※この作品はR-18です。

魔法少女★セイントミラー・アリス   作:SIS

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第十五話 魔法少女、実験される

 

 

 

 

 

 数時間後。目を覚ましたアリスを伴って、ブラボールは別の部屋を訪れていた。

 

 研究室と比べても広い、鉄色の空間。壁には巨大な水槽のようなものが立ち並び、コンピューターの基盤のようなものも並べられている。床にはケーブルらしきものが這いまわっており、工作室、といった様子だったブラボールの部屋とは趣が違う。どちらかというと電子的……それだけに、緑色の溶液が満たされた水槽が浮いていた。

 

「あの。おじさん、ここで何を? というか、魔人族の人いるけど、いいの?」

 

『奴は私の部下だ、話は通してある』

 

 ぺこりと頭を下げてくるのは、人間界でいうメイドっぽい格好の魔人族の少女。とがった耳を除けば人間にしか見えない彼女に困惑しつつ、アリスは自分の今着ている服のすそを引っ張った。

 

「あと、これ何? 着ろって言われたから着たけど」

 

『裸の方がよかったか?』

 

「そ、そんな事はないし! ただなんていうか……なにこれ? 水着?」

 

 アリスが着ているのは、彼女の体型に合わせた拘束具である。ただ、袖を束縛していないので、見た目からはやたらとベルトの多い白い服にしか見えない。構造自体が普通の服と違うので、アリスが水着と勘違いするのもやむを得ない話だった。

 

「こんなもの着せて、私をどうするつもりなの?」

 

『何という事はない、お前自身を調査するためだ』

 

「調査……?」

 

 要領を得ない様子でオウム返ししたあと、彼女はぎょっとして自分の体を庇うように抱きしめて一歩下がった。

 

「ま、まさか、手術台に私をしばりつけてあんな事やこんな事を……?!」

 

『それがお望みならそれでもいいが、そんな効率の悪い事はしない。いいから、あの水槽の中に入れ』

 

「へ……?」

 

 ブラボールがそういって指さすのは、中身の入っていない空の水槽。

 

 中身を抜かれ、ガラスの外壁も解放されている水槽の中には、人一人分が身を預けられるぐらいのサイズの壁と、その周囲に這いまわる無数の配管があった。

 

『あの溶液は、お前を寝かせている治療用プールと同じ、魔力を溶かした溶媒だ。それを用いて、お前の体の精査を行う。……お前だって、今の自分がどういう状態なのかは気になるだろう?』

 

「それは、まあ、そうだけど……」

 

『明らかに肉体の限界を越えた持続的な強化。異様な回復速度。外見の大きな変化。肉体を直接作り替えでもしないとそんな事は起きやない。技術レベルを考えると、お前たち人間界の政府でも、魔法少女の詳細は把握しないまま運用しているのではないか? ここで我々のテクノロジーで詳細を調べておく事は、お前自身の為にもなる』

 

 理路整然と説明するブラボールに、アリスもまた「そうかな? そうかも……?」と納得顔になる。

 

 もちろん、それだけではない。

 

 なのだが、あまりに素直なアリスの様子に、ブラボールはちょっとした罪悪感と呆れを覚えずにはいられなかった。

 

『……納得したならいい。中に入って、酸素マスクをつけろ』

 

「うーん。まあいっか、わかったー」

 

 比較的おとなしく中に入り、酸素マスクをつけるアリス。そこでふと、彼女は今思い立った事ブラボールに尋ねた。

 

「そういえば、これどのぐらいの時間かかるの?」

 

『数時間以上はかかる。その間起きておくのも大変だろうから、睡眠ガスを流して眠ってもらう』

 

「え゛っ。ちょ、ま……」

 

 淡々と非人道的な事を言い出すブラボールにぎょっとするアリスだが、時すでに遅し。

 

 彼女が酸素マスクを着用したのを確認して、水槽のガラスが自動的に閉ざされる。そしてこぽこぽと流し込まれてくる緑色の溶液。

 

 アリスは慌てるが、いつの間にか衣装が壁に固定されており、身動きできないようになっている。愕然とするアリス。

 

「ちょ、ちょっとおじさん!? んもー、後で覚えzzz……」

 

 不満を口にするも、それは流し込まれた睡眠ガスで一瞬で眠りへと変わる。

 

 溶液に沈んでいくアリスを眺めつつ、ブラボールは満足そうにうなずいた。

 

『薬害耐性などは今のところないようだな。よし、調査を開始しろ』

 

「了解しました、ブラボール様」

 

 部下がコンピューターを制御する傍らで、溶液の中に浮かぶアリスのシルエットはブラボールはじっと見つめる。

 

 この水槽は、魔族の重傷者の治療に使われる医療用ポッドだ。内部に満たされる溶液には魔力が溶け込んでいるだけではなく、とろみのかかった溶媒は血と混ざらないようになっている。それによって空間を満たし、出血を防ぎつつ、魔力をしみこませて治療を促進し、さらに超音波で患者の体内も検査する事ができる。

 

 肉体が頑強で並大抵の負傷は死ななければ治る他の魔族と違い、魔人族が戦いの負傷を癒すためにはこういった設備が必要なのである。それを応用して、魔法少女の肉体を調べようという訳だ。

 

『魔法少女は魔力を持っているとはいえ、その波長は我々魔族のソレとは大きく違う。魔族の魔力で満たしたこのポッドの中では、その違いがはっきりと計測できるはずだが……どうだ?』

 

「お待ちください、そうすぐには……」

 

『それもそうか。急かしてすまんな』

 

 もともと数時間の検査を想定していたのだ。そんなすぐに分かるはずもない。

 

「今現在、溶液の浸透作業を行っています。……興味深いですね、わかってはいましたが、魔法少女、もとい人間族は、肉体的には私達魔人族と本当に変わらないのですね。呼吸器こそ呼吸のために触る事はできませんが、現在耳朶、尿道、腸管、生殖器にソリューションの浸透を確認。接触面に、魔力の拮抗反応を確認できています」

 

『無意識化で抵抗を受けているという事か。調査に影響はあるか?』

 

「いえ、抵抗というよりも、魔力同士の干渉によるごく当たり前の減少です。やはり、物理的な抵抗以上のものはないようです……しかし……」

 

 会話をしながらも、部下が何かに気が付いたように言葉を濁す。

 

 この若く優秀な魔人族の女を信用しているブラボールは、急かす事なく彼女が考えをまとめるのをまった。

 

「……これは……非検体は、こちらに来てから24時間以上は経過しているのですよね。最後に食事したのは、あちら側……ですよね?」

 

『どうした、何が気になる?』

 

「その……見る限り、消化器官に内容物が見当たりません。完全に空です」

 

 その報告に、はたとブラボールはそういえばアリスがこちらに来てから、トイレを求めた事がなかった事を思い返した。

 

 魔人族とて、物を食べるしそういった設備も利用するので、そういった行為にも理解がある。それだけに、それが異常な事はすぐに分かった。

 

『どういう事だ?』

 

「わかりませんが……魔法少女に変身した際に、そういった戦闘上でリスクになる要素が排除されているのかもしれません。消化器官の内容物は、しばしば戦闘において大きなリスクになります。感染症などを引き起こした場合、まず確実に助かりませんし……単純にそういった生理的な欲求が、戦闘の障害になりえますから」

 

『それはそうだが、それではまるで……』

 

 魔法少女が、魔族以上に戦闘に最適化された存在のようではないか。

 

 生物兵器、という言葉が一瞬、ブラボールの頭をよぎる。

 

『……わかった。出来るだけ精密に調べろ。解析自体はできなくてもデータを取れるだけ取れ』

 

「はっ、了解しました。後でデータをお部屋にお持ちします」

 

『まかせる』

 

 ここでずっとアリスの姿を眺めている訳にもいかない。ブラボールは部下に後を任せ、自室に戻る事にした。

 

 一人、人気のない廊下を歩く。

 

 しかしその間も頭によぎるのは、先ほどの調査報告の事ばかり。もっと言えば、アリスの事ばかりである。

 

『…………』

 

 ブラボールが彼女に欲情しているように、彼女もまた、同じように魔力を持つブラボールに発情しているのはもう間違いがない。おそらく魔族の魔力と魔法少女の魔力は、プラスとマイナス、N極とS極のように引き合う関係にあるのだろう。

 

 これまではあくまで戦場において敵と敵、ビーストマン一族が魔法少女を辱めるのも単に戦闘による興奮によるものと判断していたが、この事実を踏まえて考えると話が変わってくる。

 

 ブラボールとアリスは、その出会いもあって互いに敵意と呼べるものは存在しない。だから、互いに相手に欲情する事に抵抗がない……そこまで考えて、ブラボールは被りを振った。

 

『頭が煮え立ちすぎだ。彼女は魔法少女、私は魔族。出会いがどうであれ、敵と敵でしかない。そして彼女は私の手に落ちた虜囚、蹂躙し支配する相手でしかない』

 

 情欲する事と愛情を抱く事は話が違う。無意識に彼女にほだされている自分自身を自覚し、ブラボールは改めて己を律した。

 

『そもそも、今回医療用ポッドを用いたのも、思惑あっての事だ』

 

 彼女を、魔法少女を調査するため、という彼女に言い聞かせた理由は本当だ。だがそれだけではない。

 

 今、彼女は眠りながら、己の肉体を魔族の魔力に満たされた溶液に沈められている。それは体の中にもしみこみ、彼女の持つ魔力と反応しあっているはずだ。

 

 媚薬、などという便利なものは魔界にもないが、推測が正しければ魔法少女と魔族にとって互いの魔力はそれと同じ。つまり今、アリスは媚薬の中に漬け込まれているも同然の状態だ。

 

 彼女が意識を覚まし、溶液から出てきたとき、果たしてどのような状態になっているか。

 

 そしてその状態の彼女は、組み伏せられた時どのような反応を返すのか。

 

 想像は容易い。

 

『……全ては魔王様の為に。あの魔法少女を、我々の虜とする。そのためなら、どのような非道な事も厭わぬ』

 

 哀れな魔法少女の末路を思い描きつつ、ブラボールは研究室につながる扉に手をかける。

 

 バタン、と扉が閉ざされる音が、暗い要塞の中に響いた。

 

 

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