とりあえず戦闘訓練は終了し、ぐるぐる巻きから解放されるアリス。
意識は戻っていたが、彼女は不可解な事実にひたすら頭を抱えて唸っていた。
「ううーん、なんで、どうしてぇ? あれだけスパスパ切れてたのにー」
『……まあ、説明してやるのも吝かではないが』
「おじさんお願いしますぅ! 教えてください!!」
土下座する勢いで頭を下げてくるアリス。あまりにも現金な反応である。
ちょっと困惑しつつも、ブラボールは彼女の力の絡繰りについて説明してやった。
『これは憶測も含むのだが。あのジャバウォックソードとかいう武器は、単なる切れ味に優れているのではなく、特定の条件を満たした時に攻撃力が上がるタイプの武器とみた』
「特定の条件??」
『例えばリズムとか、間合いとか。そう可笑しな話ではない、普通の武器でも、最大の威力を発揮できるタイミングとか間合いとか、それぞれあるものだ。私のハンマーもそうだな』
スレッジハンマーをぽんぽん、と手でたたく。
『恐らくお前のその武器は、そのジャストタイミングで威力が跳ねあがる代わりに、それ以外では全く威力が出ないのだろう。まあ無意識にでも使いこなしていたのだから、相性はいいと言えるだろうな。だが、無意識であったからこそ、軽くタイミングをずらされただけで容易く無効化された』
「うぅー、そっかあ。言われてみるとそんな気もする……」
身を起こして正座しつつ、しょんぼりと肩を落とすアリス。
しかし、なんていうか。
アリスの力は、正直ブラボールからすると……。
「……ねえ、おじさん。ちょっと思ったんだけど……」
『なんだ?』
「魔法少女としての私の能力って、やたらと玄人向けじゃない?」
そっとブラボールは視線を逸らした。
「ちょっとぉ! そこは嘘でも、そんな事ないよとか慰めるところじゃあない!?」
『露骨な嘘は口にするだけ虚しいだけだ』
「そりゃー、そうだけどさー」
唇を尖らせて「ちょっとぐらい夢みせてくれてもいーじゃんー」とぶーたれるアリス。すねるなすねるな、と宥めつつ、ブラボールはしかし内心である種の確信を得ていた。
恐らく、だが。
彼女は……セイントミラー・アリスは魔軍を脅かすほどの強力な魔法少女の可能性がある。
ミラーショット。ジャバウォックソード。どちらも、はっきりとある傾向がある。
『(二つとも、相手の動きを完全に把握していれば極めて強力な攻撃だ。相手の移動経路を予測しその進路上にばら撒く、あるいは相手の攻撃タイミングを把握してカウンターで切り倒す。……まさか、未来予測か未来予知の類か? 演算能力にリソースを割いているなら素の能力が貧弱なのもうなずける)』
あり得ない話ではない。魔界にも、そういった力を持った魔族の伝説は存在する。読心術などは流石に御伽噺だが、僅かな未来予知を元にそうと錯覚させるほどの立ち回りを見せた大魔族の話などは、魔人族の間では語り草だ。
もしそうであれば、悪戯に自覚させるのは極めて危険である。
この憶測を聞かせるのは完全にアリスがこちら側についたと確信した時にするべき。ブラボールはそんな内心を押し隠し、しれっとした顔で彼女と言葉を交える。
『まあ、補助型の使う攻撃手段としてはまあそんなものではないのか? 基本的に前に出ないで支援するのが真骨頂なのかもしれない。自衛手段の、マグレ狙いのラッキーパンチとしてはなかなかだ』
「だからさ、その本当の能力が全然わからないんだってばさー」
『焦るな焦るな、早計は禁物だ。また時間を割いて付き合ってやる』
「ほんと?! 約束だからね!?」
正座した状態から身を乗り出すようにしてカチューシャのウサ耳をぴこぴこさせるアリス。目がキラキラしていて、かなりの喜びよう。
もしかして彼女は我々の関係を忘れているのではないだろうな? ブラボールはちょっと訝しんだ。
『わかったわかった、約束だ』
「わーい、やったぁ! 約束は守ってよ!!」
『お前の中で意味もなく約束を破るような男か、私は?』
所詮口約束でも約束は約束。からかい半分、冗談半分で問い返すと、アリスは口に手を当てて考え込んだ。
「……それもそっか。おじさん、そのあたりは誠実だもんね! エッチな事に関しては鬼畜外道大魔神だけど」
『そこまで言われる筋合いは……あるか。そりゃあな』
「自覚があってよろしい!!」
何が嬉しいのか、腰に手を当てて胸を逸らして笑顔のアリス。
まあ彼女がご機嫌ならそれでいいか、とブラボールは深く追求しない事にした。
『……さて。訓練で汗もかいただろう。汗を流すついでに、検査といこう。治療室に行くぞ』
「あっ、はーい」
◆◆
『それで今日の検査だが、まずはこれを飲んでもらう』
「なにこれ?」
検査室にやってきたブラボールは、部下からお盆を受け取るとその上にあったカップをアリスに差し出した。白いカップに満たされた、ほんのり緑色の液体。
アリスはまるで試薬でも確かめるみたいに手で扇いで匂いを確認し、ついで覗き込んでまじまじと観察した。
「色の薄い……溶液?」
『まあそのようなものだ。それを飲め。今回はそれを利用して体内を調査する』
「バリュームみたいなもんかー、うぇえーいやだなー」
アリスは話にだけ聞いた事のある液体を連想したのか、うげー、と顔をしかめた。ブラボールは首を傾げる。
『バリューム……? よくわからんが、不味いものではないはずだ。それは保障しよう……なあ?』
「はい。ジュースのようなものだと思って貰えれば」
「あ、そうなの? それだったら、まあ……」
厳ついブラボールだけでなく、その部下の華奢な女性にも肯定されて、アリスはとりあえず納得したようだ。ひょい、とコップを傾けて一息で飲み干す。
「あ、ほんとだ、甘くておいしい。ねえ、もっと貰ってもいい?」
『……まあ、構わないが』
「どうぞ、こちらに」
アイコンタクトで、部下がボトルを持ってくる。こぽこぽとカップに満たされたそれを、アリスはまたしても一息で飲み干した。
「くぅー! 冷たくておいしいー」
『もしかして喉が渇いていたのか?』
「え? いや、別にそういう訳じゃないけど……あれ? でも考えてみたら、私ここに来てから、何時間たったっけ? 昼も夜もないからよくわかんないけど、24時間はたってるよね間違いなく。……あれ? 喉も乾かないしお腹も減らない……?」
ふと考え込み始めるアリス。
余計な事に気が付いたか、とブラボールは内心舌打ちしながらも、彼女の意識を穏便に誘導しにかかった。
『それもあって検査が必要なのだ。もしかすると、ずっと変身状態を維持しているのが関係しているのかもしれない。お前だって、自分の体がよくわからないのは嫌だろう?』
「ま、まあ、確かに……」
『とりあえず、それはその辺にしておけ。今日は外にも準備が居る』
ボトルとカップをアリスから取り上げ、彼女をポッド内のベッドに固定する。そして今度は、壁からいくつものセンサーを引っ張り出すと、ぺたぺたとアリスの体にくっつけ始めた。
取り付けるのは主に胸周りと、肩、腕、そしてお腹。
吸盤でぴとぴとくっついてくるセンサーの感覚に、彼女はくすぐったそうに笑う。
「あはは、なにこれ、こしょばゆい。ちょ、まって、くすぐったいって、あはは」
『少し我慢しろ。エコー検査に必要な機材なんだ』
「我慢っていっても、ぶふ、あははは」
からから笑うアリスを他所に、全てのセンサーが取り付けられる。あとは酸素マスクを彼女に被せて、準備完了だ。
『また数時間検査するから、睡眠ガスを流すつもりだが……どうする? 微睡むぐらいに留める事も、ぐっすり熟睡させる事もできるが』
「えーと、じゃあ、微睡むぐらいでお願いしまーす」
『わかった』
そんなやりとりの後に、注水開始。
ポッドの中が濃い溶液に満たされて何も見えなくなると、ブラボールは部下に視線を向けた。
『どうだ』
「意識覚醒率40%ほど。明瞭な精神活動は困難なレベルです、この状態を維持します。それでは、魔力振動による刺激投与、開始します」
『うむ、始めろ』
今回も、検査というのは半分名目、半分事実だ。
確かに、彼女に摂取させた溶液を利用して、体内をエコー調査するのは本当の事だ。普通にやっていては、溶液は彼女の肉体に拒絶して体内の奥深くまで染みわたらない為、検査が滞る。今度こそ、彼女の体内、主に消化器官の内部が厳密に調査できるはずだ。
だが本当の狙いは他にある。
彼女に飲ませた溶液は、色こそ薄いが実際には希釈どころか数十倍に濃縮された魔力溶液である。ブラボールの魔力を大量に溶け込ませたそれは、魔法少女であるアリスの体にとっては媚薬も同然。3度の調教を経て、彼女の体はブラボールのそれを“好ましいもの”として受け入れつつある。効果もこれまで以上が期待できる……正直、どうやって大量に飲ませようかと考えていたので、自分からがぶ飲みしたのは都合がいい。
ただ、味付けはちょっと甘味をつけた程度である。それを甘ったるく感じたというのは、アリスの認識であって……少しだけ、ブラボールはなんだか落ち着かない気分になった。
『(私にとって加奈の魔力は甘く良い匂いがするが……彼女にとっての私も、そうなのか? ううむ……)』
をほん。
雑念をブラボールは咳払いして意識から追い払った。
『それで、どうだ? 魔力振動の伝達は順調か?』
「はい。現在、周波数を上昇中。被検体の脈拍、体温、上昇。酩酊状態のまま、快楽神経を活性化させます」
そしてエコー検査という名目で彼女の体に流している魔力振動……これの目的は、秘密裏に彼女の神経系を活性化させる事だ。指先や触手による愛撫も、結局のところ快楽神経への刺激である。魔力振動によってそれらの神経を活性化させ、溶液の媚薬効果をより高めよう、というのが今回の本題だ。
それにこの方法でなければ干渉できない部位もある。
子宮。
女性の胎の奥に大事に隠されたこの部位を活性化させる。それによって本能的な性的欲求を高め、彼女の自制心を崩壊させ、より性的な依存性を高める。
現状でアリス自身は特に抵抗を見せる事無く、順調に調教が進んではいる。だが、ブラボールは一切の手心を加えるつもりは無かった。
外からだけでなく、中からも徹底的に彼女を堕とす。
溶液の中に浮かんでいる彼女のシルエットを冷徹な視線でじっと眺めていた彼だったが、ふと、気になっていた事を思い出して部下に問いかけた。
『……そういえば、前回の検査。あれから分かった事はあるか?』
「データの大半は解析中です。お部屋にお持ちしたもの以上のものは……ああ、でも班員の一人が気になる事をいっていたような」
『聞かせろ』
少し食い気味のブラボールに、部下は小さく首を引いて畏まった。
「そ、その。ほんの世間話の延長線上なのですが……細胞の構造が違う気がする、と」
『細胞が?』
「はい。まだ、人間界の詳細な医療データなどは手に入っていない為分からないのですが……これまで、魔法少女は細胞レベルで魔力で強化されている、と考えられていました。ですが、被検体の細胞を分析した所、強化魔法がかかっていた痕跡はなく……そもそも、機能が変わっているのではないかと……」
部下からの報告に、ブラボールは顎に手を当てて考える。
確かに、そういえば気にはなっていた。アリスと長時間過ごす間、彼女の香しく濃厚な魔力の匂いは耐える事は無かったが、強化魔法などでそれが常時消費されている気配はなかった。むしろもっと自然な、呼吸するかのように彼女は魔力を纏っていて……。
『推測ばかりでは話にならんな。正式な調査として命じる、詳しく調べろ。後で、変身していない時の彼女の細胞もサンプルでよこす』
「了解しました。……周波数、規定値に到達。神経系の活性化を確認。つづけて、子宮と卵巣への干渉を始めます」
『よろしい』
ごぽり、と治療用ポッド内部の溶液に水泡が浮かぶ。内部に送り込まれる魔力振動の影響で、溶液が泡立っているのだろう。その中で、アリスは意識も曖昧なまま、自覚のない肉体の疼きに喘いでいるはずだ。
検査終了時の時が楽しみだ、とブラボールは口角を吊り上げた。
「……あれ?」
『どうした。報告は完結明瞭にしろ』
「す、すいません。どうにも、子宮や卵巣への魔力振動の効果が確認できなくて……いえ、これは。活動が止まっているような……あ、数値上がり始めました。申し訳ありません、私の早とちりだったようです」
ぺこぺこと頭を下げる部下だが、ブラボールはそうは思わなかった。
この部下の事は信用している。ある意味本人よりもだ。その彼女が抱いた違和感を、ただの勘違いとして処理するのはよろしくない、そう彼は判断する。
『いや。……記録はしていたな? 後でその詳しいデータも私の所に持ってこい』
「? はっ、わかりました。……あとは順調ですね。検査……いえ、実験終了時には彼女は仕上がった状態になると思います。ですが、よろしいのですか?」
『何がだ?』
視線だけでブラボールが意識を向けると、部下は少し頬を赤らめて、少しだけ言いづらそうに意見を述べた。
「その……流石に、彼女もそろそろただの検査ではないと気が付くと思われますが……?」
『問題ない。全ては私の計画通りだ』
ブラボールは小さく笑った。