裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
フィーとレヴィアの職業の力は似ている。だがその規模や、操れる対象の強さは段違いだろう。そして、再び目を開けると、レヴィアはため息を漏らす。
「……確認してみたのじゃが、今すぐ、それに乗ることを許可する気性の良いドラゴンとなるとそこまで多くは無理じゃ。良くて二体かのう」
「二体か」
「ドラゴンは早寝じゃ。無理を言えば怒られてしまうからのう。明日の朝であればもっと多く可能であろうな」
「なるほど。フィー、華耶たちをフェゼーリスト大陸まで案内してくれるか?」
そう伝えると、フィーはコクリと頷いた。
「一人で行くの?」
「その予定だ。エレノアたちを信頼はしてるが、心配もしてる。できれば早く戻りたいんだ。だから、フェゼーリスト大陸の王国まで道案内をしてもらいたい」
「わかった。わたしは華耶たちと明日の朝に出発すればいい?」
「無事に来れるなら、それでいい。華耶、少し向こうの状況の説明をする。聞いてくれ」
「ええ、わかったわ。他のみんなはどうする?」
移住に関して余計な不安を与えるかもしれない。
華耶が気を遣ったものの、それは杞憂だった。側近たちは話を聞かせてくださいとエギルの目を見た。
エギルは移住先であるヴォルツ王国が、何者かから襲撃を受けていることを説明した。
華耶や側近の者たちは黙って話を聞いていた。
「だが問題はない。今は残ってくれてるみんなが頑張ってくれてるから」
なんの確証もない大丈夫だが、そう言わなければ、誰も移住なんてしたくないだろう。
「エギルさん、わかったわ。それで、さっきの話と結びつくのね?」
「ああ、そうだ。俺はすぐにでも戻る。華耶たちは明日、落ち着いてからフィーの案内で来てくれ」
「──エギル!」
華耶に伝えていたところで、ずっと黙っていたシロエが口を開く。
「おねえちゃんは……おねえちゃんは無事なの!?」
「ああ、無事だ。今も頑張ってくれてる。俺は王として先に行きたいんだ」
「そう、なんだ……」
「エギルさん。私たちもあなたと一緒に向かってもよろしいでしょうか?」
不安があったクロエの代わりに、今度はシロエが口を開く。
「向こうで戦闘になるかもしれない。まだ十分に休めてないんじゃないか?」
「いいえ、私たちも行きたいです。戦えます。……やっと、会えるのですから。今度は私たちが、お姉ちゃんの力になりたいのです」
「あたしも、そうしたい!」
シロエとクロエは真っ直ぐエギルを見る。
奴隷商人から救ってくれた姉のために、今度は二人が危険な目にあってるセリナを助けたいということだろう。力強い眼差しが、何を言っても揺るがないと訴えてるようだった。
「レヴィア、二人を連れていってもかまわないか?」
「うむ、それは問題ないのじゃ。我に一頭。お主たちで一頭で良かろう?」
「ああ、それだ問題ない」
「であれば呼ぶとしよう。それと、お主が望めば我も手を貸そう」
立ち上がったレヴィアは、エギルへとにっこりとした笑顔を向ける。裏がありそうな笑顔ではあるが、それでも、彼女の助けはありがたいだろう。
「敵がどこの連中かわからないぞ?」
「かまわぬ。我にとって、どれだけ敵を作ろうが、お主に手を貸すことの方が得だからのう」
「損得感情か。裏がないことを祈るぞ」
「どこまでも信じぬ男じゃ……まあ、お主と我は仲間ではないのだから当然か。それに、その襲撃してきた王国とやらの正体も気になるからのう」
「どういう意味だ……?」
「いいや、我の話なのじゃ。では、少し待っておれ」
意味深な話を残したレヴィアは出て行く。すると、フィーと華耶が不安そうに見つめてくる。
「エギル、信じていいの?」
「問題ない。それに、その目的は、俺たちへの攻撃ではないはずだからな。何か仕掛けてくることはないだろう」
「私たちはエギルさんたちの事情は知らない。だけど、お願いだから無事でいてね」
「ああ、わかってる。二人と、他のみんなが来るまでに、安全に移住が完了できるようにするから」
エギルは側近の者たちに視線を向け頷くと、彼らも頷き返してくれた。
──それから、レヴィアが二頭のドラゴンをこの地に呼び寄せるまで時間はかからなかった。
星空が輝く空に二頭のドラゴンがゆっくりと降下してくる。赤黒い鱗のドラゴンが地面に足を付けると、微かに足下が揺れ、ドラゴンからは威圧感を受ける。
「エギル、鱗の部分には触れないことをオススメするのじゃ。このレッドドラゴンの鱗は鉄を熱したようなものじゃからのう」
「忠告ありがとう。二人とも、わかったか?」
シロエとクロエは頷き、レッドドラゴンの背に置かれた鞍に跨る。おそらくこのレッドドラゴンは移動に適した魔物なのだろう。二人が乗っても気性を荒くさせることなく受け入れた。
そしてレヴィアも乗り込み、残るはエギルのみとなった。
「エギルさん」
「エギル」
出発の見送りだろう。華耶とフィーはエギルの元へと駆け寄ってくる。その表情は明るい笑顔だった。
「みんなで明日、そっちに向かうわね。気をつけて」
「ああ、待ってる。二人も気をつけて」
「エギル、この子を連れて行って」
フィーが差し出したのは、白ウサギのエリザベスだった。離れていても連絡できる手段ということだろう。
エギルはエリザベスを抱きかかえると、柔らかく白い毛並みの中から、温かい体温が感じられる。
「ありがとう。エリザベスの温かさは気持ちが和らぐな」
「うん。この子たちも抱きしめられるの好きだから。そうしてたら、喜ぶよ」
赤子のようにお尻の部分に右手を当て、左手で全体を抱える。そうすると、エリザベスは幸せそうに目蓋を閉じた。
「それじゃあ、行ってくるな」
「あ、待ってエギルさん」
レッドドラゴンへ向かおうとした足は止められ、華耶の唇が、エギルへと向けられる。
柔らかく熱を帯びた唇同様に頬も上気しており、それが周囲で見ていた湖の都の住民たちからの視線のせいだとすぐに理解できた。
「……ん、ちゅ……いってらっしゃい。向こうで私の家族になる女性たちを紹介してね?」
「ああ、約束するよ」
「もしかしたら喧嘩しちゃうかもしれないわね」
クスッと笑みを浮かべる華耶に「それは止めてくれ」と伝えると、華耶は「善処するわ」と肯定はしてくれなかった。
おそらく大丈夫だと思ったエギルは、ふと、フィーに視線を向ける。
少し悲しそうな表情を浮かべるフィーは、黒猫のフェンリルを抱えて俯いていた。エギルはフィーの元へと向かい、
「行ってくるな」
そう伝えキスをしようとした。少しでも明るい気持ちになれるようにと思って。
だが、キスをした相手はフィーではなく彼女が前へ出したフェンリルだった。ニャーと鳴いた黒猫を抱えるフィーは顔を赤くさせながら、そっぽを向く。
「……恥ずかしい」
「そうか、すまないな」
「……」
だが、フィーは顔の横にフェンリルを並べて、誰にも見られないようにエギルへキスをした。軽く唇を触れ合わせるだけのキスをした彼女は、顔を真っ赤に染めてフェンリルで顔を隠した。
「……いってらっしゃい。すぐ、わたしたちも行くから」
「ああ、待ってる。だからみんなをよろしくな」
頭を撫でると、フィーは大きく頷いた。
エギルはレッドドラゴンに乗る。前に座るシロエとクロエが顔を上に向け、エギルの顔を覗き込んでくる。
「エギルって二人のこと好きなの?」
「そうだが」
「ふーん、おねえちゃんのことは?」
「……好きだ」
「えー、エギルって悪い人だ!」
「そうですね。お姉ちゃんも、大変な方を好きになったのですね」
酷い言われようだが、他者から見ればそうなのかもしれない。エギルは苦笑いを浮かべる。
「まあ、そうかもな。だが全員を幸せにするつもりだ。もちろん、セリナのこともな」
そう伝えると、二人は「ふーん」と、納得してるのかしていないのかわからない曖昧な反応を見せた。
こればかりは、セリナから上手く話してもらおうと考えたエギルは、レヴィアを見る。
「レヴィア準備できたぞ。出発しよう!」
「うむ、では向かうとするかのう」
大きな翼は羽ばたき、周囲に風を生みながら上空へと飛び立つ。
周囲にいた湖の都の住民たちが手を振る中、華耶とフィーは心配そうに、二人が肩を寄せながらエギルへと視線を向ける。
──新たな一歩を踏み出すために旅立つ時、残ってくれた彼女たちは見送ってくれた。
もしもあの日の選択が違えば、別の未来が待っていたかもしれない。もしかしたら、もっと幸せな未来だった可能性もある。
けれど、エギルはこの行動を選択した。
そして、残っていた彼女たちも自分の意志で選択した。
その選択をしたことを彼女たちは後悔したかもしれない。それでも自分たちが行動したことを無かったことにはしたくないはずだ。
それこそが、自分たちが考え生きてる証なのだから。
「……待っててくれ、みんな」
全ての選択に後悔したくない。だからエギルは、帰りを待ってる彼女たちのいる家へ、大空を駆けていく──最愛の者たちと笑顔で再会するために。
三章 完