※この作品はR-18です。

魔法少女★セイントミラー・アリス   作:SIS

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第十一話 色気のないピロートーク

 

 

 

 

 

 何はともあれ、このまま研究室の床に加奈を転がしておく訳にはいかない。

 

 意識を取り戻さない彼女を治療用プールに寝かせ、ブラボールはその隣で万が一に備えつつ、報告書に目を通す。

 

 加奈が目を覚ましたのは、それから5時間ほどたってからの事だ。

 

「……あれ?」

 

『起きたか』

 

 風呂桶のような治療用プールから、とぼけた声を上げて身を起こす金髪碧眼の魔法少女。ブラボールはちらり、と彼女に視線を向けると、いそいそとタオルを用意した。

 

 一方、魔法少女は何やらきょろきょろと周囲を見渡し、困惑している様子。

 

「あ、あれ、おじさん……私? あれ?」

 

『覚えていないか? 行為のあと気絶して倒れたんだが』

 

「行為……?」

 

 ブラボールの言葉にきょとん、と首を傾げる少女。

 

 ややあって、その顔がぼっ、と真っ赤に染まった。耳まで赤くした彼女は、胸元をばっと押さえるとプールに耳まで身を沈めた。

 

「(がぼがぼ、がぼがぼぼぼぼぼ!!)」

 

『何を遊んでいる。意識を取り戻したならさっさとそこから出ろ。ほれ、タオルだ』

 

「は、はーい……」

 

 バスタオルを差し出されて、しばし躊躇ってから加奈はプールから這い出した。着衣のまま溶液につけられていた自分の体を見下ろして、タオルで頭から水気を拭く。……忽ちタオルが水気でぐしゃぐしゃになる。

 

 二枚目を用意しながら、ブラボールが飽きれたように問いかけた。

 

『……変身は解除しないのか?』

 

「あっ」

 

 指摘されて、今気が付いた、といった様子で加奈は手を打った。

 

 その姿が光に包まれ、元の姿……白いシャツとスカート、黒髪黒目の清潔感のある姿に戻る。変身していた間消えていた衣服は乾いたままで、濡れている髪だけを二枚目のバスタオルで拭く。

 

 そんな彼女の様子を見ながら、ブラボールは二人分の飲み物を用意する。陶器のカップに、こぽこぽと満たされるのは魔界産のお茶だ。人間が飲んでも大丈夫なものを選別したそれを、彼は加奈へと差し出した。

 

『飲め。身体が温まる』

 

「あ、ありがと……」

 

 治療用プールの縁に腰かけて、受け取ったカップを手にする加奈。一口すすったその顔が、訝し気にしかめられた。

 

「苦い……」

 

『良薬口に苦し、だったか。我々にも似たような言葉がある』

 

「ここは普通、あまーいホットココアとかでしょうよー……」

 

 生意気な事を言いながら、加奈はちびちびとお茶を飲む。その様子を観察しながら、ブラボールは器用に金属マスクをつけたまま、隙間からお茶を口に流し込んだ。

 

「……器用だね」

 

『慣れているからな。そういうお前は、色事には全くだったようだな。誘って来たからてっきり慣れているのかと思ったぞ』

 

「げぶぅっ!?」

 

 ブラボールの言葉に思わず咳き込む加奈。げほげほ、と酷く咳き込んで、彼女は恨めし気にブラボールを睨んだ。

 

 最も彼は片眉を小さくしかめただけだったが。

 

『事実だろうが』

 

「そ、それは、そうだけど……いや、誘った訳じゃないし! なんていうか、そのほら! わ、私もなんかこう、ちょっとおかしかったというか……お、おじさんがいい人でも、あんなホイホイ股を開くような女じゃないもん、私! ああやだ、どうして私あんな恥ずかしい事……っ!」

 

『ふむ』

 

 どうやら加奈自信、自覚はあるが何故そんな事をしたのか分からない様子。

 

 ブラボールは恐らく、彼女もまた自分と同じ、得体のしれない劣情に突き動かされていたのでは、という確信を深める。

 

 魔族と魔法少女。お互い相容れない、敵対する者同士であるのに、おかしなほど互いに惹かれ合ってしまう。そこにどこか、運命というよりも作為的な者を感じてブラボールは小さく目を細めた。

 

 あるいは。

 

 ただ野蛮で軽率で本能的なものだと思っていたビーストマン一族の狼藉も、あるいはそこに理由があったのか。

 

 もはや確かめる事はない。彼は侮蔑と軽蔑で事実の確認を怠った過去の自分を恥じるが、もうどうしようもない事である。

 

『まあいい。今は落ち着いているようだな?』

 

「う、うん……。…………えと。その……」

 

 頬を赤くして、何度も何度もブラボールの顔とコップの間で視線を往復させる加奈。流石にあまりに露骨な態度に、彼もちょっと気になってくる。

 

『どうした、何か言いたい事があるなら言え』

 

「ええと……」

 

 促されて、加奈はしばし言葉に詰まり、ややあって気力を振りしぼって、しかし蚊の鳴くような声で呟いた。

 

「…………気持ち、よかったです…………」

 

『…………そうか』

 

 そうとだけ返して、ブラボールは残りの茶を口に運ぶ作業に集中した。色々思いついた言葉はあるが、どれも口にしたらただ下品や下劣なだけに感じたのである。

 

 加奈もまた、頬を赤くしたままコップを傾ける。

 

 ……が、そこで彼女はふと、はっと顔を上げた。

 

「まって。今、あれから何時間? 私どのぐらい寝てた!?」

 

『寝ていたのは5時間ぐらいか。ここに来てからはトータルで……6時間ほどか?』

 

「いけない、そろそろ帰らないと!! 最近、魔軍が暴れてるから、遅くなると騒ぎになる……!」

 

 慌てて声を上げる加奈だが、ブラボールはそんな彼女を冷ややかな視線で見返した。

 

『一つ聞くが……この状況から返して貰えると本気で思っているのか? 魔軍の本拠地から? 門限に間に合わないからという理由で?』

 

「……デスヨネ」

 

 至極ごもっともな指摘に、加奈はがくりと肩を落とした。

 

 そんな彼女にマスクの下で小さく笑いながら、ブラボールは空になったコップを彼女から取り上げる。

 

『まあ、どっちにしろ問題はない、安心しろ』

 

「え……」

 

『この要塞は人間界とは別次元にある、時間の流れが違うんだ』

 

 コップを片付けながら、ブラボールは壁の時計を指さした。

 

 その時計には、どいうわけか短針長針が二つずつあり、てんで違う時間を指していた。

 

『お前達人間界での一日が、この要塞内部ではおよそ一月になる。まだ人間界では、お前がここにきてから15分ほどしかたっていない』

 

「え、そうなの? ラッキー、助かった!」

 

 ブラボールの言葉に、嬉しそうに笑う加奈。その朗らかな笑みに小さく頷き返し、ブラボールは続く言葉で彼女のぬか喜びをへし折りにいった。

 

『逆に言えば、ここで2週間ほど生活しても外では半日しか過ぎていないという事だ。それだけあれば、お前を心身ともに堕とすには十分だろう』

 

「え……あ……っ!」

 

 ブラボールの色欲混じりの視線に、加奈はとっさに自分の体を抱きかかえるようにして隠した。だがその頬の赤みは、ただ羞恥と恐怖によるだけのものではないだろう。

 

 彼女は知ってしまった。魔の者に抱かれる悦びを。その事実は、決して消える事はない。

 

『……くく。だが案外、2週間もかからないかもしれんな?』

 

「う……っ」

 

『安心しろ。今すぐこの場でお前を押し倒そうという訳ではない。私にも色々仕事があってな……』

 

 ブラボールは懐に手を入れると、加奈に何かを投げ渡した。

 

 咄嗟に彼女が受け取ったそれを確認すると、それは鉄製の首輪のようなものだった。

 

『それをつけろ。……説明はいるか?』

 

「いーよ、別に。どうせ爆弾か何かでしょ」

 

『話が早くて助かる。安心しろ、ただの保険だ。他人に痛くない腹を探られても互いに困るだろう?』

 

 加奈は口を尖らせ、せめてもの抵抗に憎まれ口を叩きながらも、素直に首輪を自分の首に着けた。カチリ、と小さな音を立てて首輪が完全にロックされる。冷たい鉄の感触が首筋をヒヤリとさせるが、すぐに慣れてしまう事だろう。

 

「付けたよ。で、どーすればいいの? 私をどうする気?」

 

『そうだな。まずは変身してもらおうか。というより、可能な限りこの要塞内では変身したままでいろ。お前達人間は脆弱すぎる、何かあった時に命に係わる。いいな?』

 

 言いながら、ブラボールが何かを加奈に手渡しする。

 

 それは、彼女の変身アイテムであるコンパクトだった。

 

 無言でしばしコンパクトを見つめ、加奈はそれをぎゅっと胸に押し当てるように抱く。

 

「……そんな事言われてもさ。私だってどのぐらいの間、変身していられるか分からないし……」

 

 口ではぶつぶつ言いながらも、素直に応じて変身する加奈。

 

 その姿が再び光に包まれ、それが消えた時には金髪碧眼、うさ耳カチューシャにエプロンドレスを纏ったセイントミラー・アリスの姿がそこにあった。

 

 靡く金髪が、残留する光の粒子を受けてキラキラと輝く。思わずその姿に目を奪われたブラボールは、それとなく視線を逸らした。

 

 心拍数が明らかに増えているのを自覚する。やはり、魔法少女の存在は魔族にとって無視できないようだ、と彼は再確認した。

 

『それでいい。……お前が従順な限り、粗暴な事はしない』

 

「エッチな事はするんでしょ?」

 

『乱暴にはしない』

 

 見た所、服は再変身した事で完全に乾いている。問題はなさそうだと判断して、ブラボールは小さくアリスを手招きした。

 

『……自分で自分の事が分かっていない、といったな。我々も同じだ……魔法少女については分からない事の方が多い。お前を通して、それを調べる。……ついてこい』

 

「はーい」

 

 

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