裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
エギルたち湖の都の者たちは、終の国に拘束されていた全ての死人を湖の都へ移送した。
同胞や友人、最愛の者や家族の帰りを皆は静かに迎えた。
そして、その日の夜。全ての死人を火葬し、亡き者を天へ送る儀式を執り行った。
湖の都では送り火が天に昇っていった。住民たちはお祭りのように酒や料理を堪能しながら、一晩中思い出話に花を咲かせ、笑う。
シロエとクロエは、華耶の御殿でひっそりと彼らを弔った。
エギルたちが湖の都へと戻る途中、シロエとクロエがどうして闇ギルドの門をくぐったのかを、二人は自分たちの口で説明してくれた。
二人は奴隷商人の手を逃れた後、セリナを救ってくれる者を探していたという。けれど、誰も救いの手を差し伸べてくれる者はおらず、力を得るために冒険者となろうとしても、年齢の関係で門前払いされ、奴隷商人を殺して姉を救ってほしいという依頼を出そうとしたが、そもそも、クエストとして人殺しは受け付けていないので、それも駄目だった。
途方に暮れる二人は、闇ギルドなら、その依頼を受けてくれるという情報を聞き、闇ギルドの門を叩いた。
『救いたい人がいる』
『殺したい奴がいる』
と、気持ちのこもった言葉を伝えられたが、レヴィアの所属するギルドのリーダーは、ギルドに加入させないと判断した。
そして、二人が無一文だったことから、クエストとしても受領しなかった。
だけど二人は諦めなかった。どうにかセリナを助けてほしいと。そんな二人に目を付けたのが、傀儡師のガイだった。
彼は目的を叶える力を与える代わりに、傀儡として、二人の自由を奪った。
それが、あの太陽と月のお面だ。このお面は、二人の力を増長させる代わりに、術者、つまりは傀儡師ガイに逆らえないというもの。
そうしてガイの傀儡となっていたシロエとクロエだったが、そのお面は破壊され、自由の身となったのだ。
「エギル! おねえちゃんは元気!?」
「ああ、元気だぞ」
「早く会いたいですね、お姉ちゃんに」
二人はエギルの側で、セリナの話題に花を咲かせる。
──人を疑わない心。
それが原因で傀儡となっていたが、卑屈にならなくて良かったとエギルは思う。
「そういえば、レヴィアがここに来てた理由を二人は知らないか?」
レヴィアのここへ来た目的は今も謎だった。そして二人は首を振る。
「わかんない。アタシたちがギルドにいた時から、レヴィアは誰とも話さなかったから」
「ですね。同じギルドでも、仲間ではない……そんな感じでした」
目的の為ならギルドの者も利用する。
利害が一致しなければ争う事も厭わない。
初めて出会った時、そう言っていた。
「あっ、でも!」
だが、クロエが何かを思い出す。
「エギルのことを話したら、レヴィア、少し嬉しそうだった」
「俺の?」
「そうでしたね……それに、何か言ってましたね。なんでしたか……えっと」
そして二人は同時に思い出し、
「「目的に近付いた」」
そう、レヴィアが言っていたらしい。
「それはどういう意味なんだ?」
「んー、わかんない!」
「詳しく聞いても答えてくれるような方ではなかったですから」
そう言った二人は「お腹が空いた」と華耶の元へ走っていった。
シロエとクロエが操られていたことは全住民に説明した。
二人は華耶を狙えとガイに命じられていたため、誰一人として人を殺めてはいない。それを住民たちも知っていて、当初は申し訳なさそうにしていたシロエとクロエを、優しく受け入れてくれた。
そして、二人が華耶や湖の都の住民たちから受け入れられたのを見て、エギルはフィーの元へ向かった。
「フィー、みんなのとこに行かないのか?」
近くにある森の中で、フィーはみんなから距離を取って、二匹の家族と共に黄昏ていた。
その目の前にはユリシスの墓があった。
泣き止み元気になったとはいえ、それでも、いつもよりは元気がないように感じた。
「……」
「俺はいない方がいいか」
そう思って戻ろうとしたエギルの手を、フィーは握った。
「ううん、いて。後ろに座って」
「後ろ?」
言われるがままに後ろへ座ると、フィーはエギルの手を掴んで、抱きしめさせるようにした。
「フィー?」
「昔から、こうされるの好きだった。ユリシスにも、華耶にも、恥ずかしくて言えなかったけど」
「そうなのか」
エギルにとっても初耳だった。
「もっと強く、抱きしめて」
「わかった。痛かったら言えよ」
フィーの身体を抱きしめる。
どんなに力を入れても、フィーは「もっと」と、身体を密着させるよう言ってくる。
寂しいのだろう、エギルはそう思う。
「ユリシスは、いつも優しくしてくれた。こうして生きてるのも、きっとユリシスのお陰。それなのに、わたしは何も返せなかった」
「そんなことはないだろ。ユリシスの代わりに、色々な景色を伝えたって。それはきっと、彼女にとっては何よりも嬉しかったんだと思うぞ」
「そう、かな……」
「ああ、そうだと思う。じゃないと、彼女は自分の命を投げ打ってまで、フィーを逃がしたりしなかっただろ」
そう伝えると、フィーはコクリと頷いた。
「ちゃんと彼女に返せた。だけど、ユリシスが望んでるのは、ここで悲しむフィーの姿じゃないと思う」
「え?」
「彼女はきっと、自分の分までフィーに幸せになってほしかったんだろ。……フィーは今、幸せか?」
抱きしめたフィーは顔だけをこちらに向ける。考えるように沈黙が生まれるが、フィーは少ししてから答えた。
「……ずっと、幸せになっていいのかわからなかった。ユリシスに救われて、自分だけがって……だけど、もしユリシスがいいって言ってくれるなら、幸せだって、そう答えたい」
「そうか。きっと彼女もそれを望んでる。自分の分まで、幸せになってほしいってな」
「そうだね。ユリシスがくれたこの命を、わたしはこれから、ユリシスの分まで幸せに生きたい。ユリシスがそう望むなら」
フィーは顔を上げる。見つめ合い、笑顔を見せくれたが、目じりからまた涙が流れた。
「わたし、エギルと出会えて良かった。もし出会えなかったら、わたし、こうしてユリシスのところへ来れなかった。だから、エギル、ありがとう」
心からの言葉だっただろう。それがきっと、エギルが彼女と出会って見せる、初めての美しい笑顔だった。
「ああ、俺もだ。だからこれからも、ずっと一緒にいよう。俺がいつでも、こうして抱きしめてやるから」
「うん、そうして」
目の前の墓石に手向けられた花がゆらゆらと風に揺れる。ユリシスも喜んでいるのだと思いたい。彼女が守ろうとしたフィーが、笑顔を見せれるようになった姿を。
それから二人は無言で、エギルはずっとフィーの身体を抱きしめた。
華奢な身体に、透き通るほど綺麗な水色の髪。隣を歩くことはあっても、後ろから抱きしめるなんて今までなかったその姿に、エギルは愛しさを感じた。
「そろそろ冷えてきたな。戻るか?」
「うん。だけど御澱に戻る前に、ユリシスに一つだけ報告したい……」
そう言ったフィーはユリシスが眠る墓石を見つめて、笑顔を浮かべた。
「ユリシス……わたしは、隣にいる彼が。エギルが……好き」
小さな声で、けれど、ユリシスに伝えるようにフィーは言葉を続けた。
「ユリシスも、華耶も、好き。だけどエギルは、違う意味の好きだと思う。この人と一緒にいたいって、今はそう願ってるの」
──だから、と告げてフィーは立ち上がった。
「見守ってて、ユリシス。わたしはこの人の、これからの人生を隣で見てくるから。ユリシスに見せたかった綺麗な景色を、彼と一緒に見てくるから。だからわたしを、エギルを、見守ってて。今までありがとうね。わたし、幸せになるから──」
フィーは目元を拭いながらエギルの手を引いて、森の中を奥へと進む。
エギルは何も言えなかった。というよりも、ここで何か言うべきではないと思った。けれど、宴の喧騒から離れ、静かな場所へ誘われるエギルの心は、どこか温かく感じられた。
そしてフィーが足を止めると、そこはエギルとフィーの二人っきりの世界のようだった。
「……フィー」
「エギル、わたしは……エギルが好き」
真っ直ぐな視線を向けるフィーの頬は暗くてもわかるほど赤く染まっていた。だけど恥ずかしくても視線を背けることなく、彼女は言葉を続けた。
「今まで、こんな気持ち持ったことなかった。だけど……ずっといたいって。エギルの隣にいたいって……わたしの幸せは、きっとエギルといることだと思う。だから──」
エギルはフィーを抱きしめる。
最後まで聞くことはなかった。彼女に言葉の続きを言わせたくなかった。だから自分から、彼女を抱きしめ離さない。
「俺も同じだ。フィーが好きだ」
「ほんと? ……よかった」
抱き返してくれたフィーは、嬉しそうに声を弾ませる。
「だから俺と一緒に、未来を歩んでほしい。隣で、ずっと……」
そう伝えると、フィーは体を離して、笑顔で返事をしてくれた。
「はい、喜んで……」
互いが互いを想い、より強く求める。だからエギルはフィーへと顔を近付ける。
彼女もまた、目蓋を閉じてエギルを受け入れてくれた。
「ん……ちゅ」
閉じたままの唇を、エギルは奪い、何度も重ねた。