裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
酒場と併設されていた宿屋は、少し前まで騒がしかったが今では静けさがある。
どの部屋にも明かりは灯されておらず、エレノアたちが泊まる部屋も、四人の寝息しか聞こえない。
セリナとサナとルナが身を寄せ合うようにして眠り、エレノアもセリナに身体をぴったりとつけて眠る。
四人が着ているお揃いのネグリジェは月明りに照らされている。
シルバとリノは別の部屋で泊まり、この部屋には四人しかいない。
その静寂した部屋の扉が独りでに開く。一切の音を鳴らさずに。そして、扉を開けた者は足音も立てずに、四人が眠るベットへと近付く。
微かに木の床を踏む音が響くが、すっかり夢の中へと誘われてる四人には聞こえないだろう。
その者は四人のベットの前で、立ち止まった。
月明りに照らされたのは一六〇ほどの背丈の女。
闇夜に同化するのに適した黒色を主体とした衣服が腕や脚の肌を覆い隠している。
肌に吸い付くような動きやすい服装で、派手さはなく暗い色だ。肩まで伸ばした黒髪は闇に溶け込んでいる。
それとは対照的な赤く染められた唇が微かに開いた。
「……エレノア」
押し殺すような小さな声音で告げた彼女の表情には笑みはなく、どこか悲しげだった。
「──人の部屋に音も立てずに侵入してくるとは、随分と礼儀知らずな奴だな……?」
だが、不意に扉の入口から声がした。
彼女は振り返ると、そこには大剣を肩に乗せたリノが立っていた。
「……あら、ここへ来ることは予想済みだったのですか?」
おどけたように彼女は笑みを浮かべる。
色を含んだ艶っぽい声。リノは首を振った。
「……シルバの命令だ。そいつらを危険にさらすなっていうな」
「ああ、彼ですか。それで、私が来たのに気付いて貴女はここに来たということですか」
一切の動揺を見せない女は、リノへ向けていた視線を、目を開けたエレノアたちに向ける。
二人の会話で目が覚めたのだろう、四人は起きるなり、慌てて距離をとる。
「どなた、ですか……?」
「起きてしまいましたか。これは残念」
その言葉を聞いて、リノは鼻で笑う。
「はっ、残念そうには見えねぇんだが……?」
「そんなことはありませんよ。本当ならば、私の顔を見られずに、彼女の顔だけを見て帰ろうと思ってましたから」
そう言って、彼女は四人を──というよりも、エレノアに視線を向け、
「はじめまして。私はアルマ・レニッサと申します。貴女方と同じ冒険者をしておりますので、以後お見知りおきを……あら、今日はドレスではないので、この挨拶は変ですわね」
まるでドレスを着てるかのように、裾をつまんで挨拶しようとしたアルマは、クスクスと笑いだす。
その反応に、エレノアたち四人はベットから降りてさらに距離を置く。
「……アルマ・レニッサ……ギルド《鮮血の鎖》のアルマ・レニッサか?」
リノは彼女のことを知ってるのだろう、アルマへ向ける視線がより強く変わる。
「ええ、そうですよ。そんなに私に熱い視線を向けて……何かありました?」
「いいや、テメェの顔がそんなんだったか、それが不思議に思ってな」
「リノさん、どういうことですか?」
エレノアがリノに問いかけると、彼女は肩に乗せた大剣を地面に下ろす。
「……いや、聞いてた外見と違うってな。というよりも、顔が違うが正しいかもしれねぇ」
「顔が……」
エレノアたち四人は冒険者界隈に詳しいというわけではない。なので、その言葉の意味はわからなかった。
「顔が違う……別人ってこと?」
セリナは近くに立てかけていた愛用の刀を手に取ると、サナとルナも警戒するように武器を手にした。
「エレノアさん、その話の意味はわからないけど、この人がここにいたってことは」
「命を狙う敵、ですよね」
「ええ、そうかもしれませんね」
エレノアたち四人とアルマはベットを挟んだところにいる。
この部屋はそこまで広くない。机と椅子が置かれ、ベットが部屋の端に寄せられているくらいだ。なので、手練れの冒険者でなくても、この距離を詰めるなんて容易なことだろう。
「警戒しなくて結構ですことよ」
リノがジリジリとアルマへ距離を詰めるが、彼女は敵意がないと言わんばかりに両手を上げ、陽気な笑みを浮かべた。
「私は貴女方に危害を加えるつもりはありませんから」
「……全員が寝静まった夜に部屋へ無断で入ってきて、信じられると思ってんのか?」
「まあ、それもそうですわね。ただ本当に、私は彼女に会いに来ただけですから」
アルマはエレノアへ笑みを浮かべる。その表情は一見すると敵意の感じさせない上品な笑顔だったが、どこか違和感のある笑顔だとも感じられた。
「どうして、わたくしなのですか……?」
「そうね……」
と、少し考えていた様子のアルマだったが、手を叩き、首を振った。
「ごめんなさい、今は言えないの。ただ私の目的は貴女──エレノアさんに会いに来ただけなのよ」
「……それを、信じるとでも?」
「難しいわよね。それなら、今日はこれで失礼しようかしら」
アルマはエレノアに背を向けるが、廊下へと続く扉にはリノがいる。
「させると思ってんのか?」
「ええ、そうさせてもらうわ。だって私には行かないといけない場所があるのだもの」
「そうか、それは残念だな。その行かないといけない場所には辿り着けないだろうな」
リノは大剣に左手を触れると、手のひらに魔術を使うのに必要なマナを込める。
「──力を貸せ、炎神!」
紡いだ言葉に呼応するように、大剣には渦巻き状の炎が絡みつく。一瞬にして部屋の中が明るくなり、アルマは陽気な笑みを変えない。
「焔武士《エンブシ》、だったかしら? Aランク冒険者がなれる職業ね。いつ見ても綺麗な炎だこと」
「余裕ぶってられるのも今のうちだ──ってのッ!」
一足飛びでリノはアルマとの距離を縮める。離れた場所にいるエレノアたちは肌が焼けるような熱さを感じた。その刃を自由自在に振り回すアルマは、喉が焼けるほどの痛みがあるはずだろう。
「本当に、顔を見に来ただけなのだけど」
だが、その振り下ろされた大剣を軽々と避けるアルマのその美しい顔には一切の変化はなかった。
地面の床が焼け落ち、大きな穴が生まれる。それを見たアルマは難しい表情を浮かべる。
「……一撃でも喰らってしまえば溶けてしまいそうですこと。服も少し燃えてしまいました」
「チッ、余裕気取りやがって……」
「余裕、とは違いますよ。だって──」
アルマはリノに背を向けると、ベットの上に乗り、真っ直ぐエレノアたちの元へと歩いてくる。
「じきに、私なんて構っていられる余裕がなくなってしまうのですもの」
「それは、どういう意味ですか……?」
逃げるために注意を逸らしたいのか、それはわからない。
だが彼女が言ってることが全て嘘だとは思えない。もしも彼女がここへ来た理由がエレノアを殺すためであれば、既にそうしてるはずだからだ。リノの一撃を軽く避けた彼女にはそうできる実力がある。なので、すぐにでもそうしないということは、本当にアルマはエレノアを見に来ただけではないのかと思ってしまう。
「エレノア、どうするの?」
「止めないと駄目だよね、エレノアさん」
「でも止めるって、どうしたら」
三人は武器を手にしているが、どうすればいいかわからないでいた。
──そんな時だった。
「おい、王国が!」
廊下を駆け上がってきたシルバ。いつもの胡散臭い様子とは違い、どこか慌てた様子だった。
「あら、久しぶりね」
「アルマ……なのか?」
「ええ、そうよ。ここでまた顔を合わせるとは思ってなかったわね」
「ああ、そうだな。んで、これはどういう状況なんだ?」
シルバが来たことによって状況が悪化したと捉えたのか、アルマはため息をついた。
「彼女を見に来ただけよ。別に危害を加えるつもりはないわ」
「……そうか」
「おい、シルバ! こいつがここへ来たってことは、あいつらを襲おうとしたってことだろ!? だったら」
「いや、いい。今はな……もう用が済んだなら失せろ」
「シルバ!」
リノの言葉を無視して、シルバは窓から外へ逃げろと指示を出す。
「ええ、そうさせていただくわ」
窓際にいるエレノアたちへと近付くアルマ。
「エレノア……」
三人は武器を構えながらエレノアへと視線を向ける。
その視線を浴びるエレノアは、状況を把握しきれていなかった。