裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
「……危害がないのであれば、わたくしたちも手を出しません。本当に、わたくしの顔を見に来ただけなのですね」
「ええ、そうよ。本当に何もする気はなかったわ」
そう言って窓の縁へ足をかけたアルマだったが、エレノアを見ながら、
「彼は元気?」
「えっ……?」
「エギル・ヴォルツ。彼は元気でいるの?」
どうしてそんなことを聞かれたのかわからなかった。そして、エギルのことも、彼
女は知っているのだと理解した。
「元気、ですが……」
「そう、それは良かった。だけど──」
アルマは最後に伝えた。
「早くお家へ帰った方がいいわよ。でないと、彼が悲しむもの」
「それはどういう──」
「それじゃあ、また後で会いましょ」
だが、そのことを聞こうとしても、アルマはもうそこにはいなかった。
夜道を走り、エレノアたちの元から離れていく。
「エレノア、さっきのどういう意味なの?」
「さあ、わたくしにもわかりません」
「お家って、あたしたちの家は無名の王国だよね」
「そうだね、サナ……だけど、どういう意味があるのかな」
「んー」
「──おい、シルバ! なんであいつを逃がしたんだよ!?」
エレノアたちが考えてる中、リノはアルマを逃がしたシルバへ今にも掴みかかろうとしていた。
「……あいつは武器を持っていなかっただろ。攻撃する意思はなかったんだよ、始めからな」
「んなの、わかんねぇだろ! 職業の力があるかも──」
「──あいつの職業が戦闘に特化したのじゃないことは、お前だって知ってるだろ?」
「……だけど。なあ、シルバ。テメェ、アタシに何か隠してることでもあんのか?」
「……どうだろうな」
曖昧な返事をしたシルバは、その視線をエレノアたちへ向ける。
「それより嬢ちゃんたち、急いで無名の王国へ戻るぞ」
「今から、ですか?」
「ああ、今すぐだ」
シルバはどこか言いにくそうに、申し訳なさそうに言葉を続けた。
「──無名の王国に、襲撃があった。仲間からそう、報告があったんだ」
「王国、が……?」
シルバはそれだけ伝えて宿屋の一階へと下りて行く。その後をリノが追う。エレノアたち四人は何を言われたのかわからず固まってしまっていた。
だが、すぐにセリナが部屋の出口へ走った。
「い、急いで! 三人とも早く!」
セリナの声で我に戻ったのか、エレノアとサナとルナも宿屋を出て行く。
すぐさま城下街の出口付近に置いていた馬車へ乗り込み、フェリスティナ王国を後にする。その道中、シルバは二頭の馬を誘導しながら説明してくれた。
「……俺っちたちが王国を出て少ししてからみたいだ。おかしな格好をした連中が攻
めてきたらしい」
「お、おかしな格好とは、どんな格好ですか!?」
「エレノア、落ち着いて……まずは聞かないと」
馬車の位置まで走ったのも関係してるのか、エレノアの呼吸は荒く、落ち着いてはいられなかった。それは他の三人も同じで、落ち着こうと言ったセリナでさえ、不安そうにエレノアを見つめる。
「すみません、取り乱してしまって」
「いや、動揺するのはわかってる。だが情報をよこした仲間も、全部を把握してるわけじゃないんだ。だから聞いたことだけを説明する。無名の王国へ襲撃をかけてきたのは、どこかの王国だろう。揃いの鎧を着てたらしいからな。だが、そいつらの目的は不明で、対話も無理だったらしい」
「対話も無理、というのは……それは人、なんですよね?」
「対話ができないというか、何も聞き入れてくれなかったらしい。仲間同士での会話してたらしいから、おそらく目的を話すつもりがないだけだろう。……それと、そいつら少しおかしくてな」
「おかしい?」
「王国を襲撃に来たというよりは、その地で何かを探してるみたいだとか」
「何かを……」
人を襲うわけでもなく、無名の王国を奪おうとするわけでもなく、何かを探しているというのには、エレノアたちは全く見当が付かなかった。
「もしかしたら……クエストを発注した連中かもしれないな」
「ゴレイアス砦侵攻戦の、ということですか?」
セリナの言葉に、シルバは進行方向を見ながら頷く。
「ああ、おそらくな。ただ今手に入れてる情報が少ないから、もしかしたら外れてるかもしれない。そう考えるのが当たりのような気がするがな」
「そうですね」
時折、魔物の襲撃があったが、それはシルバ以外の全員で対処できた。
それ以外のときは静かな夜道が続いた。
誰も会話しようとはせず、ただただ、エレノアたちには不安と焦りが募る。そうして馬車は走り続け、無名の王国へと到着した。
「どう、して……」
帰るべき家に到着したエレノアたちの目に映った光景は悲惨なものだった。
エギルがここを出る時も。エレノアたちがここを出る時も、まだ住んでいる人が少ないものの。こ の王国が我が家とも呼べる場所だった。なのに今は、多くの騎士が取り囲むように群がり、入り口まで人で溢れている。
必ず守ると約束した場所が、他人に潰されようとしていた。
そんな光景に、エレノアは憤りよりも悲しみの気持ちが込み上げていた。
そしてそれは、他の三人も同じだった。
「止めて……止めてよ……ここは、エギルさんが帰ってくる家なんだから!」
セリナは拳を握り声を張り上げる。
「どうしてさ。どうして、邪魔ばっかりするの!」
「わたしたちの、幸せに暮らせる家、です」
サナとルナは、悲しみに震えていた。
──そんな時だった。
『──エレノア! セリナ! サナ! ルナ!』
連絡できるようにと置いていったフェニックスから、フィーの声がした。
無名の王国の現状を、フィーは見ているのだろう。
エレノアは返事に困ったが、最初に出てきた言葉は謝罪だった。
「……フィーさん……フィーさん、ごめんなさい」
守ると約束したのに、ここを守れなかった。もしもここに残った者がエギルであれば、きっとこんなことにはならなかった。
そう思うと、任された自分の不甲斐なさに、謝ることしかできなかった。
『エレノア、どうした!?』
次に聞こえたエギルの声に涙が止まらない。この現状を、守らねばいけない帰る家を、自分たちは守れなかった。
「エギル、さま……申し訳、ありません』
『謝るのは後だ! だから何があった、教えてくれ!』
胸を締め付けられるような痛みが襲いながらも、震えた声で、エレノアは現状を報告しようとした。
「実は……」
だが、その先の言葉が出てこない。
なんて報告すればいいのかではなく、なんて謝ればいいのか、わからなくなってしまった。
それは他の三人も一緒で、視線を向けても苦しそうな表情をする。誰も言いたくないのだ。この残酷な現状を。守れなかった自分たちの姿も。彼が頑張って前へ進もうとしてるのに、帰る家を守れなかったことを。
気づくと通信が途切れてしまっていた。
「……嬢ちゃんたち。まだ、諦めるには早いんじゃないか?」
シルバに言われ、エレノアは涙を拭う。
諦めるのも、泣き崩れるのも簡単だ。何もしないで済むのだから。
だけど、エレノアはもう大切な居場所を、大切な存在を、手放さないと決めたんだ。
「シルバさん。リノさん。わたくしたちに、力を貸してください……エギル様が……わたくしたちの愛する彼が、帰ってこれる場所を、一緒に」
自分たちにはエギルのような戦況を一瞬で変えられるような力はない。それでも、この地を取り戻すためならなんだってできる。
エレノアは二人に頭を下げる。それに続いて、セリナやサナやルナも頭を下げた。
「ああ、もちろんだ。こうなった責任は、こっちにもあるしな」
「アタシもいいぜ。ちょうどアルマの奴を逃がしちまってむしゃくしゃしてたしな」
二人は頷いて手を貸してくれると約束してくれた。
「ありがとう、ございます……必ず、エギル様とフィーさんが帰ってこれる家を取り戻します」
「エギルさんが悲しむのは見たくないもんね」
「やろう。絶対に、取り返すんだ!」
「はい!」
エレノアは涙を拭い、苦しかった呼吸を整え、帰るべき家を見つめる。
「行きましょう。無名の王国を……」
そこはもう、無名の王国なんかではない。
「エギル様が作った王国──ヴォルツ王国を取り戻すために」
エレノアたちは王国へと向かった。それが正解だったのか、不正解だったのか、そんなのは未来が出す結果しかわからない。
けれど今は怖くない。帰るべき家を取り戻したいという、揺るぎない気持ちがあるから──。