裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
第1話
何十年も生きていれば、この道を進んだら駄目だということはなんとなくわかるものだ。
これは能力じゃない。勘、ただの直感だ。
エギルの初恋相手、ルディアナ・モリシュエに裏切られた時に襲われた、全身を冷たい無数の手で掴まれ、がんじがらめにされるような、あの気分の悪い感覚は今も忘れられない。
だからエギルは、再び同じ感覚に襲われたときには、進む道を変えることにした。
けれど、変えても変えても、進もうとする道をあの感覚が邪魔をしてきた。
ああ、この道は駄目だ。
ああ、この道も駄目だ。
この道も、この道も、この道も。
それでも、あの感覚に襲われない道が生まれることもある。しかし、いいと思って選んだ道ほど、あの嫌な悪寒が襲ってくるのだ。
進まなければいけない道だからなのか。それはわからない。
この先へ進めば──エギルは何か大切なモノを奪われるような気がした。
せっかく手に入れた幸せ、みんなと共に掴んだ安寧を手放さなければいけないかもしれない。
──だけど。
彼女たちは覚悟を決めたような力強い瞳をエギルに向け、彼の背中を押した。
何が起きようとも、エギルと共にその道を歩こうと決めている。
だからエギルも覚悟を決める。
過去の自分と決別しなければいけない。
たとえ苦しみの道を彼女たちと共に歩くことになるとしても──。
もう、あの日のエギルとは違うのだから。
♦
「……あれは、神教団ですか」
星空が輝く夜。エレノアたちはヴォルツ王国の外にいた。
目の前には騎士団と一緒に、風変りな白いローブを着た謎の集団が群れをなして北門を占拠している。彼らは王国の城砦の入り口を囲うようにさまよっていたかと思うと、徐々に王国内へと姿を消した。
エレノア、セリナ、サナ、ルナ、シルバ、リノの六人は王国から離れた森から城の様子を窺っていた。
エレノアの言葉に、セリナは驚いたように口を開く。
「神教団!? なんで神を信仰する連中がここにいるの!?」
「わたくしにも、わかりません……ただ、あの白いローブ、神教団の方々があれを着ていたのを見たことがあります」
それを聞いて、不安そうにしていたサナとルナが言葉を発する。
「エ、エレノアさん、神教団って、魔物をこの世界に生み出して、冒険者に聖力石を与えたっていう、あの?」
「《ヘファイス伝綬神》を信仰し崇める集団……ですよね?」
「ええ、そうです」
頭まですっぽりと覆われた白色のローブに身を包んだ人たちが、大勢の騎士たちに混じって、ヴォルツ王国の前に大挙している。
「でも待って。神教団がなんで冒険者が暮らす王国を攻撃してるの……?」
セリナの言葉に、エレノアは首を左右に振る。
「それはわたくしにもわかりません。神教団は表には出てこないはずです。いつも地下深くに隠された神の湖を守ってる集団で、世界のこと、ましてや、ただの冒険者の王国の争いに首を突っ込むなんて、わたくしは今まで聞いたことありません」
神教団は地下に引きこもっている連中で、そこで何をしているかを知る者はいないだろう。
外の世界には顔を出さない。決して世界のことには首を突っ込まない。そんな連中が、どうしてエギルが作った王国を狙っているのか、不思議としか言いようがない。
「なんでそんな連中がここを……というより、ここを攻めてる連中は《鮮血の鎖》なんじゃないの?」
フェリスティナ王国の宿屋で出会った、アルマ・レニッサという女冒険者。《鮮血の鎖》は彼女が所属しているギルドの名前だ。
彼女がエレノアに接触してきたということは、今現在、ヴォルツ王国を狙っている者も《鮮血の鎖》に関係する者たちだと考えるのが自然だが、実際は違っていた。
目の前にいるのはどこの国の者かわからない騎士の一団と、ローブ姿の神教団らしき者たち。そこに《鮮血の鎖》のメンバーらしき人物の姿はない。
「今はそのことを考えるのはやめましょう」
考えたところですぐには答えは出ない。それよりも大事なことがある。
「ヴォルツ王国を守ってくださってる皆さんが心配です」
ゲッセンドルフやハルトやハボリック、それにエギルの意思に賛同してくれた冒険者たちが王国内で奮闘してくれている。
今はエギルの大切な仲間の命を守らねばいけない。
「シルバさん、リノさん。わたくしたちはこのまま王城へ向かいます」
「……この軍勢を排除する気か?」
リノの言葉に、セリナとサナとルナは、エレノアの意見に賛同するように頷く。
「あそこでみんなが、エギルさんや、私たちが戻ってこれるよう戦ってくれてるはずです」
「だからあたしたちは帰らないと」
「そう、です!」
門は大勢の騎士たちによって塞がれている。あそこから侵入するのは難しいだろう。けれどやらないといけない。そうしないと何も進まないのだから。
「ははっ、いいんじゃねぇのか?」
その無謀さにシルバは大笑いする。
「あの場所は嬢ちゃんたちの王国で、守るべき家だ。やってみろ」
その言葉に、リノはため息をつく。
「……たく、仕方ねぇ。いいぜ、私たちが道を作ってやる。テメェらを城内に連れて行ってやるよ」
「ありがとうございます。三人もいいですね」
エレノアは三人に視線を向ける。
「もちろん。あそこは、私たちが守るべき家だもの」
「うん、絶対に守る!」
「怖いけど……はい!」
三人は頷く。その表情は、緊張はしているが、守るべき場所を必ず取り返すと、固く心に決めているようだった。
「それじゃあ、行くぜ」
各々馬に乗り、森から走り出す。