タイラズマ+1(元カノ→妹) ~3人の愛と欲~ 分割版 作:eronosuke
昨晩の出来事が鮮明によみがえる。ミサキの細い腕が背中に回り、熱を持った肌が密着した瞬間——あのとき湧き上がった奇妙な安堵感。まさか自分が誰かに主導権を握らせることになるなんて。
(あの娘に組み敷かれるなんてね)
苦笑混じりの自問自答が漏れる。天井を見つめる視線は虚ろだ。
(私はあの頃、どうしてミサキにあんな憎悪を向けていたんだろう)
思い出そうとしても記憶は歪んでいる。平を奪われると思った本能的な恐怖が全身を灼いた瞬間。理性など消し飛んだあの狂乱。
(私はやっぱりおかしい)
同級生女子たちの笑い声が脳裏をよぎる。自分だけが皆と合わない違和感。
「アズったら、どっかおかしいよね。初速早すぎ!」
「なんでアズって、自分のことなのに他人事みたいなの?おかしいよ」
そうだ——私は狂ってる。鏡を見るたびにそう思う。それでも止められない。
東は確信する。平を思うと全てが曖昧になる。思考が麻痺し、行動が先走る。その後に必ず押し寄せるのは冷や汗の滲む後悔と自己嫌悪。今回も例外ではなかった。
(常軌を逸したことは、した後に必ず後悔するって分かってるのに)
視線を横に移す。静かな寝息を立てるミサキの横顔。薄暗がりの中でも分かる長い睫毛の影。東はため息をつく。
(愛するものが二つになってしまった)
これまでは平だけだった。今はそこにミサキが加わった。彼女の柔らかな肌を思い出すだけで胸が締め付けられる。
(もし……もしミサキが誰かに奪われたら)
想像しただけで身を裂かれるような痛みが走った。過去に感じた嫉妬や怒りが蘇る。奪われた瞬間に我を忘れて相手を滅ぼしてしまうだろうという確信があった。
(困ったわ)
(平に自分のすべてをあげると約束したのに)
平の名前を口の中で転がしながら自嘲する。三人分の愛情を秤にかける矛盾に苛まれる。
(いつか二人、離れていくかもしれない)
そう思い至った途端、涙が勝手に溢れた。喉が詰まり、呼吸が浅くなる。
(その時はどうか)
(私を殺してから去ってほしい)
震える声で呟く。
(一人残されるのは……いやなの)
無意識にミサキの手を握りしめる。小さなぬくもりが指先から広がっていく。東は瞼を閉じた。涙の筋が枕カバーを濡らしていく。
(ごめんね、平……ミサキ)
(こんな私だけど)
(どうか……側にいて)
祈るように手のひらを重ねる。月明かりの下、震える肩を隠すように布団を引き寄せた。深い悲しみと微かな温もりの狭間で、東の意識は徐々に沈んでいった。