検査を終えて、アリスを連れて研究室に戻るブラボール。
その傍らを歩く魔法少女は、顔を小さく伏せたまま、無言で彼に付き従っている。小さく息を荒げつつ、前髪の下からちらちらと碧眼が何か言いたげにブラボールに向けられるが、結局、一言も発せずに再び伏せられる。自慢のウサ耳カチューシャも、こころなしかへんにょりとしている。
その足取りは、酔っ払い、あるいは夢遊病者のように頼りない。
どうやら、大分出来上がっている様子。
不意をついて、ブラボールは彼女の腰に手を伸ばした。そうと悟られないように静かに指を回し、青いドレスに包まれた細い腰を小さく抱き寄せる。
「あっ」
反応は明瞭だった。艶どころか明確に欲情を感じさせる、小さな嬌声。抵抗は殆どなく、彼女はブラボールの黒い鎧に縋りつくように身を預けた。
「お、おじさん……」
『さっきから、足元がおぼつかないぞ? 気をつけろ』
「あ、うん……」
しれっとブラボールがとぼけると、アリスは一瞬目を小さく泳がせた後に、小さく頷いた。
どう見ても、そこにはもう、彼に触れられる事への抵抗は見て取れない。それどころか、自分から身を寄せてくる有様。
まるで恋人のように、肩を寄せ合って歩く……まあ体格差がありすぎて、小さなアリスが引きずられているようにも見えるのだが。
恐らく、この場で押し倒してもアリスは抵抗しないどころか、喜んで受け入れるだろう。
だがまだ仕上げの行程が残っている。
彼女が単なる情婦、愛人であるならばそれでよい。だがブラボールはあくまで、魔王の命により魔法少女を魔軍の協力者として引き込むのが目的である。
快楽と忠誠のギブアンドテイク、では足りない。
彼女が心の底から、自分から望んでブラボールに忠誠を誓うようにするためには、もう一押し必要だ。
『着いたぞ』
「は、はい……」
研究室に辿り着き、扉を潜る。いつものように誰も立ち入れないよう扉にロックを駆けるブラボールの背後で、部屋の中央でアリスは両手を胸にあて、じっと彼を見つめている。
振り返ると、さっと顔を背けて、金の髪が揺れる。だが視線は依然として彼に釘付けだ。
『さて……』
「!」
一歩、アリスに向けて踏み出すと、びくん、と彼女の肩が跳ねた。俯いて、ぎゅっと皺が寄るほどエプロンドレスを握りしめる彼女に、わざとらしくゆっくりと機械触手を伸ばす。
じわじわと近づいてくる複数の触手……その接近に比例して、アリスの息がますます荒くなる。熱のこもった吐息が、今にも白く立ち昇りそうだ。
そしてついに、彼女の四肢に機械触手が絡みつく、その瞬間……。
《ビビー》
『ん? なんだ?』
突如としてなるブザー音。
ぴたり、と触手の動きがそこで止まる。触手を引いたブラボールがカツカツと壁際に歩いていき、内戦の受話器を手に取った。
『どうした、問題が? そうか、わかった。すぐいく』
「あ、え……」
『どうやら急用ができたようだ。そういう事だから私はすぐに行かなければならない。戻ってくるまで、お前はここで休んでいろ』
戸惑ったように立ち尽くすアリスにそれだけ告げて、ブラボールはカチャカチャと扉のロックを解除する。
数秒遅れて、ようやく状況を理解したらしいアリスが、小さく涙声でブラボールを呼び止めようとした。
「ま、まって、おじさ……」
『すまんな』
伸ばされる手を無視して、研究室を出る。後ろ手で扉を閉ざすと、それきり研究室と外は隔離される。
カチカチカチ……と扉を閉鎖するギアの音だけが響く薄暗い廊下。
ブラボールはそのまま、落ち着いた足取りで別の部屋に向かった。
そこは予備の研究室。普段は荷物を積み上げている倉庫となっているが、今回ばかりはある程度荷物が片付けられ、部屋の奥に机とモニターがある。
ブラボールは部屋に鍵をかけると、奥の机についてモニターを立ち上げた。
そこに映されているものは……。
『……うそ。本当にいっちゃった……』
やや薄暗い、雑多な印象の個室。その中央で呆然と棒立ちしている、金髪碧眼の魔法少女の姿が、斜め上からの確度で映し出されている。
『よし、映像は鮮明だな』
これは研究室にしかけた監視カメラの映像だ。アリスの探知能力について戦闘訓練であらかた目星をつけたブラボールが、魔力を用いない純粋な機械装置として設置したもので、例え彼女であってもそうと知らなければ発見できない。
事実、彼女は監視されてるとは夢にも思わない様子で、部屋の中でひたすら呆然としている。
『え……す、すぐに帰ってくる……よね? このままずっとほったらかし……とか、あり得ない……よね?』
『くくく……動揺しているな。実に未練たらたらではないか。エッチな事は嫌だったのではないのかね?』
想定通りの醜態を晒しているアリスに、ブラボールの口元に悪い笑みが浮かぶ。
言うまでもないが、急用などというのは真っ赤な嘘。
自然な流れで、彼女の前から急に姿を消す為の方便に過ぎない。何故、そのような事をしたのか……アリスが計画通りに仕上がっていれば、これから面白いものが見られるはずだ。
『……いいもん。別に、おじさんにエッチな事されたい訳……じゃ……んぅう……』
一人でブツブツ独り言をつぶやくアリス。が、彼女は不自然に言葉を切ると、ぶるりと肩を震わせた。まるで寒さに耐えるような仕草……だがその頬も、首筋も、まるで湯上りのように赤く火照っている。
『……ふぅ……ふぅ……んっ』
息を荒げながら、うろうろと部屋の中を落ち着かない様子で歩き回るアリス。が、その動きが不意に止まる。彼女の視線は、部屋の隅にある大きな椅子に向けられている。
ブラボールの鋼鉄の体、その重さにも耐える頑丈な椅子。そして……二度目にアリスが彼に弄ばれた時の舞台となった場所だ。
そう、アリスは彼の体の上にまたがった状態で、全身に絡みつく触手と彼自身の指で幾度となく果てさせられた。
アリスは内股をきつく寄せて、両腕で己の体をきつく抱きしめる。
『あ……はあ……』
躊躇ったのは一瞬。
アリスは恐る恐る、その大きな椅子へと腰かけた。小柄な彼女の体では、横に三人ほど並んで座れる大きな椅子……。彼女は深く背もたれに身を預けると、しばらく息を整え。そして。
『……んっ……』
居もしない相手に見せつけるように、脚を……股を開く。そして右腕をエプロンドレスの下から右胸に、左手をスカートの下に。
そして不器用に、自らの指で己を慰め始めた。
『ほぉ……』
思わずブラボールの口から好色そうな溜息が漏れる。
純粋無垢、天真爛漫だった魔法少女が情欲に溺れ、自らを慰める光景はそのギャップもあって酷く蠱惑的だった。
一方、画面の中では、もぞもぞと指を動かしてアリスが自分を慰め続けている……が、その表情は思わしくなかった。
『んぅ……んっ、あ……っ、んぅ。なん、で……んっ』
訝し気に、じれったそうに眉をひそめて、ドレスの上から胸を揉みしだき、秘所に触れる。
多少おっかなびっくりではあるものの、恐らくこれまでの彼女からすれば数段飛ばしの大胆な指使い。だが……。
『だ、め……ああ、全然……足りない……っ。なんで……っ』
『ふふふ。それはそうだろうな』
唇を噛んで物欲しそうなアリスの顔に、ブラボールの自尊心が深く深く満たされる。
この鋼の体になって数百年、女を抱いた事のないブラボールだが、なんだかんだで昔は何人もの女を泣かせてきた経験が彼にはある。
長いスパンがあっても、つい先日、色事に目覚めたばかりの少女の、知識も技巧もない拙い指使いにはまだまだ負けないつもりである。
それを他ならぬ、少女自身の口から証明されて、ブラボールはご機嫌だ。
『ほれほれ。もう少し、丁寧にやらんと。いくら肉体が発情しきってるといっても、あまり勢い任せだと……』
『……いたっ!』
ギクリ、と少女の体が固まる。
数秒の硬直の後に、恐る恐るスカートの下から指を抜くアリス。その指先は多少愛液に濡れてはいたけど、自慰によって新たに分泌されたそれではないのは明白だった。
『な、なんで……おじさんが触った時は、無茶苦茶されても気持ちよかったのに……。ちょっと指を立てただけで、こんな……っ』
『くくく……』
『ん、んぅう……。じれったい、物足りないよう……おじさん、おじさん……ぅぅう……』
再び自慰が始まるが、その勢いは前にもまして弱い。痛みに怯えて、思うように指が動かせないでいる。やがて、ついには完全にその動きは止まってしまった。
『だ……め、全然、だめ……こんなんじゃ、足りない。どうしよう、ああ……どうしたら……』
目をどろりと情欲に濁らせて、ぜぃぜぃ、と生殺しに喘ぐアリス。その内でぐつぐつと性欲が煮えたぎっているのに、それを全く発散できないどころか、少しずつ冷えていく体。
そのギャップに、少女の心が軋みを上げているのが手に取るように見える。
と。
『……あっ』
『?』
不意に、何かよい物を見つけた、といった様子で少女が笑う。彼女は立ち上がって、そのままカメラの視界外に歩いていってしまう。
なんだ? とブラボールは首を傾げる。部屋の間取りを思い返すが、特に妙なものは無かったはずだ。
見守っていると、やがて少女はある物を手に、椅子に戻ってくる。
それは……。
『私の、マント?』
『ふふ……おじさんのマント……』
それは、ブラボールが部屋に残していったマント。初日、アリスの姿を隠すために羽織らせたもので、以降は外に出る事もないので適当に部屋の隅にかけてあった。
長年使い古したマントはボロボロで、油やら何やらが沁み込んで変色している。そんな、傍目にはゴミにしか見えないボロ布に、しかしアリスは嬉しそうに顔を寄せると深く息を吸い込んだ。
『すぅー……げほ、えほっ!? うぇほっ、げほっ』
『おいおい』
そして咳き込む。そりゃそうである。
気管に何か入ってないか心配になりそうな咳き込みに、ブラボールも思わず不安になる。同時に、ちょっとだけ羞恥も。
そんだけヤバイ匂いがするのか。今後はちょっと小ぎれいにしよう、と。
『えほっ、えほっ。きっつうぅい……で、でも、おじさんの匂い……すぅ……』
『おいおいおい』
信じられないといった気持ちでブラボールは顔を押さえた。
あろう事かアリスは、一度は酷く咳き込んだ匂うマントを抱きしめて顔を寄せたまま、自慰を再開したのだ。左手でマントを抱き寄せたまま、右手をスカートの下に……忍ばせた布の下から、あきらかにくちゅりと粘液質の音が聞こえてくる。
『んっ……んぅ……んぅう……おじさんの匂い……あっ、んぅ、はぁ……おじさん、おじさん……っ』
『お、おぉう……』
熱のこもった指使いと譫言に、思わずブラボールは首を引いた。
何だか。
自分はとても罪深い事をしているのではないか? いまさら、本当に今更ながらそんな感情が彼の心をよぎる。
『……はっ、ん……っ。ぁ……あ……んぅっ! ……ぁ……はぁ……はぁ……』
そうこうしているうちに、アリスはエクスタシーに達したようだ。マントに顔をうずめるようにして、少女の体が強張って、動きが止まる。
だが……。
『まあ……その程度では足りんだろうな』
『……んぅ……あっ、はあ……あっ。もっと……んぅう……』
再びもぞもぞと自らを慰め始めるアリス。連日の調教で開かれた体には、おっかなびっくりの自慰では到底飢えを満たすには足りないだろう。むしろ半端な絶頂は、その先を知っているだけにますます乾きを強くするだけだ。
それが分かっていたから、こうして欲求不満の状態で放置し、自らを慰めるように仕向けた訳だが……。
『……もう少し様子を見るか』
いいつつ、ブラボールは居心地が悪そうに椅子に座る自らの佇まいを直す。
映像の中で悶える少女の艶姿に、思った以上に自分の中の獣性が荒れ狂っているのを感じる。
それがしばし落ち着くまで、ブラボールはこのまま時間を潰す事にした。
モニターの中では、アリスが今も、拙い手つきで必死になって自らを慰めている。
『んん……おじさん、おじ、さぁん……はぁ、はぁ……もっと、もっと私の奥に……ぁあっ、んぅ……』
『…………んんぅ……』
どうやら自室に戻るのは、もう少し後の事になりそうだった。
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