女尊男卑な異世界で成り上がるためにはわからセックスが必要らしい 作:ベリーナイスメル/靴下香
サティア①
「――その、ごめんなさいね」
「ずっとそればっかじゃん?」
サティアの指先が貫かれていたカツオの腹部を撫でる。
治療魔法のおかげで傷口などきれいさっぱり消えているが、サティアが行ったことまで消えるわけではない。
「だって」
「や、だから今こうしてくれてんだろ? チャラって俺は言ったぞ」
「う……」
そのあたりの機微に殊更聡いカツオではないが、これではわからセックスも楽しめないとサティアへと一つ許す代わりの条件を提示した。
「俺としちゃ、あのサティアとこうして一緒に風呂入って、背中流してくれてるだけでおつりが来るレベルなんだがな」
「……もう」
サティアの頬がようやく羞恥に染まった。
実際、カツオは満足していたりもする。
あのサティアがこうして献身的に自分の身体を労わろうとしている事実だけでこの世界に来れたことを感謝してもしきれないと。
「無欲にも、ほどがあるわよ?」
「無欲? ……ほぉん?」
「え? カツオ?」
サティアへカツオは身体ごと振り返る。
その顔は心底心外だと言わんばかりに顰められていた。
「少し、自分の価値を低く見積もり過ぎだな」
「価値、って……」
サティアは首をかしげながらそれこそ心外だと内心思う。
十分かそれ以上に理解しているつもりなのだ、それこそこうして自身の裸体を暴かれようが恥ずかしく思うような身体をしていないが故に羞恥を覚えないほど。
「それともなんだ? 俺がサティアをわからせるためにやってきたアレコレってのは、そんな大したことでもなかったってか?」
「ち、ちがっ――」
「だろうよ、つかそんな風に思いたくもねぇ」
「……そう、ね。その通りよ、ごめんなさ――って、カツオ?」
そっと優しく、カツオはサティアの形良い胸へと手を伸ばす。
ぴくりとサティアは身体を反応させたが、拒絶するなんて考えは思い浮かばずそのまま受け入れた。
「この世界で俺以外の誰が、お前の身体にこうして気安く触れられるんだ? それともサティアという女はそもそも誰にでも身体を簡単に許すほどちょろい尻軽女だったのか?」
じっと、どうなんだと問いかけるような、確かめるようなカツオの視線がサティアを貫く。
(ああ……本当に、ごめんなさい、カツオ。私が、間違っていたわ。そんなことない、この身体はもうあなたのものよ。他の塵芥に触れられるなんて……想像するだけで怖気が奔る、反射的にどころか欲望の対象とされただけで反射的に殺してしまいたくなるわ)
「……私は。あなただけのモノよ、カツオ」
「なら、俺だけのモノにするためってのに気分よく浸らせてくれよ。胸を張れ、傲慢に振舞え、それでこそサティア・ハラメントスという女だよ」
カツオに触れられている手を優しくサティアは両手で包み込んだ。
(温かい……本当に、こんな気持ちになれるなんて思わなかった。こんな今を迎えられるとは想像も出来なかった)
カツオを白馬の王子様だと感じたのも間違いではなかったのだろう。
サティアは今確かに、退屈から解き放たれ、訪れる未知へと歩き出す力を温かさと共に手に入れた。
しかしながら、ではあるが。
「サティア」
「何かしら? カツ――んんっ」
あるいはそんな初心とも純真とも言えるサティアだから。
「そんな抑えられてたら、ベッドまで我慢できないんだが?」
「え? あ、え……えぇ?」
異性の手をかき抱く、なんて行為がどういうものを齎せるのかを理解できておらず。
「折角だ。俺もサティアの身体を洗ってやろうじゃないか」
「あ、ぅ……」
「俺のモノ、なんだろう?」
あぁ、未知の中を歩くというのは温かくも難しいものだとサティアは実感しながら。
「……え、えぇ。か、構わないわ。存分に、洗わせて、あげる」
「くく。あぁ、そうだなサティア。それでこそだよ」
口調とは裏腹に、頬を真っ赤に染め小さくうなずいた。
改めか重ねてか。
「んっ♡ あ、ふぁっ♡ か、カツオ♡ カツ、おぉ♡」
「気持ちいい?」
「ええ、ええっ♡ す、ごく気持ちがいい、のっ♡ なんで、こんな、にぃっ♡」
この世界においては性スキルというものが存在している。
指や口、そして性器と言った部位を使用した性行為スキルがあり、器用さのパラメータに応じて相手に与える快楽、あるいは与えられる快楽に対しての補正がかかるという仕様だ。
(なんでっ!? まって、私の身体はどうしたというの!? な、なんで、ただ触られているだけ、なのに……♡)
浴室の壁に手をあてて、立ちバックの姿勢を取ったサティアの後ろから圧し掛かるようにカツオはサティアの肢体を弄っている。
乳首や性器と言った多くの刺激を与えられる場所をではない、腹部や太もも、やがて開発すれば性的な快楽を得られようと言った場所を愛撫しているだけにもかかわらず、サティアは与えられている刺激を快楽と認識し膝を震わせた。
「なんでって? そりゃ、俺だからな」
「カ、ツオ♡ だか、ら?」
「あん? 当たり前だろ。それとも誰がこうしても同じくらい気持ち良くなれたってか?」
「ちがっ――ひあぁんっ♡」
否定の言葉はカツオの舌がサティアの首筋を舐め上げたことで遮られた。
過敏とすら言える反応だ、事実としてこの世界へ転移してきたばかりのカツオであったのならばサティアから今のような反応は引き出せていない。
「教えてくれよサティア。やっぱり俺が欲したのはただのスケベ女だったのか? どうでもいいような男に触られて簡単に喘いで、股を濡らすチョロメスだったのか?」
「ひんっ♡ ちがっ――あぁっ♡ まって♡ 否定させっ♡ ちがう、ちがうの、にぃっ♡」
キュリオ、そしてアイリ。
二人の女を使って磨き上げられたカツオの性的な能力は、元々責められるという仕様を持たない彼女らの貧弱な性耐性を遥かに凌駕している。
(い、いぢわるっ♡ いぢわるよカツオ♡ ちがうのに♡ ちがうってわかってるくせにっ♡ そうだって、しんじてくれてるくせにぃ♡)
故にこそ快楽に流されて行き着くだろう思考も同じ場所になる。
すなわち、
だが。
(だ、め♡ だめよサティア♡ 私は、ちがうっ♡ 簡単になんか♡ オとされない、んだからっ♡)
ある種の勘違いがここにあった。
身体と心は既にカツオの手へと堕ちたがっているのは認めるところではあったが、培った理性が拒んでいる。
愛しい人がお前は簡単な女じゃないと言ってくれたのなら、そうあるべきだと。
「……へぇ?」
「ひっ♡」
背後で零された、心底愉快気なカツオの一言にサティアは背筋を震わせる。
「やっぱサティア……お前はイイ、なぁ?」
カツオの本心が零れ出た。
サティアが今堪えている何かはカツオが志しているものと同種のモノなのだ。
負けん気と言えば単純に過ぎるが、それでも負けてなるものかという意地はカツオにとって美しいと感じられるものに違いない。
(あ、あっ♡ カツオが、わたしのこと、イイって♡ イイ、ってぇ……♡)
カツオの本心が故にサティアの心へと響いた。
散々無様な姿を見せたと思っているサティアにとっての拠り所となった。
「そ、そうよ♡ 私、はぁ♡ 簡単な、ちょろくなんて♡ ない、のよ♡」
サティアは振り向き、目に見えて強がりだとわかる笑みをカツオへ見せた。
「……そっかよ」
普段であれば、あるいは今でなければ。
サティアの振る舞いにわからせ欲を拗らせて何が何でも屈服させてやろうとしていたところだが。
「サティア」
「な、なに、よぉ♡ へっ? んむっ……」
不思議とそうは思わなかった、むしろ愛しく思えた。
だから、感情のままに、キスをした。
「ぷ、ぁ……カツ、オ?」
「そうだな。もう一度言っておこうか、サティア」
「な、にを?」
何をされたのか、今唇に何が触れたのか。
ぼんやりとしたまま、唇を繋いでいた唾液の橋が途切れるのをサティアは見送って。
「好きだぞ。やっぱ愛してるってのは、マジだわ」
「……っ♡ ~~~~~~っ♡♡♡」
カツオの告白へと、歓喜した。