※この作品はR-18です。

裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る   作:柊咲

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第32話

 

「どうして、おねえちゃんのこと……」

「も、もしかして、あなたがお姉ちゃんをさらった奴隷商人なのですか!?」

「違う。セリナは俺の大切な女性だ。今は安全な場所で暮らしている。彼女から二人の話は聞いてる。一緒の奴隷商人に捕まったが、逃がすことができたって。だけど会えてないって。心配だって言っていた。……俺を信じてくれ、絶対にセリナの元に帰す」

 

 

 

 クロエは動揺していた。

 おそらくそれは、月の仮面を付けたシロエも同じだろう。

 だからエギルは手を伸ばす。だが、

 

 

 

「──おい下僕共! 何をしてる、さっさとそいつを殺せ!」

 

 

 

 ガイは左手を前に出して指示を出す。その瞬間、シロエとクロエは何かに全身を縛られたように硬直させ、落ちていたお面に手を伸ばす。そして、レヴィアの声が響く。

 

 

 

「エギル! そのお面を壊すのじゃ。それがあるかぎり傀儡師の強制力は完全に消えぬ」

「おい、レヴィア! テメェ、俺様を裏切るのかッ!?」

「我とお主は同じギルドでも、仲間ではないのじゃ。我は目的に近付ける方に味方する。今はそれがエギルなだけ。エギル早くするのじゃ!」

 

 

 

 レヴィアに言われ、エギルは落ちている太陽と月のお面へ向けて剣を生成する。太陽のお面を割ることに成功したが、月のお面は術の解けきっていないシロエのもとに戻り、再びエギルへと小刀を振るう。剣で防ぐが、その押し込む力は強く、少女の力ではない。

 

 

 

「シロエ……止めて……! おねえちゃんを知ってる人がいたんだから、もうあの男に従わなくていいんだよ!」

 

 

 

 クロエの言葉にシロエの肩がびくりとはねるが、身体がいうことをきかないようだった。

 それを見て、ガイは苛立ちを含んだ表情をシロエへ向ける。

 

 

 

「……チッ、片割れは制御できなくなったか。だがいい、全ての力をそいつに与えてやれば問題はない」

 

 

 

 ガイは落ち着きを取り戻したように、シロエへ指示を出した。

 

 

 

「……おい下僕、その男を殺せ」

 

 

 

 傀儡師の力で言葉を封じ、自由を奪い、エギルを殺すように強制させる。

 心が消えた。そんな気配すら感じる。だが、シロエの付ける月のお面の隙間から、一線の涙が流れるのが、エギルには見えた。

 セリナと会えると知って嬉しかったのだろう。なのに心が少しずつ支配され、セリナへと続く道を、自らの手で塞ごうとしている。

 

 

 

「俺が終わらせる」

 

 

 

 エギルは召喚した剣にシロエの相手を任せ、玉座で指示だけを出すガイへに向かって歩き出す。

 その表情は、きっと誰にも見せられないほど恐ろしい表情だったのだろう。ガイの全身がビクッと大きく反応して、慌てたようにシロエに指示を飛ばした。

 

 

 

「おいおい、お前の相手はその女だろ……おい、シロエ! そいつを止めろッ!」

 

 

 

 ガイの叫びでシロエは糸に引かれたように一気にエギルとの距離を詰めると、小刀をエギルの背に振り抜く。速さのある斬撃。だが、エギルは振り返ることなく召喚した剣で弾き返す。何度も何度も、シロエの猛攻を防いでいく。

 玉座の間に金属音が響き、エギルの歩んできた道には多くの剣が散乱する。シロエはエギルの足を狙い、毒が塗られた飛び道具を飛ばす。

 だがそれすらも、エギルの前で軽々と散った。

 もう誰にも彼を止められない。

 先程までの余裕ぶったガイの表情は、どんどんと脅えたように歪んでいった。

 

 

 

「こいつ、同じSランク冒険者じゃないのかよッ! くそっ、おい死人ども、俺を守れッ!」

 

 

 

 ガイは周囲で倒れていた死人や、控えさせていた死人をエギルへ襲わせる。

 

 

 

「お前が……」

 

 

 

 大勢の肉塊を壁にするガイ。

 

 同じSランク冒険者、力の質はエギルもガイも変わらない。

 だがこれまで培った経験が違う。死人を操り自身は後ろで見ていただけの者と、前線に立って戦い続けてきた者。

 相対せば、圧倒的な力差だった。

 

 

 

「な、なぜだ……ッ!?」

 

 

 

 死人を傷付けないように剣の柄で押しながら進んでいく。

 エギルの心は怒りに支配されているのに、どこか落ち着いていた。いつも以上に周囲がよく見える。

 シロエが襲ってこようが、死人の壁を作ろうが、エギルは全てを薙ぎ払う。

 彼をそうさせているのは、人を操り人形にして、自分は高みの見物をする、この醜い男を殺すという強い意志。

 

 

 

「ま、待てッ! 交渉だッ! もう一度、交渉しようッ!」

 

 

 

 玉座の背を押すように後退りするガイだが、エギルは何も答えない。

 

 

 

「さっきよりも好条件だ! なっ!? なっ!?」

 

 

 

 玉座から転げ落ちたガイは腰を抜かして動けない。エギルは何も答えない。

 

 

 

「だから待てって! 俺を殺しても──」

「──もう喋るな」

 

 

 

 その眼差しは冷たかっただろう。全身から大量の汗を噴き出す男の胸ぐらを掴み上げ、エギルは彼の望みを絶つ。

 

 

 

「俺はお前を殺す。それは変わらないんだから」

 

 

 

  ──そして、エギルは肘を引き、持っていた剣をガイの首へと突き刺した。

 

 

 

「ま、待てッ! マ──あ、ぐッ……あ、ぁあ……」

 

 

 

 肉を貫く感触と、骨に剣先がぶつかる音が同時に生まれ、全身には大量の返り血を浴びた。

 熱の含んでいた血なのに、顔に付着したそれは冷たい。だがそれすらも、エギルにとっては何も感じない。

 

 ──ただ心にあったのは、あの日、全員でパーティーを開いた時にセリナが見せた、二人の妹に会いたいと言った、悲しい表情だけ。

 

 もうあんな顔を見たくない。

 ただセリナには笑っていてほしい。それしか思わない。

 そして、息のしなくなったガイをその場に下ろすと、背中から華耶に声をかけられた。

 

 

 

「エギルさん……」

「これで終わった……」

 

 

 

 彼女を安心させるように笑顔を作ったが、ちゃんとできていなかったのだろう、華耶は引きつるような笑顔を浮かべるエギルを抱きしめた。

 

 

 

「……どんな因縁があったかは、私には分からない。だけど、エギルさんの表情が辛そうなのは、私にもわかるわ」

「そう、か……だけど大丈夫。これで、彼女が喜んでくれる」

 

 

 

 エギルは血が付いた手で華耶を抱き返すのに躊躇いが生じたが、そんな彼を、華耶は気にしないといった感じで腕で抱きしめさせようとする。

 傀儡師がいなくなったことによって静かになった辺りには、クロエとシロエが抱きしめ合って喜ぶように泣いている声が響く。

 これで全て終わったんだと、エギルはそう思っていた。

 王座の間にいた死人たちは傀儡師の術から解かれ、力なく倒れた。

 

 そんな中。

 フィーが傀儡師を失って動かなくなった死人の一人を抱きしめ、力なく座っていた。その死人に、二匹のペットは顔を擦り合わせる。

 

 

 

「……フィー」

「……エギル」

 

 

 

 フィーは泣いていた。それを見て、この死人がフィーの元主であり親友であり家族だった、ユリシスという盲目の少女だとわかった。そして、エギルの隣に立つ華耶は、

 

 

 

「フィーちゃん、ごめんね……ユリシスが死人になってること、隠してて……」

 

 

 

 涙を流して謝った。

 

 

 

「……なんとなく、そうだと思ってた。わたしを心配して、隠してくれたんでしょ?」

「フィーちゃん……」

「大丈夫。大丈夫だから。ユリシスに嘘を付いた時のわたしと、一緒だから。……ねえ、ユリシス」

 

 

 

 腐食していない死人だったから、フィーや華耶は、彼女がユリシスだとわかったのだろう。もしも白骨化した肉体であれば、見分けは付かなかったはずだ。

 それが良かったのか、悪かったのか、それはエギルにはわからない。

 

 

 

「ユリシスに、あの日のことを謝りたかった」

 

 

 

 フィーは涙を流しながら、あの日の想いを告げた。

 

 

 

「わたし、ユリシスの心が綺麗だから……本当のことを言ったら、悲しむから……だから、言えなかった……悲しんでほしくなくて嘘を付いたの……ごめん、ごめんなさい、ユリシス……」

 

 

 

 そして、フィーは泣きながら笑いかけた。

 

 

 

「わたしを助けてくれて、ありがとう。わたしを拾ってくれて、ありがとう。わたしを……家族だって言ってくれて、ありがとう、ユリシス」

 

 

 

 何度も何度も、フィーはユリシスにありがとうと伝えた。

 言いたかったことはもっとあっただろう。それでも、感謝の言葉で溢れていて、それが、ずっとフィーが抱いていた、ユリシスへの想いなのだろう。

 エギルと華耶は、フィーがユリシスを抱きしめ泣き止むまで、ただただ安心させるように、隣に座って背中をさすった。

 

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