裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
「あー、すまんな。こいつは人見知りで、初対面の奴には愛想が悪いんだよ。だけど、目つきと性格に難があるだけで、悪い奴じゃないんでな。まっ、仲良くしてやってくれよ」
その言葉のどこかが癇に障ったのか。リノは前へ進めていた足を止め、振り返るとシルバを睨み付ける。
「……おい、シルバ。目つきと性格に難があったら最悪じゃねぇか」
「ん、気にしてんのか?」
「するだろ、普通。つか、初対面の奴らに変なこと言うなよ」
「だったら普通に話せばいいだろうに。相変わらず面倒な性格してんな」
「うるせぇ、ほっとけ」
「まっ、昔っから変わんないのな。そういえば、昔はエギルの──」
「──バッ、テメェ! これ以上おかしなこと言ったら斬るぞ!?」
恥ずかしいのか、リノは顔を赤くさせて右肩に担いだ大剣を下す。だが、シルバはそんなリノを無視して、何かを思い出したように手を叩きケラケラと笑いだす。
「だが成長したのが一か所だけあったな。子供のころは小さかったお前の胸も、今はこんなに大き──」
「──オイ、余計なことは言うなって言ったよな?」
先程の鋭い目付きよりも恐ろしい真顔を向けられ、シルバは両手を上げる。
「あー、わかったわかった。もう言わんから、そんな怒んなっての」
それで話は終わったのか、リノはため息をついて再び前を歩く。
この二人は仲が良いのか悪いのか、そんな疑問を浮かべるセリナたちの表情には笑顔が戻る。リノが人見知りで、それが原因で愛想が悪く感じてしまったのだと思って安心したのだろう。
だがエレノアは、三人とは違って、シルバとリノの関係に羨ましく思っていた。
この二人は仲良しだ。そしてエギルとも。
自分の知らないエギルの過去を二人が知っていて、それを少し羨ましく感じてしまった。そんな過去のことを羨んでも仕方ないのに。
「エレノアさん、どうかした?」
「え、どうしてですか?」
「エレノアさん、なんか、悲しそうな表情してました」
隣を歩くサナとルナに不安そうに見つめられた。心配をかけてしまっただろうか。エレノアはそう思い、笑顔で首を振った。
「いえ、大丈夫ですよ」
そう答えたとき、エレノアたちは城門前へ到着した。
人の高さの何倍もある門の奥には、鋭角になった屋根のあるお城が見える。
「んじゃ、さっさと謁見を済ましちまおうかね。嬢ちゃんたちはここで待っててくれ」
「わたくしたちも行かなくて良いのですか?」
「ん、問題ないって。ちょっと入れてくれないかって話してくるだけだからよ」
そう言って、シルバとリノは城門前にいる門番へ声をかける。
「ねえ、エレノア。あの二人だけで行かせていいの? 私は王国とか来たことないからわからないけど、なんか手続きとかあるんだよね?」
「そうですね……シルバさん一人では少し不安ですが、リノさんもいるのであれば粗相はないかと。謁見を申し出るだけですし。 門前払いされるかは、わからないですが……」
王様というのは一日に何百人もの人間と謁見をする。その相手は他国の王族であったり、貴族であったり、場合によっては大手商会の商人なんかもいる。なので順番待ちになることは予想できる。
シルバとリノはその約束を取り付けに行っただけ。そう思い、エレノアたちは言われた通り待っていた。
すると、門番が慌てた様子で王城内へと走る。それから数分後、戻ってきた門番に何か言われたシルバは、エレノアたちに手招きをする。
「おーい嬢ちゃんたち。入っていいってよ」
シルバはエレノアたちを呼ぶ。
謁見できる日が後日になった場合は引き返すことになるので、中へ入っていいと言われたということは、今日の内に謁見ができるということを意味していた。
エレノアは慌ててシルバのもとへ向かう。
「シルバさん、今日中に謁見を受けてくれたのですか……?」
城門を通るシルバにエレノアが問いかけると、彼は苦笑いを浮かべた。
「ん、王様の手が空いてたんじゃないかね。すぐに会ってくれるってよ。まっ、良かったじゃないの。ささっ、気が変わらんうちに急いで行こうや」
エレノアの質問に、シルバもリノもそれ以上は何も言わず城内へと向かう。
セリナたち三人はそこまで気にしていない様子だが、王女として育ったエレノアには疑問があった。謁見の申し出を受けるなら後日が基本。ましてや、予定が無かったとしても来訪者の素性を確認するために少しは躊躇い、時間を設けるのが普通だろう。
──良かったことなのに、確かな違和感が生まれた。
ただ、入れてくれた理由は門番に見せた、シルバの冒険者カードの中身だろう。
名の知れた貴族やSランク冒険者でも即日の対応は難しいだろう。とすれば、シルバはそれ以上の冒険者か、世界的に有名な地位のある者の可能性がある。
「……それを確認するのも、疑うことも今はできませんが」
前を歩くシルバやリノの背中を見つめながら、エレノアは一人つぶやく。そんなことをすれば、二人を信頼していないと言っているようなものだ。
そして、エレノアたちは騎士数名に連れられ、城内へと案内された。
最初に視界に止まったのは、王国の紋章である青の生地に銀と金の糸で刺繍された大きな旗。そして、その前には階段があり、敷かれた朱色の絨毯には一切の汚れがない。
圧巻とも思えるその道を、警戒してるのであろう騎士たちに見られながらエレノアたちは進む。
階段を上り、回廊を真っ直ぐ進んだ先にある扉の前までたどり着くと、王室を警護する騎士が扉を開き、小さな声を発した。
「……入れ」
エレノアたちの背後に付いていた騎士たちに背中を押されるように、エレノアたちは中へ入っていく。
少し青みがかった石材の王室の壁。正面には王国内を一望できる透明なガラスが張られている。そして、その前の玉座に座る男性は、エレノアたちを一瞥した。
「お主たちが謁見を申し出た者か?」
高貴な服装を身に纏い、白髪に整えられた白髭の老人。年齢は五〇代といったところだろう。その堂々としたたたずまいを見れば、国王だということは一目瞭然だ。
エレノアはシルバを見る。彼は国王の前だというのに陽気な笑顔を返す。
──ここからは手を貸さない。
そんな意味合いもあるのだろう。というよりも、エレノア自身もこれ以上はシルバの手を借りるわけにはいかない。なにせこの一歩は、エギルのためでもあり、エレノアたちのためでもあり、自分たちの家を手に入れるためなのだから。エレノア以外は頭を垂れる。
エレノアは国王や騎士たちの視線を一身受けながら、一歩前に出、カーテシーをした。
「お初にお目にかかります。わたくしは、エレノア・カーフォン・ルンデ・コーネリアと申します。コーネリア王国の元第三王女であり、現在はエギル・ヴォルツというSランク冒険者の妻でございます」
そう名乗った口にも、視線を浴びる全身にも震えはない。
「今回は、フェリスティナ王国の国王様であられる、グヴェース・オルタ・フェリスティナ様へお願いがあって参りました」
「……ふむ。申してみよ」
低く野太い声、段差のある階段の先から見下ろされる鋭い眼光を向けるグヴェースは、エレノアの言葉を聞いて何を思っているのだろうか、それはわからない。ただここで口ごもっては主導権を握れず、自分たちの想いを伝えられない。だから、エレノアは堂々とした立ち姿で言葉を続ける。
「Sランク冒険者のエギル・ヴォルツと、ここにいるわたくしたちは、以前、ゴレイアス砦侵攻戦のクエストへ参加しておりました。先日、エギルがあの砦を攻略し、魔物の群れを討伐いたしました。──そこで、わたくしたちはそこに、冒険者だけの王国を作ろうと思います」
「……ほお」
驚いてるかのように短く言葉を返したグヴェースだが、その表情には一切の変化が見られない。その空気感に飲み込まれて黙ってしまいそうになるが、エレノアはこちらの願いを伝える。
「フェリスティナ王国がゴレイアス砦という領土を欲していることは存じております。ただ、わたくしたち……エギルの考えは、その地に力なき者を救う城を築くことです。なのでどうか、現在依頼しているクエストの破棄と、大陸中へ建国したと公言していただきたいのです」
グヴェースの表情はピクリとも変化しない。
すると、少しの間を空け、グヴェースは近くの騎士へ視線を向ける。
「……現在、我が国が依頼してるクエストの一覧をここへ」
「はっ!」
グヴェースの横にいた大臣は隣の部屋へ消えると、大きな書物を手に戻ってきた。
おそらくは、現在王国が依頼してるクエストを記録したものだろう。そして、グヴェースは最初から最後まで目を通すと、小さく息をはく。
「……結論から申すと、その願いについては聞き届けよう」
あっさりと快諾されて、後ろに控えていたセリナたち三人は安堵の表情を浮かべる。
──だが、
「……それと、ゴレイアス砦侵攻戦のクエスト依頼についてだが。フェリスティナ王国では依頼していない」
「……え?」
その言葉に、エレノアはすぐにどういうことか聞けなかった。