらあのキャラは

 傍から見るとキツイでござるな。

 

「おい戻ってる」

 

これは失敬。

 

そんな軽口を交わしながら私物整理を続けた。

 

倒れた当時、吾輩が某ボクサーの如く真っ白に燃え尽き、

 座り込んでいたトイレの前を通りかかった社員から、

 謎の体調不良の訴えがあったそうだ。

 

封水が切れているSKから刺激臭を伴う“何か”が

 充満したのでは、という話である。

 しかしながら、その“何か”が何であったのか、

 結局のところ原因は判然としない。

 

当初は未知の病原体か、

 はたまた毒ガステロかと大騒ぎになったらしい。

 噂では、やけに声の大きい御仁が

 ほうぼう走り回って吹聴していたという。

 恐らく課長であろう。

 

おかげで吾輩を含む私物関係は厳重に隔離され、

 丸一日かけての検査が行われた。

 結果、危険なガスもウイルスも検出されず、

 診断は「過労による心神喪失」。

 吾輩は晴れて病室へ戻されたが、

 当時の衣服は“念のため”と専門機関へ送られてしまった。

 

原因不明というのは、実に不気味である。

 しかし、世の中には説明のつかぬ事象が

 往々にして存在するものだ。

 

私物の中で必要なのは携帯電話。

 会社支給のものと個人携帯。

 よし、あるな。

 

家族に一応メッセージを送る。

 没交渉でも険悪でもないが、

 頻繁に連絡を取り合う仲でもない。

 三年ぶりに正月帰省したら、

 弟に嫁と子供がいたのを初めて知った。

 その程度の仲である。

 

今回も「仕事で体調崩して入院した。出たら連絡する」

 と送ればよいだろう。

 

「見舞いとか来るんじゃないの? 病院の住所送っとけよ。近いんだろ?」

 

大事になりそうなのでごめん被るでござるよ。

 

「下半身動かせない時点で大事だろう」

 

それはそれ、これはこれですぞ。

 

「キャラぶれぶれやん」

 

むむ、吾輩としたことが。

 

@@@

 

同僚を見送り、気の進まぬ身内へのメッセージを送信した吾輩は、

 携帯を充電しようと棚へ手を伸ばした。

 すると、そこに見慣れぬ携帯端末が置かれているのを発見した。

 

――同僚の忘れ物か?

 

手に取ると画面が灯る。

 二頭身のキャラクターが猫を片手に振り回し、

 シークバーへエールを送っている。

 どう見ても艦これのエラー娘とその猫である。

 

エールの勢いは増し、

 猫は残像を残すほどの回転速度となった。

 シークバーが100%に近づいた時、

 とうとうエラー娘は猫をヘリコプターの羽根代わりに

 離陸していき、画面外へ去った。

 

いとおかし。

 

画面が切り替わる。

 そこに映し出されたのは、どこかの部屋である。

 斜め見下ろしの視点でベッドが置かれ、

 窓の外には港湾施設が広がっている。

 ガントリークレーン、ブリッジクレーン、コンテナクレーン――

 どう見ても港である。

 

デフォルメ調の少女が、

 これまたデフォルメされた太った人物の介護をしていた。

 夢の中で吾輩が取り憑いていた御仁ではなかろうか。

 そして世話をする少女は、吹雪であろう。

 

吹雪をタップすると、表示が出た。

 やはり吹雪である。

 レベル87、改二。

 初期艦にしてはベテランすぎるが、

 人生には色々ある。

 艦娘にも色々あるのだろう。

 

目的は彼の御仁である。

 だがベッドをタップしてしまったようで、詳細が現れた。

 

粗末なベッド

 (盗聴器×5:内訳、陸軍2、横浜1、舞鶴1、大本営1)

 

注目の的だな(震え声)。

 

気を取り直して御仁をタップする。

 名前は伊武高継さん。

 括弧書きで九条とあるが、複雑な家庭事情なのだろう。

 面倒であるからして、吾輩は知らなかったことにした。

 

年齢16歳。若い。

 身長体重がマッチしていないが、

 ほうほう、わらしべの帝、とな。

 

さて、知りたいのは現状の症状である。

 ステータス項目を追っていくと、こうあった。

 

「頸椎骨折による致命傷、脊髄圧迫により下半身不随

(現在緊急対応にて延命中)」

 

うむ。何となく原因は思い当たっていた。

 延髄に受けた蹴りが原因なのだろう。

 おかげで社内に潜むGCHM勢から注目の的になり、

 お腐れ様方から生暖かい目を向けられるのも辛い。

 高身長で安産体型の好みの方がお腐れ様だったとか。

 知りとうなかったぞ。

 

原因が判明すれば、後はそれを取り除くまでである。

 今まさに減り続けている【DMMポイント】が鍵なのだろう。

 元の数値は不明だが、ひのふのみの……五千万ポイントあれば余裕だろう。

 勝ったな、ガハハ。

 

と思い端末をこねくり回したが、

 こいつで出来るのは確認のみ。

 実際にポイントを利用できるのは本体のみらしい。

 

本体 is 何処?

 

詰んだ是。

 艦これならず、積んコレよ(季語無し)。

 

五千万ポイントを誇っていたDMMポイントは、

 今や二百万ポイントに。

 高継君の生命が脅かされそうになった時、

 自動展開した謎バリアーの燃費が悪すぎる。

 そして高継君、なぜ暗殺されそうになっているのか。

 

コレガワカラナイ(殿下口調)。

 

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B面

 

 

僕はまだ映画館に囚われていた。

 いや、正確には出て行く気がないだけなのだが、

 囚われていると言った方が雰囲気が出る。

 

あの爽快劇が終わってしばらくした頃、

 唐突にスクリーンが再び動き出した。

 

倒れ伏し、首があり得ない方向に曲がっている僕。

 僕を蹴り倒した亜麻色の髪の艦娘。

 その艦娘に駆け寄り、僕の方を気にしている別の艦娘。

 そして、あおむけに倒れた深海棲艦――なぜか足が生えている。

 

そこへ衣服がボロボロの四人が合流し、

 何やら言い争いを始めた。

 音声がないので身振りで判断するしかないが、

 どうやら後から来た四人は

 「深海棲艦にとどめを刺せ」と詰め寄っているらしい。

 しかし亜麻色髪の彼女は断っている。

 

今度はその亜麻色髪が、

 手に持った連装砲を僕に向けようとした。

 すると、さっきお礼を言っていた彼女を含む五人が

 全力で止めに入る。

 

……うん。

 助けてもらえるのはありがたいが、

 生身で深海棲艦を圧倒する存在が警戒されるのは当然だ。

 

自分のことなのに、スクリーン越しだと他人事にしか思えない。

 それに、僕の命のカウントダウンはすでに始まっていた。

 

右上の数字。【DMM:13000000P】

 さっき見たときはもっとあったはずだが、

 今は114514810Pになっている。

 一定ではないが、確実に減っている。

 直感的に、あれが僕の“命数”なのだと理解した。

 

倒れ伏した僕と、気を失った深海棲艦。

 その背景で険悪な空気を漂わせる艦娘たち。

 一人だけ、僕の方へ介護に来ようとしては

 亜麻色髪に止められてあわあわしている。

 

――あの子が一番いい子だ。間違いない。

 

のんびり数字が減るのを眺めていると、

 軍の車両が多数到着し、防護服の軍人が

 僕と深海棲艦を回収していった。

 

深海棲艦の彼女は丁寧にタンカで運ばれ、

 布のような何かでぐるぐる巻きにされている。

 僕はというと、四人がかりで雑に引きずられ、

 トラックの荷台に投げ捨てられた。

 

その瞬間、ポイントがググッと減った。

 少し怒りを覚えたのは――嘘である。

 全身の毛根を死滅させてやりたいほど怒っている。

 

搬送中は特筆すべきことはない。

 荷台で不愉快なオブジェと化した僕が

 映っているだけだからだ。

 

到着したのは湾口施設。

 僕的には“戻ってきただけ”である。

 

荷台で放置されていた僕は、

 職員に「生きてる!」と騒がれ、処置を受けることになった。

 

医院に運ばれ、首が変な方向なのは見栄えが悪いと

 コルセットを装着される。

 全裸だったのでバケツで水をかけられ、

 乾かないうちに白い病院衣を着せられた。

 

コルセットは医師の仕事だが、

 洗浄と着替えを担当したのは

 僕を荷台に投げた四人である。

 生存確認を怠った懲罰らしい。

 

――おかげで名前と顔を覚えた。

 てめぇら許さねぇからな。

 

その後、病室のベッドに寝ている僕を

 延々と眺める日々が続いた。

 

介護してくれているのは純朴そうな娘さん。

 砂浜にいた艦娘の中で、僕的に一番評価が高かった子だ。

 良い子である。

 

他の五人は姿を見ない。

 音声がないので名前も不明だ。

 

数日後の夜。

 ぼんやりと寝ている僕を眺めていると、

 不審な人影が近づいてきた。

 

――消されるのか。

 

妙に冷静な気持ちで見つめる。

 手には注射器。

 手段はそれらしい。

 

命数は七千万Pほど残っていたが、

ここまでか。

 

人影が手を伸ばした瞬間、

 ベッドが光の膜に包まれた。

 

不審人物が膜に触れた途端、閃光が走り、

 人物は部屋の端まで吹き飛ばされた。

 音声はないが、相当な音がしたのだろう。

 

よろけながら去っていく影。

 消える光の膜。

 割れた注射器だけが残った。

 

その後、警備兵が突入し、

 世話をしている娘がおろおろしていた。

 

そんな光景を見ながら、僕は思った。

 

――全部に捨てられたわけじゃないんだな。

 僕は、生きていてもいいんだ。

 

あの数字は命数じゃない。

 僕を生かしてくれる力なんだ。

 

あの力強い“僕”の姿を思い出す。

 高く舞い上がり、深海棲艦を一撃で仕留めた、

 あのキリモミ投げ。

 

僕は、生きる勇気をもらった気がした。

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