6,
A面
目を開ける。
イメージしていた通りの天井である。
両手をかざす。
丸太のような腕と、グローブのような掌。
うむ、どう見ても高継氏の肉体であろう。
吾輩、ついにこの身体を得たわけだ。
体をめぐる謎の熱を感じる。
それが背中を通り、首筋に集まり、ふっと消えてゆく。
まるで気まぐれな猫が、背中を歩いていったかのようである。
――ここを何とかせねばなるまい。
目を閉じ、イメージする。
頸椎骨折を治しておくれ……。
その瞬間、いつの間にか存在していた謎端末が震えた。
画面を覗き込むと――
《その願いは、わたしの力を超えている》
神龍か! しかも無理なのかよ!
続けて表示される。
《回答:破損した頸椎を含む骨片が拡散されぬよう保護膜を張り保持しています》
《頸椎破損時に適切な措置を行わなかった結果、血流操作と筋肉微細運動による回復プランは実行不能です》
《外科的措置を施したのち、プランの実行を推奨いたします》
有能すぎる。
すまん端末殿。神龍(無能)呼ばわりしてしまって。
《回答:ええんやで》
端末殿、まことに徳の高い存在である。
さて、そうなると選択するプランは絞られる。
外科的アプローチと言えば、そう。手術である。
しかし暗殺対象である高継氏の手術を他人に委ねるなど、
吾輩の首を差し出すに等しい暴挙である。
医療技術を持つキャラを呼び出し、
自前で手術を行うことも考えたが――首では無理無謀な選択だ。
かのスーパーなDr.Kも腕などの手術は完遂できたが、
頸椎となると話は別である。
そして特殊な技術をお持ちの方や知識のある方々は、
ポイント的にお高くなっていた。
E本田氏やザンギエフ氏はアクティベート済みのためコスト不明だが、
同作品のサガット氏は200万Pであった。
本人なりきりプランは現在選べない。
そこで能力選択プランだ。
架空キャラの能力だけを“ポン付け”する。
これならコストも抑えられる。
さらに能力を作中から制限していけば、だいぶお安くなる。
目を付けたのは、かの有名な “スタンド”能力 だ。
殴って治す方は能力ポン付けでも2000万Pが必要であり手が出ないが、
特殊能力をすべてなくし、発現距離・パワー・成長性を
徹底的に削った結果――
30万P程度に抑えられた。
スタンド能力を付けて、
そいつで骨を元の位置に戻し、
自己治癒能力を高めて治療完了。ヨシ!
……問題は、スタンドというもの、
どうやって動かすのだろうか。
求む:スタンドによる手術の方法。
端末が震えた。
《回答:私にいい考えがある》
端末殿、ぐう有能説。あると思います。
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B面
謎の男が消えたスクリーンは、
今は何も映さず、水面のようにゆらゆらと波打っていた。
あのスクリーンに触れれば――飛び込めば――
そんな期待を胸に、壇上へと歩み寄る。
壇上に指先をかけようとした瞬間、
***侵入不可***
空中に文字が浮かび上がった。
まるで「最初から触らせる気はない」と言われたようだ。
「……はいはい、ダメってことね」
仕方なく後方の扉でも探そうと振り返った、その時だった。
座っていた席が、ぼうっと光っていた。
近寄り確認してみるとそこには、特徴的な形状のオブジェがあった。
異様な姿かたちのそれは、謎の男が抱えていた物なのだと気が付く。
その置物が、いつの間にか-謎の発光する板-を掲げているのだ。
(……板が光る? 文字が表示されて……日本語か?)
板には、淡々と文字が浮かんだ。
《提督が鎮守府に着任しました。これより、艦隊の指揮に入ります》
「艦隊? 指揮? 鎮守府は舞鶴か?」
新たな展開に思考が追いつかない。
“なぜ?”が渦巻くばかりだ。
混乱する僕を置き去りに、光る板はさらに文字を表示する。
《内部個体は活動身体の治療の指示を下しましたが、
端末の処理能力を超過しているため却下されました》
《頸椎は破損し、適切な初期処置が行われなかったため、
血流操作および筋肉微細運動による回復プランは不可能です》
「そんな冷静に言われても困るんだけど」
軽口が口からこぼれたが、内心は冷え込んでいた。
この光の板が言う内部個体は、僕の体に入り込んだあのエントリーおじさんで、
活動身体は僕の体だと言う事を理解した。
そして頸椎損傷の一文。
まさしく僕は死にかけていたのだ。
スクリーンを見やると致命傷で死にかけの僕は起き上がり部屋の中を徘徊してる。
――死にかけにしては元気すぎるな。
心なしか右上のポイントの減少速度が速まっている。
「動き回っちゃったら駄目なんじゃないのかな!」
光る板にそう言い放つが、
光る板は僕の言葉に反応せず文字を表示した。
《内部個体は“外科的措置”を検討しています》
「外科的って……手術?」
《暗殺対象である活動身体を他者に預けるのは危険と判断》
《よって自己完結を前提とした施術プロセスへ移行中です》
「やっぱり僕、狙われていた?」
光る板は何も返さない。
僕の言葉は届かないらしい。
スクリーン内の僕が、何かを思いついたように顔を上げ、
手に持つ板状の物を操作した。
この光る板とあれは、大きさこそ違えど、どこか似ている。
僕の思考をよそに、板は淡々と文字を映す。
《内部個体は“スタンド能力のポン付け”を選択しました》
「スタンドって……何?」
《殴って治す個体は2000万Pと高額のため断念》
《アクティベート個体を変更》
《特殊能力を全削除し、発現距離・パワー・成長性を最低値に調整》
《結果、30万Pで購入可能となりました》
「値引きの率が怖いんだけど……」
《98.5%引きと大変お安くなっております》
「……いま僕の言葉に答えたよね?」
《・・・》
「僕の言葉聴こえているn――」
《内部個体が新たな問題を発議いたしました》
「ちょっとぼくの話を――」
《提議:スタンドの運用における自律性と精密動作の確保》
「知らんよそんなの!」
板を掲げた置物は、しかしどこか誇らしげに文字を表示した。
《回答:私にいい考えがあります》
「何その無駄に不安になる自信満々な言葉」
置物は光る板の裏側から、
PCの機器接続ケーブルによく似た物を引きずり出した。
「ちょっと待て、それはどこに――」
置物はAIめいた口調で告げる。
「操作マニュアルを直接脳内に書き込む事で、
習得は極めて合理的に行われます」
「喋れるのかよ! ってか合理的の意味、絶対違うだろ!」
「動く事は推奨されません。Resistance is pointless(抵抗は無意味だ)」
「なんで英語!?」
置物は僕の頭を軽く押さえ――
ケーブルのコネクタを脳天に突き刺した。
え。そんな所に挿さっちゃうんだ。
そんな事を考えながら、意識は暗く沈んでいった。
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深い水の底に落ちるような、しかしどこか心地よい感覚だった。
暗闇の中に、ひとつの光点が浮かぶ。
それは、幼い頃の僕だ。
幼い僕は無表情で、しかしどこか誇らしげに胸を張っていた。
その背後には、無数のコードと光のラインが走り、
まるで巨大な機械の心臓部に立っているようだった。
――起動シーケンス開始。
どこからともなく、機械的な声が響く。
冷たく、淡々とした声だ。
《コアユニット:高継モデル、認証中》
幼い僕が両手を広げる。
僕を迎え入れるように。
僕は手を伸ばす。
磁石が引き合うように幼い僕と手が触れ合う。
《認証完了。接続シーケンス開始》
《神経接続……良好》
《思考リンク……同期率 92%》
《補助演算モジュール……起動》
光があふれ、世界が一瞬で白く塗りつぶされた。
低い電子音が、遠くで脈打つように響く。
――メインシステム 通常モード 起動シマス