裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
人間よりも一〇倍ほどの大きさのレッドドラゴンに近付くと、大きな瞳はギロッとエギルを捉え、全体的に赤色の鱗の体は、のっそりとこちらを向いた。
運良く今のとこ一体しかいないが、一体でも迫力は凄まじいものだ。
「光の爆撃を──エンジェル・ノヴァ!」
自分よりも大きな魔物と初見で戦う時、普通は怖がって動けないもの。だが一番最初に攻撃したのはサナだった。
バンッ! バンッ! と大きな体に爆撃の光の玉を発射するが。
「やっぱり、サナの保有魔力じゃ効かないか」
「ぐっ……エギルさん、あたしじゃ駄目なの!?」
「悪いが、今回は援護に回るんだ!」
「りょ、りょうかい」
悔しそうな声を漏らすサナ。
そして攻撃を行ったサナに、レッドドラゴンは口を大きく開いて顔を後ろへ下げる。
「ファイアーブレスだ、避けろ!」
「うっ、ううっ、うわっ!」
広範囲に吐かれたファイヤーブレスに、サナは間一髪で避ける。
だがこの一撃で、三人の動きは委縮してしまった。その悪い流れを察知したエギルは右手を伸ばす。
「動きを止める──無限剣舞」
両足に目掛けて、無数の剣を生成して足を貫く。
レッドドラゴンの呻き声と怒りを露わにする声が混ざって響くが、エギルは無視して二人に伝える。
「エレノア、ルナ! 動きを封じたから攻めろ!」
「わかりました。水の仔竜よ、姿違えどその暴虐竜の魂を、我が呼び声に応え現世に召喚する──称呼──アクアドラゴン!」
「は、はいです。敵を穿つ、一射、二射、三射」
エレノアがアクアドラゴンを召喚して、水の波動で攻撃し、サナが直線上に飛んでいく矢を放つ。
避ける為に必要な足は剣が串刺しになっているためレッドドラゴンは動けない。だからエレノアもルナも、動くことのできない大きな標的を狙うだけで良かった。
「ファイヤーブレスだ、避けろ!」
エギルが言う前に三人は行動していた。
「顔を一度後ろに下げる動作を知っていれば、避けるのは簡単ですね」
「はい! 相手の動きがわかっていれば、走りながら矢を、放てます」
「……」
ファイヤーブレスは避ける、そして手で叩き潰したりはたいたりといった、物理的な攻撃は全てエギルが引き受けているため、後ろの三人に被害がいくことはない。
攻撃されることなく、こちらが攻撃をするだけの楽な状況。
だが──援護が必要ないのに、援護をしろとエギルに言われてしまったサナは、後方で悔しそうに俯いていた。
「あたしも戦いたいのに……くそっ」
そんな小さな声がエギルの耳に届いた。
サナの援護の役割は、今のこの状況じゃあ必要ない。
戦いたいのにやることがない。
自分の役割が見当たらない。
ずっと見てるだけ、もどかしい。
自分の存在意義を見失って、周りの仲間と比較して、もしかしたらサナは自分の職業に嫌気をさしてしまうかもしれない。
そう思ったエギルはサナの元まで走った。
「サナ、自分が覚えている中で一番強い聖魔法を詠唱しろ」
「えっ、でも……そうしたら援護の時に必要な魔力が足りなくなっちゃうよ?」
「その時はその時で、俺があいつを倒してやる。それに──」
エギルはサナを後ろから抱きしめ、悔しさからギュッと拳を握りしめていた手に、自分の手を添える。
「なっ、なにすんの!?」
「いいから、俺の保有魔力もやるから、一撃で仕留めろ」
「エギルさんの保有魔力を?」
「ほら、レッドドラゴンが俺達にファイヤーブレスをお見舞いしてくるぞ。早く詠唱を始めろ」
レッドドラゴンがファイヤーブレスを吐く為に、顔を後ろに仰け反らせた。
エギルは微量ながらサナの体内に魔力を送る。そこまで多くはない保有魔力だが、それでもサナの実力以上の力を発揮できるのは間違いない。
そしてサナは、両手を前に出して上級聖魔法の詠唱を始めた。
「セフィロトの神々よ、我らに幸福を、汝らに絶望を、全てを裁く光の雨を降らせ賜え──くらえ──ホーリージャッジメント!」
サナの体から三段階に放たれる光の輪が生まれ、それはレッドドラゴンの頭上へと転移し無数の光の雷を降らす。
一度降らして衝撃を与え、二度降らして意識を奪い、三度降らして魂を奪う。
「一撃か……大丈夫か、サナ?」
聖魔法の中でも随一の破壊力のある魔法を全力で放ったサナは、レッドドラゴンと共に倒れた。
エギルは力無くもたれかかるサナを背中から支える。
「無事に倒したぞ、サナ。お前の聖魔法でな」
「あたし、あんな魔法使ったことない。エギルさんの分け与えた魔力、高すぎだよ」
「いつかはあれぐらい使えるようになる。今回は少し、ズルをしただけだ」
「半分以上があたしの力じゃなくてズルの力だけどね。……だけど、やったんだ、あたし。あたしの手で、あの魔物を倒したんだ……」
ゆっくりと目を閉じるサナ、魔力切れによって気を失ったのだろう。
ルナは心配そうな表情を浮かべていた。
「今のは、サナの、力なんですか?」
「ああ、ただ魔力切れで意識を失ってるんだ。ルナ、悪いがエレノアについて行って、一緒にレッドドラゴンの頭を回収するのを手伝ってくれ」
「わかりました!」
ルナは倒したレッドドラゴンへと走る。
そしてエレノアは、にっこりとした笑顔をエギルに向ける。
「サナさんに魔力を移したのですか?」
「少しだけな。だが……俺も魔力切れで少し酔ってる。レッドドラゴンの頭は、アクアドラゴンで運んでくれるか?」
「はい、大丈夫です。少しそこで休んでいてください」
エレノアとルナがレッドドラゴンの頭を回収しているのを見ながら、エギルはサナの体を抱きかかえていた。
ずっと明るくて元気な雰囲気だから子供っぽく見えてたが、意外と大人っぽい顔をしてる。
「寝顔、可愛いしな」
少しだけ、その表情に見ていた。
♦
全てが終わると、エギル達はテントに戻った。
「わたくしとルナちゃんは水浴びに行ってきますので、サナさんのこと、よろしくお願いしますね」
「ああ、起きたら二人が水浴びに向かったことを伝えておくよ」
相変わらずサナは寝ているため、二人は先に水浴びに向かった。
バサッと閉じたテントの扉。それと同時に開いたサナの瞳。
「おはよう、エギルさん」
「起きてたのか?」
「さっきね」
「それなら二人と一緒に水浴びに行けば良かっただろ」
「まあ、そうなんだけどね。……少しだけ、エギルさんと二人で話がしたかったんだよ」
「俺と?」
そう聞くと、サナはギュッと拳を強く握った。
「あたしはこれから、強くなれるかな?」
エギルをジッと見つめるグリーンの瞳は、普段の明るくて元気な表情とは違って、真剣で本当の事を教えてくれと、そう訴えているようだった。
だからエギルは嘘偽りなく答えた。
「今のまま頑張れば、サナ自身の実力は上がるだろうな。……だがルナと二人っきりで冒険者を続けるのなら、いつかきっと限界を迎えるはずだ」
「そっか……」
「もう一度聞くが、どっちかが職業を変える気はないか?」
すると、サナは即答した。
「ないよ。それはあたしとルナで決められることじゃない。来るべき時まで、あたしとルナは変わらない。変わっちゃいけないんだ」
「その時ってのは、俺に教えてくれないのか?」
サナは俯いて、小さく「ごめん」と謝った。
「そうか。まあ、それなら俺は何も聞かない」
「……怒らないの?」
「なんで怒るんだ?」
「こんなに良くしてくれてるのに、秘密にしてさ」
「まあ、お前とルナが何を秘密にしてるのかは気になるが、それを無理に聞くつもりはない。俺にだって秘密はあるし、エレノアにだって秘密はある。誰にだって秘密にしたいことはあるだろ。言いたくなったら話してくれればいいさ」
無理して聞いても何にもならない。そもそも、まだ会って数日の間柄で心から信頼してくれなんてのは無理な話だ。だから心から信頼できたら話してくれればいい、それが二人を苦しめている悩みだとしても。
「二人に何かあって、自分達じゃあどうにもならなくなった時は俺達に相談しろ」
遠回しに「最悪な状況になる前に俺達を頼れ」とエギルが伝えると、サナは天を見上げて笑った。
「アハハハッ! なにさそれ、まるであたしとルナが、何かに困ってるみたいな言い方じゃん」
「違うのか?」
「……ハハッ。さぁ、どうだろうね」
サナは低く冷たい声を出した。だがすぐに、普段の明るい表情に変わった。
「ねぇ、エギルさんってさ、エレノアさんと付き合ってるの?」
「唐突だな。まあ、そうだが」
「エレノアさんが奴隷なのに?」
エレノアの首に付いている奴隷具は一切隠していないから、この冒険者の野営地でもエレノアが奴隷なのは広まっている。
ちょっかいを出されたり、他の冒険者に抱かせろよとか言われるが、そういう奴をエギルは無視するか殴って解決していた。
だからサナとルナが気付いていながらも口にしなかっただろうことは、エギルもエレノアも知っていた。
「奴隷なのは関係ない。あいつが俺の奴隷でいることを願っているだけだからな」
「なにそれ、変態じゃん」
「ああ、俺もそう思う。だが俺達にとっては、普通の恋人のような感覚だな」
「ふーん、だから昨日の夜、湖のとこでエッチなことしてたんだ」
サナの唐突な発言に、エギルは面食らった。
「……何を言ってるんだ?」
「ん、だから、昨日の夜に二人で湖のとこでエッチなことしてたでしょ?」
「……見てたのか?」
「まあね。ルナには刺激強いから見せてないけど、あたしはばっちり見てたよ」
「……」
「安心してって、あたし以外はいなかったからさ。でも……あんなSMプレイは、あまり関心しないなぁ」
口に手を付けて、ぷすぷすと笑うサナ。
そんな恥ずかしい現場も見られてたのか、とエギルは頭を抱えたくなったが、サナは「だけど」と言葉を続けた。
「エレノアさんが奴隷で、エギルさんが主人なんでしょ?」
「まあ、そうだが」
「だったら、何であんなに主導権握られてんの?」