裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
「お久しぶり、ではないですわね、みなさん」
前に着ていた全身黒の服とは打って変わって、いま目の前にいる彼女は煌びやかなドレスをまとっており、綺麗に整えられた黒髪を肩で波打たせ 、エレノアたちにカーテシーをする。
敵意のない笑顔に上品な振る舞い。そんな彼女を見て、四人は警戒を強める。
「あら、警戒しないでいいのよ。私はここへ、貴女方と争いに来たのではないのですから」
「……じゃあ、何しに来たのよ」
セリナがアルマに刀を向け睨みつけると、アルマは頬に手を当て、そのおっとりとした笑顔を崩さずに答えた。
「情報を教えようと思ってね」
「情報……?」
「ええ、そう。ここに攻めてきている者たちが何者なのか。それに目的はなんなのかを、ね」
ウインクするアルマに警戒心は高まる。けれど、彼女からは敵意を一切感じられないため、セリナも、サナとルナも、エレノアも戸惑っていた。
だが、アルマは何か知っている。それが本当か嘘かわからなくても、エギルに報告するべきだろうとエレノアは考え、彼女に聞いた。
「その情報を、聞かせていただけますか……?」
「まず、ここを攻めてきてる連中。彼らは着ている鎧も身につけている紋章も違うでしょ? つまり、一つの王国が攻めてきているのではなく、複数の国が同じ目的で集まっているのよ」
「複数の国が……? ということは、同じ目的を持ったいくつもの王国の騎士たちが競争してるということですか?」
「ええ、そうよ。貴女方も気づいてるでしょ 、騎士たちの統制が取れていないことに」
アルマは彼らを指差しながら言葉を続けた。
「複数の騎士団が同じ目的のために同じ場所に一直線に向かう。もしここに至るまでの道が険しいのなら、他国の騎士たちを囮にして別の道を進めばいい。彼らの目的は同じだけど、その目的のためなら他の騎士たちを踏み台にすることも厭わないわ」
「もしかして……。四か所ある門に均等に侵入してこないで、南門に集中してるのは……」
サナの問いに、アルマは優しい笑みを返す。
「正解よ。別の門から攻めてる間に他の王国に手柄を取られないか。それを恐れ、気づいたら一点から攻める形になってしまったのでしょうね。まあ、身勝手な騎士たちの考えそうなことね」
「……じゃ、じゃあ、あの、神教団さんたちは、なんなのでしょうか?」
少し不安げな声で、ルナがアルマへ問いかける。
「そうね、貴女方は、神の湖というのを知ってる?」
「はい。聖力石を投げると新たな職業の力を得られるといわれている湖ですよね?」
「ええ、そうよ。彼ら神教団は、この世界に冒険者や魔物を生んだとされるヘファイス伝綬神を崇めていて、その使いとして、神の湖を守護してる。貴女たちは、神の湖がどこにあるか知ってる?」
その問いに、四人は顔を見合って首を傾げる。そしてセリナが口を開いた。
「……どこって、どっかの地下でしょ? そんなの私たちは知らないし、それが今回のことと何の関係があるの?」
「そう、この世界の人々は知らない、興味がない。だけどね、貴女方がここを大切な家と呼ぶのであれば、もう、無関係ではいられないのよ」
「どういう意味ですか?」
「神の湖はこの世界の四大陸それぞれに必ずある。勿論、このフェゼーリスト大陸の地下にもあるのよ」
「だからそれが」
「もしかして……」
まだ理解できていないセリナに代わって、エレノアが口を開いた。
「……神の湖が、ここの地下にあるのですか?」
その質問に、アルマは満面の笑みで答えた。
「正解。それも使い古された神の湖ではなく、正真正銘、新たな神の湖がね」
「使い古されたとは、どういう意味ですか?」
「言葉通りよ。そうね…… ビンの中の水を想像してごらんなさい。それは限られた量しかないの。それを数多くの冒険者に少しずつ少しずつ分配する。そしたらビンの中の水はどうなってしまうと思う?」
「そんなの、ビンの中の水はなくなっちゃうに決まってんじゃん」
「そう、なのです」
サナとルナは当然のように頷く。
「ええ、当然ながらそうなります。それが、神の湖の現状です」
「つまり、各地の神の湖の水が減ってきたから、神教団は新たな神の湖を欲している。そしてその誰も触れてない神の湖がこの国の地下にある、ということですか?」
「正解よ、エレノアさん。それはこの地に眠る秘宝であり、その神の湖を欲してる王国の者たちが、その力を独占しようと攻めてきてる理由なのよ」
アルマの説明を受けて四人が黙る。そんな中、セリナが口を開いた。
「じゃ、じゃあ、私たちの命とかこの王国が欲しいんじゃなくて、この地下にある神の湖だけが目的だったってこと? じゃあ──」
そこで口を閉ざすセリナ。
この王国を手放せばいい、そう口にしようとしたのだろう。
けれど彼女にとっても、他の者たちやエギルにとっても、この王国は簡単に手放していいものではない。これまでずっとここを発展させようと、ここでみんなで幸せに暮らそうと、そう思って行動してきた。
だからセリナは、みんなの命を優先すべきだと思って咄嗟に出た考えを呑み込んだ。
そして、エレノアは首を左右に振った。
「……ここは、わたくしたちの家です。ここで暮らすために、みんなで力を合わせてきました。多くの人を巻き込みました。ですから簡単に手放すことはしません 」
「では、このままここで、この地を守ると?」
「はい、わたくしたちはエギル様からこの家を守るよう託されましたから」
エレノアの言葉に、アルマはどこか満足げな笑みを浮かべた。
「そう、それならこのことを彼に伝えてあげて。きっと彼がみなさんを導いてくれると思いますから」
そう言い残して、アルマは踵を返す。
「アルマさん、どうしてわたくしたちにこのことを?」
「……」
その問いかけに、アルマは振り向く。
「応援してるのよ、貴女方を」
「……それは、エギル様のためですか?」
エレノアの質問に、一瞬眉を動かしたアルマだったが、すぐに笑顔に戻る。
「さあ、どうかしら」
何も答えないと言われているような感じがして、エレノアは口を閉ざした。
すると、アルマは最後に四人に伝えた。
「クロネリア・ユースという場所をご存知?」
「クロネリア・ユース?」
サナが首を傾げるが、エレノアはその地名を、エギルがこのヴォルツ王国を発展させようと読んだ資料について語る中で聞いたことがあった。
「冒険者が作った、冒険者だけの王国……でしたか?」
「ええ、そうです。そこへ足を運んでみてはいかがかしら?」
「それはなぜですか?」
「──そこへ足を運ぶことが、貴女方にとっても、彼にとっても、良いことだと思うからです」
そう口にすると、アルマはまたカーテシをする。
「それでは、またいつか……」
それだけ伝えて、アルマは四人の前から姿を消した。
「エレノア、今のどういう意味?」
「さあ、それはわかりません。……ただ、彼女が何かを知ってることは確かだと思います」
しかし、彼女には謎が多く、その言葉を全て鵜呑みするのは危険な気がする。
「エギル様が戻ってから伝えましょう。今はまず……」
この戦況をどうやって乗り切るか、この地をどう守るか、それについて考えるのが最優先だろう。
エレノアはアルマが教えてくれた情報を頭の中で反芻し、
「セリナ、アロヘインが多く生えていた地帯がどこか、わかりますか?」
セリナに聞いた。
アロヘイン、それが生えている花壇を追うように騎士たちが南へ向かっていること。
アルマ曰く、騎士たちはこのヴォルツ王国のどこかにある神の湖を探していること。
そこから導き出される答えは、アロヘインを道標にして、神の湖を探しているということだろう。であれば、アロヘインがより多く生えていた場所がわかれば、先手を打つことができるかもしれない。
「そうね……」
セリナは少し考えた後、
「やっぱり南側が多かったわね。だけど、お城の中も酷かったわよ」
「王城内、ですか……?」
「うん、そうそう」
そこで、ルナとサナが思い出したのか、
「そういえば、そうですね。だけど、エレノアさんはエギルさんのお手伝いしてたから、知らないかもしれません」
「あー、エレノアさん忙しそうだったから、王国内のはあたしたちで掃除しちゃったんだ」
とセリナに言う。
「そっか。ほら、エギルさんが商人を呼んで意見を聞いてたとき、エレノアはエギルさんのお手伝いしてたでしょ? そのときに臭すぎて、私たちだけで急いで掃除しちゃったのよ」
「そう、だったのですね。お手伝いできなくて申し訳ありません……」
そして、エレノアは頭を巡らせる。
もしも彼らの目的の神の湖が南の住民区になければ、次はおそらく、アロヘインが生えていた花壇を辿って王城にもやってくる。
そこまで考え、エレノアは決断する。
「フィーさん、エギル様はあとどれぐらいで戻られますか?」
エレノアが声をかけたのは、自分の肩に乗ったフェニックスだった。
『たぶん、あと一時間ぐらい。ただ、雨が強くてドラゴンの飛行速度が落ちてるみたい。もう少しかかるかも』
「雨が……わかりました」
そして、エレノアは三人に視線を向ける。
「……冒険者のみなさんと共に、全員で王城へ戻りましょう」
「え?」
エレノアの決断に、三人は驚いていた。
「アルマさんが言ったように、連中の目的が神の湖だとして、その道標にアロヘインが生えていた場所を辿っているとするなら、南門周辺の家を探して見つからなかった場合、次に向かうのは王城になります。なので、彼らを王城にて迎え撃つことにします」
「迎え撃つって……それは、籠城するってこと?」
「そうです」
「でも、エレノアの予想が正しくて、もし王城に騎士が一斉に攻めてきたら、囲まれて逃げられなくなるわよ?」
「ええ、そうなります。なので、エギル様が到着するまでの一時間だけ、みんなで堪えるのです」
そして、エレノアはフェニックスを通してフィーに伝える。
「エギル様にお伝えください。わたくしが考えた、このみんなの家と、家族を守る作戦を──」
エレノアはフィーと、セリナたち三人に自分が考えた作戦を伝えた。