タイラズマ+1(元カノ→妹) ~3人の愛と欲~ 分割版 作:eronosuke
東を見ていると胸が苦しくなる。ミサキはその感情の正体を探していた。
最初は単なる憧れだった。大人びた美貌、自分にはないプロポーション、ギャル然としておきながら醸し出される包容力、そして何よりも平への深い執着——全てが魅力的で眩しかった。けれど最近、それだけではない何かが胸を刺す。
(これは……切なさ?)
ある夜。リビングでひとりグラスを傾ける東の背中を見つけた。照明を落とした部屋に浮かび上がる華奢な肩は、驚くほど儚げだった。
「中学時代、私はどうしようもない子だった。どうでもいい男たちをとっかえひっかえ」
独り言のように漏れた言葉に、ミサキは足を止める。
「あの頃の平を守ることもできず、ただ見ていただけ。挙げ句に……」
グラスが傾く音。琥珀色の液体が揺れる。
「代わりにあなたを穢した。最低ね。私なんか消えてしまえばいい」
次の瞬間、ミサキの目から勝手に涙がこぼれていた。自分でも理解できない感情が堰を切ったように溢れる。
(違うのに!)
心の底で叫んだ。
(東さんがいたからこそ、アタシ今ここにいるのに!)
「お姉ちゃん」
自然に零れた呼び名。振り向いた東の頬にはすでに涙の跡。ミサキは迷わず駆け寄り、震える肩を抱いた。いつもとは逆の構図に戸惑う東へ、慈しむような笑みを向けた。
「いっぱいがんばったね」
思った以上に優しい声が出た。
「あの頃のお姉ちゃんが一生懸命だったから、今のアタシがいるんだよ?」
言葉を紡ぐ度に自分の感情が整理されていくのを感じる。そう、この胸の痛みは……
「愛しさ」だ。
混乱する東の額に額を押し当てる。いつも自分を支配していた存在が今、か弱く震えている。それがたまらなく尊かった。
「タイムマシンがあったとしてもね」
ミサキはそっと唇を重ねる。
「絶対行かせないよ? あのお姉ちゃんがいたからこそ、平クンはアタシに出会えたんだもん」
驚愕に見開かれた琥珀色の瞳。
「それに……」
再び口づけ。今度はもっと深く。
「アタシはお姉ちゃんが全部大好きなんだよ? 過去の痛いところも全部含めて愛してる」
最後の告白に東の喉が鳴った。崩れ落ちそうな身体をしっかりと抱きしめながら、ミサキは決意した。
(お姉ちゃんの罪悪感ごと、アタシが抱き留める)
(そしていつかきっと)
(二人で本当の姉妹みたいになれたらいいな)
涙に濡れた顔で見上げる東の唇に、三度目のキスを落とす。温かな体温と滲む涙の塩辛さが、ミサキには新しい絆の証のように感じられた。