裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
──それから、エギルとフィーは服を着て、手を繋いで御澱へと歩いていく。
「今度からする時は、場所を考えないと駄目だな」
「うん。寒い場所は駄目。風邪ひいちゃう」
「そうだな」
「……明日、戻るんだねな」
「そうだね。……あっ、エレノアたちに定時報告の時間」
「ああ、そうか」
フィーは頷き、近くを歩いていた白ウサギを呼ぶ。
「エリザベス、おいで」
トコトコと走ってきたエリザベスを抱える。
エレノアとの通信では、残った二匹の視界を通して見ているのだろう。
明日やっと帰れる。新たな仲間である湖の都の住民たちを連れて帰れる。そしてセリナのもとにクロエとシロエを帰すことができる。エギルとフィーはエレノアたちにそう報告する──はずだった。
「……エレノア? セリナ?」
だが、フィーの声には先程までの明るさはなく、そこか焦りを見せる声を発した。
「サナ!? ルナ!?」
「どうしたんだ、フィー?」
「それが……」
『フィーさん!』
その瞬間、エレノアの声が白ウサギを介して聞こえた。
『フィーさん! フィーさん……ごめんなさい!』
鬼気迫るエレノアの声、そして謝罪。それだけを聞けば、向こうで何かあったのだと思えた。
頭の中が真っ白になるほどの不安を感じて、エギルは白ウサギへ声をかける。
「エレノア、どうした!?」
『エギル、さま……申し訳、ありません』
泣いてるのだろうか、彼女の声が震えていた。
「謝るのは後だ! だから何があった、教えてくれ!」
『実は──』
「……エレノア? おい、エレノア!?」
だが、エレノアの声が続けられることはなかった。
「エレノアが見えない……フェニックス!? ゴルファス!?」
「エレノアたちに、何かあったのか……? だけど昨日は何も問題ないって……フィー、どういう事だ!?」
「そ、それは……」
エギルは動揺から声を荒げてしまい、フィーは脅えたように言葉を詰まらせる。
すぐさま抱き寄せて、エギルはフィーの頭を撫でる。
「いや、大声を出して、すまない。フィーに怒ってるんじゃないんだ。少し、動揺してしまったんだ……だから教えてくれ。エレノアたちに、今なにが起きてるんだ?」
「……ごめん、なさい……エレノアたちが心配かけたくないから、エギルには黙っててって……わたしも、エギルが頑張ってるのを邪魔したくなくて」
「そんな……とにかく、向こうで何が起きてるのか、教えてくれ」
そう問いかけると、フィーはエギルたちがいなくなってから何があったのかを、全てを教えてくれた。
♦
──時はシルバから、エレノアたちがフェリスティナ王国へ向かうところまで遡る。
「──嬢ちゃんたち、そろそろ到着するぜ」
次の日の朝。無名の王国を出発した馬車からは、目的地であるフェリスティナ王国の城壁が確認できた。
エレノア、セリナ、サナ、ルナの四人は車中に。
前方で二頭の馬を誘導するシルバは御者台に座っていた。
「あれが、フェリスティナ王国かー」
車中から顔を出したサナが驚くように口を大きく開けると、隣に座ったルナも口を大きく開けて驚いていた。
「うわー、大きいね、サナ」
サナは白のドレスを、ルナは黒のドレスを身にまとっている。
二人のドレスの胸元には光輝く鉱石が散りばめられており、そのドレスが、まだ子供っぽさの残る二人を大人の女性へと変身させる。とはいえ二人は初めてドレスを着たのだろう。足首まで覆う長いスカートが邪魔で、少しぎこちない感じを見せる。歩く姿も、どこか踵の高い靴が慣れてなくて歩きにくそうだ。
「私も初めて行くから、ちょっと緊張してきたかも」
光沢のある青色のドレスを着たセリナは座りながら、目的地に近付くにつれ緊張を顔に出していた。
そんな三人を見て、エレノアは視線を外へ向ける。
「ただ説明するだけなので、緊張しないで大丈夫ですよ」
胸元を強調させた色っぽさのある赤いドレスを着たエレノアは笑顔を三人に向ける。どこか落ち着いた雰囲気のあるエレノアの言葉に、サナとルナは頷くが、セリナは隣に座って難しい表情を浮かべる。
「だって初めてだから。エレノアは緊張しないの?」
「そうですね……。出発前は緊張してましたが今は大丈夫ですよ」
ここへ来る前に覚悟は決めた。結果はどうなるかわからないが、行動すると決めたのだから緊張はしていない。そんなエレノアの堂々とした返答に、セリナは納得するように頷いた。
「そうよね。行くって決めたんだもん。だけど、私たちがいなくなって無名の王国の守りは大丈夫かな」
「ハルトさんたちや冒険者のみなさんが守ってくれてますから、それは大丈夫だと思います」
フェリスティナ王国に向かうのは五人だけで、ゲッセンドルフやハボリック、それからハルトと手を貸してくれている冒険者たちは無名の王国で待機している。
シルバ曰く、襲撃してくる魔物はそこまで多くはないので問題ないとのこと。それでも留守の間、魔物が攻めてきた時にすぐ戻れるように、連絡手段としてフィーが置いていったハムスターのゴルファスを王国に残し、小鳥のフェニックスがエレノアたちに同行した。
何かあれば遠い大陸にいるフィーが知らせてくれる。
「さて四人共、到着したぜ」
四人は車中から顔を出すと、王城へと続く城門が出迎えてくれた。その前には行商人であろう荷馬車の長い列が続いている。
ゆっくりとエレノアたちが乗る馬車が前へ進み、全身を銀色の重鎧で固めた二人の門番の前で止まった。
「──許可証はお持ちですか?」
王国などに出入りする際、行商人であれば商売をするための許可証を見せ、冒険者であれば冒険者カードを見せる必要がある。身分を保証するために必要なこと。そして、シルバは首を左右に振るなり胸元からカードを取り出した。
「いんや、許可証はないな。代わりにこれで」
シルバが提示したのは遠目でも冒険者カードだとわかった。それを見た門番は驚くように目を大きく開き、慌てた様子で塞いでいた道を開ける。
「ど、そうぞ!」
「あんがとさん」
手を上げ馬車が前進すると、セリナが不思議そうに首を傾げる。
「……やっぱり、シルバさんって凄い冒険者なのかな」
「おそらく、そうかと……」
ここへ来る前に、エレノアはシルバの正体を三人に明かした。
本当であればエギルが帰ってきてから明かす予定だったけれど、フェリスティナ王国へ出向くとあれば、シルバの正体を隠す必要もなく、逆に正体を明かさなければ三人が彼の素性を不安に思う可能性もあった。
三人は最初こそ驚いていたものの、実力者だというのは魔物の襲撃から無名の王国を守ってくれた時の手際のよさを知っていたから、すぐに納得してくれたので、質問責めとにはならなかった──のだが、エギルを苦しめた奴隷の幼なじみのルディアナという女性のことは皆知りたがっていた。その理由は、エレノアと同じく怒りの感情が強かった。
「剣王という異名は伊達ではない、ということでしょうか」
「あんなに胡散臭い感じなのにね」
セリナは目を細めながら前方へ視線を向ける。サナとルナも同じような視線をシルバへと向け、うんうんと頷いていた。
「まあ、そうですね。ただ見た目ではわからない、ということではないでしょうか」
そんな話をしていると、自分の噂話だとは気付いていないシルバは、顔だけを後ろへ向け、
「嬢ちゃんたち、もう少しで王城に到着するが、そこで知り合いと合流させてもらうぜ?」
「知り合いに、ですか?」
「そそっ、知り合いとは城の手前で合流する予定なんだが……おっ、いたな」
敵襲から防ぐためだろう、王城を囲うように流れる川の上を石材で固めた橋が続く。それを通った先には、王城の入り口である大きな鉄の門があり、その近くに、壁に背を付け腕を組む女性がいた。
そして、シルバはその女性の目の前で荷馬車を止めて手を上げる。
「よっ、待たせて悪いな、リノ」
「……やっと来たか」
シルバの浮かべた陽気な笑顔とは違い、ため息混じりの声を発したリノという女性は、刃物のように鋭い目つきを彼へ向ける。身長は一七〇と女性では大きく、それは右手一本で肩に乗せている大剣も同じだ。
整った顔付きは美人だと四人は思い、引き締まった腰回りや豊満な胸元は大人の女性としての魅力がある。それを強調させる腹部や太腿の肌を出した露出度の高い服も、男性なら視線を奪われるだろう。けれど、
「……悪いな、じゃねぇよ。テメェ、遅すぎんだよ。アタシがここで何分待ったと思ってんだ?」
赤と黒が交互に入り混じる髪を後ろで一本にまとめたリノの口調は男勝りな印象を受ける。
そんな男らしさのあるリノは、シルバへ向けていた鋭い視線をエレノアたち四人に向ける。
「……あんたらが、エギルと一緒に暮らしてるって女か?」
そう問いかけてきたリノの威圧感に、エレノアは黙って頷く。
「……なるほどな。それじゃあ、馬車から降りて付いてこい」
リノはそれだけを聞いて、エレノアたちに降りるよう指示をする。
そして城門へと向かって歩く中、シルバは四人にリノについて説明してくれた。
「こいつは、リノ・アースストって言って、俺っちやエギルが魔物から守ってきた村の出身なんだよ」
シルバの言っていた村出身というのは、エギルが奴隷の幼なじみに裏切られた後にシルバに救われ、一時期に暮らしていた村のことだろう。エレノアは「そうなんですね」と相槌を打つ。
「それと、こいつはエギルから剣を教えてもらってたんだよ。だから、リノはあいつとも顔見知りってことだな」
その説明中もリノは無反応だった。というよりも、聞いているが話に入ってきたくないような印象を受ける。
ここで合流したということは、彼女も王城にて国王に謁見する際に付いて来てくれるのであろう。であれば少しでも交流しておいた方がいい。エレノアはそう思い、一人で前を歩くリノに声をかける。
「あの、わたくしはエレノアと申します。よろしくお願いします」
「……ああ」
「えっと、私はセリナで」
セリナに続けてサナとルナも挨拶をするが、リノは頷いたり短く相槌を打つだけだった。あまり親しくなる気はないのだろう。そう解釈してエレノアたちが黙って歩いていると、シルバは苦笑いを浮かべる。